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2017-09-03 15:15

津田健次郎さんが自身も出演する『ファンタスティック・ビースト』で映画翻訳を学ぶ

文:嵯峨山

 津田健次郎さんが教授となり、毎回気になるカルチャーを学ぶ本コラム。8月9日発売の電撃Girl’sStyle9月号では、教授も吹替に出演している映画『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(以下、『ファンタビ』)の吹替版と字幕版を担当された、岸田恵子さんから“映画翻訳”についてうかがいました。

『津田健次郎の文化ゼミナール』
『津田健次郎の文化ゼミナール』
『津田健次郎の文化ゼミナール』

 オンライン版では翻訳家になったきっかけや、翻訳で苦労することなどをさらにくわしく掲載。また『ファンタビ』に登場する名シーンや教授が吹替版を担当した、パーシバル・グレイブスの印象などからも翻訳家の仕事を深掘りしますよ! 翻訳家を目指したいという方も必見です。

字幕版と吹替版の違いについて

――岸田さんは字幕版も吹替版も担当されるそうですが、この2つの大きな違いはどこでしょうか?

岸田恵子さん(以下、岸田):まず字幕版の場合、少ない字数のなかにおさめなくてはならないので、映画の大筋くらいしか情報量が入らなかったりします。漢字の熟語にしてみたり、短い言葉を考えたりすることで苦労しますね。

津田健次郎さん(以下、津田):そうみたいですね。それを最初に知ったときは僕もびっくりしました(笑)。

岸田:100%は無理ですけど、吹替版の場合は7割8割、うまくいけば9割は作品の情報量を入れることができます。そういう意味では、吹替版の方がより細かいニュアンスをいろいろ味わえるのでけっこうおすすめです。両方見ていただけるのが一番いいのですが……。

津田:声優としてもぜひ、そこは推進していきたいです! 吹替版の場合はどういった苦労があるのでしょうか?

岸田:吹替版は役者さんが演技してくださるものなので、セリフとしてしゃべったときに自然になるように心掛けています。いかにもセリフを書きました、みたいに固くなったり、クサくなったりすると不自然なので。

津田:何度も映像を見ないとならないですね?

岸田:そうですね。しゃべっている言葉と顔、表情が合ってないとすごく不自然なので、そこは一番大事です。リップシンクといって口の開き具合とかも、ある程度は合わせてます。とくに劇場にかかる作品だとアップの時は目立つので気を付けていますね。

津田:なるほど。そこから、その口に合うような言葉のチョイスをしていくのですね。本来はこの言葉がいい場合でも、口が合わないということもありますよね。

岸田:ありますね。別の言葉で似た意味を探したり、順番を入れ替えたり、どうにかならないかなといろいろ試行錯誤しています。

津田:本当にすごく奥の深い仕事ですね……!!

翻訳家になるきっかけは?

――翻訳家になるきっかけはなんだったのでしょうか?

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岸田:昔から映画は見ていましたね。時にはお弁当を持って映画館に行って、1日3回、4回は同じ映画を見ていたと思います(笑)。字幕の内容を覚えてしまうくらいに見ていて、そこから字幕の仕事があるのだなと意識しました。

津田:それはおいくつのときですか?

岸田:中学に入った頃か小学校の高学年あたりだったと思います。

津田:早いですね! 最初に興味を持たれたのは、字幕版のほうなのですか?

岸田:映画としてはそうですね。あとはテレビでは、吹替版のドラマがたくさんやっていたのでずっと見ていました。吹替版でしか見ていなかった俳優のオリジナルの声を聞くと、イメージと違ってびっくりしたことも(笑)。

津田:確かにそういうこともありますよね(笑)。

岸田:それで映画の翻訳をやってみたいなという思いはあったんですけど、無理だろうと思って1度は普通の会社に就職したんです。

津田:そうなんですか?

岸田:はい。でもやっぱり翻訳をやりたいと思って学校に行きました。

津田:学校があるんですか!?

