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2017年5月21日(日)

【BitSummit】エヴァンゲリオン、ガンダムなどVRコンテンツの先駆者が語った制作の秘密と新たなチャレンジ

文:電撃PlayStation

 バンダイナムコエンターテインメントが昨年10月まで東京の台場で展開していたVRエンターテインメント研究施設“VR ZONE Project i Can”。こちらの施設ではオリジナルのゲームに加え、『装甲騎兵ボトムズ』や『機動戦士ガンダム』の原作アニメがあるコンテンツも登場し、好評を博していた。

 そして、今年の夏には規模を拡大して新宿で新たに“VR ZONE Shinjuku”を展開。先日、その施設で遊べる新コンテンツとして『エヴァンゲリオン VR The 魂の座』を発表したばかりだ。

『bitSummit』
▲プレイヤーを原作のヒーローにしない。一般人として参加することで凄さがわかるなどの数々の知見が披露された。

 そのようななか、“A 5th Of BitSummit”にて、原作アニメのあるVRコンテンツではどんなことが問題になり、どんな発見があったのかをテーマにした講演が行われたのでその内容をレポート。

 登壇したのはバンダイナムコエンターテインメントAM事業部のコヤ所長(小山順一郎氏)とタミヤ室長(田宮幸春氏)のお2人。後半のインタビューではVRの未来についても語っていただいた。

 “Project i Can”で目指したのは、VRのゲームを作ることではなく、VRによる体験をデザインすることだったという。振動するコクピットのような筐体を用意しつつも、そこに頼り切らない体験をデザインするのも重要で、あらゆる手段で最終的には最高の実在感を実現させたい。

 原作アニメに世界観はあるために、通常のコンテンツ制作では、どのように驚かすか、というところから考えるのに、まず世界観を構築した上で驚かす方法を考える、というように、考える順番も逆になるのだという。

『bitSummit』
『bitSummit』

 そして実際にコンテンツを作って再現してみると、アニメの世界では描かれていなかったり、都合よく作られている部分があることが判明し、それらを補完していく必要があったそうだ。

 例えば『ドラえもん』のどこでもドアで行った先でのドアの裏側はどうなっているのか。これは映画のなかで1カットだけそれが描かれているシーンがあり、参考にしたという。VRコンテンツではないが『機動戦士ガンダム 戦場の絆』というアーケードゲームでは、ホワイトベースの大きさをアニメの3倍にすることで、モビルスーツとのバランスをとったそうだ。

『bitSummit』

 制作側のほうでもアニメの世界を再現できるということでテンションが上がっていろいろな案が出るが、そもそもこのコンテンツを体験する人は初めてその世界を体験するので、原作の世界でまず何をしたいかを考え、王道の再現をまず行わなければならないという結論に。

 そしてプレイヤーを原作のヒーローにするのではなく、一般人として参加させるということ重要。これはなぜかというと、ヒーローになると、なり切れない自分に失望して実在感が崩壊してしまうのだという。

『bitSummit』
『bitSummit』

 以上のことをふまえ、講演では「多くの人がまずやりたいと思う王道体験を想像力豊かに現実解釈することで、期待を超えるギャップを作ることができる。夢が叶った! こうだったのか! と思われることで、満足感を与えるられる。」と語っていた。

 そして、講演終了後に行ったインタビューでは、さらに詳しくその秘密を聞くことができたので必見だ。

作ったコンテンツが原作に影響を与えることも! 将来的には家庭用への展開構想も

『bitSummit』
▲写真左がタミヤ室長、右がコヤ所長。

――BitSummitは初めてですか?

コヤ所長:初めてなんです! こんなにインディーゲームが盛り上がっていて熱もあるのを知って驚きました。東京ゲームショウの学生コーナーのようなものを想像していたんですが、レベルがまったく違っていて、もうすいませんでした(笑)。

タミヤ室長:朝から会場を回りましたがおもしろかったです。

――講演ではこの夏にオープンする“VR ZONE Shinjuku”のお話も出ていましたが、どんな施設になりそうですか?

タミヤ室長:台場で展開した“Project i Can”て提供したコンテンツのようなものは増強して入れるということは基本として当然あるんですが、“VR ZONE Shinjuku”自体はVRだけに限ってないんです。

 例えばプロジェクションマッピングを使ったものだったり、VR機器をかぶらなくても楽しめるコンテンツもあります。が、それも「さあ、取り乱せ」といった状態になるようなものですよ、ふふふ。

コヤ所長:詳しくはまだ言えないんですが、3メートルぐらいの吹き抜けがあったり……(ごにょごにょ)。飲食スペースや物販もありますよ!

