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2016年10月14日(金)

SIE設立のフォワードワークスの展望をキーマンが語る。『ワイルドアームズ』の新作アプリが登場する可能性も?

文:電撃オンライン

 2016年4月1日に、“拡大を続けるスマートデバイス市場に向け新たなサービス事業を展開することを目的”として設立された株式会社、フォワードワークス。その事業の中心を担うキーマン、川口智基氏に今後の展望を伺ってきました。

『FW』
▲エグゼクティブディレクターの川口智基氏。

【川口智基氏の経歴】

 1997年に、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現、ソニー・インタラクティブエンタテインメント)に入社し、PlayStationやソフトウェアの販売を担当。

 その後、1999年のPlayStation 2の立ち上げを機に、現ソフトウェアビジネス部に異動。ライセンスビジネススキームの策定やソフトウェアメーカーとのリレーション、タイトルラインナップの編成などを担当する。

 2012年には、戦略企画部に異動し、PS4の国内立ち上げの責任者として活躍。そして、2016年よりフォワードワークスの事業戦略責任者として、業務全般を統括する立場に。

 フォワードワークスは、SIEのIPやPlayStationで培ったゲーム制作のノウハウを活用し、スマートフォンを含めたスマートデバイス向けに最適化したゲームアプリを、日本およびアジア市場のユーザーに提供することを目的としたSIEの子会社です。

 スマートデバイス市場という新たなフィールドで、ゲーム性を重視した本格的なゲームタイトルをより多くのユーザーが気軽に楽しめるような機会の創出を目指しています。

移植ではなく、SIEのIPを新しい遊びとして提供していく

――フォワードワークスの設立理由と、会社としてどのような事業を展開していくのかをお聞かせください。

 日本やアジアにおけるモバイル市場が非常に大きいことを受け、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ジャパンアジア(SIEJA)の地域戦略としても、モバイル市場のお客様に対して“私たちが提供するエンタテインメントをどうやって楽しんでいただくか、どのようにしてPlayStationのコンテンツをより楽しんでいただくか”をこれまでも検討し、さまざまなチャレンジを行ってきました。

 もっとも、これまでのチャレンジは、PlayStationのプラットフォームビジネスの一環として、モバイル市場のお客様に「PlayStationが提供するアプリはこれです」という提案をさせていただくというものでした。

 ただ、現在のモバイル市場は非常に大きく、いろいろなお客様がいらっしゃいます。PlayStationをよくご存じの方もいれば、よく知らないという方もいらっしゃいます。後者のようなお客様にも、私たちの提供するコンテンツを楽しんでいただきたいと考えていました。

 カジュアルにモバイルゲームを楽しんでいる方を含む、より多くのモバイルユーザーの皆さんに対して、私たちがどのようにアプローチしていくか。それを考えた結果、いちコンテンツパブリッシャーとして、私たちの持つIPをモバイルゲームとして最適化した形で提供し、ユーザーの方々と直接コミュニケーションをとろうと考えました。

 ですので、PlayStationのビジネス戦略から切り離した形で、モバイル市場でコンテンツパブリッシャーとして、アプリケーションを提供していくために設立したのが、フォワードワークスとなります。

――フォワードワークスとして生かそうとしているノウハウはどういったものでしょうか?

 私たちがPlayStationのビジネスを通じて培ってきたノウハウはたくさんあります。

 フォワードワークスとしてモバイル市場にチャレンジするうえで生かせるものとしてひとつ大きいものは、“おもしろいゲームを作ってきた”という部分におけるノウハウだと考えています。

 そのノウハウを存分に生かし、モバイルのゲームであっても、ゲーム性を重視したおもしろいコンテンツを提供していきたいと思います。

 ただし、現在のモバイル市場においては、おもしろいものを作るだけでは、ユーザーの皆さんに手にとっていただくというのは難しいと考えています。ユーザーの皆さんに情報をお届けする部分、例えばこれはメディアの皆さんと一緒に頑張ってきた部分ですし、他にも、遊んでくださっているユーザーの皆さんとコミュニケーションを取りながらより長く楽しんでいただく、あるいはモバイルの特性を活かし「おもしろいから遊んでみなよ」と周りに伝えて広めていただくようにすることも、重要なノウハウだと考えています。

 また、繰り返しになりますが、できる限りたくさんの方々に私たちの提供するコンテンツを楽しんでいただきたいので、“ある特定の人しかプレイできません、PlayStationを持っていないと遊べません”といった状況は、極力避けたいと考えています。

 私たちのビジネスで重要なのは、IPだと考えています。私たちが提供するモバイルアプリをプレイし、IPのファンになっていただく。そして、例えばそのIPの新しいタイトルがPlayStation 4(PS4)やPlayStation Vita(PS Vita)で出た際には、専用機ならではのゲームを楽しんでいただく。そういう連携を作っていけたらいいなと考えています。

『フォワードワークス』

――現状では、基本的にフォワードワークスのモバイルアプリとPlayStationのハードとを直接かかわらせるような展開はしないということでしょうか?

