2015年10月19日(月)
アナログゲームの制作者と、その人が作ったゲームを一緒に遊んで戦略やテクニックを勉強させていただく企画“アナログゲームでガチバトル”。
今回取り上げるのは『フラムルルイエ』。これは、ループ系惨劇体感ボードゲーム『惨劇RoopeR』が海外でも好評のBakaFireさんによるリメイクプロジェクト“BakaFire Party ExDevelopment”の第1弾タイトルです。
本記事では、本作についてのインタビューをお届けします。なお、こちらの記事ではルールをはじめとする『フラムルルイエ』の紹介や制作者たちとのプレイの模様を掲載していますので、あわせてお楽しみください!
【インタビュー参加者(以下、敬称略)】
れらしう:個人サークル“ゾック神社”名義でアナログゲームや同人誌を制作。代表作は『見滝原は狭すぎて』、『見滝原を覆う影』、『ダイスター・ウォーズ』など。『フラムルルイエ』ではゲームデザインを担当。
BakaFire(以下、BF):アナログゲーム制作団体“BakaFire Party”の代表。代表作の『惨劇RoopeR』は“Dice Tower Award 2014”にて“Most Innovative Game(もっとも革新的なゲーム賞)”を受賞。『フラムルルイエ』ではデベロップを担当。
ポーン:2000年ごろより自身のサイト“ステッパーズ・ストップ”でフリーゲームや小説などを多数公開。近年では1人用アナログゲームも発表しており、代表作は『シェフィ-Shephy-』『ゴリティア』など。
恋パラ支部長(以下、支部長):すべてのファミコンソフトを所有しているゲームライター兼、アナログゲームデザイナー。代表作は『パニハイ!』『ライデマイスター』など。最新作は『俺のケツをなめろ!』のリニューアル版。
梅津爆発(以下、爆発):アナログゲームをこよなく愛するフリーランスの編集者。最近よく遊ぶのは『Eight Epics』、『The Game』など。このリプレイは梅津爆発の視点で書かれています。
爆発:ではここからは、皆さんのお話を伺おうと思います。そもそも『フラムルルイエ』を作ろうと持ちかけたのはどちらだったのでしょうか?
れらしう:私は以前からゲームマーケットでアナログゲームを頒布していたのですが、諸事情で新作を作る時間がしばらく取れなさそうだったんです。
また、『フラムルルイエ』のもとになった『見滝原は狭すぎて』の出来が非常によかったので、二次創作部分を取り外してリメイクをしたいとも前からずっと考えていました。
そんな時にBFさんからちょうどいいタイミングでお声掛けいただいて、「BFさんと一緒に作るなら時間的にも問題ないし、リメイクもしたかったしで渡りに船だ!」となりました。
BF:もともとれらしうさんから『見滝原は狭すぎて』をリメイクしたいというお話は伺っていました。
爆発:『フラムルルイエ』の前からお知り合いだったんですね。
れらしう:はい。アナログゲームを作るうえで大変なことの1つが“テストプレイ”なんです。それなりにゲームに習熟した人を複数人集めるだけでなく、未完成でおもしろくない可能性のあるゲームを遊んでくださる方でないとダメなので……。
「市販のゲームで遊ぶのはいいけど、テストプレイに付き合わされるのはちょっと……」という人も少なくないので、ゲームデザイナーはつねにテストプレイヤーの確保に頭を悩ませているんです。
BF:テストプレイは本当に大変ですよね。
れらしう:そこでゲームデザイナー同士が集まって、互いのゲームのテストプレイを行う互助関係が生まれます。BFさんとはそういう間柄でした。
BF:最初にガッツリ話したのは『見滝原は狭すぎて』のテストプレイの時でしたね。私のゲームでは『アリストメイズ』や『ルイナス』でテストプレイに参加していただきました。
爆発:そうして完成した『フラムルルイエ』は“BakaFire Party ExDevelopment”の第1弾タイトルとなったワケですが、BFさんはなぜデベロップを始めようと思われたのですか?
