2014年10月10日(金)
TYPE-MOONが過去最大の開発規模で贈る新作RPG『Fate/Grand Order(フェイト/グランドオーダー)』。7月27日に行われたイベントで大々的に発表された本作ですが、その詳細は長らく謎のままでした。
▲発表時に公開された『フェイト/グランドオーダー』のキービジュアル。3人のキャラクターが描かれている。 |
iOS/Androidのアプリで『Fate』のおもしろさを再現できるのか? “フェイトRPG”とは、どんなジャンルなのか? キービジュアルにいる盾(?)を持った女性は、かつてボツになったサーヴァントではないのか? 開発元のディライトワークスとはいったい何者なのか?
そんな気になる部分が多々ある本作ですが、ついにその最新情報がTYPE-MOONの奈須きのこ氏と武内崇氏へのインタビューで明らかとなりました!
インタビューには、開発を担当しているディライトワークスの代表取締役社長・庄司顕仁氏にもご同席いただき、謎に包まれたディライトワークスの成り立ちや作品の開発経緯、世界観についても伺っています。奈須氏から“2015年”という気になるキーワードも時折飛び出すなど、見逃せない情報ばかりなので、ぜひご一読いただければと思います。(※インタビュー中は敬称略)
▲奈須きのこ氏 | ▲武内崇氏 |
――本日はよろしくお願いいたします。まずは『フェイト/グランドオーダー』が生まれたきっかけから教えてください。
武内:アニプレックスの岩上さん(岩上敦宏プロデューサー)から、『Fate/stay night』のアニメに合わせてソーシャルゲームを作りたいとご提案をいただいたのが、きっかけになります。それでゲームを作るのであれば、どうするのが一番いいのかと考えていきました。
▲10月4日より放送が開始されたTVアニメ『Fate/stay night』。遠坂凛ルートと呼ばれる“Unlimited Blade Works”シナリオが描かれる。 |
奈須:アニメに合わせてという話ですが、アニメ自体の企画は1年半以上前から動いていたもので、ゲームの準備期間もたっぷりあったんです。
武内:スマートフォン向けにゲームを作るというのは、TYPE-MOONだけでは出てこなかった企画だと思いますし、アニプレックスさんからの提案があったからこそできたゲームだと思います。
――アニメに合わせたゲームとのことですが、『フェイト/グランドオーダー』は『Fate/stay night』に直接つながるものではない感じですよね。どのような理由で今回の形に方向付けたのでしょうか?
奈須:ずいぶん前に、『Fate』のオンラインゲームを作ろうという企画があったんです。オンラインならではの物語とテーマを持たせようと動いていたのですが、それがお蔵入りになり、長くくすぶっていました。
先ほど武内が言ったように、アニプレックスさんからゲームのお話をいただいて、ゲームを作るならこちらも本気で作ろうと。それで一度お蔵入りになったオンライン企画を、違うテーマでもう一度作ってみようと。
アニメに合わせてアニメのゲームを作るのではなく、アニメの時期に合わせて新しい『Fate』を作ろうということですね。『Fate』はこれまでコアなユーザー向けの内容で作ってきましたが、今回は『Fate』を知らない大勢の人たちにも向き合えるよう、スマホの形に合わせています。
――スマホを使い、大勢に向けて『Fate』を届けるとのことですが、その大勢に向けるための作品作りの工夫などは、どのようなものなのでしょうか?
奈須:今までの『Fate』は、PCやゲーム機を所有している個人のための物語でした。現実とは切り離された濃い物語を提供して、空間と時間を使ってエンタメを楽しむという形でした。現在は、ユーザーがスマホという自己発信装置を所持する時代なので、これまでと違う重さ、自己の投影を計らなくてはいけない。その代わり、濃い物語よりはすんなり入れる世界観、設定、他プレイヤーとのつながりを楽しませるゲームになっています。
これまでは設定の上位に物語がありましたが、『フェイト/グランドオーダー』は物語の上位に設定があるという形です。“英霊の召喚”という誰でも楽しめるものをまずは体験してもらい、そこから自分の物語を始めてもらえたらなと。基本となる骨子は同じでも、アプローチの仕方が違う『Fate』を目指しました。
――本作の開発を手がけるディライトワークスさんは、今年起こされた新しい会社ですよね。そのディライトワークスさんに開発をお願いすることになった経緯は?
