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2017年8月31日(木)

『エルシャダイ』のマル秘エピソードもアリ。『ザ・ロストチャイルド』クリエイタートークレポート第1回

文:電撃PlayStation

 オカルト雑誌のライター・伊吹隼人となり、天使と悪魔と堕天使が争う“天魔抗争”を神に選ばれた“選民”として生き抜いていくPS4&PS Vita専用ソフト『The Lost Child(ザ・ロストチャイルド。以下TLC)』。

『The Lost Child』

 『エルシャダイ』の系譜を受け継ぐ“神話構想RPG”である本作の発売を記念して、本作のプロデューサー、竹安佐和記氏が運営するギャラリーエルシャダイに、竹安さんに縁のあるクリエイターがひそかに集結。

 竹安氏を囲み、『エルシャダイ』にまつわる昔話から『TLC』に対する熱い想いまでざっくばらんに語る、特別な夜となりました。今回はその様子の第1弾をお届けします。

神話構想の夕べ
~『The Lost Child』発売記念スペシャルフリートーク~

【第1弾】『エルシャダイ』回顧録、そして『TLC』へ ~『TLC』生誕の秘密に迫る~※今回お届けするのはコチラ

◆参加者:
角川ゲームス 竹安佐和記氏
(『TLC』プロデューサー・キャラクターデザイン)

株式会社Groove 代表 竹下和広氏
(元Ignition Entertainment Ltd.日本支店代表)

角川ゲームス 長谷川仁氏
(『TLC』開発ディレクター)

【第2弾】クリエイター同志対談 ~今、新しいって何?~

◆参加者:
角川ゲームス 竹安佐和記氏
(『TLC』プロデューサー・キャラクターデザイン)

ソニー・インタラクティブエンタテインメント 外山圭一郎氏
(『GRAVITY DAZE』シリーズ ディレクター)

【第3弾】0Gauge(竹内良太、寺島愛、プログラマ寺島博樹)×『The Lost Child』 ~こんなコラボで大丈夫か? 大丈夫だ、問題ない~

◆参加者:
角川ゲームス 竹安佐和記氏
(『TLC』プロデューサー・キャラクターデザイン)

0Gauge(ゼロゲージ)バンドメンバー 寺島愛氏
(竹内良太(ルシフェル役)代理。現在『TLC』プレイ中かつコラボ楽曲制作者)

『The Lost Child』
▲写真左から順に、長谷川仁氏、竹安佐和記氏、竹下和広氏。

『エルシャダイ』の権利取得から『The Lost Child』が生まれるまで

──まずは、本作『TLC』の企画が、どのような経緯で立ち上がったのか教えてください。

竹下氏(以下、敬称略):確か最初は、ボクが安田社長に話を持ちかけたことがきっかけだったと思います。

長谷川氏(以下、敬称略):本当に、きっかけを作られたのが竹下さんなんですよ。

竹下:『エルシャダイ』の発売後に“イグニッション・エンターテイメント・リミテッド”のスタジオを閉鎖したのですが、どうしても『エルシャダイ』を助けたかったんです。

 これは、すでにいろいろな場所で語ってきたことでもありますが、結局は竹安さんの手にIPを委ねるのが一番いいと思っていたので、1年間頑張って権利の取得に走りました。

 また一緒に、このコンテンツをゼロベースでもう一度作っていけたらいいなと考え、最終的に竹安さんに権利を譲渡できたんです。ただ、譲渡できたとはいえ、そのあとはどこかの会社と組まないとゲームが作れない。そのとき、角川ゲームスの安田社長の顔が、頭にバーッと浮かんだんですよ。

長谷川:そこが不思議なのですが、なぜ最初に弊社の安田の顔が頭に浮かんだのですか?

