2017年8月19日(土)
【ディバインゲート零:前日譚】日常編・“ミカのショウタイム!”~阿吽の呼吸
ガンホー・オンライン・エンターテイメントから配信中のiOS/Android用アプリ『ディバインゲート』。2017年夏開始予定として期待が高まる新章、『ディバインゲート零』のキャラクターストーリーを追っていく連載企画をお届けします。
今回お届けするのは、日常編・“ミカのショウタイム!”。DJ担当のミカが学校の後輩であるカズシを、DJ機材専門店やバイト先のお店に連れていきますが、彼女の狙いは果たして……?
日常編・“ミカのショウタイム!”
テキスト:team yoree
イラスト:藤真拓哉
「すっげー。ここにあるもの全部、DJが使う機材なんすか?」
「そうだよー。初心者用のコントローラーセットから、シンセやターンテーブル、DTMソフトやDAWまで、何でも揃ってるよー」
「初めて見るもんが多い……。使い方わかんねえし、押すとこいっぱいあって難しそうだし。ほんとにこれで演奏できるんすか?」
「もちろん練習は必要だよ。でも、慣れたらすっごく楽しいよ!」
「ああ、それはわかります。ミカさん見てたらそうですもん」
「おおっ。わかってくれてるんだね! さっすがカズシ! そんなカズシにお願いがあるんだけど、『さん』付け、やめない?」
「え、でも先輩だし…」
「いーからいーから。はい! 呼んでみてー」
「じゃあ…ミカ」
「そーそー! 苦手なんだー、さん付け。ココロは呼び捨てにしてくんないんだけどねー」
今日はカズシと一緒に馴染みのDJ機材専門店に来ている。昨日研究室でカズシにお店の話をしたら「行きたい!」っていうから連れてきた。店の中はあたしにとっては当たり前の機材ばかりだけど、カズシにとっては初めて見るものもあるみたいで、さっきから「すっげー」だの「なんだあれ」だの、うわーだのおおーだの騒いでいる。子供のような純粋な反応が初々しい。
「これ、何に使うんすか?」
そう言ってカズシはドラムマシンを持ってきた。なかなかおもしろいものを選んできたね?
「これはドラムマシンだよ」
「え、これが? 変わった形してるっすね」
「うん。でもね、ただのドラムマシンじゃなくて、これはまさに『楽器』なんだよ!」
「へ? 楽器?」
「そそ! ほら、ここの輪っかが外れてコントローラになるの。これはシンセでシーケンサーでリズムマシンでルーパーだから、ベースステーションの音源をこの輪っかで鳴らせるんだよ」
「おお! なんだかわかったような、わからないような!?」
「この輪っかを自在に使ってパフォーマンスしながら色んな音を鳴らすんだー。こんな感じでね……!」
そう言ってあたしはドラムマシンだけでなく、パフォーマンス可能な状態で展示されていた機材を使って音を出してみた。まずはメインのリズムを流さず、パッドとミキサーだけで音を出していく。
「カッケー! 自分でリズム作ってるみたいっすね!」
「でしょー!?」
続いてプリセットされたメインのリズムを適当にセレクトする。パッドを叩いてアタックを入れたり、ミキサーでエフェクトをかけたりしてみる。
「な、なんだこれ……次々といろんな音に変わってく……!」
「そーそー! こうやって音を変えて、聴いてくれる人の感情をイイ感じに盛り上げていくんだ」
徐々にパッド操作を多くして音色をメインのリズムに足していく。いつの間にかあたしたちの周りにギャラリーが集まっていた。店内だからか大げさに踊る人はいないけど、みんな小刻みに身体を揺らして応えてくれている。
「おっ? ノってきたかなー? じゃ、そろそろいってみよーかなー」
コントローラをベースから外してギャラリーの前に歩み出たあたしは、コントローラを振ったり叩いたり回したりしながら音を変化させていった。みんな気持ちよさそうにあたしの奏でる音に乗ってくれている。
最後にコントローラをベースに戻し、リズムを少しずつ緩やかに変化させ、いい感じの余韻を残しつつ即席DJプレイを終えた。
「ミカ、すげーっ!」
「ふふん。でしょでしょー」
あたしは得意げに笑ってみせた。ギャラリーの拍手が心地いいっ!