――VRコンテンツだけではないんですね。

タミヤ室長:我々が何をやりたいのかというと、最新の技術を使っておもしろい体験、ビックリするような体験を作りたいというチームなので、幅を広げて作っています。

コヤ所長:おもしろければいろんな技術を使ってなんでもやろうというコンセプトです。

タミヤ室長:今はVRがいちばんおもしろいのでVRにどんと寄っている感じですね。

――台場のときに比べるとはるかに広いスペースなので、どんな遊びが準備されているのかわくわくしますね。

コヤ所長:台場のときがバックヤードを入れて170坪とかで、新宿は1100坪で3300平方メートルありますから、いろいろ置けますね!

――“Project i Can”が成功したからこそ、この新宿のプロジェクトに発展したと考えてよろしいですか?

タミヤ室長:台場は実験プロジェクトと言っていたんですが、お客さんの反応、ビジネス面も含めていけるのかを確かめました。“Project i Can”が成功したので、新宿につながっているんです。失敗していたら新宿で展開することはありませんでした。

コヤ所長:はい! “Project i Can”は施設としては利益が出ていて、じゃあ次にもっとお金をかけてやってみようと、会社からもゴーサインをもらいました。

――VRコンテンツをいくつも作ってこられましたが、現状のVRの問題はどこにあると思いますか?

コヤ所長:ヘッドセットとPCとセンサー機器、ここの環境から抜け出さないと厳しいですね。気軽にかけられて、ワイヤレスで、自由に歩き回れるようにならないと、普及は始まらないかなと思っています。そこまで進化すると、作るほうもいろいろとやりやすくなりますし、広がっていきますよね。

 例えば施設に入るときにVRをかけていて、施設には何もないとしても、VRの中では広大な世界が広がっているように見えるように作れるし、いろんなことができるようになりますよね。

――その世界でもやっぱり触感は欲しいですよね。

コヤ所長:“Project i Can”にあった『トレインマイスター』(運転席で電車を操作するコンテンツ)では運転席に座ってプレイしましたが、ただ映像を見て体験するのとではまったく体験が変わります。

タミヤ室長:そういう意味では、次の感覚につながる技術に期待しています。より一般の人が楽しめたり、気楽に楽しんだりできるためには、技術側が追いついてないですし、我々が作るソフトの側も知見がまだまだ足りないと思っています。

 ソフトもハードも過渡期のなかで、ビックリする体験はいちおう成立しているので、なんとか考えていきたいというのが現状ですね。これがもっと知見がたまっていくと、お客さんも増えるしビジネスにもなりますから、今はそのなかでも先に行って踏ん張るぞ、という意気込みです。

コヤ所長:今、VRは期待されていたところから失望に向かっていると言われていますが、そんなことはないです。私は1回、90年代に失望を味わっているので、あのときの記憶からするとまだまだ、まったく悲観的ではないです。我々が、そうではないよーってします!

――コンテンツ制作についてですが、アニメIPでコンテンツを作るのはどんな狙いがあってのことですか?

コヤ所長:意図していることはありまして、やはりバンダイナムコエンターテインメントといえばIPを使ってのコンテンツ制作が得意です。

 例えば他社様では『機動戦士ガンダム』だったり、『ドラゴンボール』だったり、自社でいうと『アイドルマスター』だったりといろいろなゲームを出しています。そういったなかでVRとしてどこを切り取ってコンテンツにするのか、というところを1番最初にやりたかったんです。

タミヤ室長:台場のときがそうだったんですが、IPのコンテンツを登場させると、それまでのお客さんとは違う層の人が増えていくんですね。『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』のときは年齢の高い方が来て、『ドラえもんVR どこでもドア』のときは本当に多くの女性の方に遊んでいただきました。

 ヘッドセットを付けて遊ぶというだけでも敷居が高いと思われてしまうと考えていたので、もともとのIPが持っているパワーは凄いなと改めて感じました。そういう経験から“VR ZONE Shinjuku”ではIPのコンテンツは多いですよ。

コヤ所長:そうなんですよ、あのー。

タミヤ室長:だめですよ具体的に言っちゃ!

コヤ所長:うー言いたい! 言いたい!

タミヤ室長:6月13日のカンファレンスまではだめです!