竹下:スタジオを閉めたあと、一時期『エルシャダイ』の権利をいろいろなところに持ちかけていた時期がありました。そのときに、もしかしたら角川ゲームスさんは『エルシャダイ』を手掛けるのに最適な会社かもしれないと思ったんです。

 それで、安田社長のことが頭に浮かんだんですよ。当時、ブリーフィングにも参加して角川ゲームスのラインナップを見ていたのですが、この題材をうまくコンテンツ化してくれそうでした。だから、権利を取得してからすぐに安田さんにお会いして「エルシャダイにご興味はありますか?」と尋ねたら「ある」とおっしゃっていただけて……やはり、そういう意味では安田さんの存在が重要ですね。

長谷川:確かに、安田がいやだと言ったら『TLC』は成立してないですから。

竹下:時期としては2011年に『エルシャダイ』のゲームを出して、2012年7月31日にイグニッションのスタジオを閉鎖したので、そこからわりとすぐでした。権利が移動してから、すぐに『TLC』の企画は動いています。

『The Lost Child』

──ということは、竹安さんが“神話構想”の活動をされていたのと同じ時期に、水面下で動いていたんですね。

竹安氏(以下、敬称略):ええ、そうです。『TLC』の立ち上げに関しては、本当に申し訳ないくらい何も関わっていなかったので、竹下さんにいろいろとご助力いただけたのが大きいと思います。

竹下:自分は、一点「一緒にやりませんか?」とご提案をしただけですよ。そういう意味では、このコンテンツに繋がってよかったと思っています。そのあとは、長谷川さんが大活躍していますね。

長谷川:最初に、企画がボクのところに降りてきたときは、安田から「『エルシャダイ』って知ってるか?」「『エルシャダイ』で何かできないか?」という2点だけを言われたんですよ。いきなり、何言ってるのか意味がわからないじゃないですか(笑)。

 そのあと、竹下さんとお会いしていろいろとお話をさせていただき、竹安さんを紹介してくださるということになり、竹下さんを交えてお会いしました。そこから、あっという間にプロジェクトが立ち上がりましたね。

 お2人とはこの仕事で初めて関わることになったのですが、竹下さんと話をしていたら、もともとSNKでネオジオのソフトを売られていた方だったので、話が合ったんですよ。竹安さんも、コンシューマーで『零』シリーズのデザイナーをされていたと聞いて……。

竹安:長谷川さんが『零』シリーズの1作目でデザイナーを担当されていて、自分は4作目のデザイナーだったんですよね。

長谷川:「なんだ、同じシリーズを担当していたんじゃないですか」という話になって、そこから一気に距離が縮まったのを覚えています。

 そうそう、竹安さんがいいなと思ったのは、この人は騙そうとしないんです。こういうIPがあるので、一緒にやりましょうと誘うと自分のやりたいことばかりを被せてくる人が多いのですが、竹安さんは一番最初に「『エルシャダイ』はエンジンを多く使っていて、これを継承して使おうとするとライセンスや資金面など、いろいろと大変ですよ」という話を先にしてくださったんです。

 最初に『エルシャダイ』というIPのよいところと、取り回しがしづらいところを全部教えてくれたので、“別のアプローチで行く”という選択ができたんですよ。

『The Lost Child』

──単純に『エルシャダイ2』という作品にならなかったのは、そういう理由があったのですね。

長谷川:それも、別の方向で行こうと決めた理由の1つです。今回、竹安さんが考える神話構想という企画のスピンアウトとして作ることになったとき、世界の根っこの部分を積極的に提案してくれたのが竹安さんでした。

 こちらも企画案をいくつか出したのですが、角川ゲームスがダンジョンRPGに定評あるエクスペリエンス社と『デモンゲイズ』いうダンジョンRPGを手掛け、ご好評いただいていたことと、天使や悪魔、堕天使というモチーフがあったことを踏まえて考えた結果、一味違うRPGとしてのゲーム性を軸に、竹安さんが構築した『エルシャダイ』を含む神話構想の一端を新たに生み出す方向に落ち着きました。

