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2017年4月29日(土)

【電撃PS】SIE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。テーマは“ヒントでピント”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.636(2017年4月13日発売号)のコラムを全文掲載!

第105回:ヒントでピント

 先日、“下北沢謎解き街歩き”というゲームを体験しました。ビデオゲームではなく、大流行“脱出ゲーム”の仕掛け人、今をときめくSCRAPさんが主催する謎解きイベントです。キットに記された数々のヒントを元に東京は下北沢の街を散策し、ときには細い路地を通りお店を見つけ、看板に隠された謎を解き明かしたりしながら楽しむ、すごくよくできた街歩きゲームでした。これを、『無限回廊』の鈴木プロデューサーや、『TOKYO JUNGLE』ディレクター、株式会社クリスピーズの片岡陽平君らと楽しんだのです。途中、別途鈴木プロデューサーがお誘いしていたバンダイナムコエンターテインメントの若手チームに追い越され、やっぱ若いってすごい、と自分の老いを感じたりもして……。

 SCRAPさんとは以前、PlayStation CAMP! で手掛けた『箱 -OPEN ME-』というゲームでコラボレーションさせていただいたこともあるのですが、とにかくアイデアの瞬発力がすごい。『箱 -OPEN ME-』は、『ポケモンGO』で一気に浸透したAR(拡張現実)を使ったゲームで、PS Vitaのカメラを通してテーブル上に置いたマーカーを見ると、そこに得体の知れない箱が現れ、タッチデバイスを駆使しながらその箱を空けていく、という一風変わったゲームでした。これが脱出ゲームとの相性がすこぶるよく、SCRAPさん作の『箱』も大変ユニークな一品となりました。PS Storeで絶賛ダウンロードできますので、ぜひ遊んでみていただければと思います。

 前回このコラムで書いた『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』もそうですが、完成度の高いパズルには、共通したあるポイントがあります。それは、“今ある情報や手段で必ず目の前の謎が解ける”ということ。昨年の秋にリリースされた、かの『LIMBO』を手掛けたPlaydeadの新作『INSIDE』を遊んでいたときにも改めて思ったのですが、一瞬“え、これどうすればいいの?”と思うシーンに何度遭遇しても、自分が取りうるアクションと、周囲の状況をしっかりと確認をして考えることで、必ずそこに解法を見つけることができるのですね。ここで大事なのは、プレイヤーに“自分で解いた!”という達成感を感じてもらうために、決してヒント過多になってはいけない、ということ。何らかヒントを出したい、と制作者が考えたとき、1番手っ取り早い方法が“テキストでヒントを表示する”というやり方なのですが、しかしこの方法は、特に世界観を大事にしているようなゲームだと、一気に興醒めさせてしまうことにもなります。せっかく世界を描き、その情報から謎を解いて欲しいと思っているのにも関わらず、言葉でヒントを出してしまっては元も子もありません。だから、イノセントに謎解きを楽しませたいゲームは、セリフやメッセージといった“言語性”が、最初から排除されていることが多い。つまり、“言葉によってヒントが出せる余地”に甘えない覚悟を持って作っている、というわけですね。

 また、謎解きパズルでもう1つ大事なこととして、ヒントと解決場所の関連性をプレイヤー自身が紐づけられないと、一気にその謎は解けなくなる、という点があります。厳密には、“解く気がなくなる”、というほうが正しいでしょうか。たとえば、8番目に入ったダンジョンの謎を解く鍵が最初のダンジョンにある、みたいなことをしてしまうと、よほど間を繋ぐ要素をしっかりと仕込まない限り、極めて遊びにくいゲームになります。この“距離感”こそが、つまりはゲームバランスとなり、プレイテストを重ね、気づく気づかない、解ける解けないをミリ単位で調整していくことになります。これを安易に、“最初のダンジョンにヒントがあるぞ!”みたいなメッセージを表示することで解決しようとしてしまうと……さてどんなゲームになるかは言わずもがなですね。

 僕がこの、場面から類推して謎(クリア方法)を解く、ということで深い感銘を受けたゲームが、『アウター・ワールド』というゲームでした。フランスのゲームメーカー、デルフィン・ソフトウェアが作ったアクションアドベンチャーゲームなのですが、このゲーム、設定としては、科学者が実験中の事故で異世界に飛ばされ、その異世界から脱出するという内容なのですが、一切のセリフ、メッセージというものがありません。異世界に放り出された主人公を操作し、直面しているシチュエーション、敵の挙動などから“状況の打開策”を模索し実行していくというゲームで、一言で表現すると、完全なる“死にゲー”です。しかし、危機に飛び込むことが逆に解法になっていたり、敵と思っていた異世界人が味方になってくれるなどのドラマチックな展開をまったくのテキストレスで描ききっていて、死にゲーであるストレスなどいとも簡単にぶっちぎってくれるのです。まさに、自分自身のプレイで紡いでいく物語。挿入されるカットイン演出など、後のゲームにとってのリファレンスを作ったゲームでもあり、僕が知っているだけでもこの『アウター・ワールド』に影響を受けたゲームクリエイターは数多くいます。

 “謎”は、作り手が遊び手を信じていないと成立しません。僕は、そんなギリギリの信頼関係で成り立っているコンテンツが大好きなのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.637』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2017年4月27日
■定価:694円+税
 
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