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2016年7月5日(火)

TVアニメ『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』原作者×監督×プロデューサー放送直前インタビュー【前編】

文:電撃オンライン

 2016年7月8日より順次放映開始予定のTVアニメ『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』の魅力や見どころを中心に、ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメントプロデューサーの中山信宏氏、監督の市村徹夫氏、そして原作者である宇野朴人氏にお話を伺った。全2回にてお届けする。

 原作は電撃文庫のエンターテイメントノベルで、英雄嫌いの怠け者だが、後に智将と呼ばれるイクタ・ソロークと、その幼馴染であり名家出身のヤトリシノ・イグセムを中心に、渦巻く戦乱の嵐へと立ち向かっていく物語だ。

profile:

宇野朴人 小説家。大学在学中に『神と奴隷の誕生構文』にてデビュー。現在は『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』を執筆中。同作は自身のアニメ化初タイトルとなる。その他の代表作に『スメラギガタリ』がある。

市村徹夫 監督、演出家。GONZOにて様々な作品に携わり、その後フリーに。携わった作品に『神様のいない日曜日』『姉ログ 靄子姉さんの止まらないモノローグ』『NORN9 ノルン+ノネット』など。『天鏡のアルデラミン』はTVシリーズ初監督となる。

中山信宏 プロデューサー。ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント所属。これまでの代表作に『とある魔術の禁書目録』『ロウきゅーぶ!』『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』などがある。

ハーレムアニメ全盛の中、あえて挑戦してみたかった

――まずは中山さんにお聞きしたいのですが、『天鏡のアルデラミン』は骨太な戦記物ですよね。キャラクター物のアニメ化を多く手掛けられてきた中山さんが、どうしてこういった企画を打ち立てられたのでしょうか。

中山P 一言で言えば小説を読んで面白かったからなんですよ。自分が担当させていただく場合、まず原作を読んでみて、どう思えるかがとても重要なんです。今回の場合、いわゆるライトノベルジャンルという中だと、戦記物が最近なかったんですよね。どちらかと言うとハーレム的なことに振られているものが多かった。そんな中でこの作品は、昔から存在する戦記物を、今のライトノベル市場に上手く落とし込んでいると思ったんです。

市村監督 自分もこれまで読んできた中で一番面白いライトノベル畑の作品だと思いました。

中山P  でも僕らの感覚からだと、今のお客さんは、主人公がひどい目に遭ったりして、ストレスになる場合があるんです。ですから、この作品が本当に受け入れられているのかは、疑問もありました。でも、固定ファンがしっかりいることが、部数も含め実績として出ているんですね。それこそ良い悪いは置いておいて、イラストレーターさんが途中で交代しても(※原作のイラストは健康上の理由によって、さんば挿氏から竜徹氏へと交代している)、部数がほぼ変わらなかったというのもひとつ大きな理由でした。

――なるほど。それもやはり骨太な作品性であるためだろうと。

中山P ええ。一方である種、ライトノベル原作が飽和していると言われる状況もあるわけです。自分は、自称日本で一番ライトノベルをアニメ化した男なのですが(笑)、いわゆるハーレムものをただやるだけでは、お客さんも食傷気味になっているなと。

――中山さんは 電撃文庫では『とある魔術の禁書目録』『アクセル・ワールド』『ストライク・ザ・ブラッド』、他社では『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』などライトノベル原作のアニメ化では確かに業界ナンバーワンのヒットプロデューサーと言っても過言ではないですね。その中山さんだからこそ、ご自身の実感としてそれを感じられていた?

中山P そうなんです。もちろん自分はこれまで「ハーレム要素もあるけど、それとは別にこういう魅力がある!」というテーマを毎回持って臨んではいました。ただ、今回は直球で骨太な作品を見せてみたいと思ったんです。

――先ほどから骨太という言葉があがっていますが、あらためて『天鏡のアルデラミン』というのは、どのような魅力を持つ作品なのでしょうか?

中山P それは原作者である宇野さんから……。

宇野先生 (笑)。戦記物ならではの人間ドラマの厚みがウリですね。それと、電撃文庫はエンターテイメントノベルと言っているのですが、 ライトノベル的なジャンルが持っているキャラクター性の強さ。この両方の面白さを備えている作品だと思っています。

市村監督  その紹介、いいですね。僕もどこかで使おう(笑)

――硬派なだけでなく、キャラが好きな方にも届くような作品なのですね。

真面目な作風だからこそ、エンターテインメント性を重視した

――宇野さんは作品の初アニメ化、市村監督はTVシリーズ初監督とのことですね。

市村監督宇野先生 ええ、そうです。

――中山さんの目から見て、お二人の印象はどのようなものですか?