 竹安さんからは「それならば、角川ゲームスのIPとしてしっかり立てていったほうがいいですし、自分としてもぜひ協力したい」とおっしゃっていただいて、今の世界観になっていった流れです。西新宿のカレー屋さんで竹安さんから紙を1枚いただいて、こういう世界観はどうでしょうと提案してくださったのは、今でも覚えています。

 それが、『TLC』を構築する世界の一番根っこの部分です。現代をベースにムー大陸とクトゥルフ神話を重ね合わせて、新たな神話構想の世界を作ろうという起点から、膨らませていった形ですね。

──なるほど。最初に竹安さんが種を提示して、それをもとに長谷川さんがゲームとしての形を作っていったんですね。

長谷川:そうです。ただ、本作で取り扱っているモチーフとしての天使や悪魔、堕天使は、神話構想上だとどういう位置づけなのかに関しては、竹安さんじゃないとわかりません。

 一般的にはこういう解釈だけど、竹安さん的にはどういう位置づけなのか? ということの点検や、アドバイスをしていただきながら進めていく形でした。そうした部分をひっくるめて、一緒に作っていった感じはありますね。

──ちなみに、竹下さんは『TLC』が今の形のダンジョンRPGというゲームになると聞いて、最初はどう思われましたか?

竹下:ツールやエンジンの更新など難しい問題もあって、絶対に『エルシャダイ2』にはならないだろう、というのは最初から思っていました。ボクたちが丸3年かけて作りあげた『エルシャダイ』は、非常に多くのことが凝縮されていました。だからそれをコピーして、かつ正統進化させようと思ったら、かなり難しいんですよ。

 それができないのであれば、一番最適な形になればいいと思っていました。そのあと「『デモンゲイズ』のようなダンジョンRPGをベースにする」とお話をお聞きして、それならいいかなと。

 竹安さんが取得された音源や神話構想の世界が、いい形でブレンドされて混ざり合い、ちゃんとしたRPGの世界として成り立つという予感はあったので、企画を聞いたときは安心しました。むしろ心配だったのは、ちゃんとゲームが完成するのかどうかだけでした(笑)。

 ちょっと話は変わってしまうのですが、『エルシャダイ』は、竹安さんがイグニッション時代に種をまいて育み、紆余曲折ありましたが最終的にUTVというインドの映画会社の資本がついて完成しました。会社がなくなるという結果はどうであれ、あのコンテンツが生まれました。

 コンテンツが生まれる、ということはとても素晴らしいことなのですが、その一方で、竹安さんに『エルシャダイ』の権利を渡せないと今後関連作品が世の中に出てこない、という危惧もありました。

 じつは、『エルシャダイ』の権利は一瞬だけある米国の大企業に移ったんです。その様な会社が、ほかのゲーム会社にIPを売却したというお話はまずないので、権利を取得できたということは、非常に奇跡的なことだったんです。

長谷川:そうですよね。権利を買えなかったら、今『TLC』は世の中にないですから。

竹下:たらればで言えば、『エルシャダイ』は“これをやっていなかったら世の中にでていない”ということがたくさんあるタイトルなんです。だから、最終的に安田さんが「『エルシャダイ』のIPを利用して何かやろう」とおっしゃってくださって安心しました。そして、ボクとしては見届けるのも今日が最後かな、という気持ちがあります。

長谷川:あら? 辞めちゃうんですか!?

竹下:もちろん、業界からサヨナラするわけじゃないですよ(笑)。ただ『エルシャダイ』は、今日、この日をもって見届けようと思っている、ということです。

 『エルシャダイ』が『TLC』になり、これからも続編や別の形でどんどん成長していってくれたら、と思っています。ただ、ボクはボクで、竹安さんとはまた別のことをしようかなと考えているんですよ。この間も電話で1時間ぐらいしゃべりましたし(笑)。

竹安:いや、普通に日常会話をしゃべっているだけなんですよ。もう、お互いに付き合いも長いので(笑)。

竹下:2人で何かができたらいいね、と思っているのですが、それはゲームじゃないものになるかもしれません。

長谷川:ルーツでいえば、竹下さんが切り込んで種を植え、そこを竹安さんが最初に発芽させるところに行き着くじゃないですか。お互いに、こういう役割で行こうという話をしていたんですか?

