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2016年9月3日(土)

『いけにえと雪のセツナ』作曲家インタビュー。ピアノソロへのアレンジの狙いやコンサートの意気込みを聞く

文:にじ

 PS4/PS Vita用RPG『いけにえと雪のセツナ』の演奏用楽譜データ付きCD『Winter’s End』がCreative Intelligence Artsから10月5日に発売されます。

 また、10月4日にはアレンジCDアルバムの発売を記念したライブ演奏コンサート“Winter’s End Concert”が行われるということで、アレンジCDアルバムに関するインタビューを行いました。

『いけにえと雪のセツナ』

 質問に答えてくださったのは、『いけにえと雪のセツナ』のディレクターである橋本厚志さん(Tokyo RPG Factory)と、作曲家の三好智己さん、サウンドディレクターの由良浩明さんのお三方。アレンジCDアルバムの制作の経緯、レコーディングの様子、コンサートへの意気込みなどをお聞きしましたので、お楽しみください。

『いけにえと雪のセツナ』
▲左から橋本厚志さん、三好智己さん、由良浩明さん。ボーナストラックのレコーディング直後に、お話をうかがいました。

 なお、iTunesでは楽曲を配信中で、公式サイトでは一部楽曲を試聴できます。

そもそも『いけにえと雪のセツナ』の音楽はいかにして生まれたのか

――まずは『いけにえと雪のセツナ』の楽曲制作に関する思い出について教えてください。

橋本:『いけにえと雪のセツナ』の楽曲をほぼピアノオンリーにしたのは、ゲーム的に“切ない”というキーワードをコンセプトにしていた部分が大きいです。

 三好さんたちと“切ない”というコンセプトに合ったBGMってなんなんだろうなと考えていくなかで、ほぼピアノだけで構成するという流れになっていきました。でも、これって考えるほうはいいけれど、作るほうを考えたらとても大変なものだったんですよ。

由良:ピアノだけって、難しいんですよね。同じ楽器だと音のバリエーションにも限りがありますし、同じような曲になりがちです。特に『いけにえと雪のセツナ』は、物語の舞台が全編を通して雪の国という部分も大変でした。

『いけにえと雪のセツナ』

 例えば、違う楽器を使っていろいろなキャラクターや冒険の舞台のテーマ曲を作るのは、比較的スムーズなんですよ。大きな騎士だったらトランペット、きれいな魔法使いだったらハープを使いましょうとか、それらの楽器を使うことだけでキャラクターを表現できちゃうんですよね。

 ただ、今回はピアノのメロディーだけで各キャラクターを表現するということで、かつどのキャラクターも少し重い問題を抱えているので、方向性が似たものになりがちでした。それをピアノ一本でやるというのは、かなり厳しかったのではと思います。

『いけにえと雪のセツナ』

橋本:そんなわけで、途中でかなり厳しそうだという話も出まして、ピアノ以外の楽器も使っていいと三好さんに話しました。でも、一向にピアノの曲しか提出してこなかったんですよね。

 半分くらいは三好さんの意地だったとも思うんですけど、一部を除いてほぼ全曲がピアノのみで作られていて、クオリティもすごく高い曲でした。そういった楽曲を『いけにえと雪のセツナ』のBGMにできたのは、とても感謝していますし、すごくよかったなと思っています。

三好:個人的にはいろいろな楽曲を作らせていただき、とても思い入れが深いタイトルとなりました。

 特にメインテーマは、自分が作曲を始めたばかりの15歳くらいの時に作ったものをベースにしているので、演奏するといろいろな思い出がよみがえってきて、ちょっと泣きそうになりました。

『いけにえと雪のセツナ』

橋本:メインテーマはもともと『いけにえと雪のセツナ』のために作られた曲ではなかったのですが、曲を聞かせてもらったら『いけにえと雪のセツナ』にピッタリだったので、ゲームのテーマにすることになりました。三好さんからすると6~7年ごしで世に送り出せた曲ということで、感慨深かったんじゃないでしょうか。

由良:三好君がゲームの音楽に携わるのは今回が初めてではありませんが、ここまで自由に自分らしさを出して曲を作れたのは今回が初めてなんじゃないでしょうか。

 シリーズもののゲームだと、それまでの流れがあるでしょうし、複数人での作曲だと、ある程度は周囲に合わせながら曲を作るほうがなじむこともあるでしょうし。

橋本:22歳にして集大成というのは早すぎるかもしれませんが、そういう意味合いでは、アレンジアルバムはさらに三好さんならではの魅力が詰まった音楽になっていると感じました。