武内:企画自体はかなり長い期間練っていたものなんですが、どのようなゲームにしようかと模索している時に紹介していただいたのがディライトワークスさんでした。企画を提案して何度か話しをしているうちに、「この会社だったら一緒にゲームを作っていける」と感じたので、お願いすることになりました。
――ディライトワークスさんのホームページでは、開発実績がまだ公開されていませんよね。
庄司:まだ0ですからね(笑)。
奈須:謎の多い会社です(笑)。
――ディライトワークスさんの成り立ちというのは?
▲庄司顕仁氏。 |
庄司:僕は昨年まで、15年ほどスクウェア・エニックスに務めていたのですが、今年卒業させていただき、独立して作った会社がディライトワークスです。元々は僕が1人で始めた会社で、“ゲーム業界のよろず屋カンパニー”として立ち上げました。今は開発チームを中心に30名ほどの規模になっていますが、基本的にはゲームに関連のあることはなんでもやる会社です。
スクウェア・エニックス在籍中の15年間を振り返ると、とにかくいろいろやってきました。最初はコンシューマーゲームのデバッグの雑用係としてスクウェア(当時)にアルバイトで入社し、そこからそのデバッグの部署の責任者になり、PlayOnlineや『ファイナルファンタジーXI』の立ち上げ時期には、βテストの事務局やカスタマーサポート、ゲームマスターなどの運営組織の立ち上げもやりました。
その後は事業開発担当として、アーケードゲーム市場への参入、ゲームの要素技術を使った新規事業の立ち上げなどを行いました。独立する直前までは、グループ会社のタイトーで、取締役本部長としてモバイル事業とアーケードゲーム事業の責任者を務めていました。
どちらかと言うと裏方仕事が中心で、あまり表に出るような仕事をしてきたわけではありませんが。一貫して、ビジネスを通じて、創る人を支えて、育てて、増やすということをやってきました。
――ものすごい経歴だと思うのですが、なぜそこから独立を?
庄司:タイトーでの仕事が一区切り付いた時に、なんだかそこそこ偉くなってしまっていて、なかなか自由が効かなくなってしまったことに気付いたんです。15年間、がむしゃらにやってきましたが、それは別に偉くなりたかったわけではなく、とにかく日本のゲーム産業の発展に寄与したかったからです。あらためてこの先の人生を考えた時に、自分としてはもっと幅広くゲーム産業に寄与できる仕事がしたかったので、自由に動ける立場になろうと考えました。それが独立して会社を作った経緯です。
創る人を支えて、育てて、増やす。というのがディライトワークスの理念なのですが、始めは、これまでの経験を生かしてゲームビジネスに関するあらゆる支援を提供しようということで、ゲームビジネスに特化したコンサルタントとして、さまざまなゲーム開発プロジェクトに対する問題解決やビジネスコンサルティングの提供、メーカーのマーケティング改革、組織改革、珍しいところでは人事制度改革などを行っていました。そんな活動をしていた中で、TYPE-MOONさんをご紹介いただいたんです。
――その時から、『フェイト/グランドオーダー』の企画は固まっていたのでしょうか?
庄司:最初の段階ではソーシャルゲームという形だったのですが、TYPE-MOONさんが作りたいものをヒアリングしてくうちに、“TYPE-MOONらしいゲームを提供して、お客様に楽しんでいただきたい”という気持ちが伝わってきました。
それならばと、いわゆるソーシャルゲームではなくて、スマートフォンに向けたTYPE-MOONらしいしっかりとしたゲームを作りましょうと。そこから、「TYPE-MOONらしさや『Fate』らしさとはなんだろう?」と分析していきました。やることがある程度決まってくると、今度はそれをどうやって誰と実現していくかということになります。
武内さんや奈須さんが考えているゲームを形にするならば、どんな開発チームが適任だろうかと探して、探して、探して。プロジェクトワークのコーディネイトをしたのが、『フェイト/グランドオーダー』の一番最初の制作の経緯です。
先に申し上げた通り、会社を立ち上げた時は僕1人だったのですが、これを機に元同僚や部下、先輩、かつてのお取引先などから仲間が集まってきてくれました。公式サイトを見て「ディライトワークスってよくわからない会社だな」と感じた方もいらっしゃると思いますが、在籍している開発メンバーはスーパーファミコン時代から開発を手がけているベテランから新進気鋭の成長株まで、しっかりとした開発実績を持っている人間ばかりなので、そこは安心してください。
奈須:言い方は悪いですけど、『エクスペンダブルズ』のようなチームです(笑)。
武内:古参の強者であり、現役の方たちばかりだからね(笑)。
――奈須さんはコアなゲームユーザーとして知られていますが、スマホのゲームについてはどう考えられていたのでしょうか?
