2016年4月14日(木)
2016年4月9日に池袋の東京芸術劇場で開催された“Game Symphony Japan 16th Concert”。一流の演奏とコーラスでゲームの感動を紡ぎ出してきた本イベントシリーズは“ゲームのワンシーン”の再現・再構築に注力しており、あの感動の名場面で流れたBGMをオーケストラで楽しめる、とゲームファンから好評価を得ています。
第16回公演では、ゲーム好きなら知らない人はいないであろう2大ゲスト、植松伸夫氏となるけみちこさんを招待し、『ワイルドアームズ』や『ファイナルファンタジーVII』を中心とする名曲を奏でました。
今回の演目は以下のとおり。
『夢幻戦士ヴァリス』より(30周年)
作曲:小川史生 編曲:なるけみちこ
THE FANTASM SOLDIER VALIS
『天使の詩』より(25周年)
作曲:なるけみちこ/小川史生 編曲:岩垂徳行
RIOT LOGO ~OPENING
MARRIGE FIELD
VILLEGE OF CELTS
STAFF ROLL
『ワイルドアームズ』より(20周年)
作曲:なるけみちこ 編曲:木村 裕 ※オリジナルスコアアレンジ:外山和彦
灰燼に帰す
アースガルズはがんばったもんね
Lullaby
旅立ちの朝
姫巫女の想い
荒野の果てへ~新たなる旅路へ
『ファイナルファンタジーVII』より
作曲・編曲監修:植松伸夫
・Act1(編曲:竹岡智行)
オープニング~爆破ミッション
魔晄炉
教会に咲く花
急げ!
闘う者達
ファンファーレ
神羅カンパニー
血の跡
更に闘う者達
クレイジーモーターサークル
F.F.VII メインテーマ
・Act2(編曲:鹿野草平)
ゴールドソーサー
花火に消された言葉
エアリスのテーマ
星降る峡谷
悪夢の始まり
J-E-N-O-V-A
・Act3(編曲:木村 裕)
星に選ばれし者
神の誕生
片翼の天使
星の危機
スタッフロール
プレリュード
『MOTHER2』より
SMILES and TEARS(公式MCの声優・ジェーニャさんによるコーラスつき)
『ファイナルファンタジーVII』より
ルーファウス歓迎式典
曲名、そして曲の並びを見ればわかる人にはわかるかもしれませんが、今回のコンサートで演奏された曲目は、いずれも該当作品の名シーンを再現して構成されています。例えば『ワイルドアームズ』はラスボス戦の“灰燼に帰す”から壊れたアースガルズが砂の海に横たわるシーンで流れる“アースガルズはがんばったもんね”へと続き、エンディングへ……という流れでまとまっています。
『ファイナルファンタジーVII』も、Act1はオープニングと神羅カンパニー本社襲撃からの脱出劇、そしてミッドガルを出て広い世界へ、という流れが思い起こされる作り。さらに、Act2はゴールドソーサーの夜デートから忘らるる都での事件、Act3はラストバトルやエンディングへつながる構成……と、いずれも作中で主人公たちが歩んだ道のりが偲ばれる内容でした。
各作品をプレイしている人なら、演目が進むごとに名場面がフラッシュバックされること請け合い。こういった“魅せ方”はこのGame Symphony Japanならでは。ゲームを好きであるほど楽しめるのは間違いないので、興味がわいた方は次回以降の公演もぜひ見に行ってみてほしいと思います。
今回の公演では、“ワイルドアームズ”メドレーで作曲家のなるけみちこさん自らが演奏に参加。風の音を奏でるための楽器、弾むような音が特徴のスプリングドラムなど手作りの楽器も登場しました。さらには作曲家の岩垂徳行氏も打楽器を演奏。非常に珍しい「ハンマー」(指揮者・志村氏の蔵から出てきた明治時代の代物だとか)の演奏を披露し、コンサートに独自の色を添えました。
また、開演前&休憩時間中にはなるけみちこさんや植松伸夫氏がステージに登壇し、曲にまつわる興味深いお話を聞くことができたほか、アンコールでは今回の公演から“GSJ”公式MCとなったロシア人声優のジェーニャさんが『MOTHER2』の名曲“SMILES and TEARS”を披露。会場を盛り上げていました。
以下では、全プログラムを客席で聴き終えた(あるいは演奏し終えた)植松伸夫氏、なるけみちこさん、本イベントシリーズでプロデューサー&指揮者を務める志村健一氏、ロシア人声優のジェーニャさんへの終演後のインタビューを掲載。公演の感想や今後の展開も含む興味深いお話を聞くことができました。
――16回目の公演を振り返って、いかがでしたか?