 『いけにえと雪のセツナ』というゲームよりも先に三好さんの音楽に触れて、その音楽を好きになる人もいると思います。その際はぜひ、ゲームにも興味を持っていただけたらうれしいですね。

ピアノ・ソロ演奏でのアレンジを行った経緯

――ピアノ・ソロ演奏用として“再作曲(リコンポジション)”するという今回のアレンジアルバムの方向性は、どのように決まっていったのでしょうか。

三好:自分が作った楽曲を皆さんに聞いていただけるということは、それ自体がとてもうれしいことなのですが、楽曲を演奏していただけることはさらにうれしいことだと思っています。

 『いけにえと雪のセツナ』の楽曲はネットでの“演奏してみた”動画でも盛り上がっており、本当にうれしく感じていました。今回のアルバムにはたくさんの思いを込めていますが、そういった皆さんに向けて、演奏用の楽曲として再作曲をしたいという気持ちも強かったですね。

『いけにえと雪のセツナ』

由良:今回のアレンジアルバムの話をいただいた時、『いけにえと雪のセツナ』のプロデューサーである内堀さんとは『シヴィライゼーション5』の音楽を手掛けたクリストファー・ティンさんの話題が出ました。

 クリストファー・ティンさんは『シヴィライゼーション5』の『Baba Yetu(ババイェツ)』という曲で、ゲーム音楽としては世界初となるグラミー賞を受賞したんですよ。それがきっかけで、いろいろな学校でその楽曲が演奏されてきています。

 ゲームの曲は、ゲームのために作る曲ではあるんですけど、ミュージシャンの立場としては、演奏してもらえることはとてもうれしいことです。クリストファー・ティンさんの楽曲がたくさんの方に演奏されたように、私たちもより多くの方たちに我々のゲーム楽曲を演奏してもらえるきっかけになればと思い、アレンジアルバムの制作にいたりました。

アレンジCDアルバムの注目ポイント

――今回のアレンジでは、どういった部分が聞きどころになるでしょうか?

三好:オリジナル版はゲームで使われる音楽となるので、聞きやすいシンプルなメロディを意識しました。全71曲を手掛けましたが、その曲はゲーム内ではループされるものとして流れ、尺も短いものだったので、どれだけイメージを詰め込めるかというところで制限がありました。

『いけにえと雪のセツナ』

 そういったゲーム用の楽曲を演奏していただいている方たちの動画を拝見する機会があったのですが、その時に演奏曲として成立する形にしたほうがいいんじゃないかなと思ったんです。

 それで、原曲の印象を変えないように、制限された時間の中に詰め込んだ短い世界の形を崩さずに、ちゃんとした一曲としてアレンジをしていきました。

 原曲は1曲ずつが平均で1分~1分半くらいだったんですけど、今回のものは1曲が約3分半ほどと、倍くらいの尺に伸ばしています。また、ループするものではなく、締めとして終わる部分もちゃんと作りました。

 由良:ピアノって一番演奏されている楽器だと思うんですよ。なので、今回の楽曲は小学校のコンサートとか、自分の友だちを集めてピアノを弾く機会に一番演奏しやすいものにしたいなと思いました。

――ゲーム曲という短めでループするものを、長めできちんと終わらせるピアノ曲として成立させたわけですね。

三好:はい。演奏しやすいものにするという意味合いで、今回のアレンジアルバムには楽譜もセットとして付属しています。

アレンジについての試み

――アレンジをするうえで挑戦したことや印象に残ったことはありましたか?

三好:原曲のイメージをあまり変えないまま、音楽性を広げていく部分が難しかったですね。

 その世界の中に入り込んで、百歩くらいしか歩いていないところを三百歩ほど歩いたらどのような世界観ができるのか? ただ、それで違う世界観になってしまうと駄目なので、元の世界観の雰囲気を残しながら、楽曲を2倍くらいに伸ばしていったところは挑戦だったと思います。

『いけにえと雪のセツナ』

由良:元のゲーム楽曲では橋本さんと僕とでいろいろと話して、三好君にゲームがあるからこその音楽ということで制限をもうけた部分がありました。

 ですが、今回のアレンジアルバムについては、三好君が思うようにやる形で、結構任せた部分があるんですよ。

 多少の制限として、メインメロディとキャラクターごとのテーマは入れてほしいという選曲への注文はつけましたが、残りの楽曲は自分が好きな曲を選んでほしいと、結構野放しにしました(笑)。

――その好きな曲というのは、どのようにして選ばれたんでしょうか?

