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2014年12月29日(月)

『YU-NO』が約18年の時を経て復活! 浅田プロデューサーが語る「なぜ今出るのか、なぜ今まで出なかったのか」

文:megane

 1996年12月26日にエルフより発売されたPC-9801用ADV『この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO』。分岐する並列世界を渡り歩き、時には分岐点に戻りながら過去を変えて物語を進めるという、当時の美少女ゲームとしては他に類を見ない画期的なタイトルとして、伝説となっていたゲームである。

『この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO』

 それから約18年、伝説的なゲームと言われながら97年にセガサターン版が、2000年にWindows版が出て以来、移植などが行われることなく、現在に至る。また、シナリオを担当した菅野ひろゆき氏(当時は剣乃ゆきひろ名義)も2011年に亡くなってしまい、伝説は伝説のままとなると思われた。

 そんな『YU-NO』の復活が本日ティザーサイトの公開とともに発表された。ここに来て『YU-NO』が復活した理由は何か。プロデューサーを担当する浅田誠氏にその理由や思いを伺った。

『この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO』

■なぜ18年経って伝説的タイトル『YU-NO』が復活したのか?

『この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO』

 コミックマーケット87でMAGES.から『この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO』というタイトルを発表させていただくことになりました。そこで今回はこの『YU-NO』という作品を私が担当することになった経緯などをお話させていただきます。

――びっくりしました! まさかこの伝説級のタイトルを2014年になって見ることになるとは……。個人的にはマジかよっていう気持ちですね。

 皆さんからどう反応が返ってくるのか、それがいま気になるところですね(笑)。おそらく自分たちのような30代半ば以降の人間からは「おおお!」という反応になるでしょうし、20代の方々からは「よく知らない」という反応かもしれませんし……。そのあたりをどうがんばってアピールするかが今後の課題でもありますね。

――世代による反応の差は激しそうですね。

 『YU-NO』というタイトルは、私がMAGES.に入社する前に「やりたい」と思っていたタイトルの1つなんです。現在開発中の『ミステリートF 探偵たちのカーテンコール』は、私が入社する前からすでに進行していたタイトルですし、自分自身で立ち上げたタイトルとしては、実は『YU-NO』が最初なんです。

 エルフさんとは、私がMAGES.に入社した2013年夏あたりからお話を進めていました。しかし、やはり当初は難色を示されていたんですよ。原作者である菅野ひろゆきさんが亡くなってしまっているタイトルですし、エルフさんの中でもどうやって触っていけばいいのか、悩んでいるタイトルでした。

 最初は“作品の許諾”をもらって、「作らせてほしい」という形でお話を持っていったんですね。ただ、1996年に『YU-NO』が発売されてから約18年、この長い間に何十社という会社が「『YU-NO』を作らせてほしい」と来ていたみたいなんですが、全て断っていたみたいなんですね。

 それを聞いて、「これはちょっと難しいかな」と自分も少し思ってしまいました。しかし、自分の親友である梅本竜、もう亡くなってしまいましたが、彼がこの『YU-NO』の楽曲を手がけていたんですね。その彼から当時の話も聞いていたし、『ミステリート』繋がりで菅野さんの作品を自分が担当しているということで、できればMAGES.で『YU-NO』をやらせてくださいとお願いしたんです。

 その後、エルフの版権を管理している方にお話を伺って、最初はやはり許諾という形で作って、監修をお願いするという話をしていたのですが、エルフさん側にも『YU-NO』がわかる方がいないというのがネックになっていました。下手に内容を触ってしまって、当時のファンに反感をくらってしまわないかというのを気にされていて、どういう形でやれるのがベストなのかを何度もお話させてもらいました。そこで出た結論の1つが「許諾ではなくて版権の譲渡」ということでした。

――許諾ではなくて、これからはMAGES.の作品ということなのですか?

