2014年9月5日(金)
9月2日~4日にわたって、パシフィコ横浜にてゲーム開発者向けのイベント“CEDEC 2014”が開催された。ここではCEDEC 2014にて開催されたセッション“「祭り」のゲームデザイン~フリーダムウォーズのゲームデザイン・コンセプト~”の模様をお届けする。
PS Vitaでこの夏発売されたマルチプレイアクション『フリーダムウォーズ』のゲームデザイン過程が明らかにされるとあって、このセッションには多数のゲーム開発者たちが詰めかけていた。そのため当初予定されていた会場から、CEDECで最大のキャパシティを持つパシフィコ横浜メインホールへと、セッション会場が変更されるほどの人気ぶりとなっていた。
『フリーダムウォーズ』は、『ゴッドイーター』の開発などで知られる株式会社シフトが原作・監修を担当し、『ストリートファイターIV』などの開発を手がけた株式会社ディンプスとのコラボレーションによって制作が行われた。
今回のセッションでは、シフトの征矢健太郎氏による進行のもと、シフトの保井俊之氏がゲームデザインとコンセプトについて語り、SCEワールドワイドスタジオの吉澤純一プロデューサーが、パブリッシャーとしての立場から解説を行うという形式で進められた。
▲株式会社シフト ゲームデザイナー 征矢健太郎氏。 | ▲株式会社シフト 開発統括/ゲームデザイナー 保井俊之氏。 |
▲株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールド・ワイドスタジオ プロデューサー 吉澤純一氏。 |
『フリーダムウォーズ』の開発は、まだPS Vita本体が開発中の段階だった2010年にスタートした。征矢氏によるとその出発点は、「PS Vitaでブームを作ってほしい」という、吉澤プロデューサーからの“ムチャ振り”だったそうだ。
ディベロッパーであるシフトは、このオーダーを、「ブームとは“祭り”である」と分析する。そして“祭り”とは、ゲームが上手い人も不得意な人も、そしてユーザーも制作者も、大勢の人がみんなで一緒に遊んで盛り上がること、と定義する。この定義を具体的な形に実現させるためのさまざまな工夫が、『フリーダムウォーズ』のゲームデザインとなるわけだ。
保井氏によると、“祭り”を実現させるためのゲームデザインは、大局的な“戦略”と、部分的な“戦術”という、対称的な2つの構造を並行して考えることで進められていったそうだ。
ユーザーのモチベーションをどこに求めるのかという大局的な戦略では、“ゆるい連帯感”をキーワードとして、“非同期の大勢で成立する遊び”を目指すことになった。
この“ゆるい連帯感”というキーワードは、ブーム化する遊びの要件を考えることで導き出されたのだという。ユーザーが“ゆるい連帯感”によって、いつでも祭りに参加している状態を作り出すことで、「敷居の低さ」「スキマ時間を使える」「テンションで遊びが選べる」「チーム構造」という、ブーム化する遊びに必要な4つの要件を満たすことができると考えたわけだ。
さらに、PSPの後継機種であるPS Vitaでブームを起こすためには、開発がスタートした2010年の段階で、すでにPSPで大人気となっていたマルチプレイアクションに、プラスアルファとなる要素を付け加えることが重要だと考えた。そこで誰もが共感できるテーマとして、“愛するモノのために戦う”というモチーフが、開発スタッフのミーティングによって出てきたそうだ。
このモチーフを、あまり重くなりすぎない形でゲームに採り入れるために、“愛するモノ”をユーザーが所属している国や地域として解釈したのだという。2010年当時はちょうど、サッカーのワールドカップが南アフリカで開催されていたこともあり、国や地域といった自分の所属している共同体のために戦うことは、“ゆるい連帯感”を味わうのに適していると考えたわけだ。
マルチプレイアクションを具体的な形にしていく“戦術”面でも、先に挙げた“愛するモノのために戦う”というテーマが重要視されている。
“愛するモノのために戦う”というテーマをゲームとして表現するには、愛するモノがさらわれて、それを奪い返すようにすればいいと、保井氏は単純に解釈したそうだ。
奪われたものを奪い返すというゲーム性は、FPSのキャプチャー・ザ・フラッグ(CTF)のルールに置き換えられる。ここから生まれたのが、市民を体内の鳥篭(ケージ)に閉じ込めて搬送する敵“アブダクター”だ。
プレイヤーである咎人(トガビト)は、このアブダクターを倒して、捕らわれている市民を“奪還”することがゲームの目的となる。開発スタッフの間では、アブダクターはCTFのフラッグを守る“動く宝箱”であるという概念が共有されていたという。
