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2017年1月22日(日)

【電撃PS】SIE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。テーマは“リアタイとタイシフ”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.628(2016年12月8日発売号)のコラムを全文掲載!

第97回:リアタイとタイシフ

 毎週楽しみにしている大河ドラマの“真田丸”。大阪の陣もいよいよ佳境となりました。合戦のシーンも気合いが入っていて、テレビドラマの規模感としては相当大がかりな演出がなされていますが、城内や屋敷内でのやりとりが多いこともあって、やはりこのドラマの醍醐味は会話劇。まさに三谷幸喜さんの面目躍如といった仕上がりになっています。

 さて、“毎週”楽しみにしていると書きましたが、実はきっちり毎週見ているわけではありません。日曜の20時といえば強力な裏番組、“世界の果てまでイッテQ”があり、こっちを子供たちと見るのが楽しみなこともあって、“真田丸”は何週間分かをまとめて見ることが多いのです。いやあ、録画って便利。思えば他のドラマも人気バラエティも、いわゆる“リアルタイム視聴”をすることがめっきり減りました。なので、今や視聴率という指標がどこまでその番組の人気度を的確に表現できているのか、ちょっと疑問に思うところもあります。

 そういえば、僕はラジオもよく聴くのですが、ラジオも最近“タイムフリー視聴”というのが始まりましたよね。放送から1週間以内であれば、番組を好きな時間に聴くことができるというありがたい視聴スタイルが可能になったのです。高校生のころ、大好きなビートたけしさんのオールナイトニッポンを、毎週ラジオにしがみつき、カセットテープにCMカットしながら3時まで録音するという聞き方をし、翌朝金曜日、朝イチの体育がキツかった身としては、あのときタイムフリーがあれば! と思わないではありません。

 そしてもう1つ、今年から僕の部署でやり始めた“Jスタとあそぼう”というニコニコ生放送施策。タイトル軸のプロモーションではなく、JAPANスタジオのタレントをもっともっと前に押し出していこうという趣旨のもと始めた番組なのですが、ニコ生も、番組終了後1週間であれば、いつでも好きな時間に放送を見ることができる“タイムシフト”という仕組みがあります。前述のテレビ、ラジオに先駆けて、特定の時間に縛られないコンテンツの楽しみ方を提示したところが、まさにネット時代の特徴だなあと思います。ネットといえば少し前、YouTubeで動画を見ることに慣れた子どもが、逆にテレビ番組を見たときに、“好きなところから見られない”ということにジレンマを感じる、ということが話題になりました。録画している番組ならともかく、リアルタイムで見ている番組の、“見方の時間軸”に違和感を感じるという現象が顕著になってきているわけです。僕はこの、コンテンツを楽しむ際の“時間軸の乱れ”が色んなところで起こっていて、面白いなあと思うのです。

 たとえば、デジカメがなかったころは、カメラで写真を撮った場合、それを写真として確認できるのは、フィルムを現像に出し、プリントされてからのことでした。それが今では、シャッターを押した瞬間に、液晶画面上でその写真を確認できる。まだ子どもが小さかった十数年前、特に子どもはわかりやすいのですが、撮ったその場で「見せて~」と必ず画面上で写真を確認しにくる。それをみて、ああなんか時代が変わったなあと感じたのを憶えています。これはどちらかというと、厳密なタイムシフトでしか楽しめなかった写真というコンテンツが、リアルタイムで楽しめるようになった、ということなのかもしれません。よく、映画の反復性、演劇の1回性と言われます。映画はフィルムに焼き付けてしまえば、どの場所、どの時間にその映画を見ても内容は変わらない。一方演劇は、役者さんが毎回“演じる”ことにより、同じ回が2度はない、という概念です。この差は相当に大きい。“真田丸”の三谷幸喜さんがずいぶん前のコラムでこんなことを書かれていましたが、たとえば同世代の人と、自分たちが子どものころに見た映画の話で盛り上がる。そのころは、映画館に行くことも稀で、しかも録画技術もレンタルビデオもない。なのに子どものころに見た同じ映画で盛り上がるのは、つまりはたまたまテレビで放映されたその映画を、場所が違うそれぞれの家で、同じ時間に見たということなのだと。映画の反復性が予期せぬ共時性を生む、という点で非常に興味深い話しだと思います。

 リアルタイムでコンテンツを体感すること。タイムシフトでその体感が分散されること。考えてみるとこの2つの出来事を、1つの同じコンテンツの中に共存させることが可能なのが、“ゲーム”というバケモノなのではないか。そう思います。ゲームとして焼き付けられたデータは、猛烈な反復性を持っている。しかし一方で、遊ぶ人によってまったく違うことが起こる。アクションゲームなどはその最たるものですが、たとえアドベンチャーゲームであったとしても、遊んだ人すべてが同じタイミングでコマンドを選択することなどありえない。ありえないのに、同じ共通体験を成立させてしまう。さらには、『デモンズソウル』のように、非同期という同期性までをも達成してしまう。すげえなあゲーム、と改めて思うのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.630』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2017年1月12日
■定価:694円+税
 
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