 そうですね。エルフさんとの話の中で、MAGES.が権利を持って管理をしていく方がやりやすいのではないかという話になりまして……。これは2013年の年末あたりの話ですが、実際に版権として取得したのは2014年の2月あたりになります。

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■亡き親友・梅本竜との約束が『YU-NO』の発売に繋がった

――菅野さんと梅本さん、そして浅田さん、すごいめぐり合わせですよね。

 そうですね、色々な人とのめぐり合わせがうまく噛み合ったのが、この『YU-NO』というタイトルでした。もし前職を辞めていなければ『ミステリート』を担当することもなかっただろうし、『YU-NO』というタイトルはそのまま出なかったかもしれません。

 梅本さんとはケイブ時代にたくさんお仕事をさせていただいていて、その時にも『YU-NO』で菅野さんの作品にもっと音楽を寄せたかったと話していたんですね。あの当時の力はあの時に出し切ったけど、「今ならもっとやれる」ということをずっと言っていました。「いつか『YU-NO』をリメイクしたい」と2人で話していた記憶が残っていたので、いざ自分が担当することになると、感傷ぶかいものがありますね。

――親友・梅本竜との思いがこもっているタイトルというわけですね。

→浅田さんが語る梅本竜さんとのエピソードはこちら(2011年12月掲載)

■シナリオはほぼいじらない! 現代に蘇る『YU-NO』

 原作はもう18年前のタイトルということで、どうやっていま作るかという現実にも引き戻されますね。物語としても当時は携帯電話なんてものはまだまだ一般的ではありませんでした。だから成り立っていた話でもあるんですが、現代で考えると「スマホで電話すればいいじゃん」なんて思ってしまうかもしれません。しかし、それはそれとして「この時代の世界観はそうなんだ」ということにして、菅野さんの作った世界観は崩さないで行こうと思っています。

――特に現代に向けてカルチャライズすることはないということですね。

 そうですね。我々のスタンスとしては、シナリオに関しては9割5分触らないという感じです。ただ、表現や言い回しが古かったり、倫理的に問題があるような部分は修正させてもらっています。この倫理表現については本当に申し訳ないのですが、変えないと発売できないという部分でもありますので……。ただ、シナリオに何かを追加するようなことはなく、『YU-NO』を現代に蘇らせるというプロジェクトです。

 仮に、菅野さんがご存命だったら少し手を加える部分もあったかもしれません。しかし、先ほども言ったように『YU-NO』という作品は出す事自体もとても難しい作品でしたので、今後誰も触らないかもしれない。そこで自分が手を加えてしまうと、それから先はこれが元になってしまうかもしれませんし、自分の意思が混ざってしまうのは非常に申し訳ない。菅野さんが遺した作品ですから、そこはそのままにしておこうと。

――その他に当時から変わっているところを教えてください。

 変わっているという点で言えばグラフィックですね。さすがに当時の絵のままで行くわけには行かないので、凪良さんに今回はデザインをお願いしています。本日発表させていただいたイメージイラストがそうですね。お仕事をお願いした当初はメインキャラクターのデザインをお願いしていたのですが、最終的にはすべてのキャラクターをお願いすることになりました。

――『YU-NO』って結構登場するキャラクターは多いですよね。

 そうなんですよ。デザインをお願いしている最中に凪良さんの方から、リストに入っていないキャラクターのデザインがどんどん上がってきまして……。聞いてみたら「時間があったので、いるキャラクターを全部書いてみました」と。凪良さんの方で、資料集などを見て、それで書いてきてくれたみたいなんです。そういうこともあって、サブキャラクターも含めてすべてお願いしました。

 今回公開したのはイメージビジュアルですが、30日の5pb.ブースでは、当時の『YU-NO』ファンの方なら「おっ!」と思うようなビジュアルが出てきますので、期待してください! この会場でしか見られないビジュアルですよ。

――セガサターン版では声がついていましたが、今回はどんな感じですか?

 当時も豪華な声優陣が声を当てていましたが、同じキャストをそのまま起用するのはスケジュールの問題などもあって厳しかったので、キャストは変わっています。担当される声優さんについては随時公開していければと思っています。

――『YU-NO』という作品はやはり伝説的な評価を持つタイトルなので、プレッシャーもかなりあるのではないですか?