志村健一氏:『ファイナルファンタジーVII』の楽曲はこれまでも何度かやってきましたが、今回はオーケストラもだいぶ慣れてきていたので、演奏の集大成としてのデキはよかったのではないかなと思います。
――今回なるけさんも一緒に演奏に参加していらっしゃいました。こういったコンサートで作曲家の方との共演というのも珍しいのではないかと思うのですが、やってみていかがでしたか?
志村:なるけ先生も本当にお人がいいので、やると決まってから今日まで本当に一生懸命やっていただきました。ちなみに、ヒットメドレーというか”名曲選”みたいにしてしまうとなかなか過去の作品の曲は選ばれにくいので、今回は”なるけみちこ”という1人の作曲家にフォーカスを絞って曲目を選びました。そうすると、『ワイルドアームズ』はもちろんのこと、『夢幻戦士ヴァリス』や『天使の詩』も金字塔である……ということで、今回のコンサートにピックアップしたしだいです。
ゲームプレイヤーとして『ワイルドアームズ』シリーズしか知らなくても、この機会にほかのタイトルの素晴らしい楽曲に触れていただき、あらためてなるけみちこという優れた作曲家の魅力を感じていただければと思います。オーケストラで作曲家さんの魅力を再発見し、あらためて作曲家さんの世界へ戻っていただく……といった効果みたいなものは、今後狙っていこうかなと思っています。
――ということは今後いろいろな作曲家さんに焦点を当てて……となる可能性も?
志村:ええ。それぞれの方の代表作ももちろんあるし、隠れた名作みたいなものもあると思うので、そういったところを、1作品ばかりに偏る形にはしないで、作家さんの側面……これまでの仕事をしっかり紹介していきたい、と。作家さんにもメリットがあるし、私たちにもそれでまた新しいものを作っていけるというメリットがある。それで相互関係を築けていけそうな気がします。
――次の公演(7月17日の“SEGA Special 2016”)では『ぷよぷよ』や『スペースチャンネル5』が演奏されるとのことで、こちらも非常に楽しみです
志村:『ソニック』と『NiGHTS(ナイツ) into dreams...』そして『ぷよぷよ』が周年にあたりますからね。そこの特集をして、やってみたいな、と。RPGに関しては『NiGHTS(ナイツ) into dreams...』も前回やったような形で物語を追っていければと思いますので、楽しみにお待ちいただければと!
――『VII』の楽曲はこのGSJでかなりの数演奏されておりますが、振り返ってみていかがですか?
志村:『ファイナルファンタジー』シリーズとしては途中で『VI』もやりましたが、『VII』は海外も含めると10回くらいやってますかね。
植松伸夫氏:そんなになりますか。ありがとうございます。ステージでも(幕間に)話したんですが、『VII』は世界中で人気のあるタイトルなので、自分にとってもちょっと特殊なものなんですよね。『VII』の曲をやると、どの国でも喜ばれる。思い入れのある作品です。
しかも、GSJさんってゲームのストーリーにそって頭から曲を演奏してくれるんですよ。それがなんというか、自分が当時作曲してBGMをゲームに盛り込む中でやりきれなかったこととかがあって照れくさい部分もあるのですが、つたない楽曲をアレンジでさらにふくらませて、ストーリーを思い起こさせる形にしてくれる。聴いていて自分でもワクワクドキドキできて、その点が非常にうれしいです。
――『ワイルドアームズ』や『夢幻戦士ヴァリス』の楽曲がオーケストラで演奏されましたが、今回のように複数作品をまとめて演奏、というのは初めての機会でしょうか?