「マジですげーっす! 使い方聞いても、よくわかんなかったけど、こうやって見たらマジでかっけーっす。ああ、もっといい表現できねぇかな……」
「いやいや。カズシが喜んでくれてるのは、じゅーぶん伝わってるよー」
「楽器って言われてもピンとこなかったけど、ほんとに楽器なんすねえ……。どうしたらいいのか、やっぱり今でもさっぱりわかんねえっすけど」
「まあー、最初は誰だってそんなもんだよ。だからいっぱい練習するんだし。カズシもギターはそうだったでしょ? あたしは逆にギターのコードとか、どこを押さえたらどんな音が出るのかわかんないもん」
「ああ、そっか。そんなもんなんすかね」
「これから一緒にやっていくわけだし、DJのことももっと知ってくれたら嬉しいなー」
「はいっ! もちろんっす!」
カズシはあたしに笑い返したあと、ドラムマシンを元の場所へと戻しに行った。そしてまた隣に置いてあるシーケンサーを見て、不思議そうに触り始めた。
「わ! 音が出た!」なんて声が聞こえてくる。楽しそうでよかったよ。
ちょっと予定外な過ごし方をしてしまったけど、あたしはここに来た目的を思い出して用事を済ませに行った。今日この店に来たのは、調整をお願いしていたサンプラーを受け取りに来たのが目的。調子が悪くなるたびにこの店に持って来てはお願いしている。
顔なじみのスタッフからモノを受け取っていると、いつの間にか隣にカズシがいた。
「あ、それが昨日言ってたやつっすか?」
「うん。サンプラー」
「ずいぶん古そうっすね。使い込んでる感じがする」
「そうだねー。子どもの頃からの付き合いだからね」
「えっ、子どもの頃?」
「そそ。あたしにDJのあれこれを教えてくれたお姉さんから譲ってもらったの。初めてDJっぽいことをしたときに触った機材だから、いろいろと思い出深くてね。今でも大事にしてるんだ」
「へえ~っ。いいっすね、そういうの。運命の出会いっつうか……」
「さてと、サンプラーも受け取ったし。ねえカズシ。まだ時間ある?」
「え? ありますけど」
「ちょっといいとこ寄ってかない?」
そう言ってあたしはカズシをあるところへと連れて行った。
「Let’s have a blast!」
コノミさんの声にお客さんたちが拍手と歓声で返している。今日も店内は満員だ。
ここはあたしのバイト先、『NUTS』。コノミさんはここの店長兼メインDJ。お酒は出ないけど、音楽ならどんなジャンルでも楽しめる。あたしはここで、技術向上を目的にDJをやらせてもらっている。
「ここ、もしかして、前に言ってたバイト先っすか?」
「そそ。あれ? カズシ、こういうところ初めて? バンドやってたのに」
「いや、これくらいのハコなら慣れてますけど……そうじゃなくて、俺が気になってんのは……」
ん? なんだかそわそわし始めたぞ?
「なんか、男、いなくないっすか?」
「あー! そっか。ごめんね。そうなの、ここ、『女性限定』なの」
「ちょっ。俺、どうしたらいいんすか!」
あー。だからそわそわしてたのか。
「大丈夫大丈夫。もちろんきみは裏に通すから」
「なんだ。良かった~……」
カズシは心底安心した様子でほっとしている。まあ、いきなりこんなところ連れてきたらね。ごめんごめん。
あたしは裏口へと回り、カズシをスタッフルームに連れて行った。そして店長のコノミさんに紹介すると、お客さんからは見えないDJブースの裏に座ってもらった。どうしてカズシを連れてきたかというと、さっきの店でDJのプレイングについて興味を持ってくれたみたいだから、近くで見せてみようかなって思ったのと、もう一つ。試したいことができたから。
「悪いけどここで見てて、カズシ」
「はい。全然、特等席っす!」
「じゃ、店内温めてくるねー」
そう言ってあたしはDJブースに向かった。
「コノミさん。代わります。それと……」
コノミさんの傍に寄って耳打ちする。あたしの提案にコノミさんは二つ返事で承諾してくれた。
「さあてと。今日もノンストップで盛り上げていくからね!」
あたしは使い慣れた機材に曲のデータが入ったチップを差しこむと、一曲目を流した。お客さんは総立ちで、ドリンク片手に踊る人や、こっちを見て一緒に盛り上がってくれる人などで溢れている。やっぱりこの瞬間がすっごく好きだなー。曲が終わるタイミングで即座に別の曲に切り替えてプレイを続行する。またフロアから歓声が沸き上がった。