奈須:僕は古い人間だったので、スマホでゲームを作ることになるまでは、頑なにスマホを持つことを拒んでいました。自分がダメ人間であることを自覚しているので、極端に便利なものを持つとよりダメになってしまう、という恐れがあったんですよ。「人間、不便なぐらいがちょうどいい」と強がっていました。
けど、スマホでゲームを作ることが正式に決まったある日、出社すると机の上に『チェインクロニクル』や『ブレイブフロンティア』などのゲームが入っているスマホが置かれていて。スマホでゲームをやれ、という武内からの無言の圧力でした(笑)。
――実際にプレイしてみていかがでしたか?
奈須:いざゲームを始めてみると、抱いていた印象と違うものだったんです。「ただのポチポチゲーかと思っていたら、どうもそうじゃないぞ」と。この、“ハードを個人がいつでも所有している”こと自体が1つの娯楽になっている。ならその所有感を使って、スマホならではのゲームを提供できるのではないか、と。数年前のオンライン企画はPCでしたが、スマホのオンライン感覚はまた別ものです。この端末でTYPE-MOONならではのものを提供したいと考えるようになりました。
武内:僕もスマホのゲームをそれほどやっているわけではないんですけど、まずは勉強として『パズル&ドラゴンズ』を始めたんです。そこから『チェインクロニクル』、『ブレイブフロンティア』なども始めてみて、『パズドラ』からスマホのゲームは動いていったんだなと感じました。
そうして、0から生み出すわけではないのですが、この流れの中で自分たちだからこそできることがあるんじゃないかと、明確にイメージできるようになったんです。
――ゲームのジャンルは“フェイトRPG”となっていますが、RPGというジャンルは開発当初からのものなのでしょうか?
奈須:やるからにはRPGにしようと最初から決めていました。
武内:そもそも『Fate』らしいゲームにしようと考えていたので、根本に立ち返って“『Fate』とは何であるか?”、“どういう人が楽しんでいるのか?”などを考えて、決め込んでいったんです。
――そのコンセプトをもとに、ディライトワークスさんがゲームのシステムなどを考案されたということでしょうか?
庄司:ベースのゲームデザインやシステムは我々から提案させていただきましたが、そこから『Fate』らしさをどう表現していくかをTYPE-MOONさんと一緒に考えていきました。
まず最初に取り組んだのは、『Fate』を好きなお客様は、どんな気持ちで『Fate』に触れているのか徹底的に考えることです。コンセプトエンジニアリングという手法なのですが、お客様をしっかりと分析して、これまで作り手側が感覚で理解していたことを1つ1つ、言語化していきました。
お客様が求めているものは何か。それをスマホで表現するには、どういった遊びがいいのか。『Fate』の世界観をシステムに落とし込んでいき、システム部分でも『Fate』らしさを感じてもらえるようなものにしようと。その結果、“フェイトRPG”というジャンルが生まれました。
武内:いまどきのスマホのゲームですと、見た目がカワイイものが多いと思うんですね。最初はそういう提案もあったのですが、自分の経験上『Fate』に求められているのはカッコよさだと思ったんです。そんな“『Fate』としてのカッコよさ”を『フェイト/グランドオーダー』では体験してもらいたいと思っています。
それと『Fate』は非常にRPGらしい要素で構成されています。もともと奈須は、『マジックマスター2 紋章使い』というカードゲームから得た発想を物語の中に入れ込んでいき、『Fate』の設定を作り上げました。
ですから、カードゲームやRPG的なものとは相性がいいんです。でも、その要素をしっかりと落とし込んだ『Fate』、と言えるようなものはなかなか作れていませんでした。本作では、その部分をどこまでできるのか突き詰めて考えていき、やれることはとことんやろうとしています。
――『フェイト/グランドオーダー』のスタッフはドリームチームというか、他の『Fate』シリーズのシナリオを書かれているライターさんや、イラストレーターさんが多数参加されていますよね。