BF:いくつか複合的な要因があるのですが、まずは自分の作るモノの幅を広げたいと思い、他者がゲームデザインした作品を完成まで持っていく“デベロッパー”としての役割をやってみたい気持ちがありました。また、自分のゲームをデザインからデベロップまですべて行うと、とても時間がかかります。
現在は春と秋のゲームマーケットに合わせてゲームを作っているのですが、毎回新作を作ろうとするとテストプレイにさける時間が少なくなって、クオリティの部分で満足できないことが多くなってしまうんです。
そこで自分のゲームと、他の方の作品のデベロップという2つのプロジェクトを同時に走らせ、ゲームマーケットではどちらかを出すようにすれば、比較的ムリなく作業を行えてテストプレイの時間も確保できるのではと考えました。
そして実際に『フラムルルイエ』をデベロップしてみて、予想通り自分の作品との両立がスムーズにできたので、今後も“BakaFire Party ExDevelopment”は続けていきたいと考えています。
爆発:最初のデベロップ担当作品として『見滝原は狭すぎて』を希望されたのはなぜですか?
BF:まず、テストプレイの段階から十分にかかわっていて、自分がよく知っているゲームでした。そして非常におもしろいことも知っていました。
さらにれらしうさん自身が、二次創作部分をはずしてリメイクしたいと思っていたことも知っていたので、連絡してみたら「お互いに渡りに船ですね」となったワケです。
爆発:それはいつくらいのお話ですか?
BF:今年の1月ですね。
爆発:『フラムルルイエ』を最初に頒布されたのが5月5日開催の“ゲームマーケット2015春”でしたから、スタートから完成までが非常に早いように感じます。
BF:もともと、かなり完成度の高いゲームでしたから、時間はそれほどかからなかったですね。
爆発:具体的には、どのような役割分担だったのでしょうか?
れらしう:最初に2人でリメイクの方針を相談したり、BFさんのアイデアのチェックを行ったりはしましたが、作業的にはほとんどBFさんがやってくれました。
そもそも、私がリメイクをしたいと思いつつも、なかなか手をつけられなかったのは、邪神復活ルールをうまく落とし込める題材が見つからなかったからなんです。
沈没船をサルベージする人たちや、古代ローマの元老院の人たちなどを題材に考えたこともあったのですが、「全員がマイナス点なら、最もマイナス点が大きい人の勝利」というルールがどうもなじまなくて。
BF:普通に考えたらマイナス点イコール悪い状態ですからね。「一番悪い状態の人が勝利ってどういう意味?」となりますから。
れらしう:そこにBFさんがクトゥルフというピッタリの題材を持ってきてくださったので、これなら安心してデベロップをお任せできるなと思ったんです。
BF:これが世界観をクトゥルフにした理由です。具体的な作業ですが、ゲームのルールについては原作を最大限に尊重した上で、追加・変更のアイデアをたくさん用意しました。
それをれらしうさんにチェックしてもらい、2人で相談しながら『フラムルルイエ』としての新ルールを作っていきました。グラフィックデザインやイラストの発注など、ルールに関係ない部分のほとんどは私が担当しています。
爆発:原作のルールから大きく変更になったのはどのあたりなのでしょうか?
れらしう:1つは同値のパワーカードが出た時の処理ですね。原作では他の人と同じ数値を出した場合、親対子なら親の勝利で、子対子なら両者負けというルールでした。
なぜなら親から近い人はたまたま親から近いだけで、親から近くなるために特にコストを払ってはいません。ですので勝ちになる権利はないと思ったからです。“棚からぼた餅”を防ごうと思ったのですね。
しかしこれは、ゲームのルールとしては間違いでした。例えば15点に対して14を出した人が複数いて負けになり、その次に大きな数値が6辺りだったら、勝者を決めてしまうほどの点数が入ってしまうんです。
“棚からぼた餅”を防ごうとして、もっと大きな“棚からぼた餅”を作ってしまっていました。
BF:それと、親が強すぎるという理由もありました。15点に対して親が12を出したなら、宝物が欲しい人は13~15で勝負しなければならず、子同士で同値になることが非常に多かったんです。
そうなると、同値を出されても負けにならない親がタナボタで勝利しやすいので、親がますます有利になってしまうんです。
