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2015年2月10日(火)

第21回電撃小説大賞《大賞》受賞作『ひとつ海のパラスアテナ』著者、鳩見すた先生に直撃インタビュー!

文:電撃オンライン

 第21回電撃小説大賞にて、大賞を受賞した『ひとつ海のパラスアテナ』。本作の発売を記念して、著者である鳩見すた先生に本作の魅力や制作秘話を聞いてみた。

『ひとつ海のパラスアテナ』
▲電撃文庫『ひとつ海のパラスアテナ』著:鳩見すた、イラスト:とろっち

 「はてしなく広がる青い世界を小さなヨットで漂う2人……
 これは2人の少女が大きな世界と小さな世界を
 冒険をする物語なんです」
  ――鳩見すた

【作品のあらすじ】

 すべての大陸と文明が海に沈んだ未来の地球“アフター”。人々は大海原に点在する浮島に暮らし、物資も人も言葉もすべて船によって運ばれている、そんな時代――。

 小さなヨットを操縦して手紙を配達するメッセンジャーの少女・アキは、サクラジマという名の浮島で一通の手紙を託される。それが新たな出会いと未知の冒険の始まりだった!!

 第21回電撃小説大賞≪大賞≫を受賞したのは、偶然出会った14歳と16歳の少女が1つのヨットで漂流する海洋冒険ファンタジー

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【今の心境】作家デビューをしてみて……

――このたび、第21回電撃小説大賞≪大賞≫受賞作である『ひとつ海のパラスアテナ』が電撃文庫より発売になりました。待ちに待った日だと思うのですが、今の素直な心境を教えてください。

 応募した時は≪大賞≫をいただけるなんて思ってもみず、せめて一次、あわよくば二次と思っていたので驚きっぱなしです。今は実際に刷り上がった本の表紙イラストを見てやっぱり驚いています。プロフィールやあらすじが書かれているソデの部分まで、1枚のイラストになっているんですよ。とろっち先生の描く海をパノラマで見られて感動です。

――作家デビューが決まってから、生活は変化しましたか?

 今までと生活パターンは変わりません。深夜の静かな時間が集中できるので、家族が寝静まった真夜中に書いていることが多いです。一番大きな変化は、今まで趣味に使っていた時間――ゲームで遊ぶ時間を執筆活動に当てていることでしょうか。僕すごくゲーム好きなんです。

 特に生活感のあるRPGが好きで、たとえば『Fallout』シリーズ(注1)、『The Elder Scrolls IV:OBLIVION』や『TES V:SKYRIM』(注2)、Xbox 360『Fable』シリーズ(注3)ですね。今は待望の『BF4』(注4)が発売されているのに、どっぷり遊べていないのが残念です。応募作を1人でコツコツと書いている時は、たまに遊ぶFPS(注5)のボイスチャットから聞こえてくる罵声ですら人の温もりを感じて癒されていました。書いたものを誰かに見せることもなかったですし、かなり孤独な作業だったので。

注1:アメリカの大人気RPG。核戦争後の荒廃した世界が舞台。狂暴な人型生命体や武装集団、無法者がはびこる街を生き延びていく。
注2:エルフやドラゴンの伝説に彩られた、正統派ファンタジーRPGの名作『The Elder Scrolls』シリーズ。『OBLIVION』はその第4作、『SKYRIM』は最新作の第5作のタイトル。
注3:根強い人気を誇るXbox 360専用のRPGシリーズ。剣と魔法が存在する中世風の世界を体験しつつ、山賊を討伐したり、モンスターを倒したり、プレイヤーの好みで自由度の高い冒険が楽しめる。
注4:『Battlefield 4』のこと。特殊部隊のメンバーとなって敵と戦うシューティングゲーム。
注5:ファーストパーソン・シューティングゲームの略。プレイヤーの姿が顔面に映らず、実際にその場で自分自身が戦っているような視界が広がっている作品のこと。

――受賞者の多くは、誰かに読んでもらって意見をもらう人が多いと聞きましたが……。

 実は僕、今まで自分の書いたものを身近な人に読んでもらった経験がなかったんです。だから、担当編集さんや審査員の方々から生の意見をいただけるのがとてもうれしくて……。最近は家族にも読んでもらっていますが、編集者さんより手厳しい意見を言われます。

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【制作秘話】物語が誕生したきっかけは?