竹安&竹下:いや、まったくないです。

長谷川:じゃあ、今回の『TLC』も、竹安さんはあとから「ああ、竹下さんが角川ゲームスに話を持って行ったんだ」と聞いた形になるのですか?

竹下:そうですね。竹安さんがこの会社じゃなければいやだ、というのもなかったですし、ボクも必死でした。せっかく竹安さんに権利を譲渡できたのに、仕事がなかったら元も子もないじゃないですか。ただ、欲を言えば、今回も一緒に作りたかったという思いはあります。

 ただ、自分もちょうどいろいろあってできなかったんですよ。とはいえ、ボクが入るか入らないかは重要じゃないんです。俯瞰して見ていると“あ、これは自分がいなくてもちゃんと動いていくな”とわかったので、いったんステップバックして見ていよう、と安心しました。

『The Lost Child』

竹安さんと“神話構想”

──竹安さんご自身は『TLC』を作ると決めた時期とほぼ同時期に、いろいろな神話構想を手掛けられていましたよね。ユーザーの見方としては、漫画や小説などの神話構想作品を経て、今の『TLC』が出た流れにも見えるのですが、竹安さんとしては同じ神話構想作品として同時期に作っていた作品ということになるのでしょうか?

竹安:ええ。ボクのなかでは『エルシャダイ』という種を踏まえて、角川ゲームスさんと作り上げた神話構想の1つという位置づけです。

長谷川:漫画や小説など、同時にいろいろ出してますからね。そのメディアミックスの1つがゲームだった、と。

竹安:コンテンツはなんでもいいんですよ。むしろ、新興宗教になって、最終的に神話構想が神話になってもいいかなって(笑)。

 コンテンツの形式にこだわっていないのは、最近のエンターテインメント自体が、ジャンルがよくわからない世の中になってきているじゃないですか。面白ければなんでもいい、という風潮になっている。だから、『エルシャダイ』を出すころには形式に対するこだわりはなくなっていました。

──言われてみれば、神話構想というコンテンツ自体、どんなジャンルにもなれる可能性を秘めてますよね。

竹安:正直、パッと見てすごくわかりにくいことをやっているのではないか……とも思っています。ちなみに、今もいろいろと神話構想関連の作品を作っていて、先日もネフィリムセブン(※『エルシャダイ』に登場するキャラクター“ネフィリム”が結成したバンドのこと)の デビュー曲にして、神話構想 RPG『The Lost Child』発売記念シングル『Seven Dolls』をリリースしました。

 今も、毎日神話構想のチェックが来ていて、ああしたい、こうしたいというヒマがないくらい忙しいです。本当に、偉そうなことを言えるような余裕はないですね(笑)。

長谷川:そんなに忙しいのは、いいことですよ。

竹安:どうなんでしょう。自分って、あまり、こだわりがないんですよ。よく「エルシャダイを作るような人だからこだわりが深そう」と言われるのですが、そうじゃないんです。基本はオーダーに応えるというスタンスなんですよ。

 『エルシャダイ』は、もともと見たこともないものを作って欲しいというオーダーだったので、じゃあ誰にも作れないような世界を作ろうというのが始まりでした。それも、オーダーに応えた結果なので、“自分の世界を構築してやる!”という気持ちは微塵も抱いたことがないです。

『The Lost Child』

──確固とした揺るがないこだわりや核があるというよりも、いろいろな可能性を広げていったのが“神話構想”ということですか?