れらしう:それで『フラムルルイエ』では、同値の場合は親から近い人の勝ちというルールになりました。
爆発:切札カードの効果も異なりますね。
れらしう:原作ではキャラの元ネタがあったので、元ネタに合わせることを優先して効果を考えていました。そのため使うタイミングが同じ切札カードが複数あって、同時に出た場合は早い者勝ちという、あまり美しくないルールだったんです。
リメイクしたいと思った時から早い者勝ちルールはなくしたいと思っていたので、『フラムルルイエ』を作る際に切札カードの効果を整理したんです。切札カードの使用タイミングを全部バラけるようにして、早い者勝ちをなくすようにしました。
BF:切札カードを整理して“ルルイエ異本”を作ったことで、最初の親番もスムーズに決まるようになりましたね。
れらしう:原作では最初の浅層の宝物カードは、親がいない状態で全員が情報なしでパワーカードを出していたんですよ。
BF:でもそれだと、運に左右される部分が大きかったり、情報なしでカードを出すから毎回同じような流れになったりと微妙だったんですね。
また『フラムルルイエ』では、先ほどお話したように同値の場合は親から近い人が勝つルールなので、親がいない状態というのをなくさなければいけなかったんです。それらすべてが、最初の親番を決める“ルルイエ異本”を作ることで解決されました。
れらしう:ですので『フラムルルイエ』になるにあたってもっともエポックメイキングだったのは“ルルイエ異本”でした。
BF:プレイテスターの「最初の親はどうするの?」というツッコミから生まれたカードでしたね。
爆発:では、れらしうさんがもともと改善したいと思っていた点は、すべて改善されたということですね。
れらしう:そうですね。見事に改善されたので、BFさんはデベロッパーとしてもすばらしかったです。こちらが満足のいく案をいくつも出してくれました。
BF:ありがとうございます(笑)。
爆発:そもそもれらしうさんは、『見滝原は狭すぎて』をどうして作ろうと思ったのですか?
れらしう:私がアナログゲームを遊んでいて非常におもしろいと感じるのは、情報に対してコストを払わされるときなんです。しかもそのコストが勝敗に直結する勝利点だと、なおいいですね。興奮を覚えます(笑)。
ポーン:いいですよね(笑)。
支部長:これはかなりいい話ですね(笑)。
爆発:情報フェチですね(笑)。
れらしう:勝つためには情報が必要なのに、情報を得るのに勝利点を払い過ぎても勝てないというジレンマが大好きなんですよ。だからそういうゲームを作りたいと思って完成したのが『見滝原は狭すぎて』であり、『フラムルルイエ』です。
「情報にどれだけコストを払うのが適切か?」に悩みながら、自分の決断が正しかったかどうかをドキドキしながら確認する楽しさを感じてもらいたいですね。
BF:私自身も情報がテーマのゲームは非常に大好きで、『OWACON』などいろいろ作らせていただきました。だからこそ『見滝原は狭すぎて』にホレ込んで、リメイクしたいと思ったんでしょうね。
爆発:場の宝物カードの勝利点を予想して、さらに次のカード情報のコストを上乗せして、提出するパワーカードを考えるのが楽しいですよね。
れらしう:まさにそのとおりですね。例えば浅層は最大でも14点なので、14を出したらよくても0点で悪いとマイナス点になります。しかしそのマイナスを負っても、次のカードの情報を得ることが最終的には勝ちにつながる局面もありますから。
さらに、同じことを他の人も考えているかもしれないというおもしろさもあります。
ポーン:次のカードが浅層か深層かで情報価値も変わりますし、すでに知っている情報によっても次のカードの情報価値が変わりますよね。おもしろいです。
爆発:ゲーム内容はシンプルですが、局面が毎回大きく変わるので、何度でも遊べるゲームだと思いました。それと、2、3点という少ない点数差で勝負が決まるバランスも絶妙ですよね。
れらしう:ありがとうございます。テストプレイでも0点で勝利する状況が結構ありました。
爆発:やはり、そのようないい試合になりやすいよう、宝物カードの点数を調整されたんですか?
れらしう:はい。それぞれの深さの数字の構成は、検討に検討を重ねて「これしかない!」というところまで調整しました。『フラムルルイエ』にリメイクする時も、一応検討の対象にはなったのですが、最終的には変更しませんでしたね。
爆発:そしてゲームマーケットで頒布された訳ですが、反響や手応えはいかがですか?
