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2015年7月17日(金)

『狼と香辛料』の支倉凍砂氏による『WORLD END ECONOMiCA』シリーズ完結記念インタビュー!!

文:電撃オンライン

 『狼と香辛料』の支倉凍砂氏による最新作、電撃文庫『WORLD END ECONOMiCA』がついにシリーズ完結。テスト明けや夏季休暇に一気読みするチャンスですよ!!

 電撃文庫『WORLD END ECONOMiCA』シリーズは、『狼と香辛料』の支倉凍砂氏がシナリオを手がけた同人ヴィジュアルノベルの完全版。好評発売中の第3巻で完結した本作の魅力的な世界を著者のインタビューを交えながら徹底紹介します!!

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●動画:WORLD END ECONOMiCA Episode.3

支倉凍砂(はせくらいすな)氏とは?

 『狼と香辛料』で第12回電撃小説大賞≪銀賞≫を受賞し、作家デビュー。その後、同シリーズは累計発行部数は400万部を越え、2008年と2009年に2度にわたりTVアニメ化もされた。『狼と香辛料』の主人公は、市場経済が浸透している中世ヨーロッパ風の世界で活躍する若き行商人。一方、本作の舞台は人類が月に移住して自由経済を謳歌する近未来。主人公は株取引(デイトレーディング)で成功することを夢見る家出少年・ハルだ。いったいどんな物語が展開するのだろうか?

本シリーズの見どころをまとめると――?

1:株取引に青春をかける少年の挫折と栄光を描いた、金融冒険ストーリー!!
2:物語とともに深まっていく魅力的なヒロインたちとの関係。
3:読み終えると経済の仕組みがわかる!! しかも、金融取引でよく使われる用語集を収録。

◆第1巻のあらすじ◆

 借金で立ち退きの危機にある小さな教会を守るため、ハルは数学の天才少女・ハガナと協力してシュレーディンガストリート(一流の金融地区)主催の投資コンテストに参加することに。数学的アプローチから、確実に儲けの出る銘柄(会社)を探す投資用プログラムを作成。その賞金を手に入れようとするが……。

『WORLD END ECONOMiCA書影』

◆第2巻のあらすじ◆

 あれから4年後――。20代になったハルは株取引をやめ、大学に通いながら役所で働く勤労奨学生になっていた。そこへ没落貴族の少女・エレノアが現れ、高額のギャラを提示してハルを再び株取引の世界へ誘う。エレノアの目的は、株式市場の“太陽王”と称された巨大企業アバロンの不正を暴くことだった!!

『WORLD END ECONOMiCA書影』

◆第3巻のあらすじ◆

 第1巻から8年後――。未曾有の不動産ブームが到来した月面都市。巨大企業アバロンの不正を暴き、月の大統領とも懇意にする投資家になったハルは、“月面の英雄”と呼ばれていた。だが、8年前に消えてしまったハガナへの強い想いは増すいっぽうで……。今、愛しい少女を取り戻すための勝負が始まる!!

『WORLD END ECONOMiCA書影』

電撃文庫『WORLD END ECONOMiCA』シリーズ完結記念!! 作家・支倉凍砂氏インタビュー

【1】本作はスリリングな株取引が展開する投資ものです。物語の着想はどこから得たのでしょうか? なぜ、月を舞台にしようと思われたのでしょうか。

 元々経済というか、金融業界についての面白話みたいなのが好きでした。たとえばジョージ・ソロスという投資家が、イギリス・ポンドの暴落に賭けて、二週間で2000億円とも言われる金額を稼ぎ、伝統あるイングランド銀行を個人の力でねじ伏せた、なんていうラノベ顔負けのエピソードがたくさんあって、いつかこういう話を書きたいなと思っていました。

 そんな折、2008年に起きたいわゆるリーマンショックをめぐり、投資の世界を舞台にごたごたがあり、その中でも、あまりにバブルの崩壊が激しすぎて、資本主義そのものの存続が危ぶまれた一幕があった……とにわかに言われてもぴんと来ないようなことが本当にあったらしいのです。そして、確かに当時のごたごたの渦中にいた人達についての本を読むと、いかにもそんな大袈裟な物言いが本当らしくて、これは絶対物語になると思いました。