三好:今回はイージーリスニング的に聞ける流れにしたかったので、あえてバトル曲は外す形で考えました。病院とかでも流せるようなものにしたいと思い、きれいなメロディの楽曲を選曲していきました。

レコーディングを終えての感想

――今回のアレンジについて、橋本さんはどう思いましたか?

橋本:打ち上げで由良さんと三好さんの演奏を聞いたことがあるのですが、その時のいい感じがちゃんと今回のアレンジでも出ていたと思います。

――由良さんは、レコーディングでの演奏はどうでしたか?

由良:非常に難しい曲なので、よくできたなと思っております。ヴァイオリンの曲は特に高音になって、すごくシンプルなメロディだったらシンプルなほど難しいんですよね。

 普通に考えると、たぶん早い曲のほうが難しいと感じると思うんですけど、実は早い曲はそんなに難しくはないんですよね。

 三好君のメロディはすごく美しくてシンプルな曲が多いので、ピアノでは簡単かもしれないんですけど、ヴァイオリンだったら超難しいんですよ(笑)。あと、一緒にメロディを奏でるユニゾンが、非常に難しかったです。

『いけにえと雪のセツナ』

――ちなみに本日はアルバムのボーナストラックの演奏収録が行われ、三好さんもピアノ演奏で参加したそうですね。

三好:実は自分のピアノ演奏は、急きょ、本日決まったんですよ。これまではコンピューターを使って演奏していたんですが、生で演奏をする際にはテンポをあわせる必要があったため、今回は自分で演奏してレコーディングに取り組みました。

由良:生の音のほうが、楽曲に合わせるうえでなじみやすいということもあり、今回は生ピアノでやりましょうという話になりました。

――三好さんと由良さん、実際にお2人で合わせて演奏してみていかがでしたか?

三好:僕は作曲がメインでピアノ演奏のプロというわけではないので、やっぱりメインの演奏者の人に引っ張られている感じでした。合わせることによって、僕のセンスもちょっと上がって、よりよく演奏できたんじゃないかなと思います。

『いけにえと雪のセツナ』

コンサートについての意気込み

――最後に、本作の音楽のファンへのメッセージをお願いします。

三好:もう本当に感謝の気持ちしかありません。こんな美しい作品に携われたことだけでもうれしいのに、たくさんの方に聞いてもらえて、たくさんの方に演奏してもらえるなんて!

 自分のほうこそ、皆さんからの反応をいただけてうれしく思っておりますので、アルバムもコンサートも全部ありがたいと思っています。

 今回のアレンジアルバムは、楽しみにしてくださっている方たちへ、僕の感謝の気持ちを100%作品に込めました。なので、その思いを少しでも感じ取ってもらえれば本当にうれしいです。

由良:自分から見ても、三好君は今回すごく頑張って作ったと感じているので、ぜひ皆さんに聞いていただきたいです。コンサートではピアニストのジェム・ハーディングさんが演奏しますけど、彼なりの解釈による演奏も楽しんでいただけたらと思います。

橋本:『いけにえと雪のセツナ』の世界をさらに広げてくれる、とてもいいアレンジになっていると思います。何より三好さんのことを『いけにえと雪のセツナ』で知ったという方もいらっしゃると思うので、三好さんの曲が好きだという方にはぜひ聞いていただきたいですね。

 それに楽譜も付属しているので、楽曲を実際に弾いて楽しんでもらえるとうれしいです。そして、その演奏した曲を聞いたゲームをプレイしていない方が「この曲って、なんかいいよね」というところから、さらに『いけにえと雪のセツナ』を知ってもらえればと思います。

『いけにえと雪のセツナ』

由良:これは個人的な感想ですが、映画の『インセプション』のサウンドデザインってすごく関心を持っているんですよ。

 あの映画はコマを回すことが重要な意味を持っていて、コマが倒れるか倒れないかで世界の意味が変わってくるわけですが、とても重要なシーンでは場面が暗転して音だけが頼りになり、さらにそのサウンドが途中で切れているんですよね。

 コマが倒れたのか、回り続けているのか、絵ではなくて音で表現されることによって明確な答えがぼかされて、映画を見ている人の主観に解釈をゆだねるような演出になっているところが、とてもおもしろいと思うんですよ。