竹安:そうです。当時『エルシャダイ』を終わらせるのがもったいないと思っていて、ボクのほうでどうにか続ける方法はないかと考えて生み出したのが“神話構想”というものでしかないので、なかなか難しいんですよ。

竹下:とは言っても、竹安さんは『エルシャダイ』の開発中から神話構想の話はしていましたよ。

竹安:それは、続編を作れない可能性があるのならオムニバスで広がっていく世界を作ったほうがいいと考えていたからですよ。

長谷川:おもしろいですね。神話構想ありきで『エルシャダイ』が生まれたのではなく、『エルシャダイ』があったから神話構想が生まれた、と。

竹安:入口はそうです。もともと『エルシャダイ』は全9章設定で作っていたのですが、それはさすがに難しいということになったので、だったら形を変えて鞍替えをしてあげればいいのではないかと思ったんですよ。

──それが功を奏してますよね。結果的に、IPとしては単純な続編よりも、今の神話構想のほうが広がる可能性のあるものになったと思います。

竹安:今のユーザーは、ナンバリングがいやいだと思っているんです。2や3といったナンバリング作品が発売されても、まず1をやらなくちゃ、と思ってしまいますから。

 それに今は、ナンバリング作品であっても、“前作を遊ばなくてもいい”というのがいい入口じゃないですか。だから、『エルシャダイ』の続編にもあまり興味がないんです。

 リブートなら興味があるのですが、もう、小説を書いてストーリーも終わらしてしまったので……。当時の環境や人員、できることも含めて、『エルシャダイ』に関しては周囲が思っている以上にやり切った感があります。

長谷川:逆に、次は神話構想でこういう作品にチャレンジしたいという野望とかってあるんですか?

竹安:自分はずっと神話構想をやっているので続けるつもりでいるのですが、一緒にやってくれる人がいたら一緒にやりたいですね。

 今回、角川ゲームスさんが思い切ってRPGにしましょうとおっしゃっていただいたので“それならこうしたほうがいいのでは?”という草案を書きましたし。自分から断ることってあまりないんですよ。

──例えば、今後、神話構想の格闘ゲームやシューティングゲームが出ることも十分あり得るということでしょうか?

竹安:はい。大喜利のようにお題をもらっている感覚しかないので、格闘ゲームならこうしたほうがいいのではないですか、とご提案します。もしかすると、自分はアイデアマンになりたいのかもしれません。アイデアを出すのが好きなんですよ。

長谷川:竹安さんって、どうしても『エルシャダイ』の人というイメージが強くて、あのゲームは相当なこだわりと美術センスで作られたように見えたんですよ。

 それというのも、ものすごくチームへの共有や指示が難しそうなゲームだと思ったんです。ある場面では別のルール。また別の場面では違うルールと、その瞬間を一個一個作っているようなゲームだったので、すごいこだわりのある人なんだな、というのが最初の印象でした。

 でも、実際に会ってみたら、モノづくりに対するこだわりはすごくあるのですが“こうじゃなきゃいけない”というこだわりはない方なんです。

竹安:『エルシャダイ』の時は、自分より才能がある人をスカウトして作っていたので、才能がある人を最大限に生かせる場を作るのが自分の仕事だと思っていました。

 よく、ディレクターになると自分の感性を浸透させたいという人がいるじゃないですか。自分はそういうタイプのディレクターじゃなくて、憧れている人を連れてきて、その人を生かせる環境構築をずっと考えていました。

長谷川:そうか。クリエイティブとマネジメントの両方をしていたのですね。

竹安:今でも思い出すのは、スタッフに「どうやって作ったらいいのですか」と言われたので、「ほかの会社でできない好きなことをやってください。ボクがまとめます」と答えたことですね。

 それで、自由に上がってきたものを見て、たとえば「暗い中にいきなり光が入ってくると目がチカチカしてしまうので、光の入るラインをもう少しあとにしてください」と言ったアドバイスや、つじつま合わせをずっとやっていました。