 そういった展開について否定することはしませんが、それを積極的に行う、もしくは必須にする、ということはありません。繰り返しになりますが、PlayStationに馴染みが薄い方々にも私たちが提供するコンテンツをお届けしたいと考えていますので、まずはモバイル市場に専念する形でやっていく予定です。

――先ほど、重要なのは“IP”であると仰っていましたが、川口さんが仰るIPというのは、SIEのものになるのでしょうか?

 はい。まずはJapan StudioのIPですね。Japan Studioが持っているIPは非常に豊富ですし、モバイルでは展開していないIPもたくさんあります。そういったものをモバイルに最適化した形で出していきたいと考えています。

 この話をすると「タイトルをモバイルに移植し、アーカイブスのような形で提供するのでしょうか」と仰る方もいますがそうではなく、“IPを今のモバイルに最適化した形で、新しいものとして提供していく”ことを目指しています。

――PlayStationIPの移植はしないということでしょうか?

 はい。移植はやりません。これについては明言しておきます。

――SIEのIPを使って事業を行うということは、基本的にはそのIPを知っている方がメインターゲットになるのでしょうか?

 知っている方も知らない方も、両方です。

 例えば、PlayStationには、非常に斬新なゲーム性のものがたくさんあります。そういったIPは、プレイした方だけでなく、そのIPを知らない、遊んだことのないような方々にモバイルコンテンツとして提供した際にも、斬新で新しいと感じていただけると思うのです。

 ですので、必ずしもJapan StudioのIPを遊んでくださった方に、ということではなく、幅広い世代のたくさんの方に遊んでいただけるように提供したいと考えています。

 もちろん、IPによってはそれを知っている人こそ、強い思い入れを持って遊んでいただけるタイトルもあると思いますので、ファンの方をメインターゲットに、というタイトルもあると思います。

――フォワードワークスの強みについては、いかがお考えですか?

 私たちがモバイルで展開していく時の強みは、たくさんのIPを持っていることと、ゲーム性を重視しておもしろいものを提供してきたという、ノウハウやカルチャーです。

 それにPlayStationはSIEのみならず、いろいろなソフトウェアメーカーの方々やクリエイターの方々、ユーザーの皆さんと一緒に盛りあげて作ってきたプラットフォームです。そうした方々とのつながりを、フォワードワークスのモバイル展開にも存分に生かしていきたいですね。

 そういった方々とモバイルで何か新しいことができると面白いでしょうし、もっと言うなら既存の枠に囚われることなく、モバイルアプリと他の技術を組み合わせることで新しい遊びを創出する、といったことにも挑戦していきたいです。

 これについては、ソニーグループの強みも生かせる部分であると考えています。ソニーのなかではいろいろな技術の研究をしていますし、新しいことを考え・創り出すというカルチャーもあります。

 また、アニメや音楽、映画などのエンタメ事業もありますので、そういったところと連携するということも視野に入れていきたいと考えています。

『フォワードワークス』

――目標についてですが、究極的にはフォワードワークスのモバイルアプリから入ってきたユーザーをPlayStationに、ということになるのでしょうか?

 そうなっていただけるのが理想ではありますね。ただ、フォワードワークスとしては、まずは私たちが提供するアプリケーションやゲームをたくさんの人にプレイしていただきたい、という想いが根底にあります。

 PlayStationは持っていないという方や、スマホユーザーだけれどゲームは遊んでいないといった方々が、私たちのアプリをプレイしていただけるようになることが、一旦は私たちのゴールであると考えています。

 「スマホで遊んだけどこのゲームおもしろい」とIPのファンが増えてくだされば、スマホとはまた違ったゲーム体験として、PS4やPS Vitaで遊んでいただけるのではないかなと思います。

2017年度には5~6本のタイトルをリリース

――事業の進捗状況については、いかがでしょう?