奈須:多くの作家さんに入ってもらいましたが、必然的にそうなるだろうとは初期のころから思っていました。システムや画面作りなどのできることを見せていただいて、武内の言うカッコいい『Fate』を表現するにはどうしたらいいのかを考えていくうちに、もっと話の幅を広げていきたいと。
元々やろうとしていたオンライン版の『Fate』はPCの企画でした。PCの前にどっしり座って没入するコアなユーザーが、ネットを通じて他のユーザーとプレイし、リアルに聖杯戦争を体験してもらうものだった。でも『フェイト/グランドオーダー』はそういう形のものじゃないんです。
基本的に“他のユーザーの世界ともつながっているけど、この世界は俺だけのもの”という完全に個人主義の世界なんです。でも、“なんだかんだでつながっているんだ”というところが、今回のコンセプトの1つです。
サウンドノベルというジャンルはジュブナイルものがほとんどで、シナリオの規模は“個人と街の話”にとどまりがちです。少なくともTYPE-MOONはそうでした。今回はその枠から飛び出しています。「RPGならもっと大きな舞台を描ける。地球を舞台にした物語ができる!」と興奮しました(笑)。
――確かに、『月姫』、『空の境界』、『Fate/stay night』、『魔法使いの夜』と1つの街の中で起きた出来事を描いていますね。
奈須:地球を舞台にする以上は思いっきりハデな物語にできます。そうやってメインストーリーと方向性が決まったうえで、僕のほうで信頼できる作家さんに声をかけさせていただきましたし、武内のほうからも『Fate』の世界に親和性のあるイラストレーターさんに声をかけてもらいました。
武内:多くのイラストレーターさんに参加していただくのは、今のスマホのゲームのフォーマットです。僕たちはまったく新しいものを作ろうとしているわけではなくて、今あるものに対して、自分たちらしさをどこまで表現できるかという挑戦だと考えています。
多くのイラストレーターさんが手がけるキャラクターの魅力を引っかかりにして遊んでもらい、そこから他のものとは違う『Fate』らしさを楽しんでもらえたらと、心がけて作っています。
奈須:食べ物で例えると、トマトだけどメロンの味がするような感じです(笑)。まったく見たことがないものではないけど、食べてみると全然違う味がする、そんなゲームになっていると思います。
――スマホのゲームというのは、すぐに遊べるように敷居が低くなっているものが多いですよね。長く遊んでもらうようにする工夫などはされているのでしょうか?
奈須:コアなユーザーが喜んでくれることを僕らは10年間やってきたので、遊んでさえもらえば最後まで『フェイト/グランドオーダー』を楽しんでもらう自信はあります。『Fate』を知らないユーザーさんにも、まずは全体品質の高さで楽しんでいただけたらなと。『Fate』らしさを楽しんでもらうのはその後で。
サービスが開始するころにはアニメも放映されているので、そこから興味を持っていただいて、ゲームをプレイしてもらえればうれしいです。そういう新しいユーザーにもハマってもらえるようなゲームを目指して作っています。
武内:具体的なシナリオなどはまだ細かく話せませんが、新しいデバイスで『Fate』を作る――TYPE-MOONとして物語を提供していくということにチャレンジしています。ソーシャルゲームの特徴として“リアルタイム性”があると思います。本作でリアルタイム性をどこまで実現できるのかはわかりませんが、リアルタイムに物語を楽しんでもらえるようなゲームを目指しているところです。
奈須:今まで作ったTYPE-MOONとしてのゲームというのは、完成された箱庭を渡して、そこで遊んでもらうものでした。同時に、物語を通して1つの思想を語ってきたつもりです。
ですが今回に関して思想は語りません。思想はあるのですが、それはゲームをプレイしている各ユーザーが抱くものになっています。僕らは物語と遊びを提供しますが、それをどう感じてどんな思想を抱くかは、「ユーザーにおまかせします」という形です。
ゴージャスさではコンシューマには及びませんが、コンシューマではない媒体だからこそできることを表現できたらなと。自分だけのハードで、自分だけのスケジュールで、自分だけの時間を楽しんでもらいたいですね。
――サービスが今後続いていけば、シナリオが追加されていくことなどはあるのでしょうか?
