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2017年7月8日(土)

【電撃PS】“ムサビ”での講演について語るSIE・山本正美氏のコラムを全文掲載

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.641(2017年6月22日発売号)のコラムを全文掲載!

第110回:ムサビに行ってきた!

 長年この稼業を続けていると、ありがたいことにちょこちょこと“講演”を依頼されることがあります。ゲーム系の専門学校や大学のメディア系の学部など、これまでいろんなところでお話をさせていただいてきました。

 入口としては、ゲーム業界やコンテンツ業界を目指す若者に対してゲーム制作全般のことについて語って欲しい、という依頼が多く、なので職業柄、プランニングとプロデュースの領域を軸にお話をすることになります。

 時間は、90分の講演と30分の質疑応答で、トータル2時間というのが一般的。毎回、ギラギラとした聴講生の視線を感じながら、楽しくお話しさせてもらっています。

 さて、そんな中、先日ちょっと珍しいところから講演の依頼がありました。美術大学の雄、武蔵野美術大学から、ゲーム制作に関する話をしてもらえないか、と依頼をいただいたのです。

 これまで、普通の、というと語弊がありますが、4年制大学での講演は何度かやったことがありました。が、美大は初めて。最初、仲介してくれたマーケティング担当の樋口君から話をもらったとき、「え、俺、絵心まったくないけど大丈夫……?」と聞き返してしまう始末。

 とりあえず1度依頼主にお会いしてみよう、ということで、武蔵野美術大学のデザイン情報学科、井口教授と打ち合わせをすることになりました。

 お話によると、最近、美大生が就職先としてゲーム業界を志望するケースが非常に多いらしく、いわゆるグラフィックとしてのデザインのことではなく、ゲームがどういう風に作られているのか、どういう職種があり、どういう考え方で商品まで持っていくのかといった、制作プロセスと心構えの基礎について、デザインマネジメント論という切り口で語って欲しいということでした。

 確かに、僕らのようなコンソールゲームもさることながら、モバイルゲームも含めると、ゲーム業界ってクリエイターの受け皿としては相当大きな業界なはず。1人でも多くの優れた人材に集まって欲しいわけで、それならば、ということで2つ返事でお引き受けさせていただいたのです。

 講演内容の構成としては、まずは経歴含めた自己紹介。そしてJAPAN Studioの理念や職種編成について。その後、ゲームがどういう規模感、つまり費用や期間や人数で作られているのかなどについて説明しました。という前段が終わり、僕が次に取り上げたのが、“ゲーム性とは?”ということについてでした。

 ゲーム性という言葉は、それだけで何かを伝えているようで、実は実体があまりきちんと定義されていない言葉だったりします。その割には、開発者も不用意にこの言葉を普段使いしている。ゲーム業界の話をするうえで、一番他の業界よりも優れているこの点についてまずは語らねば、と思ったわけです。

 一口にゲーム性といっても、いろんな考え方があります。インタラクションが伴えばその時点でゲームと呼べるのか、というともちろんそんなことはありません。リモコンでテレビを操作することがゲームかというと、決してそうではないですよね。

 ゲーム性によって“楽しさ”をもたらすには、ゲーム性が最小単位として何によって構成さているのか、ということをまず掴んでおく必要があるのです。

 ゲーム性の次は、“ゲームデザイン”について話しました。たぶん一般的な感覚だと、“ゲームをデザインするということ”がどういうことであるのか、あまり理解はされていないのではと思います。

 絵や造形物をデザインしたり、空間をデザインすることは、目に見えることなので分かりやすい。だから見えるデザインとして、『Bloodborne』のキャラクターやロゴデザインの変遷をお見せしたりしましたが、やはりウケが良かった。

 一方、ゲームデザインのような見えないデザインは分かりにくい。その先には“レベルデザイン”という行為も制作には必要になってくるわけで、ここは最低限しっかりと伝えなければと頑張って喋ったのでした。

 その他、PlayStation CAMP!でのアイデア会議の一例や、ゲームがどれくらいワールドワイドにアピールしている娯楽なのかという情報、グローバルに通用する創作のためには何が必要なのか、という心構えについて、きっちり90分熱く語らせてもらいました。

 質疑応答の時間が足りず、終わっても質問しに来てくれる生徒さんや、自分の作品を見てくださいとノートPCを開く生徒さんもいて、そのピュアな創作意欲に僕の方が大きなお土産をもらった気分。

 きっとそう遠くない将来、この中に制作の現場で会える人もいるのかなあと思うと、ワクワクしてしまうムサビ講演だったのでした。

『ナナメ上の雲』

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.641』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2017年6月22日
■定価:694円+税
 
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