2015年2月8日(日)

『クロスサマナー』エフェクトアーティストは叫ぶ。エフェクトは人生であり、化粧だと

文:そみん

 2月6日に渋谷ヒカリエで“Game Graphics Groove #1”が行われました。そこで行われたiOS/Android用アプリ『クロスサマナー(クロサマ)』に関するプログラムをレポートします。

『クロスサマナー』

●“Game Graphics Groove”のオフィシャル紹介文

 Unity、Unreal Engine、Cocos2d-xなど、多くのツールが活況を呈し、コンソールだけではなく、スマホゲームの画質も大幅に上がってきています。

 このイベントは、クリエイティブによるゲームの進化をさらに加速させるためのものです。

 ゲームグラフィックのクリエイターが、最新のヒットタイトル開発のノウハウを余すことなく共有します。

 クリエイティブの視点から、ゲーム開発の効率化や、表現力の向上、そして、新しい体験の具現化について、突き詰めていけるような情報をご紹介いたします。

 本イベントはDeNA、グリー、ポケラボの主催で行われたゲームグラフィッククリエイター向けのセミナーで、さまざまなアプリ開発者やグラフィッカーが登壇し、非常に興味深い講演が行われました。この記事では“『クロスサマナー』のド派手演出制作を支えたクリエイティブ開発環境”のプログラムをクローズアップしてレポートしていきます。

『クロスサマナー』

 登壇したのはポケラボのゲーム事業本部クリエイティブ部に所属するエフェクトアーティストの池田博幸氏。人気アプリ『クロスサマナー』のまるで格闘ゲームのようなコンボ演出や、ド派手な奥義のグラフィックなどがどのように作られていったのかが語られました。

『クロスサマナー』

 池田氏は約20年にわたってゲーム業界に携わり、スクウェアやCyberConnect2などでRPGのバトルのエフェクトや演出を担当してきたクリエイターです。

『クロスサマナー』
『クロスサマナー』

 壇上に立った池田氏は、どちらかというと物静かな人物に見えましたが……。

『クロスサマナー』
『クロスサマナー』
『クロスサマナー』
▲効果音やグラフィックの変化を交えて、派手なプレゼンが行われました。
『クロスサマナー』
▲エフェクトは人生だ! この熱さに圧倒されました。

 “私の哲学”と題された最初のトピックを示す際は、力強い言葉や効果音を交えて熱く演出。のっけからなんだか引き込まれてしまう、熱意がこもった講演となりました。

『クロスサマナー』
『クロスサマナー』

 まずは『クロスサマナー』の誕生の理由について語られました。ポケラボでは毎年社内で新作のコンペがあり、ちょうどその時期にフルネイティブのアプリ制作に調整しなければならい時期だったこともあり、その企画を実現するために動き始めたそうです。

 エンジンはUnityを使うことを決めたものの、社内のノウハウ的にフル3Dでの路線は難しいと感じていたとのこと。3D制作に慣れた大手コンソールメーカーと同じ土俵ではなく、別の路線を模索した末に2Dのドット絵としたが、結果的には成功だったと語っていました。仮にフル3D路線にしていた場合、砂漠で砂を売るような形となってしまい、他との差別化をしきれなかったかもしれないとの認識でした。

『クロスサマナー』
『クロスサマナー』

 続いてのトピックは、“奥義演出仕様と運営の話”。前提の説明として、『クロスサマナー』はコンボが重要となるゲーム性であるため、キャラのレア度と奥義のコンボ数(攻撃時のヒット数)が密接にかかわっていることが明かされました。

 感覚的には星3は1~15コンボ、星4は15~25コンボ、星5は25~35コンボを目安としているとのこと。そして、例えば闇属性で星4のキャラを作るなら20コンボくらいにしようと、属性や職業などをセットにして調整していくそうです。

『クロスサマナー』
『クロスサマナー』
『クロスサマナー』
『クロスサマナー』

 また、『クロスサマナー』には空中コンボなどのシステムがあるため、1つ1つの技にさまざまなステータスが必要となります。

 そういった演出の管理は、UnityのAnimationで行っているそうです。奥義演出を始める際の敵味方の立ち位置については、コライダで見えない壁を作るような感覚で制御をしているとのこと。

 攻撃が当たった際の吹き飛ばし(ノックバック)については、2Dの対戦格闘ゲームとほぼ同じ仕組みで管理を行っているとのこと。だからゲーム中のバトル演出は、あんなに自然でスムーズなんですね。

『クロスサマナー』

 そんな複雑な作業が要求されるにもかかわらず、時には運営側から大きめの要望を出されて困るそうです。

 星3のレア度で作り終えたキャラが星5になるのでコンボ数を考え直さないといけないとか、炎属性として作り終えた奥義が闇属性になるので全体的なイメージを調整しないといけないとか、なんとも頭が痛くなりそうな要望ですね。