「すげえ……。これがミカの本当の力……」
熱を帯びた目でカズシはずっとこっちを見てくれていた。昼間、機材のあれこれをショップで説明はしたけれど、百聞は一見にしかず。説明だけじゃなくて、やっぱり見て聴いて感じるのが一番。どんな楽器もそうだけど、DJも生で見るのが一番感動するはず。
「さーて、今日はサプライズゲストを呼んでるよー!」
フロアがいい感じに熱を持ってきたと感じたとき、あたしはお客さんに向かって言った。
「えっ、誰誰?」
「ゲストなんて久しぶり!」
「もしかしてミカちゃんとコラボするの?」
「その通り! 実はあたしも二人でセッションするのは初めてなんだけど、絶対おもしろくなるはず! 楽しみにしてて!」
お客さんたちは期待のこもったまなざしでこちらを見てくれている。あたしはタイミングを間違えないように、登場曲を盛り上げつつゲストの名前を呼んだ。
「I’d like to introduce you to “Very passionate Guitar Player”KAZUSHI!」
わーっ! と歓声や拍手で店内がいっぱいになった。
「えっ!? 俺!? 今、俺の名前呼んだ!?」
カズシだけがDJブースの裏で変な声を出していた。隣にいる店長がカズシを促す。
「ほら、少年。さっさとミカのとこ行って」
「ほんとに? マジで!?」
「Hey! KAZUSHI! Come here,hurry up!!」
あたしがもう一度呼びかけると、カズシはギターを手に出てきてくれた。
「ど、どうも……」
と、お客さんに手を振ったあと、あたしの方に振り返る。
「ミカ! どういうことっすかっ!」
「いいからいいから。きみのギターを聴かせてあげてよ。あたしのバックアップ付きでね。きっとおもしろくなるから!」
「そ……んな……!?」
戸惑いつつもカズシはお客さんの方に振り返ると、DJブースの前に堂々と立った。いきなりのことで驚いてたけど、ステージ慣れしてるからか、既に表情が引き締まっている。そんな姿はさすがだな、と思う。
「じゃあ行くよ!」
あたしは早速リズムループを流し始めた。カズシが合わせやすいであろう速めのBPM。カズシはすぐに流れを掴んで、リフを刻み始めた。やっぱりこの子、勘がいい。
そしてここからがあたしの腕の見せ所だ。あたしはサンプラーを使ってカズシの音にいろんな音を重ねた。あたしが煽るとカズシがノってくる。カズシが引くと、あたしが応える。あたしとの呼吸だけじゃなくて、感覚だけでフロアとの呼吸をうまく取って、お客さんのことも乗せている。即興なのにすごく一体化してる感じがする。……ほーら、やっぱりいい感じじゃん!
「試した甲斐があったよ! ありがと、カズシ!」
そうしてあたしとカズシはセッションを続けた。
セッションが終わり、大喝采があたしたちを包んだ。
「ブラボー! カズシ!」
「すごいじゃん、あの男の子!」
お客さんの喜びの声があちこちから起きている。あたしもカズシに拍手する。カズシは照れくさそうにしていたけど、ひとつお辞儀をするとこっちへ来て握手を求めてきた。
「最高の気分だったよ、ミカ!」
「うんうん! すっごいよかったよカズシ!」
「ミカのおかげっすよ! めちゃくちゃ気持ち良かった! DJってほんとにすごいっすね!」
「またしてくれる? セッション」
「もちろん!」
満面の笑みで答えてもらえた。こちらこそありがとうだよ、カズシ!
カズシが帰宅して、あたしは店長のコノミさんとスタッフルームに残っていた。
「あのギターの子、よかったよ」
「でしょでしょー」
「どこで見つけたの?」
「うん。学校でね」
「学校?」
「そ。後輩なんだ」
「へえ~……後輩かぁ。なるほど。よかったね、ミカ。あんた、最近楽しそうにしてたのは、そのおかげだったんだね」
「えっ」
「理由がわかってようやくすっきりしたわ」
「ちょ、店長。あたし、そんなに楽しそうにしてる?」
「うん。プレイにもいい影響出てるし」
「……そうだったんだ」
自分では気づいてなかったけど、あたしの中に変化があったってことなのかな。素直に嬉しい。
今度はココロたちも連れてこよう!きっとおもしろくなるよね!
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