BF:自分の感覚としては、なかなかいいと思います。会場の試遊スペースも盛り上がっていましたし、各所でプレイレポートもアップされていますから。
れらしう:Twitterでも「おもしろい」と書いてくださる方がいますね。あと、私はゲームデザイナーの中でもっとも好きなのがライナー・クニツィア先生で、来日された際に握手していただいたほどのファンなんです。
それで『フラムルルイエ』を遊んだ人から「クニツィア先生のゲームっぽい」と言われたことがあって、それはとても嬉しかったですね。
BF:クニツィア先生のゲームのように、ムダが削ぎ落とされている感じはありますね。逆に私がデザインするゲームは、敢えて余分なところを残すことで、ゲームの世界に没入できるようにしているものが多いです。
ですのでデベロップで関わらなければ、『フラムルルイエ』のような洗練されたゲームに携わることはなかったかもしれません。いい経験になりました。
爆発:ここからは、『フラムルルイエ』以前にBFさんが他の方と共同で作られたゲームについて伺おうと思います。
まずはポーンさん、そしてI was gameの大爆笑カレーさんと一緒に作られた『ゴリティア』から。
▲『ゴリティア』はゴリラとバナナ、2種類のカードだけを使って遊ぶ、非常に独創的な1人用カードゲーム。 |
爆発:最初に、3人でゲームを作りましょうと声をかけたのはどなただったのですか?
ポーン:僕ですね。そもそも、2人が同時期に「ポーンさんのフリーゲームおもしろかったです」みたいな感じで声をかけてくれたんです。
BF:私が最初にお話ししたのは“JAPAN GAME CONVENTION”の会場でしたね。
ポーン:カレーさんはゲームマーケットの会場で話しかけてくれました。それで、このつながりがおもしろいなと思って、3人でお酒を飲む機会を設けたら意気投合して。「せっかくだから3人で何か作りませんか?」と提案しました。
BF:そこから、ゲームを作るために定期的に3人で合宿を行っています。
ポーン:それで、ネット上にゴリラTRPGというものが無料公開されていまして。
一同:(笑)。
ポーン:いろいろとおもしろいんですよ。パラメータが“筋力”、“パワー”、“力”、“野生”の4種類だったり。
爆発:大体同じ意味じゃないですか!(笑)
ポーン:“筋力”が筋肉を使う行動に関係して、“パワー”が生命力や精神力で、“力”が筋力以外の知力や魅力を表して、“野生”は交渉に使います。このゴリラTRPGのことをBFさんと話しながら、新幹線で合宿先の名古屋に向かったんですよ。
合宿では最初、美少女をテーマにしたゲームを作るつもりだったんです。美少女の繊細な心を探っていくみたいな。でも1日話したんですが、なかなか形にならなくて。
それで2日目の朝に喫茶店へ行った時、ふと「ゴリラとバナナの2種類だけでデッキ構築するゲームを作ったらおもしろいんじゃないか?」と思ったんです。
最初は冗談みたいに3人で話していたんですが、話していくうちにちゃんとしたゲームにできるんじゃないかと思えてきて。そこから3人でいろいろ考えて作り上げたのが『ゴリティア』ですね。
新幹線でゴリラTRPGの話をしなかったら、予定通りに美少女がテーマのゲームが完成していたかもしれません。
BF:ゴリラという言霊の力ですね(笑)。それで、2種類しかカードを使わないので、どうすれば多様な展開になるかを3人でいろいろ考えました。
ポーン:縦に並べて“タワー”、重ねて“スタック”、裏返して“バインド”など、実際には採用しなかったアイデアもたくさんあります。
爆発:完成までの道のりはスムーズでしたか?
ポーン:喉元過ぎればかもしれませんが、順調と言えば順調だったと思います。
BF:アクションの効果は3人でたくさん考えましたね。正式採用した効果の10倍以上は考えたと思います。その中から厳選しました。
ポーン:3人が10分間で効果を20種類ずつ考えるみたいに、ゲーム感覚でアイデアを出し合いました。オススメの方法ですね。1人で考えすぎると、辛くなったりしますから。
BF:だからこそ『ゴリティア』は複数人で制作する強みが出て、作業がスムーズに進んだんじゃないかと思います。
爆発:制作期間はどれくらいだったのでしょうか?
