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2017年4月15日(土)

【電撃PS】SIE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。テーマは“伝説の夜明け”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.635(2017年3月30日発売号)のコラムを全文掲載!

第104回:伝説の夜明け

 3月3日、遂に“Nintendo Switch”が発売になりました! さっそく同時購入した『1-2-Switch』を同僚や家族と楽しく遊んだわけですが、さて、当然メインのお目当ては『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』です。もうね、まさに寝る時間を削って遊んでいます。今流行りのノリで言えば、空前絶後のぉぉぉ、超絶怒涛の面白さぁぁぁ!!という感じ。まだまだ中盤より手前だとは思いますが、今回はそんな『新ゼルダ』を通して、感じたことを書きたいと思います。

 感じるポイントはたくさんあるのですが、まず1番大きいのはその自由度の高さ。自由度が高い、というと、プレイヤーのやりたいことが何でもできる、と思いがちですが、反面ゲーム側の導きが薄すぎて、何をどう遊んでいいかわからなかったりするケースも多くなります。それが今回のゼルダは、素晴らしくバランスがいい。これまでのように、物語の進行とともにアイテムをゲットし、それによって行動範囲が広がっていくという感じではありません。行くところに行けばモノはある。そして行くところに行く手段は、基本的にチュートリアルフィールドを越えた時点でプレイヤーにすべて持たされています。

 たとえば、いつもならイバラを燃やさないと入れない洞窟があった場合、当然火を手に入れてから、となるようなところにも、高いところから降りれば入れます。そもそも、そこらへんに落ちている木の枝に焚火をかざせば、最初から火を持ち歩くこともできる。要は、行けるところに行けた時点で、手持ちの能力やアイテムで状況を打開できるように作ってあるわけですね。そしてそれを成立させているのが、とてつもない“広さ”のフィールドです。フィールドの広さが尋常じゃなくなると、持っている能力とそれを使う場所との距離的な関連性が薄くなります。関連性が薄いので、プレイヤーにとっては色々と試そうとする余地が生まれる。そしてしっかりと、やったことに対する解が何らか用意されているのです。これ、経験に裏打ちされた検証と、そして大きな“覚悟”がなければ到底辿りつける境地ではありません。

 また、ゼルダの代名詞といえば、特にナゾトキにおいて得られる「これに気付いたオレ偉い!」という達成感。多くの人が解けるからこんなに人気のシリーズになっているわけですが、それでも毎回、「さすがにこれに気付いたのオレだけだろ~」という快感があちこちに散りばめられています。これまでのゼルダは、大きくはフィールド探索と、“神殿”という名のダンジョンで構成されていましたが、今回その神殿成分は低めで、その代わりに“祠”と呼ばれる、いわばサードパーソンビューパズル要素の濃い場所があちこちに配置されています。広いダンジョンを右往左往して場所と場所の位置関係を紐づける苦労がなく、よりピュアに、“謎を解く”ということに特化した多数のダンジョンが用意されているわけです。

 これがまた、悔しいくらいによく考えられたパズルになっていて、ダンジョン部分をナゾトキに絞った分、その達成感で気持ちがリフレッシュされ、祠から出たときにまた大きなフィールドを散策するテンションに戻っている、という構造が実現されているのです。

 あと、これも自由度に繋がっている要素なのですが、とにかく今回は“縦の遊び”が充実しています。“縦の遊び”とはそのままずばりで、山や崖を、体力の限りどこでもどこまででも登ることができる、というものです。ゼルダのこの“縦の遊び”のどこがすごいかというと、遊び始めてしばらくすると、フィールドを歩いていて登りたい崖を見上げただけで、自分の現状の持続力から類推し、「ここなら登れそう……いや、ちょっと無理か」というような判断が、なんとなくできるようになることにあります。状況に対する判断が、数値化されたゲーム的な情報ではなく、見た目の感覚として“自然に”行えるようになっていくわけです。それによってプレイヤーは、ゲーム側に誘導されるのではなく、“自分の判断”で、移動を決行したり諦めたりするのです。

 ゲームは、ルールの集合体です。しかし、ルールの集合体であることだけでは、魅力的なビデオゲームにはなりません。優れたビデオゲームであるためには、ルールと、それを内包するための“世界”が必要です。ゼルダに先駆け3月2日に発売となった、完全新作の『Horizon Zero Dawn』。以前、制作を担当したゲリラゲームズを訪問した際、チームの方からこんなことを聞きました。『Horizon Zero Dawn』には数々の部族が登場するのですが、もちろんそれぞれの部族ごと特徴がある。そしてその特徴は、縄で木と木を結ぶ、その結び方にまでもちゃんと設定がされているのだそうです。衣装や髪形、タペストリーなど、オフィスの壁一面に貼られたアートワーク一枚一枚に、深く深く考えられた世界が存在していたのです。

 シリーズを通して遊びを進化させてきた『ゼルダの伝説』と、海外のスタジオがまったく新しい新規タイトルとしてこれまでの経験を結実させた『Horizon Zero Dawn』。どちらにも紛れもない“世界”がある。まさに、新たな伝説の夜明けを見る思いでいっぱいです。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.636』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2017年4月13日
■定価:694円+税
 
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