 ただ、当時のことをつぶさに調べると、純粋な偶然や、物語の登場人物にしたって嘘くさいような馬鹿げた見栄の張り合いで泥沼に陥ったりしていて、フィクションとして物語を作るのにはどうしても不向きなところが多々ありました。また、舞台を現実に近いものにすると、どうしても現実との整合性や、関わる企業や機関が多すぎて収拾がつかなくなると思いました。なので、月というある種隔離された狭い空間で、かつ、地球に程近い舞台設定にしました。

【2】本作の執筆は支倉先生にとって、どのような体験でしたか? こわだったところや苦労した点、今だから話せる制作秘話などがありましたら教えてください。

 本作は元々ヴィジュアルノベルとして製作されたもので、普段の小説とは違って、事実上シナリオの長さについての制限はありませんでした。ですからいくらでも好きなことを無限に時間を使って詰め込める……と思ったものの、ゲーム製作というのは個人作業ではありませんから、自ずと制限がかかってきます。

 特に、ヴィジュアルノベルで、しかも舞台が架空の都市なので、背景についての制約がとても大きかったです。話を長くするとどうしても場所の移動も多くなり、そうなると背景が多くなり……となりますが、予算やそもそも背景を描いてくださった加藤たいらさんの都合もあって、移動を制限する必要がありました。すると物語のほうも制約を受けざるを得ず、行動を意識した話づくりになります。特に第三部(小説だと三巻)はそれが顕著で、プロット上では地球に行って大冒険の予定だったのですが、とてもそんな余裕はないということで、現状のようなシナリオになりました。

 そして、多分その制限は吉と出た、と今では思っています。そのおかげで、だらだら長くなりがちだったシナリオがある程度の長さに収まってくれたのだと思います。(それでも長いですが……)

 小説版については、分量の多さに頭を悩ませました。特に小説は足すより引くほうが難しいと個人的に思っていて、削るのは苦手なので苦しみました。それでも一巻分のシナリオに加筆修正する時は、思い切ってどんどん削っていったのですが、そうするとやはりキャラのやり取りが薄くなって、積み上げていって最後のカタルシスに至る「タメ」みたいなものが弱くなるということがわかって、二か月分くらいの仕事を丸ごと全部ボツにしたりしました。

 大して本も出てないのに当時ものすごく忙しく感じたのは、多分これが原因だったと思います……。で、二巻三巻はもう諦めて、削るどころか増やしてしまいました。重くて厚くてすみませんでした……。

 それと小説版で困ったのは、最初にシナリオを描いてから数年、リーマンショックからは六年とか経っていたので、当時なにが起こっていたのかの研究も進んでいました。その中で、当時取材した人達がきちんと理解しきれていなかったり、拾い切れていなかった情報が明らかになって(というか私が読むような通俗的な読み物のレベルにまで)広がってきて、シナリオを描いていたときとはちょっと認識を変えなければならないことが出てきたりして、困りました。現実に起こったことをモデルにする際には、こういうことがあるんだなあ、と勉強になりました。

【3】続いて、主人公のハルこと川浦ヨシハルについてお聞きします。彼は、月で生まれ、株取引(デイトレーディング)で生計を立てている少年です。第1巻のラストでの挫折が衝撃的でしたが、あの展開は最初から決まっていたのでしょうか。

 シナリオは三部作でそれぞれのシナリオでやることもはじめから決めてあったので、ああなるのは最初から決まっていました。

【4】本作には魅力的なヒロインたちが登場します。キャラクターメイクでこだわったところや性格などを教えてください。(ハガナ、リサ、クリス、エレノアなど)

 ハガナは無口できつい性格の数学の天才、というところだけ決めてありました。ただ、この設定だとどうしても受身になるので、ハガナに魅力が出てくれたのは、ハガナに関わるハルというキャラがよく動いてくれたからかなと思っています。

 リサはシスター、エレノアは貴族、とあらかじめ決めてありましたが、クリスはたまたま途中参戦したというか、ハルとハガナのことを仲介するリサ以外の人が必要で出したら、意外に活用できそうだったので引き続き出した、という感じでした。この三人に関しては、個別にツンデレとかそういう性格を設定するというより、話のメインとなる投資やお金についてどういうスタンスをとるか、ということを軸に書き分けていきました。

 たとえばリサだったら、お金はないと困るけどありすぎても困る、みたいな現実的清貧主義で、エレノアはお金云々よりももっと名誉や正義を重んじる、みたいな感じです。なので、ハガナ以外はツンデレとかいわゆるキャラ的区分けは難しいのではないかなと思います。

【5】本作は月面都市を舞台にした近未来の話ですが、これを読むと現在の株式投資の問題点や特長が理解できる内容になっていると思います。 支倉先生はどこで株取引の勉強をしたのでしょうか? 実際に株取引はなさっていますか?