ポーン:喫茶店で話してから、大体4カ月くらいで完成して、“ゲームマーケット2014秋”で最初に頒布しました。
BF:3人で作ることによって生まれた推進力が、短期間での完成につながったのだと思います。
爆発:遊ばせていただきましたが、2種類のカードしか使わないのに考えることがたくさんあって、何度も遊びたくなるのがすばらしかったです。ゲームマーケット大賞の一次審査も通過されましたよね。
ポーン:ありがとうございます。真面目にバカをやったことが、多くの人に伝わったのは嬉しかったですね。
爆発:続いて、支部長さんと作られた『ライデマイスター』について聞かせてください。
▲『ライデマイスター』は3種類のヒモを使って、カードに描かれた形を素早く作るパズル系アクションゲーム。 |
支部長:ずっと前からヒモを使ったゲームを作りたかったんですよ。昔、ナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)が作った『リブルラブル』というアーケードゲームがありまして、これはヒモを使って囲むゲームで、これも好きでした。
ヒモを使ったアナログゲームと言えば、OKAZU brandさんの『ひも電』や『ひもサバンナ』などがありますが、全体を見るとまだまだ数は少ないですから。
それでボードゲームで遊ぶ会の打ち上げで、初対面のBFさんとたまたま同席しまして。「ヒモを使ったゲームを作りたいんですよ」と話したら、「こんなのはどうですか?」と5分くらいアイデアを話してくれたんです。それで「じゃあ作りましょうか」となりました(笑)。
爆発:決断が早いですね!
BF:支部長さんの尋常ならざるフットワークの軽さでしたね。私がヒモを使ったゲームのアイデアをスッと出せたのは、大学でヒモを使った数学を勉強していたからなんです。
微分位相幾何学の一分野にあたる結び目理論を学んでいたのですが、結び目理論の“AのヒモとBのヒモが、同じか違うか識別する”という部分をゲームに落とし込んだらどうでしょうと、支部長さんにお話ししました。
支部長:「識別するだけじゃなくて、自分で急いで形を作るようにすれば、スピード感があっておもしろいのでは?」みたいな話をしてくれました。
BF:最終的に、最初にカードに書かれた形を見て、“1つのヒモ”、“2つのヒモ”、“最初から交差したヒモ”のどれを使えばいいのかを識別し、実際に自分で形を作るようにしました。
▲メビウスの輪のように、最初から交差していて外せない特別製のヒモも同梱されています。 |
BF:ちなみにタイトルの『ライデマイスター』も、結び目理論関係の有名な数学者の名前からつけています。“ライデマイスター移動”という専門用語もあって、これは結び目理論を学ぶ上で、初期に覚えた方がいい言葉なんですよ。
簡単に説明すると、ヒモの形状を識別する際、“この動きをしても、ヒモの分類は変化しない”というのが“ライデマイスター移動”です。
例えば1本のヒモを捻って輪を作っても、“1本のヒモ”ということは変わらないワケです。つまり捻るという動きはヒモの分類に影響しないということで、これが“ライデマイスター移動”の1つ目です。
全部で3つあるのですが、そういう動きを繰り返して、もっともシンプルな形にすると、ヒモが1本なのか2本なのか、はたまた最初から交差していて外せないのかがひと目でわかるというわけです。
支部長:そういう話を聞いて「おもしろそうだからさっそく作りましょう」とその場で伝えました。ひと月くらいでサンプルを作って実際にみんなで遊んでみたら、やっぱりおもしろくて。そこから細かく調整をして完成させました。
BF:最初から十分におもしろかったので、細かい調整はしましたが完成まではかなり早かったですね。
支部長:だからルールやバランス調整などには苦労しなかったのですが、同梱するヒモと砂時計を用意するのに苦労しましたね。交差しているヒモと10秒砂時計は、どちらも特殊すぎて、個人で注文するのがとても難しかったんですよ(笑)。
BF:この辺はすべて支部長さんにお任せしていた部分ですね。
▲同梱されている10秒砂時計。 |
支部長:砂時計は最初、プラスチックで作ろうと思ったのですが、その場合は金型から作る必要があったので金型代だけで100万円近くかかるんですよ。これはムリだなと。
それで砂時計の専門店兼喫茶店という珍しいお店に行って、いい方法がないかを訊ねてみたんです。そこで砂時計の製造メーカーを紹介してもらい、作ってもらうことになりました。
BF:でも、10秒砂時計はなかったんですよね。
支部長:そうなんです。ですので「どうやって作ればいいでしょうか?」というところから相談に乗ってもらいました。中に入れる砂の種類は落ちるのが早いマイクロビーズがいいとか、量はどれくらいがいいとかいろいろ教えてもらったので、砂時計には詳しくなりましたね。
ちなみに砂時計の製造メーカーって、東京に2社しかないらしいです。しかもその2社は兄弟が経営しているんですよ。砂時計業界豆知識でした(笑)。
BF:ヒモを用意するのも簡単ではなかったですよね。
支部長:2つの輪が最初から交差しているヒモなんて、普通は使い道がありませんから、個人ではなかなか作れなかったんですよ。頑張って探したら、岡山にある会社で作ってもらえることがわかって。
ヒモの種類にもこだわりました。何度もひねったりねじったりするので、その時にヒモが浮いてしまったらいけないし、繰り返し遊んでももとの形に戻らないとダメですから。
BF:そういったコンポーネントの用意が非常に難しいゲームだったので、支部長さんが探してくださったのはありがたかったですね。私だけではとても見つけられなかったと思います。すごい行動力でした。
支部長:コンビでしっかりと役割分担ができましたね。
爆発:コンポーネント関係を除くと、制作期間はどれくらいだったのでしょうか?