中山P  宇野さんは「こういうお話を書く方はやはり真面目なのだな」と思いました。

市村監督 あの…いや、なんでもないです。

中山P どうしました?(笑)

市村監督 いや、真面目じゃない方もいるのかなと……。

中山P ああ(笑)。不真面目というより「エンターテインメントとして面白ければいい」という原作者の方もいらっしゃるんですよ。例えば…忘れもしないとある作家に「どうしてこのキャラが急にフィーチャーされたのですか?」と聞いたら、「誰もなんとも思っていないキャラがそうなったら面白いじゃないですか」と言われて、「ええ!? 何それ?」みたいな(笑)。

一同 (笑)

中山P でも、それは突発的に考えついたことも、話に組み込んで成立させられる能力があるからなんです。一方で宇野さんは一貫して、しっかりお話の流れがある。見せたいものも明確で「戦記物の戦術面を見せていきたい」とお話されていた。ブレない真面目な方なんだなと思いました。

宇野先生 確かに『アルデラミン』は最初から最後まで一本通っている道があるので、そういう意味では一貫したストーリーにはなっていますね。

市村監督 確かに中山さんの仰るように、宇野さんは真面目な方だなと思います。アニメがスタートすることになって最初の顔合わせの時に、宇野さんは偉い方がたくさんいる中でプレッシャーに負けまいと、しっかり言うべきことを言っていた。そこにはとても好感が持てました。

――中山さんとしては、監督についてはいかがですか?

中山P 演出をとても大事にされる方だと思いました。本読みの段階でも、映像としての流れや絵作りを大事にされる方なんだなと思いましたね。

市村監督 その自覚は良くも悪くもあります。実際エンターテインメントというのは、別にドラマじゃなくても良いんです。見たい人が見るものを提供できれば、それで成立するんですよ。でも、僕はキャラの立ち位置やドラマ面の流れなど、若干演出を優先させてしまう時がある。そのあたりは『アルデラミン』では気をつけたい思っています。

中山P かたや僕は「中山氏はセリフしか気にしないよね」と言われてしまう人なので(笑)。やっぱりシーンを優先しちゃうんです。短絡的に快楽を求めてしまう。ですから真面目なお二人と自分とで、ちょうどバランスが取れているのかなという気がします(笑)。

老舗だけどフレッシュ? 今のマッドハウスだからできる面白さ

――『アルデラミン』は制作スタジオがマッドハウスとのことですが、中山さんは初めてタッグを組まれるんですよね?

中山P 最近は割とお付き合いさせていただく先が固定されてたんですね。J.C.STAFFさん、XEBECさん、サンライズさん。それから小規模の制作会社で「ピンポイントでこの作品をやってください」と言って、その作品をやるために現場をビルドしてもらうくらいのアプローチをしていました。今回は内容的にどうしてもハードにならざる得ないと思っていまして、小規模プロダクションで現場を作るのは、今のアニメのジャンルの特性上、非常に難しいだろうと。

――ジャンルの特性上、と言いますと?

中山P 要は可愛い女の子の絵が描けるアニメーターはたくさんいるのですが、戦闘シーンが描ける人はいない。「そういう人は集められません」ということが実際に起こるんですよ。そこで、この内容を突き詰めるのならば、マッドハウスさんとやるのが良いだろうなと。

市村監督 確かにハードで濃い映像を作るという印象がありますからね。

中山P でも、その後に続いたのが『ノーゲーム・ノーライフ』だったり『オーバーロード』だったりするので「これがマッドハウスか?」みたいなことはありました(笑)。むしろ『織田信奈の野望』があった時点で「ええ? マッドハウス!?」と。

市村監督 大丈夫ですか? 『オーバーロード』や『織田信奈の野望』と同じ班ですよ?(笑)

中山P (笑)。でも、今マッドハウスって経営交代もあって、伝統もありつつ、現代っぽい作品にもチャレンジしている時期だと思うんですよ。今まであったリソースや考え方を、そういう作品に展開していこうともしているし、同時に時代に合った作品性を吸収しようとしてる状況ではないかと。

――確かに、最近の作品を見ているとそういう面があるように思えます。

中山P プロデューサーとして、こんなに美味しいことはないわけですよ! そこに色んな作品が投入できる。だからこそ先ほど言ったようなタイトルもやられたんだと思うんです。その素養ができたところに『アルデラミン』をやってもらえれば、絶対面白くなるなと思ったんです。

――老舗だけどフレッシュ感もある?