岸田:はい。吹替えとか、字幕の翻訳志望者が集まる学校があるんですよ。

津田:そのこと自体知りませんでした! 例えば英語以外のコースもあるんですか? フランス語とか。

岸田:ほぼ英語です。でも英語を学ぶというより、映画用の翻訳のテクニックを教えるというスタンスの学校でした。私の場合は、大学が英語系だったので、しゃべれはしないんですけど、読み書きのほうはまあまあでした(笑)。ペラペラでしょ? って言われるんですけどそんなことはないです。

津田:ええ、意外です。

岸田:もう英語を聞いた瞬間に訳さなきゃと思ってしまうので、日本語に変えてしまうんですよ。なので、英語でしゃべるのは得意ではないです(笑)。

津田:なるほど。翻訳に特化した英語脳なのですね。学校で勉強されたあとは、すぐ翻訳家としてデビューできるのでしょうか?

岸田:私の場合は東北新社に入ったので、先輩に直してもらいながら実践で慣れていきました。

津田:すぐ実践なのですね!

岸田:そうですね。最初はかなり直してもらいましたけど(笑)。あとは先輩の原稿を逆に見せてもらったりして、あぁこうするといいのだなと覚えていく感じです。

翻訳にはどのくらいの期間がかかるのでしょうか?

――1本の作品にはどのくらいの期間が与えられるのですか?

岸田:60分のドラマは、週1本ずつ上げていく感じです。長編だと2週間くらいもらえることもあります。

津田:2週間しかないのですか!

岸田:そのペースでバンバンやっていくと、なんとなくコツも掴めてきます。

津田:わりとハードなのですね。僕の勝手な印象なのですが、吹替って情報を元にして新たに文章を作り上げるイメージがあります。ただ訳すだけとは違うじゃないですか。

岸田:そうですね、英語を直訳すると構文になるというか、感情移入しにくい文章になってしまうので、一度英語を忘れて日本語で書く形が理想ですね。

津田:一カ月くらいもらえるのかなぁと思っていました。

岸田:余裕があるものもありますけど、急ぎのものもけっこうあったり。

津田:『ファンタビ』はどうだったのでしょうか?

岸田:映画が完成する前の段階から翻訳も取りかからせていただけたので、余裕をもって取り組めました。

シリーズ作品は翻訳するのが難しい!?

『津田健次郎の文化ゼミナール』

岸田:シリーズ作品だとあいまいなままのセリフがけっこうあるんですよ。次に繋がるように。

津田:伏線ですね! 翻訳していくときは、どんな意味があるのかわからない状態で訳さなければならないんですね。

岸田:ワーナーさんに、本国のほうに聞いていただいたりしました。そこからどういったニュアンスで伝えるのか、こちらでいくつか案を出しつつ、どれがぴったり来るのかは相談して決めています。

津田:おもしろいですけど、大変ですね。

岸田:ドキドキします。次の2作目で、もし違ったらどうしようって。

津田:一番苦労を感じるときはどういう瞬間ですか?

岸田:そうですね。翻訳には正解がないことでしょうか。やってもやっても、これでいいのかな?と終わりがないのがつらいところですね。締め切りがなければ、こっちのほういいかもとかどんどん変えたくなると思います。

津田:僕も似たようなことあります。収録をして、あとで見てから「もう一回やらせてくれー」っていうときがすごくあります(笑)。

岸田:でも逆に、自分の訳がイマイチでも役者さんがすごく上手にやってくれて、すごくいいシーンになったりするので、本当に役者のみなさんのおかげです。

『ファンタビ』の翻訳で大変だったことは?

――『ファンタビ』で大変だったことありましたか?

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岸田:大変というより、一番気合いが入ったのはエンディングのシーンです。試写で見せていただいたときに、ちょっと泣けたところとかは、その感動がうまく伝わるように作らなきゃなと思いました。あと、主人公がヒロインの女性とお別れするところは、キュンとなる感じが伝わるように、力は注いでいます。

津田:2人とも奥手で、かわいらしいですよね!

