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2017年4月8日(土)

【電撃PS】高橋慶太氏のコラム『電撃ゲームとか通信。』全文掲載。水口哲也さんといい話ができたこと

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している高橋慶太氏のコラム『電撃ゲームとか通信。』。ゲームデザイナーとしての日常や、ゲーム開発にまつわるエピソードを毎号掲載しています。

『電撃ゲームとか通信。』
『電撃ゲームとか通信。』

高橋慶太氏PROFILE

 バンダイナムコゲームス(現BNE)時代に『塊魂』、『のびのびBOY』を制作。その後『Tenya Wanya Teens』を発表。現在は新作『Wattam』と、GoogleのARプロジェクト“Tango”向けに『WOORLD』を開発中。

 この記事では、電撃PS Vol.635(2017年3月30日発売号)のコラムを全文掲載!

『電撃ゲームとか通信。』

第八十九回:なが…い時間を隔てて水口哲也さんと再会していい話ができたこと。

 どうも。おかげさまで前回のコラムにも書いた新作Romantic’s Quest Tシャツがなかなか好評でして、そろそろゲームデザイナーじゃなくてTシャツデザイナーに転職すべきではないのかと考えている高橋です。

 今年のGDCのちょうど中間ポイントである水曜の夜に行われたThat.Partyというインディーゲームも楽しめるパーティー会場にてオンラインに先駆けて販売されました。自分自身も買ってくれた人にお礼を言うために、パーティーが始まった夜7時くらいから販売ブースにて常時待機しておりました。Romantics Tシャツシリーズは、Fangamerというゲーム関連グッズを制作/販売している会社と、あとは友人でもあるBrandon Boyerが運営するVenusPatrolと自分の3組で一緒にやってきています。その日はFangamerのみんなが直接プリント工場から刷り上がりホカホカのTシャツ約120枚を持ってきたんだけど、日をまたぐ前に完売しました。

 120枚と聞くとそんなに多くない感じではあるけど、目の前に置かれると結構な量。しかもアメリカなのでLやXLが多い。XXXLも数枚ありました。「余るかもなあ」と弱気にはもなりましたが全然そんなことなかった。ウェブで販売する分も、特に黒地に黄色→緑色グラデバージョンの初回プリント分がほぼ売り切れで、いま追加で印刷発注しているところです。過去のRomantics Tシャツと比べてもなかなかの評判ではないかということで、ホッと胸を撫で下ろしております。

 そして、販売ブースに立ち寄ってくれたゲーム業界の知り合い達と久しぶりの再会も楽しみつつ、Sokpopというオランダのインディーゲームグループのメンバーの1人と初めてオフラインで会うことができたり(“ScreenShake”という今年2月にベルギーで行われたゲームイベントでの彼らの企画をちょっと手伝った)、あの『Monument Valley』のアーティスト/デザイナーであるKen Wongさんと初めて会うことができ、お互いのここでは言えない共通の悩みについてちょっと語り合えたりと、少しではあるんだけど楽しい時間を過ごすことができました。

 このThat.Partyが自分のGDC2017のほぼ全てであるんだけど、もう1つちょっとした催しが。それは、水口哲也さんと上田文人さんとの食事会。当初は2人だけでの予定だったところに無理やり自分をねじ込んでもらった形で実現したこのドリーム夢ディナー。実は上田さんとはその日の昼飯を一緒に食べていたので(仲良しか)、食事会では隣に座らせてもらった水口さんとずっと話してました。

 水口さんと直接会うのは2005年にあったフランスでのイベント以来、というくらいスーパー久しぶりの再会。と言っても、それ以前に水口さんと直接会って話したのはたった1、2回だけだったと思う。そしてその中の1回が、以前このコラムで書いたかもしれないけど『塊魂』の本制作が始まる前に(2001年あたり)、渋谷にあった当時の水口さんの会社であるUnited Game Artists(以下UGA)に訪問した時。当時のUGAには飛ぶ鳥を落とす勢いがありました。『スペースチャンネル5』と『Rez』の“やりたいことをやってる感”には刺激を受けました。

 最近ではVRによる『Rez Infinite』、特にAreaXが話題になってるけど(まだ遊んでない)、自分的には『スペースチャンネル5』のリズムに合わせて振りを覚えるメカニックはすごくよくできてる、ということを水口さん本人にも伝えることができて満足。音ゲー/タイミングゲーの元祖である『パラッパラッパー』はもちろん画期的だったけどゲーム的にちょっと難があった。チャンネル5は、所謂音ゲーにあるようなUIではなくキャラのポーズと、リズムやテンポ感で進めていくメカニックがとてもわかりやすく秀逸。ちょっとこんな長いフレーズ覚えられないー、って思うけどちゃんと覚えやすいようにつくられてるのがすごい。

 と、話を元に戻すと、元上司の尾崎さんが水口さんと知り合いだったようで、デザイナーとしても絵描きとしてもゲームをリリースしたことがないのに『塊魂』のディレクターになることになった自分と、家庭用ゲーム機をつくった経験がないプロデューサー尾崎さん(結果的に尾崎さんは塊の本開発が始まる前にナムコをやめちゃったけど)、というお馬鹿2人組が、水口さんから何か家庭用ゲームづくりの秘訣とか教えてもらう為にUGAに訪問したのです。

 ま、当時水口さんが何を話してくれたかあまり覚えてないですけど。そして自分の記憶が正しいなら、やっぱり、この時と2005年のフランスの計2回しか会ってないはず。案の定フランスで何を話したのかも全然覚えてないけど、そこから12年後の2017年にサンフランシスコのスペイン料理屋で普通に違和感なく話せたことが不思議で楽しかった。水口さんも上田さんもGDCのチョイスアワードに『Rez infinite』と『人喰いの大鷲トリコ』がノミネートされていたんだけど、共に賞はとれなかったということでこの食事会は残念会でもある、というのを飲みながらようやく気づくくらい、誰も気にしてなかった。

 おそらく水口さんも上田さんも、他のゲームとは違うゲームをつくろう、なんてことは思ってない。自分がやりたいことが結果的にちょっとだけ違ったものであった、というだけなはず。それが時には周りに迷惑をかけたり、セールスに響かなかったりと、良いことも悪いこともあったと思うけど、結果的には彼らにしかつくれないゲームができて、しかもそれが素晴らしいものなんだから、すごいです。

 自分もTシャツに入れ込んでる場合ではないな、と思った夜でした。

(C) Keita Takahashi

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.636』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2017年4月13日
■定価:694円+税
 
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