中山P そうですね。そこはやっぱり担当プロデューサーの橋本(健太郎)さんと話してても思えます。いわゆる今の売れ線的なことも考えなきゃいけない。だけどこの作品らしいプロダクトは何かということにも、意識を配らないといけない。そのバランスを考えながら苦心されているのも伝わってきます。僕は、それなりにいろんな会社のラインPとお付き合いさせてもらっていると思いますが、あの考え方はとても面白いです。

市村監督 全体を通すとカロリーが高い作品ですから、大きいプロダクションじゃないと作るのが難しいんです。底力がある程度ないと。

中山P 小規模な会社だと、監督負担が今の市村さんの比ではなくなっていると思います。全部偏ってしまって、凄まじいことになっていたと思うんです。これがアニメーターに力量の高い方がいらっしゃったり、コンテ演出も力のある方々がやられているという状況があるので、そういうところのバックアップ体制も大きいです。

宇野先生 私、今回の話が来た当時にはまだアニメ会社って三社くらいしか知らなくて。その三社がシャフト、京都アニメーション、マッドハウスなんです。自分的には『アカギ(闘牌伝説アカギ 闇に舞い降りた天才)』が記念碑的な作品なんですね。

――『アカギ』ですか? 『アルデラミン』とは随分離れているような……。ヒリつくような駆け引き的な面ですか(笑)。

宇野先生 いやいや(笑)、なんというか作品の個性を理解して、引き伸ばしてくれる会社というイメージがあるんです。そんな会社に作ってもらえるということで、驚いていますし嬉しくも思っています。

アニメ化についての制限と可能性

――宇野さんから見てアニメ化に対する期待はどんなものでしょうか?

宇野先生 小説というのは基本文字だけでできあがっているものですから、そこで演出しなければいけないのですが、アニメになったことで絵が付き、声優さん達の声が付き、音楽が付きということで、ある種の総合演出になっていくと思うんです。それは文章で表現しようとしたものを、翻訳する行為だとも思うんですよ。どういう形になるか本当に楽しみですね。

――小説とアニメでは、まるきり違う部分もあるかと思いますが、そのジャンルの違いを感じる時はありますか?

宇野先生 アニメ化の準備を進めていくうちに気がついたところだと、一番厳しいと思ったのは尺の縛りです。

――なるほど。アニメには時間の制限がありますからね。

宇野先生 でも、それゆえに色々削ぎ落とされて良くなる部分もあるんです。そこも含めて、フリーハンドでゆったりと書ける小説に対して、アニメは色んな人達が参加して、割と厳しい条件の中で練り上げられていく。ここが一番大きい違いだと思いましたね。

――監督はいかがですか? 小説からアニメに翻案する時の工夫などありますか?

市村監督 作品の特徴を落としこむ際の工夫でいうと、場所が割と転々とすることもあって、美術よりも小物関係にファンタジー的な要素を入れ込んでいますね。精霊と呼ばれるマスコット的なキャラクターがいるのですが、彼らを武器として組み込んでます。風銃といった特殊な武器などの小物に、アルデラミン特有の世界観、雰囲気が出せればいいなと思っています。細々したところから、作品世界が見渡せるように作っていければと。

――『精霊』ですか。それは面白そうな存在ですね。監督の中でこの作品の中で一番表現したいことはどんなところなのでしょうか?

市村監督 キャラクターの関係性が一番面白いところなので、そこについて面白くなるように毎回注力していますね。ストーリーの縦筋だけを追っていくと、キャラ性が削がれてしまいがちなので、その魅力を削がないようにシナリオ・コンテをチェックしながら頑張って作ってます。

――なるほど。では次回はそのキャラクターについても深くお伺いできればと思います

■TVアニメ『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』
【放送情報】
TOKYO MX……7月8日より毎週金曜25:05~
サンテレビ……7月10日より毎週日曜24:30~
KBS京都……7月10日より毎週日曜23:00~
テレビ愛知……7月10日より毎週日曜26:05~
BSフジ……7月10日より毎週日曜26:30~
AT-X……7月11日より毎週月曜24:00~
(※AT-Xリピート放送は毎週水曜16:00、毎週土曜8:00、毎週日曜21:00)

【スタッフ】(※敬称略)
原作:宇野朴人(電撃文庫刊)
原作キャラクター原案:さんば挿
原作イラスト:竜徹
監督:市村徹夫
シリーズ構成:ヤスカワショウゴ
アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督:香月邦夫
音響監督:岩浪美和
音楽:井内啓二
アニメーション制作:マッドハウス

【出演声優】(※敬称略)
イクタ・ソローク:岡本信彦
ヤトリシノ・イグセム:種田梨沙
シャミーユ・キトラ・カトヴァンマニニク:水瀬いのり
トルウェイ・レミオン:金本涼輔
マシュー・テトジリチ:間島淳司
ハローマ・ベッケル:千菅春香

(C)2015 宇野朴人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/天鏡のアルデラミン製作委員会

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