庄司:現時点では話せない部分もありますが、お客様が遊んでくださってゲームが続いていけば進化していきますよね。そういう中でシナリオが追加されたり、ゲーム自体がアップデートされたりといったことはあると思います。
奈須:『フェイト/グランドオーダー』のテーマは2015年でもあるので、まずは2015年の最初から終わりまでを楽しんでもらえるように進めています。ユーザーにとって、本作での体験が2015年の宝物になってもらえたらもう言うことはないです。
庄司:お客様と一緒に成長していくゲームがあってもいいのかなと思っています。すべてのエンターテイメントコンテンツというのは、お客様に楽しんでいただくために作っていますが、そこでお客様の要望が出てきて、その要望がゲームをさらにおもしろくするものでしたら、その通りになっていくのではないでしょうか。
それと基本プレイ無料のゲームというものは、単純にタダで遊べるゲームというわけではなくて、お客様がそのゲームの値段を決めてくれるゲームだと思っています。ですからお客様がこのゲームはタダだと思えばタダですし、このゲームは毎月いくらまで使ってもいいと値付けをしてくれる方もいらっしゃいます。
例えばそれが月300円かもしれないし、月5,000円かもしれません。ただ共通しているのは、ゲームに価値を感じてくださるということですよね。その価値を提供していくのが運営だと考えます。ですから、サービス開始時には僕らからの提案を皆さんに提供しますが、それに対してお客様が答えを返してくれたら、それを受け取り、また新しい提案を出していってと、そういう形でゲームは進化していくと思っています。
武内:TYPE-MOONは運営のノウハウがないので、その部分はディライトワークスさんにお任せして、僕らはいつも通り全力投球で物語を作るだけです。今の僕らにとっては、サービスを続けていくことよりも、まずは2015年にゲームをどれだけ楽しんでもらえるかが重要なんです。
――先ほどから“2015年”というキーワードが何度も出てきていますが、ゲームの舞台が2015年ということですか? また、そこに何かユーザーが楽しめるようなリアルタイム性の仕掛けが施されているということでしょうか?
奈須:舞台は2015年です。他の質問にはネタバレなのでお答えできませんが、ぜひプレイして感じてもらえればなと思います。
武内:サービスが開始されたらなるべく早い時期から遊び始めてほしいです、としか言えません(笑)。
――七つの聖杯と数が決まっているので、それがすべて出てしまったらゲームが完結してしまうんじゃないかと思うのですが、運営型のコンテンツとして何か解決策は用意されているのでしょうか?
奈須:七つの聖杯編が終わっても、新しい魅力的なアイディアがうかんだのなら、宇宙人が攻めてきてサッカーで戦ってしまう作品のような感じで、宇宙編とかなんでも作りますとも。でも今はまだ先のことは考えず、きちんと最初に企画したゲームを最高の形で出したいですね。
武内:『Fate』ってもともと、英霊たちが集まってまた離れ離れになっていく物語じゃないですか。ずっと続いていく物語が『Fate』ではなく、1つの終わりに向かって進んでいくのが『Fate』なんですね。本作もそういう『Fate』らしさはありつつも、まだゲームを続けてほしいという声がたくさんあれば、それはその時に考えます(笑)。
――ゲームには、まだ見たことがないサーヴァントも登場するとのことですが。
奈須:“スーパーFate大戦”なので、『stay night』『zero』『extra』に登場した英霊はもちろん、今まで『Fate』では登場してこなかった英霊も登場します。『stay night』の続きではありませんが、『stay night』を中心にしたいいとこ取りな世界観になっています。
TYPE-MOONだけの『Fate』では登場させられない英霊もいっぱい出てきます。これはRPGというジャンルのスゴいところですね。『extra』はSFだったのでアンデルセンのような英霊も出てきましたけど、今回は『extra』も入っている自由さがあるので、意外な英霊が登場すると思いますよ。
武内:なおかつ、この英霊にはこうして対策していくんだ、といった『Fate』らしい要素もあります。
▲奈須氏が“スーパーFate大戦”と語る通り、ゲーム初登場となるサーヴァント“ジャンヌ・ダルク(声:坂本真綾)”も登場。調停者(ルーラー)のクラスはゲームでどのような活躍を見せるのだろうか? |