――では続いて、本作が誕生した経緯を教えてください。なぜ電撃文庫系の小説にはめずらしい、海洋冒険ものを書こうと思ったのでしょうか。

 ひと言でいうと「海が好きだから」です。僕は子供のころに、『ロビンソン漂流記』(注6)や『宝島』(注7)といった、海を舞台にした物語を読んで育ちました。それで海での生活や冒険に強い憧れを抱いていたんです。

 たまたまヨットに乗る機会があったりもして、ますます海への想いが強くなりました。でも泳ぎが苦手だから自分では冒険できない。それで海洋冒険を書いてみたいと思うようになったんだと思います。海洋ものは書く人も少なそうなので、応募数の多い電撃でも目立てるかな、とかちょっぴり考えてもいました。

注6:1719年に刊行された英国の小説家、ダニエル・デフォーの海洋小説。船乗りのロビンソンが絶海の孤島に漂着し、冷静な判断力と深い信仰心を支えに生き延びていく様子が描かれる。
注7:1883年に刊行された英国の小説家、ロバート・ルイス・スティーヴンソンの児童向け海洋冒険小説。少年が海賊の残した宝の地図に記された財宝を探す旅へ出発する。

――舞台となる“アフター”という世界は、今よりも近未来の地球ですよね? 海には湿った樹木と海洋ゴミが浮かび、人々が暮らす浮島がある。生息する動植物も陸のない世界に適応した固有種。とにかく壮大なスケールの物語ですが、執筆にはどれくらいの時間がかかりましたか?

 執筆期間だけ計算すると、2、3週間です。書き始めると早かったんですが、そこに至るまでに資料を読み、メモをたくさんとり、必要な情報を頭に入れるのに時間がかかりました。世界観が少し複雑なので、ストーリーはシンプルにしています。プロットは流れだけを作って、特に書きたいシーンを自分へのご褒美にしつつ頭から一気に書き上げたという感じです。

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【世界観】ひとつ海の世界なら、きっとこうなる!

――綿密に作り込まれた世界観も本作の魅力の1つです。リアリティーを生み出すうえで、大切にしたことはありますか?

 1つの海しかない地球に、“実際にありえるかもしれないこと”を想像して、世界観を構築していきました。たとえば、方言って土地が閉鎖的であればあるほどずっと残るそうなんです。ひとつ海という世界は、人の行き来が自由で非常にオープンな環境だから、国が1つしかないのと同じだと考えました。なので一つの国に方言や各言語が全部ギュッと詰まっているイメージで、ごちゃまぜの文化があったら面白いなと。

 冒頭の『地球は青かった』の引用は、文字通りの意味と同時に、誤訳や誤用でも耳障りのいいものが残るという世界観も表しています。セールとセイラー、ウォッチとワッチ、同じ言葉が違う感覚で残っているのもそういう理由です。

――海底から私たちが住んでいる現代の遺物が発掘され、“アフター”の人々の暮らしに影響しているというのもおもしろいですよね。

 太古の文明……今、僕たちが暮らしている現代の遺物を海から引っ張り出す職業・アマダイバーがいる世界なので、古い技術も登場させることができます。逆に舞台は未来ですから、今の時代に生息していないオウムガエルのような生物も出せます。そして現代よりも野性的な暮らしをしているので微妙な価値観のズレも出せるという、書く方には理想的な世界です(笑)。

――セイラー服も過去の遺物ですよね? “アフター”の世界では、海の男の正装になってしまっています。

 セイラー(船乗り)は、老いも若きもセイラー服にスカートをはいています。「男がスカート!?」と驚く方もいるかもしれませんが、スコットランドの民族衣装などでは男子の正装ですし、そのイメージで受け入れていただければと。

 そもそも、女の子を主人公にしようと思ったのも、昔の海に生きる人々には女人禁忌の文化が存在したからです。“アフター”は海しかないので、そういう風習も色濃く残っているだろうと。そんな世界で女の子を船に乗せようとなると、男装させるしかない。

 でもせっかく電撃文庫でイラストがつくなら、カッパズボンをはかせるだけではもったいない。かわいい服を着せてあげたい。だったら、文化の方を逆転させようと。男がスカートをはいている世界にすれば、男装=スカートになると考えました。それが学校制服のセーラー服なのは、アフターの人々が水兵さんの制服と勘違いしたんだと思います。

――未来のお話ですが、私たちが想像しやすい世界観になっていて、物語に没頭できるところも魅力ですよね?

 そうだとうれしいです。作中にはコウテイマンボウやナッツフィッシュという魚が出てくるんですけど、名前を聞いた時になんとなく姿が想像してもらえるような、実際の海にいそうでいない、ギリギリのバランスは常に考えました。思いつきで名前を作ったら、実際に存在していたこともあるので、図鑑やネットで確認しながら……。ウミフクロウという動物を出そうとして、「これウミウシの仲間だ!」と気づいて慌てて変えたことがあります。もちろん僕は鳥の梟のつもりでした(笑)。

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【登場人物】主人公となる2人の少女について

――次に本作の主人公・アキとタカについて質問します。鳩見さんから見て、2人はどのような少女たちでしょうか?