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▲当初対立関係かと思われた2人の恋の行方は!?
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岸田:字幕版だとオリジナルの演技が聞けるのでそれほど(セリフに)色づけをしなくてもいいのですが、吹替版の場合は日本語だけなのでセリフを言いよどませるとか、工夫は加えています。

津田:何気ないシーンでも、じつはすごくグッとくるシーンが『ファンタビ』はいっぱいありましたよね。僕自身、吹替版で参加もさせていただきましたが、とても楽しい作品でした。

岸田:あとは、いいシーンはある程度長くしゃべることが多いので、俳優の息つぎポイントに合わせてうまく日本語の切れ目を持ってこなきゃいけないのが大変です。不自然にならないように、一番気を付けています。

教授が吹替を担当したコリン・ファレルさんが演じる、パーシバル・グレイブスの印象について

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▲MACUSA(アメリカ合衆国魔法議会)の長官で闇祓い。最高ランクの役人で最も尊敬される人物のひとり。

岸田:長官は謎な感じでしたね。

津田:最初の方から出ていましたが、ずっと謎でしたね。

岸田:本当はいい人なのか悪い人なのか、見る方はわからずに見ているので、途中まではミスリードしてもいいのかなと思っていました。

津田:こういう役ほど難しそうですね。

岸田:いかにも悪者にしちゃうのは違いますし。

津田:僕も同じですね。ミスリードしすぎて余計な意味を付けちゃうと駄目な気がしました。

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▲迫力満点のラストシーン!

岸田:ニュートラルにしといたほうが、いいキャラですよね。

津田:どっちかわかんないぐらいが多分ベストなのかな。伏線になって、じつはいい人だった、もしくはじつは悪い人だった、どっちにもいけるように振っとかないといけないような気がしましたね。

モチベーションは推しキャラを見つけること!

岸田:先ほどこの仕事に正解はないとは言いましたけど、わりとピッタリ、しっくりくるものができたときは、うれしいです。さらに吹替版だと役者さんがすごくよく演じてくれるので、やっていてよかったなって思いますけど。

津田:思い切って聞いちゃうんですけど、どうしても感情移入が、できる作品とできない作品があると思うんですよ。例えば苦手なジャンルだったりとか。そういうときは、何かモチベーションアップさせるのですか?

岸田:そうですね。得意不得意もやっぱりあるので、とりあえず出演者のなかで誰か好きな人を見つけます(笑)。役者、登場人物。そこに向けて、この人のセリフはがんばろうとかモチベーションを上げていきますね。

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▲今回の推しは、エディ・レッドメインさん演じるニュート・スキャマンダー(吹替:宮野真守)。

津田:なるほど。好きな要素を作っていく。

岸田:どこかに愛があれば、わりとやっていけるので(笑)。

津田:愛がないとやっぱり苦しい戦いになっちゃいますもんね。

翻訳家になりたいと思ったら……?

津田:翻訳家になりたいと思っている方に、今現在どういう勉強をすればいいのか教えていただけますか?

岸田:最終的には、翻訳家の学校に行くことが早道なのかもしれないんですけど、若いうちにやっておくこととしてはたくさん映画を見たり、いっぱい本を読んだり、あと漫画を読むことですね。

津田:漫画ですか?

岸田:じつは私は、漫画家になりたかったんです(笑)。漫画のセリフって、きゅっとまとまってリズムがいいので、わりと字幕に近いものがあるんですよ。長すぎず短くうまく言い当てて、ストーリーになっているので案外すごく勉強になります。あとはテレビのドラマですね。今のうちにいっぱい見ておくと、知らないうちに引き出しが増えるかなと。たぶん英語ばかり勉強していた方よりは、たくさん漫画を読んだり、映画を見たり、本を読んでいる方のほうが向いていると思います。

津田:なるほど。ビジネスの文章を訳すのと違いますからね。

岸田:正しく訳せればいいものではなく、うまく伝わることが大事なので。

津田:本当におもしろい世界ですね。

岸田:若い方たちがもっと活躍していくといいなと思います。

津田:貴重なお話、ありがとうございました。

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