奈須:『Fate』は、英霊の史実に基づいたアレンジが売りの1つでもあるので、そこも楽しんでほしいですね。それにサーヴァントはすべてTYPE-MOONから提供したものなので、いわゆる“捨て英霊”は1人もいませんし、全員が主人公になれるキャラクターだと思っています。“グランドオーダー”とタイトルにつけた以上、『Fate』の決定版になるゲームを作ろうという意気込み賭けました。
――公開されているキービジュアルに3人のキャラが描かれていますが、盾を持った女性はこれまでに登場していないキャラですよね。
奈須:あのキャラクターは、『フェイト/グランドオーダー』の顔役となるサーヴァントです。マニアックな話になりますが、『Fate/stay night』で一番最初にボツになった“シールダー”という盾を持つクラスがありました。
彼女の設定がずっと眠っていたので、ここで花道をあげようと。コアなユーザーさんは「ついに出てきたか」と思ってくれるだろうし、『フェイト/グランドオーダー』に合わせて新生した、キャッチーなキャラクターになってくれました。新しいユーザーさんには彼女を道標にして『Fate』の世界に入っていただければうれしいです。
▲やはり盾のような女性は、かつてボツになった“シールダー”のサーヴァントだった! 手に持っている盾は宝具だろうか? 表側のデザインが隠れているところがポイントかもしれない。 |
――ゲームにはメインストーリーの他に、サブストーリーのようなものもあるのでしょうか?
奈須:サーヴァントを仲間にして彼らとの交友を深めていくと、そのサーヴァントの設定が徐々に公開されていき、彼らへの理解度が深まるようなミニストーリーを用意しています。メインストーリーを追うだけでも楽しめますが、お気に入りのサーヴァントがいたらなんとかゲットして、絆を深めてストーリーを見ていただければと思います。
――例えば第5次セイバーと『extra』の赤セイバーが聖杯問答をしたりとか、サーヴァント同士の会話も?
奈須:状況によってはあるかもしれません(笑)。
武内:本作のサーヴァントはキャラクターであって、単なるユニットではありません。彼らの物語もきちんと描いています。
奈須:ちなみにゲームに登場する『stay night』のセイバーは、『stay night』の物語が終わった後のセイバーではなくて、デフォルト状態のセイバーです。あくまで彼女は、●●●●●の英霊にすぎません。
なので、例えばゲーム中でセイバーとランサーが並んでいても『stay night』での話はしないよう心がけています。メインの物語はあくまで『グランドオーダー』ですので、かつてあったかもしれない“別の大きな話”は持ち出さない。持ち出すのは個々の関連性だけに留めています。
例えば、アンデルセンはキャス狐に対して妙に当たりがきつかったり、小次郎はメディアを生温かく見て楽しんでいる、とか(笑)。
▲第4次、第5次聖杯戦争で活躍したセイバー。本作にも登場するが、『stay night』などで活躍した後のセイバーではないとのこと。第4次、第5次の記憶は、本で得た知識のように、そういうことがあったと知っている状態なのだろうか? |
――●●●●●には『stay night』の通常バージョンやオルタ、マスターが違い全力が出せるバージョン、さらに『zero』のバージョンもありますよね。
奈須:ゲームではセイバー戦隊が作れる……のかも……。本当は各英霊を1人に絞ろうかとも考えたのですが、具体的に「あの時のセイバーが好き」というユーザーさんもいますので、ファンサービス要素として入れています。
武内:あまりストイックになりすぎてもよくないと思いますので、そういうお祭り要素は生かすようにしました。そのへんは嫌がる奈須さんをなだめながら(笑)。
奈須:ストーリーに関係ないにぎやかし要素を入れるのは、個人的にはあまり好きではないんですけど、そこを説得するのが武内なんです(笑)。いや、出せと言われれば出すんですけど、そのまま出すだけだと違和感が出てしまうんですよ。その違和感をなじませるための苦労がイヤなだけで、僕だってファンサービスは大好きですから。その結果、いいものができ上がるので、武内の指示は間違ってなかったといつも思います。
――『zero』バージョンのセイバーはステータスが少し低い、とかだったらおもしろそうです(笑)。
奈須:(笑)。
――ちなみに、プレイヤー=マスターという認識でよろしいでしょうか。
奈須:そうですね。マスターのグラフィックは男女から選べるので、そこからさらにプレイヤーごとにカスタマイズしてもらいます。プレイヤー=マスター=主人公なので、物語自体もマスター視点で進行していきます。
――これまでの『Fate』ですと、マスター1人に対してサーヴァント1人というのが基本ですが、本作ではパーティを組むことから複数のサーヴァントと契約できるということでしょうか?