 『いけにえと雪のセツナ』の最後にも、そういった感じのシーンがあるじゃないですか。こう言うと橋本さんには「その解釈は人それぞれで、僕は違うと思うけどね」と言われちゃうんですけど、僕はあのシーンであのキャラが“成仏した”と解釈して、その気持ちを音楽に乗せています。

橋本:僕からは何も言えませんけど、それもまた解釈の1つだとは思います。

『いけにえと雪のセツナ』

由良:『いけにえと雪のセツナ』って、そういう部分も含めて奥深いゲームだと思うんですよね。ゲームではループで表現していた音楽が、アレンジアルバムでは終わりの部分がくわわったことによって、またゲームとは異なる思いや解釈が生まれるかもしれません。

 そういったところで、皆さんがアレンジアルバムやコンサートで曲を聞いて、想像して、いろいろな解釈をしていただければ、少しでもサウンド面からゲームのお手伝いもできるんじゃないかなと思っています。

『いけにえと雪のセツナ』

橋本:僕も1人の三好さんのファンとして、10月4日のコンサートを楽しみにしています。最後にサプライズで、三好さんが出てきて演奏をするんじゃないかと予想しています(笑)。

三好:今のところ、その予定はありません(笑)。ただ、由良さんも一緒に弾いてくれるなら、もしかして?

由良:そういったサプライズがありうるのは、ライブやコンサートのような生演奏ならではの楽しみでしょうね。

橋本:なんにせよ、まだ発売から間もないゲームでコンサートが実現できたのは、三好さんが作った音楽の力が本当に大きかったからです。

 アレンジされた音楽も素晴らしいですし、その演奏を生で聴ける機会はそうそうないと思いますので、『いけにえと雪のセツナ』を遊んで気に入っていただけた方、三好さんの音楽が心に残っている方は、ぜひコンサートを楽しんでいただければと思います。

『いけにえと雪のセツナ』

[CHECK]コンサートのチケットは好評発売中

 10月4日にトッパンホールで開催されるアレンジCDアルバムの発売を記念したライブ演奏コンサート“Winter’s End Concert”のチケットは、“チケットぴあ”ローソンチケットで販売中です。価格は全席指定で6,000円(税込)。

『いけにえと雪のセツナ』

 コンサートには作曲家・三好智己氏が出演し、演奏者としてジェム・ハーディング氏がピアノを、由良浩明氏がヴァイオリンを担当します。

 当日のゲストには、橋本厚志氏(Tokyo RPG Factory『いけにえと雪のセツナ』ディレクター)、熊谷宇祐氏(Tokyo RPG Factory『いけにえと雪のセツナ』海外版・PC版ディレクター)、稲葉洋敬氏(シナリオライター/Switch・エンタテインメント)が登壇予定です。

“Winter’s End ~『いけにえと雪のセツナ』ピアノリサイタル~”概要
■日程:2016年10月4日18:30開場/19:00開演
■会場:トッパンホール(東京都文京区水道 1‐3‐3)
■アクセス:“飯田橋駅”より徒歩13分/“江戸川橋駅”より徒歩8分/“後楽園駅”より徒歩10分
■演目:『Winter’s End ‐『いけにえと雪のセツナ』Original Soundtrack Collection』より
■入場料:全席指定・6,000円(税込)
■登壇者(敬称略)
・三好智己(作曲家)
・橋本厚志(Tokyo RPG Factory『いけにえと雪のセツナ』ディレクター)
・熊谷宇祐(Tokyo RPG Factory『いけにえと雪のセツナ』海外版・PC版ディレクター)
・稲葉洋敬(シナリオライター/Switch・エンタテインメント)
■演奏(敬称略)
・ジェム・ハーディング(ピアノ)
・由良浩明(ヴァイオリン)
■主催:Creative Intelligence Arts
■協力:Tokyo RPG Factory.
■制作協力:アイムビレッジ
■チケット一般販売
【チケットぴあ】
・Pコード:306‐990(セブン‐イレブン、サークルK・サンクス、チケットぴあ店舗)
■電話からの購入:0570‐02‐9999(Pコード:306‐990)
【ローソンチケット】
・Lコード:32530(ローソン、ミニストップ“店内Loppi”)
・電話からの購入:0570‐000‐407/0570‐084‐003(Lコード:32530)

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