支部長:かなり短かったですね。2カ月くらいかな。
BF:電光石火でしたね。最初に立てたコンセプトがバッチリだったので、そのコンセプトどおりにスムーズに進めることができました。
爆発:そして今年の3月1日に開催された“ゲームマーケット2015大阪”や“2015春”で頒布されましたが、評判や手応えはいかがですか? こちらもゲームマーケット大賞の一次審査を通過されてましたね。
支部長:こういうパズル系のボードゲームは『ウボンゴ』などいろいろとあるのですが、この手のゲームが好きな人には非常に好評ですね。神ゲーとおっしゃってくれる方も結構いました。
BF:あと凄いと思ったのは、支部長さんのご家族や、私の母親など、普段はボードゲームで遊ばない人にも好評だったことですね。ボードゲームファンだけではなく、より幅広い層にオススメできるゲームになったと思います。
支部長:私としても、誰も作ったことのないヒモゲーを作れて満足しています。一部のアナログゲームショップで委託頒布していただいてますのでよろしくお願いします。
爆発:ここまでお話を伺って、BFさんは個人でゲームを作りながら、ほかのデザイナーさんとのゲーム制作も積極的に行われているように思いました。それには何か理由があるのでしょうか?
BF:最初は1人でゲームを制作していたのですが、私もまだまだなのでもっと精進しなければいけないなと思いまして。それでたくさんの方と一緒にゲームを作ることで、自分の視野を広げていきたいなと。
いろいろなことが自分の経験になると思いますから、ゲームの共同開発に限らず積極的にさまざまなことに挑戦したいですね。
爆発:今年は初のデベロップ作品を世に出したり、謎解きイベントを行ったりと、これまで以上にさまざまな挑戦をされていますね。
BF:今年は20代最後の1年なので、挑戦の1年にしたいと思っているんです。
爆発:そうして挑戦を続けているのは、何か目標や目指すところがあるからなんでしょうか?
BF:1つ1つの挑戦が、自身の成長の機会ですから、積極的に携わろうと思っています。そうして経験を積んで成長することで、次に作る作品をよりすばらしいものとし、また自分のできることや、考えられることをもっと増やしていきたいです。
そして今後も末永くゲームや何かを作ることにかかわり続けて生きていきたいなと。そのためにはゲームデザイン以外のこともできたほうがいいと思い、『フラムルルイエ』でデベロップに挑戦してみたワケです。
以前『惨劇RoopeR X』を取材していただいた時は、まだ同人サークルという心持ちでした。しかし最近は、末永くゲームに関わっていくために個人的に最適な形態だと考えている、スモールパブリッシャーを目指しているところです。
爆発:趣味として、自分の好きなように自由に作れる同人サークルでは、長く続けるのは難しいと思ったわけですか?
BF:同人サークルとして活動したほうが長続きする方もいると思いますが、私個人としては趣味よりもさらに踏み込んだ形で、ゲームと向き合いたいと思いました。
もちろん「趣味で作っていた時の方が自由でよかった」と思う日が来るかもしれません。しかし今は、多少不自由でもとにかくゲームにかかわり続けたいという気持ちが強いですね。
そうしてつねに何かを作りながら、歩みを止めずに走り続けられたら、こんなにすばらしいことはないなと。そんな人生を実現するために、これからも自分にできることをやっていきたいです。
爆発:なかなか大変だとは思いますが、いちファンとして応援してます!