 そうですね……ただ、プレッシャーに関して言えば『ミステリート』の方が強いかもしれません。あちらはなんせ未完の作品を完成させようとして作っているものですからね。『YU-NO』は物語としては完成されたものがあるので、その点ではプレッシャーは少ないです。

 今年の年末にこの『YU-NO』を発表しましたが、2015年の今よりも早い時期に発売できるかなといった感じです。今、自分が発表しているタイトルとしては『ミステリートF』と『サイコパス』がありますが、この2つよりかは制作は順調です。逆に言うと、この2タイトルは難産ですね(笑)。対応ハードについては今後の発表をお待ちください。

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■『サイコパス』&『ミステリートF』の現状について聞いてみた

――せっかくですので、『サイコパス』と『ミステリートF』についても現在の状況などを聞かせてください。

 『サイコパス』に関しては年明けあたりから情報を出せるかと思います。『サイコパス』で色々と遅れてしまっているのは、自分が機能をいっぱい盛り込んでしまっているからなんですけどね。

 東京ゲームショウで試遊台を出させていただいて、ちょっと他のアドベンチャーゲームとは違うな、というところを感じていただいた方もいるかと思いますが、それよりも数倍おもしろいものになっていると思います。2015年3月くらいから全国の店舗さんなどで試遊ができるようにしたいと思っておりますので、ご期待ください。

 『ミステリート』については、イラストレーターさんの体調不良などもありまして、ファンの皆さんにご心配をおかけしている部分もあるかと思いますが、新しいイラストレーターさんも決まっていて、メインビジュアルができた段階でお知らせできればと思っております。『ミステリート』シリーズが好きな人を裏切るような形にはなっていないはずなので、そこはご期待ください。

 『ミステリート』はいま音声を収録している最中で、八十神かおる役の緒方恵美さんのTwitterから分かるように、とにかく収録量が多い。30,000ワードくらいあるかもしれません。収録を開始してから日数で言うと40日とか一緒にお仕事させていただいてますね。まだ初代の収録が終わっていないくらいですから。

 『ミステリート』も発売から時間の経っている作品なので、当時の緒方さんと今の緒方さんで、また違う新しい魅力の入ったキャラクターになっているのかなと。ファンには新鮮に感じられるかもしれません。

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■2015年に浅田さんが手がけるタイトルは少なくとも4本! 残りの1本は?

 まずXbox Oneについてのお話をさせてもらってもいいですか? 先日、異動が発表された泉水さん(Xbox事業の統括を担当していた泉水 敬氏)とご飯を食べていて、今後についてのお話などを聞き、タイトルも今後色々と出てくるという事で、MAGES.としてもうまくXbox Oneが広がっていくように展開できればいいなと思っています。

 2015年については、自分が担当したタイトルをすごく出す年になると思います。最低でも4本ですね。4本ということで発表していないタイトルもまだまだあります。それも含めて、2015年の東京ゲームショウあたりで自分のプロジェクトが発表できる段階になっているといいなあと思っています。

 MAGES.に入社してから現在で1年とちょっとですが、自分のやれる範囲とどういうことをやっていこうか、というような山は見えてきたので、そこに向かって駆け上がっているところです。

 個人的には2015年でSteam(PC)にも展開していきたいと思っています。Steamでは海外向けにアドベンチャーゲームが意外と出ていて、そういうローカライズを担当している会社さんからもお話を聞いたりしていたんですね。

 あと、2015年には高橋名人が社内にいることにそろそろ慣れたいです。入社した時に真っ先にサインをもらいに行きましたからね。今でもミーハーな少年のように名人を見かけるとうれしくなってしまいます。高橋名人vs毛利名人をまたやりたいなあ。

『この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO』

『この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO』
エグゼクティブプロデューサー:志倉千代丸
プロデューサー:浅田 誠
脚本:菅野ひろゆき
キャラクターデザイン:凪良

(C)MAGES./5pb.

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