 フォワードワークスは2016年の4月1日に設立したのですが、昨年のうちから準備は進めていまして、非常に順調に進んでいます。これまで情報をあまり出せなかったので皆さまにはお伝えできてはいませんでしたが、来年度中には5~6タイトルをリリースできる予定です。

 今日は具体的なラインナップはお話できませんが、2016年内にはどういったコンテンツを提供していくかを発表したいと考えていますので、もう少々お待ちください。もちろん、来年度以降の企画も、並行して進めています。

 なお、今回私たちが開発、または運営するコンテンツについては、外部のパートナーの方々と協力して進めています。それぞれのコンテンツにとって、最適な方々とパートナーシップを組んで開発・運営するといったスタンスです。

 私たちはモバイルのビジネスに関しては経験が浅いので、そこはモバイルの経験に長けた皆さまと、互いの強みを生かす形で一緒にやっていきたいと考えています。

――アプリの登場は来年度で、今年度は発表のみという形になるのでしょうか?

 はい。その予定です。来年度中のいつか、ということに関しては、早くリリースできるものがあれば出しますし、納得できなければ来年度の後半になるかもしれませんが、時期というよりは、内容優先でリリースのタイミングを図っていきたいと考えています。

――リリースするアプリはiOS、Androidに対応したものになるのでしょうか?

 はい。なるべく多くの方に楽しんでいただきたいので、基本的にはモバイルのあらゆるプラットフォームで出していくというスタンスです。

――PS4、PS Vitaでもアプリの提供は行われていますが、PlayStationフォーマットに対してフォワードワークスがアプリをリリースする予定はあるのでしょうか?

 現時点でその予定はありません。今はとにかく、モバイルに対してアプリを提供していくことを考えています。

――フォワードワークスに開発部署はあるのでしょうか?

 現時点ではありません。

――タイトルのプロデューサーと呼べるような方は、フォワードワークスの内部にいるのでしょうか?

 はい。各タイトルごとにそれぞれ、担当者がついて進めております。

――リリースするコンテンツについて、発表する場は予定されているのでしょうか?

 はい。方法は検討中ですが、何らかの形で発表を行います。タイトルについてはご期待ください。

――フォワードワークスとして、サイトなどを立ち上げられる予定はあるのでしょうか?

 はい。具体的なコンテンツをお伝えできるタイミングでオフィシャルサイトを立ち上げる予定です。

 「このタイトルを!」という声もあるかと思いますので、お客様のリクエストや意見をちゃんと受け止めていく役割を、オフィシャルサイトが担えたらなと考えています。

――今後、オフィシャルサイトが立ち上がることで、フォワードワークスの名やロゴを目にする機会も増えそうですね。社名の意味やロゴのデザインの意図を改めてお聞かせ願えますか。

 フォワードワークスという社名は、サッカーのポジションでいうところのフォワードから来ています。最前線で得点を取る、チャンスメイクしていくという役割で、ユーザーの皆さんに対して最前線で新しいものやおもしろいものを提供していく立場、存在になりたいという意味を込めました。

 ロゴは“Forward Works”の頭文字をとって“FW”、サッカーのフォワードもポジションをあらわす時は“FW”と表記されますので、それをモチーフにしています。また、スマホ画面を“指でなぞっている”ようなイメージをモチーフにしています。

 そして実は、F、U、N、で“FUN(おもしろい))”とも読めるようになっているんです。“おもしろさを込めていく”という想いから、このような形にしました。

『FW』
▲フォワードワークスのロゴマーク。

――アプリを起動させた時に、最初に出てくるのがこのロゴということになるのでしょうか?

 はい。これから皆さんに見ていただくロゴマークになります。

――アプリ開発の方針としてはゲーム性を重視していくとのことですが、“フォワードワークスとしてのゲーム”ということは意識されているのでしょうか?

 そうですね。ただ一概に“これがゲーム性だ!”というものはなく、それはコンテンツによって異なると考えています。

 私たちが考えているのは、特定のジャンルに偏らず、バラエティ豊かなジャンルを提供し、よりたくさんの方々に遊んでいただくことです。重厚なものからカジュアルなものまで、幅広く準備していきます。

 そして、これは私たちの強みの1つだと考えているのですが、現在協業しているパートナー会社の皆さんは、PlayStation世代の方が非常に多いのです。SIEのIPを使ってモバイル展開をするとなると、話として非常に盛り上がりますし、皆さんから「僕はこれが好きだ」など、熱く語っていただける。

 そういった方々と一緒に作ることができる、ユーザーとして遊んでいたゲームに自分が作る側として携われる、ということに対して、非常に皆さんテンションをあげていただいています。

 IPを使うのって、難しい部分もあります。絶対的なルールとして守らなければいけない部分もありますし、その反面、今だからこそこの部分を変えるべき、というところもある。

 そのポイントをしっかりと理解されている方々と一緒にコンテンツを作れるというのは、ストロングポイントの1つだと考えています。

――プロモーションについて、モバイル市場ということでコンシューマとはアプローチが異なる部分もあるかと思います。それについてはどのようにお考えでしょうか?