さらに、プレイヤーがそのために戦う“愛するモノ”とは何なのか? ということを突き詰めた結果生まれたのが、“アクセサリ”という存在だ。アクセサリは咎人のパートナーとなる生体アンドロイドで、プレイヤーは咎人に加えてアクセサリという2体のアバターを、自分でカスタマイズ可能なキャラクターとして所有できる。
プレイヤーが愛着を持っているアクセサリが敵にさらわれて、それを助け出すことで生まれるドラマは、そのプレイヤー自身の体験として受け止められるはずだ。この点に関しては征矢氏も、必ずユーザーの琴線に触れるだろうという手応えを感じたそうだ。
▲プレイヤーである咎人は、荊(イバラ)を撃ち込むことでアブダクターの注意を引くことができる。 |
荊はプレイヤーが敵を攻撃している状態を視覚的に明示化するためのものであり、その様子を目にしたプレイヤーが、一緒に協力するか、あるいは他の敵に向かうかといった戦術を考えやすくするための仕組みだという。
咎人がアブダクターに張り付いて、近接武器を使って破壊できる“溶断アクション”も、味方が敵に群がることによって、現在の主戦場がどこなのかを明確にする意味があるという。これもまた、プレイヤーの役割分担を自然に促すための工夫だ。
こうしてできあがったゲームデザインを、パブリッシャーであるSCEにプレゼンテーションするにあたって、開発スタッフは実際のゲームプレイのイメージを3DCGの動画で描いたコンセプトムービーを制作したそうだ。
講演会場で上映されたこのムービーは、ゲームが完成する3年以上前に制作されたにも関わらず、そこで描かれているゲームシステムは、実際の製品版とほとんど差がないことに驚かされる。吉澤プロデューサーは、ゲームシステムで目指すべきところを明確に映像化して、プロジェクト全体で共有できたことが、非常に大きな成果につながったと語った。
3年以上前に制作されたコンセプトムービーは、ゲームシステムの面では製品版とほとんど差がない一方で、ビジュアルの雰囲気は完成した製品版よりもややダークなものになっていた。これはゲームのグラフィックデザインを検討した結果、変更が加えられたからだという。
新規IPである『フリーダムウォーズ』が、ゲーム市場ではたしてどのように受け入れられるのかを開発スタッフで考えた結果、ユーザーがゲームを購入するかどうかは“初見”、つまりパッケージに掲載されるグラフィックデザインでほとんどすべて決定されてしまうという結論に達したそうだ。
そこで『フリーダムウォーズ』のグラフィックデザインについて、数種類のパターンを用意してユーザーに直接意見を聞く“定性調査”を行った。そうして多くの意見を集めた結果、実際のパッケージアートには、当初のコンセプトアートとはかなり異なる雰囲気の絵柄が採用されたほか、ゲームのビジュアルや世界観にも、変更が加えられたのだという。
ここまでに紹介された“戦略”と“戦術”は、ゲームの中身をどう作るかというものだったが、ブームを起こすためにはゲームの中身だけでなく、ゲームの外側へどう広げていくかも重要だ。
『フリーダムウォーズ』では草の根のプロモーション施策として、ニコニコ動画に専門の動画チャンネルを開設した。こうしたプロモーションは他のゲームでも行われているが、通常はパブリッシャーによって行われるものだ。
ところが『フリーダムウォーズ』では、ディベロッパーであるシフトが自ら独自コンテンツを制作して、“公式同人”という形で発表するスタイルを採っている。この背景には、“実際にゲームを制作しているディベロッパーが、いちばん上手にパブリッシュ(広めることが)できるのかもしれない”という思いがあったのだという。
これに対して、パブリッシャーであるSCEの吉澤プロデューサーは「“ブームを起こす”ためにいちばん重要なのは、今までに体験したことのない新しさ、楽しさを提供すること」と語った上で、「ディベロッパー発のコンテンツでプロモーションを行うというのも前例がないし、『フリーダムウォーズ』でコミックマーケットの企業ブースに出展したのもSCE初のこと。ゲーム以外の面でも盛り上げていきたくて、こうしたプロジェクトを行った」と説明した。
最後に保井氏は、「ゲーム本体だけでなく、そのゲームを外へと広げていく“メタゲーム”の部分までディベロッパーが主導できれば、日本のゲームももっと新しいものが生まれるのではないか。それが『フリーダムウォーズ』でのチャレンジの本質だった」と語って、今回のセッションをまとめていた。
▲最後は吉澤プロデューサーの指揮のもと、『フリーダムウォーズ』のキャッチフレーズである“レッツ貢献”を会場全体でコールして、セッションを締めくくった。 |
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