コヤ所長:うー。おもしろいのが、VRのコンテンツを女の子にやってもらうとだいたい「おもしろい!」と言ってくれた後に、なぜか「PS VR買います!」と言うんですね(笑)。

 

タミヤ室長:『エヴァンゲリオン VR The 魂の座』を発表したときもSNSでそう言っている方がいましたね(笑)。でもそれでわかるのは、大好きなものが出るのであれば購買意欲は発生しますし、わざわざ台場や新宿に行こうと思う気持ちも持ってもらえるんだなと。

――新宿ではオリジナルのコンテンツもあると思います。IPのコンテンツはその世界を再現するものですが、オリジナルのコンテンツはやりたいことを表現するものになると思います。オリジナルコンテンツはどんなものがありますか?

コヤ所長:そうなんですよ! でもそれもまだ言えないんです! オリジナルとIPのコンテンツ、どちらのほうが制作の難易度が高いかというと、IPもののほうが高いんです。例えば『エヴァンゲリオン』のコクピットはどうなっているのかを追求していくと、アニメではわからないんですが、整合性をとっていくと辻褄があわないことが多いんです。

 『ガンダム』シリーズでもコクピットは全天球スクリーンで、全方向にビームをバンバン撃ってますけど、そのときにコクピットはどうなっているのか。脚とかバーニアを吹かしてビームサーベルで斬ったりしてますが、全天球スクリーンでどう見えているのかとか、わからないことだらけなんです!

 それを研究して作り上げたときに原作の方にお見せすると「あ、こうなってたんだね」と言われたりすることもあります(笑)。

 

――それは逆に、コンテンツから原作に影響を与えることもあるんじゃないですか?

コヤ所長:『機動戦士ガンダム 戦場の絆』のコクピットを作った同時期に、アニメも制作されていましたが、かなり参考にしていただきました。

――お2人は、VR自体はこの先どうなっていくとイメージされていますか?

コヤ所長:MRになるんじゃないですかね。VRだARだ、どっちだって言う必要はないかなと。

――PCが必要ない一体型のVR機器もいくつか発表されていますね。

コヤ所長:メガネのようにかけられれば、今見えている人もアバターになることもできますよね。会議のときにいきなりスーパーサイヤ人になって部長が怒ったり(笑)。そういう世界になると姿、形、人種があんまり関係なくなるかもしれませんね。

――VR ZONE用に作ったコンテンツを家庭用に持っていく計画はありますか?

コヤ所長:もちろんあります。

タミヤ室長:ただ現段階では将来的には、としか言えないですね。ナムコのときからそうですが、まず勝ちパターンとして施設で広く展開して、好評を博したものが家で好きなだけ遊んでもらって何回も価値を見出してもらうというビジネスを昔から行ってきました。VRもどこかのタイミングでそうなると考えています。

 今、自分たちが作っているのは、体感筐体ありきのコンテンツです。酔いの防止についてはそこに頼っている部分があるので、そこがクリアできないとそのまま家庭用に持っていくのは厳しいですね。

コヤ所長:体感筐体があるから酔いは軽減できるからと、そこに頼って思い切ってコンテンツを作っています。

タミヤ室長:これまでに作ったものでも筐体がないと酔ってしまうものがいくつかあります。テストプレイでも、同じ状態のバージョンで椅子に座ってモニタでプレイしてもだめですね。

コヤ所長:振動のさせ方とか画面の振り方とか酔わないためのノウハウは弊社にはいーっぱいあります。

――ありがとうございました!

⇒“A 5th Of BitSummit”紹介記事はこちら

A 5th Of BitSummit 概要

・日程:2017年5月20日(土)、21日(日)

・時間:10:00~17:00

・会場:京都市勧業館“みやこめっせ”1階第2展示場

・入場料:一般 2,000円 / 中高大学生 1,000円 / 小学生以下 無料(2日間有効)

・主催:BitSummit実行委員会

※一般社団法人日本インディペンデント・ゲーム協会(JIGA)(Q-Games Ltd. / PYGMY STUDIO CO., LTD. / VITEI BACKROOM Inc. / O-TWO inc. / 17-Bit / Digital Development Management, Inc. / Indie MEGABOOTH)、
株式会社ワン・トゥー・テン・ホールディングス、株式会社 Skeleton Crew Studio、株式会社インピタス、京都コンピュータ学院、京都府

・制作:株式会社オリコム

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.638』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2017年5月11日
■定価:638円+税
 
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