 アキは船で手紙や荷物を届けるメッセンジャーとして暮らしている14歳の少女です。両親と生き別れ、セイラーになるため男装……セイラー服を着ています。一方、タカは寝物語をして生計を立てる添い寝屋(フッカー)です。16歳の若さで、美しい金髪と美貌の持ち主。同性のアキもドキドキするほどです。

 2人はまったく逆の性格で、アキはメンタル弱めだけど、1人で海を生きていく技術や知識を豊富に持っている。タカは精神的に大人で高飛車だけど、海で1人では生きていけない。お互い、足りないところを支え合って生きていくような感じです。

――アキは女の子ですが、物語の冒頭で遭難しますよね。魚の脊髄のあたりに真水があって、それを飲むまで追い詰められたり。

 あのシーンは空想上の魚ということでちょっとだけ嘘をついています。実際に魚から水分を得る方法は別にあるんですが、ショッキングな絵面になるようにしてみました。

――なるほど、演出だったのですね?

 サバイバルでは魚に布をかけて雑巾のようにグッと絞ったりするらしいです。

――ガチでサバイバルな漂流ですよね。女の子相手だからといって、手加減はしないというか……。

 海、というか自然は甘くないといいますか。僕は手のひらを4針縫っているんですけど、これは磯ですっころんでカラス貝で切っただけなんです。海はいるだけで傷だらけになりますよね。実際に漂流から生還された方の手記を読むと、一緒に漂流していた仲間が意外なほど小さな原因で亡くなったということが書かれていますし……。頭の中で「人間は海では強くない」ということを常に意識していました。

――鳩見さんは毎年、沖縄の八重山諸島を訪問するのがライフワークだと聞きました。その時の体験が反映されていますか?

 ライフワークはちょっと大げさですが、たとえば遭難したアキが浮島に登る時に、足を滑らせてひざの皮膚をパクッと割ってしまうんですけど、これは僕の体験が反映されています。あれ、ちょっとくっついても泳ぐとすぐに傷口が開いちゃうんですよね。アキも大変痛い想いをしたと思います。

――置かれている環境はハード。でも、アキとタカが魚を釣ったり、ヨットで野菜を育てたり、それが実に楽しそうに見えますよね。

 そう言っていただけるとうれしいです。漂流モノで本当に過酷な世界を書こうとしたら、主人公をひとりぼっちにした方がいいと思うんです。そしてしゃべらない相手をパートナーにする。その方が読む人に孤独が伝わって感情移入しやすくなる。でも、孤独だけじゃなくて、2人生活の楽しさや、日常は大変だけれど、“生きている実感”で満たされているという明るい部分も書いてみたかったんです。

――タカとアキの交流は、姉が妹をからかうような親密さがあって癒されます。

 海の上の船はある意味密室なので、やっぱりイチャイチャしてほしいなと(笑)。過酷な世界とは裏腹に、2人だけの世界、つまり一緒に寝るベッドの中でくらいは安らげるようにしたいと思っていました。

――最初のプロットから、この2人が主人公だったのですか?

 それが違うんですよ。最初にプロットを考えた時は、大陸旅行ものでした。あまり仲がよくない2人の女子高生が主人公で、たまたま2人が陸の沈んだ世界に住んでいる。「なにもない、どうしよう?」と相談して「じゃあ、チベットへ行こう!」と。

――山じゃないですか! もう少しで冒険登山ファンタジーになるところでしたね。

 そうです(笑)。標高が高いから、そこに行ったらなにかあるんじゃないか……という話だったんです。ちょっと迷走しかけていたので、いったん仕切り直してファンタジーな方向へ舵を切ったら、物語がぶわっと広がった感じです。

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【応援】電撃大賞をこれから目指す人へ

――お話は変わりますが、これから電撃大賞を目指す作家希望のみなさんに、ご自身の体験を踏まえてのアドバイスをお願いします。

 自分で言うのもおこがましいんですけど、やっぱりたくさん書くことではないでしょうか。僕の場合は「3年以内に芽が出なかったら諦めよう」と決めて書き始めました。

 期限を決めたら数をこなすしかない。とにかく書くペースだけは上げていこうと。これはメリットもあって、アイデアの詰め込みすぎを防げます。面白くしよう、完成度を高めようと一作に時間をかけるのもありですが、ごちゃごちゃ読みにくくなってしまうともったいないので、短い時間でシンプルに話をまとめてみるのもありだと思います。

――最後に読者のみなさんへメッセージをお願いします。

 このお話は広い海の話ですが、ヨットの中は狭いです。主人公のアキとタカが大きい世界と小さな世界で冒険するお話に興味がある方はぜひご一読いただければ幸いです。あと続刊が出ます! 4月10日発売です!! 趣味のゲームを我慢して一生懸命書きましたので、よろしくお願いします。

著者紹介

鳩見すた
はとみすた●神奈川県在住。好きなものは、犬とゲームとカレー味。レトロもスマホもなんでもこいな三度の飯よりゲーム好き。

(C)2015 SUTA HATOMI / KADOKAWA CORPORATION

データ

▼『ひとつ海のパラスアテナ』
■著:鳩見すた、イラスト:とろっち
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:KADOKAWA
■発売日:2015年2月10日
■価格:本体590円+税
 
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