奈須:今回はこれまでで一番大きい聖杯戦争なので、マスター1人に対して複数のサーヴァントを契約できるようになっています。そのくらいしないと世界が危ないという状況なんです。
武内:ストイックに『Fate』を再現しようとすると、通常、サーヴァントは1人しか契約できません。しかし、こういうタイプのゲームでは持ち込む要素ではないだろうと考えました。ここにばかりこだわってしまうと、多くの人に楽しんでもらえなくなってしまうんですよ。『Fate』らしさという方向では間違っていないのですが、ものすごくマニアックな方向を向いてしまいます。
奈須:PCでやろうとしていたオンライン版の『Fate』は、サーヴァント1人を選んで、他の6人のマスターと同じ部屋に入って競い合うというものだったんです。それを1カ月単位で行って、各月のNo.1マスターが頂上決戦をするというノリでしたが、『フェイト/グランドオーダー』では切り捨てました。7人のバトルロイヤルも『Fate』らしさではあるのですが、『フェイト/グランドオーダー』にはありません。今回はもっと大きな話ですので。
武内:そういう意味でも、本作で『Fate』は新しい一歩を踏み出すことができたと思います。バトルロイヤルじゃなきゃいけないと思っていた部分もあったのですが、そうじゃなくても『Fate』らしさを感じてもらえるものを作ることができましたから。
――複数のサーヴァントと契約すると、マスターも令呪の管理とかが大変そうですよね(笑)。
武内:『Fate』ファンだからこそ、「ここはどうするんだ」と疑問に思うところがいくつも出てくるはずです。そこがミソになっていて、全員で考えてちゃんと答えを出しているので、ぜひ楽しみにしていただけたらなと思います。
▲本作のロゴ。Fateの右側にGとOの文字を重ねたようなものがデザインされている。 |
――竹箒のHPで、“高度に訓練されたFateユーザーなら年号表記だけで何を企んでいるか見抜いちまうとボクら信じている……!”と書かれていましたが、本作を発表してからの反響はいかがでしたか?
奈須:僕らが嫌になるくらいの高度な考察が繰り広げられていましたね……。少し話を振ってみたら、思った以上に真面目に考えてくれて驚きました。そして怖くなりました(笑)。みんな、そこまで深く考えなくても大丈夫だぞー!
――考察の中には正解もありましたか?
奈須:もちろんです。ないハズがない。あの少ない情報からものすごく真剣に考えてくださっているので、そんなユーザーたちのためにも頑張っていきたいです。『フェイト/グランドオーダー』は、その期待に応えられるものになっていると思います。
――サービス開始が楽しみです。それでは最後に、本作に期待をよせるユーザーに向けて、メッセージをお願いします。
庄司:魂の入ったゲームになっていると思います。奈須さんに武内さん、そしてこれまでの『Fate』に携わってきたさまざまなクリエイターさんの魂が細部に込められています。それをどこまで表現できるか、僕らがチャレンジしているところです。ぜひ楽しみにしていてください。
武内:先ほどの答えにも入っているのですが、TYPE-MOONとして新しいデバイスで物語を提供していくという、挑戦でありテストでもあると考えながら本作に臨んでいます。今回の作品作りは自分たちにとっても刺激が強くて、さらなる作品作りに対する活力ともなっています。『月姫』はまだかという人もいらっしゃると思いますが、まずは『フェイト/グランドオーダー』を楽しんでいただけるとうれしいです。
奈須:いつものことなんですが、「また『Fate』か」というユーザーさんに「そうさ、また『Fate』だ。今度はこんなコースを用意してみた。さあ走ってみてくれ」とドヤ顔で差し出して、「これはこれでおもしろいじゃん」と言ってもらえるものを目指しています。これまでにない大スケールで、でもおもちゃ箱のような『Fate』を作っていますので、ぜひ気軽な気持ちでゲームに触れてみてください。そして一度触れた人をトリコにするくらいの気概で作っています。ぜひ楽しみにしてください。
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