 第12回電撃小説大賞の賞金で株取引を始めたのが最初なので、作家生活と同じく、2016年で投資暦十年になります! ですが、実際の取引は趣味ともいえないくらいいい加減なもので、本物の投資家の人と話すとしどろもどろです。取引そのものについては、実際に取引を始めてから、わからない単語などを調べていきました。

 そういう中で唯一本当の「勉強」というものをしたとしたら、『狼と香辛料』の印税としていただいたものを家賃分も残さず丸ごと全部株に突っ込んで、その上下に一喜一憂したことだと思います。家一軒分くらいの損の世界を見てきましたよ! 運よく元に戻ってくれましたが、もう二度とあんな冒険は出来ません。とてもいい勉強だったと思います。

【6】主人公のハルが「株は確率の問題ではない。人が自分の思惑によって他人を出し抜こうとする、純粋な知的挑戦の営み」と考えるシーンがあります。これは支倉先生の思考でもあるのでしょうか?

 投資の世界にはいくつかの派閥があるのですが、私はどちらかというとハルのようなスタンスです。継続的に儲ける人というのは実際にいて、やはり皆さん努力しています。もちろん、参加人数がとても多いので、まぐれ当たりで一生使い切れない金を稼ぐ人達が必ず出ますし、いわゆる一流の経済学者であっても必ず投資で勝てるわけではないので、確定的なことは言えません。

 ただ、昨今だと勝率100%の投資を行う投資機関というのが存在し、大手金融機関でも損失を出さないパーフェクトゲームを連続で何十日も更新し続けたりしていて、これはどうも株取引市場そのものの構造の脆弱性をついた戦略らしいのですが、ある種の知恵によっての周りの出し抜きだと思います。

【7】ご自身が考える、第1巻と第2巻のみどころをそれぞれ教えてください。

 第1巻は株取引そのものの怖さや面白さと、なによりハガナがだんだん懐いてくる様子を楽しんでいただければ。第2巻は、三作中で一番アップダウンの激しいプロットになっていると思うので、そのめまぐるしい話の動きと、株取引について、個人の立場とは少し違う視点が見所だと思っています。

【8】この作品を通じて、なにが一番伝わってほしいとお考えですか?

 投資という行為と、お金を儲けるということにはたくさんの考え方やドラマがあるのだ、ということが伝わってくれたら嬉しいです。

【9】「株式市場。そこを支配する重要なルールはたったの二つ。一つ、損をしないこと。二つ、一つ目のルールを絶対に忘れないこと」という記述に驚きました。 これは実際に可能なのでしょうか?

 この台詞は、歴史上もっとも成功している投資家と言われる、ウォーレン・バフェットからの引用です。禅問答みたいなもので、私は最も簡単なことが最も難しいのだと肝に銘じておけ、という意味だと思っています。

【10】ついに、待望の第3巻が発売されました。ファンのみなさんに、ぜひ見どころのアピールをよろしくお願いいたします。

 3巻は、1巻、2巻と続いてきたことの総決算になっています。特に、投資という枠組みの中では最大規模の大騒ぎを扱っていますので、普段なにげなく見たり聞いたりしている「にっけいへいきん」とか「にゅーよーくだう」とかの先にどういう世界が広がっているのか、楽しんでいただけたらと思います。

【11】最後になりましたが、もし支倉先生の友達がハルのようにデイトレーディングを始めたら、どうしますか? 止めますか、それとも……!?

 借金だけはするなと忠告します。大損をしてゼロになっても、また働いて種銭を貯めれば取引に復帰できるからです。あと、大儲けしているようだったら、自分の貯金を運用してもらいます!

データ

▼『WORLD END ECONOMiCA(ワールド エンド エコノミカ) III』
■著者:支倉凍砂
■イラスト:上月一式
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:KADOKAWA
■発売日:2015年7月10日
■価格:910円+税
 
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▼『WORLD END ECONOMiCA(ワールド エンド エコノミカ) II』
■著者:支倉凍砂
■イラスト:上月一式
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:KADOKAWA
■発売日:2015年3月10日
■価格:850円+税
 
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▼『WORLD END ECONOMiCA(ワールド エンド エコノミカ) I』
■著者:支倉凍砂
■イラスト:上月一式
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:KADOKAWA
■発売日:2014年12月10日
■価格:890円+税
 
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