ポーン:いい話が聞けましたね。
爆発:お話は尽きないのですが、時間も迫って来ましたので、皆さんの次回作について聞かせてください。
れらしう:空母“飛龍”の飛行長になって、無限に押し寄せて来る敵の艦載機からどれだけ生き延びられるかに挑戦するソリティアを現在制作中です。
空母のウォーゲームでは、艦載機を甲板に上げて、空に飛ばして、回収してと、ローテーションをキチンと考えないと、敵の艦載機に簡単にやられてしまうんです。そのローテーションを考えるゲームですね。
飛行甲板が少しずつ破壊されて、段々と艦載機が出しにくくなる……といった内容になると思います。
ポーン:“ゲームマーケット2015春”の冒険企画局さんのブースで、『カレン漂流記』という新作ソリティアのベータ版を出しました。無人島に流れ着いた女の子がサバイバルするゲームです。
これの正式版がいずれ出ると思います。それと『シェフィ・ポストラヴズ』という、『シェフィ』のサブストーリーに追加ルールを加えたものをWebで連載中です。
支部長:1990年前半に発売された名作カードゲーム『俺のケツをなめろ!』のリニューアル版の制作に携わりました。8月のコミケで最初に頒布したのですが、11月22日開催の“ゲームマーケット2015秋”にも持ち込みますので、興味のある方はぜひ。
それと、実はまたBFさんと一緒にゲームを作っています。『四つ国戦記(仮)』というタイトルで、4つの国が国取りをするのですが、従来にはなかった方法で国取りを行うゲームです。
BF:いま大きく進めているのは2点あり、まず『惨劇RoopeR』シリーズで新たな展開を考えています。その第一歩として8月に拡張セット0『Midnight Zone』と拡張セット1『Mystery Circle』を再版しました。
そして“ゲームマーケット2015秋”では新たな拡張セットを頒布します。ありがたいことに海外でも高い評価をいただけておりますので、それを受けて国内、海外両方でより盛り上げていけるよう頑張ります。
そして新作も作成中です。今日は共同で作ったゲームの話が中心でしたが、新作はゲームデザイン含めてすべて私1人で行っています。仮タイトルは『桜降る代に決闘を(さくらふるよにけっとうを)』。文字通り桜の樹の下で決闘する2人用対戦ゲームで、ボード上で桜の花びらを模したマーカーを動かすことで状況が表現されます。
TCGのデッキ構築のような、TRPGのキャラメイクのような“眼前構築”というシステムを用いており、TCG、TRPGプレイヤーとしての20代の集大成として作成しています。こちらは来年開催の“ゲームマーケット2016春”の頒布を予定していますが、“ゲームマーケット2015秋”にもβ版の限定頒布や試遊卓を予定しております。
▲インタビュー後、BFさんから『桜降る代に決闘を』のメッセージカードをいただきました! |
爆発:では最後に、れらしうさんとBFさんから、『フラムルルイエ』について読者へメッセージをお願いします。
れらしう:『フラムルルイエ』は、ムリに勝利点を得ようとすると、逆にマイナス点が増えていくゲームです。思いどおりにいかない部分を存分に楽しんでいただければと思います。
邪神復活勝利を狙う際は、自分が高得点を取っているフリをして周りを焦らせることが重要ですので、何度も遊んで試してみてください。
BF:局面が変わるたびに情報や手札の価値も常に移り変わっていく、そんな不安定な狂気の海の中で溺れるかのように足掻くところが、このゲームの魅力だと思います。
どんどんマイナス点が増えていきますが、それを毛嫌いすることなく、足掻くことを楽しんでいただければ幸いです。その辺りのロールプレイも含めて、クトゥルフらしいゲームに仕上がっていますので。
なお、好評につき増刷も決定しました。“ゲームマーケット2015秋”でも頒布しますので、興味を持たれた方はよろしくお願い致します!
“BakaFire Party”さんの『フラムルルイエ』のインタビュー、いかがだったでしょうか。具体的なルールや制作者たちとのプレイの模様は、こちらの記事で掲載していますので、まだ未読の方はぜひこちらもお楽しみください!
本作に興味を持たれた方は『フラムルルイエ』の公式サイトより委託頒布情報を確認してみてください。また、11月22日開催の“ゲームマーケット2015秋”でも再版分が頒布されるようなので、会場で入手するのもアリです!
BakaFire Party copyright 2015- Design: れらしう
(C) Pawn