なるけみちこさん:そうですね。たまたま今年複数の作品で”〇周年”っていうのがまとまって来まして……3つ……本当は4つあったんですけれど(笑)(※2011年発売の『ノーラと刻の工房 霧の森の魔女』も今年で5周年)。なので今回まとめて取り上げていただいた形です。
――あらためてご自身で当時のことなど振り返ってみると、いかがですか?
なるけ:当時……まず、とっても若かったんですけど、23~24歳でRPGを1本やることになって、誰もサポートとかなくて。当時音楽ブースにスタッフが4人いたのですが、みんな忙しくて私しかいなかった形で……よく任せたな、と(笑)。そしてよく作ったな、と(笑)。そんな形で作ったものに、今回はGSJならではのアレンジを加えていただいて本当にうれしかったです。
――こうして、エンディングのクライマックスの流れをまとめて演奏するという機会も、なかなかないのではないかと思うのですが
なるけ:そうですね。初演です。じつはまだ企画段階なんですが、今回のようにストーリーの流れを追って『ワイルドアームズ』の曲を演奏していく企画をいくつか考えていまして。20年前の12月20日が発売日だったので、それに合わせて何かやりたいな……と。今回はその先駆けとなるような形ですね。
――『ワイルドアームズ』は根強いファンがたくさんいますからね。楽しみです。
なるけ:ええ、今回手ごたえを感じました。……新作の(笑)。これぜひ書いてほしいんですけど、新作作りたいです。作りたいんです! 細々とでもいいので、火を消さないようにというか……ほんとに作りたい(笑)。元スタッフとも20周年にかけてちょっと話しているんですけどねー……兆しはあるんだけど流れがなかなかできないから、何かきっかけがほしいところです。わたしなんでもやりますよ!
――そこはぜひ期待したいです! そういえば今回もオーケストラの皆さんに混ざって演奏してらっしゃいましたね。
なるけ:ええ、もう出たがりで(笑)。オーケストラと合唱団が本当にお上手でしたので。そして志村さんが引っ張ってくれて助かりました。ウインドマシーンっていう手作りの楽器を、アースガルズが砂の海に埋もれているシーンの風の音に使ったり……ほかにも志村さんやスタッフさんの協力で新しい楽器を作ったり、明治時代の木槌を音に使ったり……(笑)。
志村さんがかかわるオーケストラはそういう試みがあって、独自の表現にこだわっていて本当にすごいと思います。ものすごい力を込めて新しい音の構築をしてらっしゃって。
――ぜひ続いて、今度は“『ワイルドアームズ』だけで2時間”とか聴いてみたいです。
なるけ:そうですね、やりたいですね。来年の1年間の間に……とか。でも今日の手ごたえしだいっていうところもあるかもしれませんけどね(笑)。『2』も、『3』以降もぜひやりたいですね。とくに『3』は来年15周年なので(笑)。
――今回から公式MCということで、いかがでしたか?
ジェーニャさん:じつは台本とかとくになかったんですけどね(笑)。アドリブでトークする感じで。もともとゲームは大好きで、ロシアでプレイしていた『ファイナルファンタジーVII』の曲を演奏した同じ舞台で歌えるなんて……(※アンコールで演奏された『MOTHER2』の楽曲“SMILES and TEARS”は、これまでGSJでは“大人の合唱版”“子どもの合唱版”を扱ったが、ソロコーラス版は今回ジェーニャさんが歌ったものが初となる)。
今は実感ないけれど、あとで映像見たらきっと「これワタシ!?」ってなりそうです。とても嬉しかった。今後MCとしてがんばりますが、最終的には自分がゲームの楽曲を歌って、それをこの舞台でオーケストラとともに披露するのが“夢”です。
※ワイルドアームズは株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの登録商標です。