 PlayStationで行ってきた手法が活きる部分もあると考えています。もちろん、モバイルだからこう、という決まり事もありますので、そこは今回パートナーシップを組ませていただく皆さんのモバイルのノウハウと、私たちの知見や経験を補完し合うことで強みを発揮していけるのではないかと思います。

――運営型や売り切り型など、タイトルによって展開の仕方は変わっていくのでしょうか?

 そうですね。この形で、と決めてはいませんので、コンテンツに最適な形での提供を考えています。売り切り型がもっとも適しているならそうしますし、フリー・トゥ・プレイで課金運営型でということもあるかと思います。

 ただ、たくさんの方々に遊んでいただきたいので、皆さんが安心して安全に遊べるというところは、大切なポリシーにしていきたいと考えています。

――コンテンツを展開する地域としては、まずはアジアになるのでしょうか?

 はい。まずは日本で展開し、次にアジアですね。それ以外の地域については、コンテンツとして可能性があれば、適宜検討していくという形です。

『フォワードワークス』

ユーザーの意見に耳を傾けながらコンテンツを展開していく

――市場分析という意味では、フォワードワークスを立ち上げた4月と現在とでは状況が変わっているかと思うのですが、現在のモバイルアプリ市場についてはどのように分析されていますか?

 “モバイルアプリは市場としては頭打ち”という話も耳にしますが、モバイルの市場にはまだまだ伸ばせる余地、ポテンシャルがあると私たちは考えています。スマホは多くの方が所持していますが、ゲームを遊んでいないという人は、まだまだたくさんいらっしゃいます。

 現に直近でも、今までゲームをやっていない方が始めたりといった事例もありますので、私たちも、私たちのコンテンツを届けるということに注力してきたいと思います。

――SIEは、インディータイトルにも力を入れられていますよね。フォワードワークスが新しいことをやっていくなかで、インディーで活躍している方やデベロッパーを発掘するようなことはあるのでしょうか?

 SIEのIPをモバイル化することをメインでやってはいきますが、新しいIPの創出にもチャレンジしていきたいと考えています。インディーの方と組むというのも可能性の一つだと思います。

――今現在、PlayStationで展開しているIPのアプリ版が登場する可能性はあるのでしょうか?

 Japan StudioのIPであれば可能性はあります。必ずしも過去のIPを掘り起こしてやっていく、というスタンスではありません。

 モバイルに持っていくことでおもしろくなる、PS4版などと連携させることでよりおもしろくできる、というものであれば、検討していきたいと考えています。

――ちなみに『ワイルドアームズ』の新作アプリや『パラッパラッパー』をスマホで遊べたりといったこともあるのでしょうか?

 可能性として、という回答になりますが、もちろんありえます。皆さんがどういうものを望まれているのかは、常に考慮していきたいと思っています。

 今後、いろいろと情報を出していくなかで、ユーザーの皆さんからの意見にしっかりと耳を傾けていきたいですね。

――SCE時代に登場したような日本国内向けのIPに対してのユーザーの声、要望などを聞いてくれる場がフォワードワークスということになれば、PlayStationファンとしてはうれしいですよね。

 たくさんのIPがありますが、なかにはお休みしているものがあるのも事実。そういったIPがモバイルの市場において生きてくる。今はそういったタイミングだと思います。

 昔のタイトルって、今遊んでも純粋におもしろかったりするじゃないですか。技術的にはレトロだとしても、コアな部分、ゲームに出会っておもしろいと感じるエッセンスは変わっていないと思います。

 そのエッセンスを最新の技術で今のモバイルに最適な形に落とし込めれば、おもしろさのアーカイブを作れるのではと考えています。遊んだことのない人がアプリに触れた際に「普通におもしろいじゃん」と思っていただけるような、そういったコンテンツを作っていきたいですね。

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