 時には剣士として作っていたキャラが魔道士になるというジョブ変更もあり、全般的に作り直すこともあるそうです。しかもその際は……。

『クロスサマナー』
▲「今日中にお願いします」From運営(笑)。笑い事じゃありませんね。

 基本的に修正のスケジュールはタイトで、「今日中にお願いします」というセリフは本当に何度も聞いてきたそうです。とはいえ、複雑な工程を経て作られる奥義演出はそう簡単に調整できるわけではありません。

 という流れから、Unityの課題についてトークが進みました。

『クロスサマナー』
『クロスサマナー』

 非常に複雑な仕組みとなるため、以前の開発環境ではリアルタイムでのプレビューが取れないことが問題だったそうです。キャラを動かすステータスと、それにともなうゲームシステム的なステータス(ヒット判定やノックバックの処理など)を別々に作る必要があったので、とにかく調整に時間がかかっていたとのこと。

 そこで、そういったリアルタイムプレビューを生成できるシステムの例を探してみたところ、『FFXII』の開発チームが作っていたそうです。確かに大型の召喚獣の動きなど、さまざまな面でのクオリティが高いゲームでしたが、その土台には便利なシステムの存在があったんですね。

『クロスサマナー』
▲ポケラボ創立日は2007年11月8日。『FFXII』開発チームによる“えふぇくちゃん”は2006年のCEDECで発表されていました。

 これを見た池田氏は、やはりキャラのアニメとゲーム的なシステムを同時に制御してリアルタイムプレビューの利便性を再認識したとのこと。でも、残念ながらUnityにはその仕様がなく、どうしても時間的なロスが生じていたそうです。

『クロスサマナー』
『クロスサマナー』

 この時期の開発は本当に大変だったようで、ParticleをAnimationで再生できないため、キャラの動きを調整したい時は別途作業が必要だったとのこと。物理演算の加減もシミュレートが難しいため、結果的には約6秒をかけて実機確認をしては何度も微調整を繰り返すという泥臭い動きで作っていたそうです。

『クロスサマナー』

 池田氏の切なる願いとして、これらの要素を同時に管理してタイムライン上でリアルタイムに確認できるシステムが欲しかったそうです。そこで揮発スタッフがたどりついた結論とは……ゲームエンジンに対する反逆でした。

『クロスサマナー』
『クロスサマナー』
『クロスサマナー』

 その答えは、社内で独自のシステムを組むことでした。Skill Simulator(奥義リアルタイム制作エディタ)はAnimationに関する一連の要素をFlash感覚で制御可能とする便利なもの。

『クロスサマナー』

 このエディタの開発以前は、下の画像のような文字コンテを書いて開発をしていたそうです。リアルタイムプレビューが取れない時期は、経験則から脳内でイメージをして作り始めるという、非常に職人芸のような動きで対応していたとのこと。

『クロスサマナー』
『クロスサマナー』

 講演中には奥義リアルタイム制作エディタの実演が行われましたが、ウィンドウで奥義のアニメや敵味方の挙動を確認しながら、タイムライン上での調整を行っていました。とてもスムーズに操作しており、文字コンテを書いていた時代を想像すると、開発環境は雲泥の差だと感じちゃいました。

 エディタの開発者によると、高度な技術を必要としたわけではなく、柔軟な発想のほうが大事だったそうです。

『クロスサマナー』
『クロスサマナー』

 講演の後半は“エンジニア寄りの話”として、Animation Windowの取得方法、ProtectedなMethodやParameterの確認方法など、Unityでの制作に役立つ実用的なアドバイスがされました。

『クロスサマナー』
『クロスサマナー』
『クロスサマナー』
『クロスサマナー』

 そして最後のまとめも、池田氏の力強い言葉で読み上げられていました。“ゲームエンジンを越えし到達点はそこにあり”とのことで、ゲーム中のキャラの人生を演出するためには、柔軟な発想で枠にとらわれず、時には反逆精神も必要だとまとめられていました。

『クロスサマナー』
『クロスサマナー』

 プログラムの後にはパネルディスカッションもありましたが、その中で池田氏が語った「ゲームのエフェクトは化粧に似ている」という言葉が印象に残っています。よいものをよりよく見せるために化粧を施すように、エフェクトによってゲーム中のキャラクターがより輝いて見えるようになります。

 まさに冒頭に語られた“魔王が魔王であるために 勇者が勇者であるために 彼らの人生を演出せよ”という哲学を示しており、今後は『クロスサマナー』を遊ぶ際に、いっそう奥義などのエフェクトに注目したいと思いました。

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