長谷川:ああ、言われてみれば、確かに、神話構想自体がつじつま合わせみたいなところがありますね。

竹安:そうです。神話って、ある意味でリアルだなと思うのが、調べていくと最終的に行き詰まるところがあるんですよ。どんな神話もおかしなところが出てくる。それを時の権力者や偉い人たちが歴史画などでつじつま合わせをしているんです。

 だから、神話はつじつま合わせをがんばっているものなんだと思っています。今はエンタメが進んできたので、つじつま合わせに感動が載ってきたじゃないですか。服従するのではなくて、共感する方向になっているんですよね。

長谷川:でも、竹安さんのつじつま合わせは、一般的なつじつま合わせとは違うと思います。まったく違うことを考えて無理やりつなげるのではなく、発想の発端が同じところから出てるんですよ。

 『TLC』の早期購入特典に“神話構想記”という冊子があるのですが、あのなかに『エルシャダイ』と『TLC』のつじつまを合わせている小説が収録されているんです。

 あれも無理やり繋げているのではなく、もともと、根っこの部分を竹安さんが掘って考えていたので、先天的につじつまが合うようになっていたと思うんですよ。

『The Lost Child』

竹安:そうかもしれません。神話構想記の小説はゲームが完成してから書いたんですよ。自分は、できあがったものをデコレーションしてつじつまを合わせていくことに執着しているので、ボクの一番いいところが出ていると思っています。

──つじつまを合わせるという意味では、『TLC』本編の最終的なチューニングも、竹安さんがいろいろと監修されたのでしょうか?

竹安:はい。最後はいろいろとわがままを言って聞いてもらったので、そうなったのではないのかなと思っています。

絵描きとは呼ばれたくない竹安さん

──竹安さんは、同じ角川ゲームスの『GOD WARS(ゴッドウォーズ) ~時をこえて~(以下GW)』にも関わられていますが、あちらも『TLC』がきっかけで関わられたのでしょうか?

竹安:いえ、『GW』は、自分が描いた『餓鬼三十六鬼』という絵本を安田さんにプレゼントしたのがきっかけです。これでデザインしてほしいとオーダーされたので、そこから作りました。

 ずっと和の絵を描きたかったので『GW』は描いていて楽しかったです。ただ、よく「こういう和風の世界を作ろうと思っていたのですか?」と言われるのですが、そんなことは全然ないんですよ。

 こういうギャラリーを開いていながら変なことを言うのですが、ボクは昔から絵描きと言われるのがすごい嫌なんです。どちらかというと、文章のほうが好きですね。

 絵は、その瞬間しか描けないですし、伝えたいこと以上に技術力やクオリティが問われるじゃないですか。でも、文章なら1ページでものすごく幅広い時間軸を描ける。

 だから、神話構想のように大きな世界を描きたい人間にとっては、一度に長い時間軸を描ける文章のほうがあってるんですよ。漫画も同様に時間軸の進み方が遅いので、ネームまでにしたいですね。誰か清書してくれないかな(笑)。

──おっしゃる通りで文章なら、やろうと思えば1ページで何十年も進められますね。

竹安:理想を言えば、文章でプロットだけを作り、そこにボリュームを増やして誤字脱字を訂正してくれる人がいれば一番いいと思っています。あまり、自分でフィニッシュすることに興味がないんですよね。

 自分よりもうまい人はいっぱいいると常に思っているので、いつも“なんで自分が最後までやらなきゃいけないのかな”と思っているのですが、気が付くとフィニッシュの仕事が多くて……(笑)。

──竹安さんの場合は、どちらかと言うとお題に対して大枠の方向性を考え出すのが一番合ってるということですね。

竹安:そうです。『TLC』も最終的に自分が描き直した絵がありますが、それは自分がやりたいというよりも、市場ニーズ的にこっちの絵のほうが引きがあるんじゃないかなという分析からきています。そういう意味では、たぶん、普通の絵描きさんと考え方がずれてるのかもしれません。

長谷川:私も、竹安さんは計算して狙って描いているんだろうなと思っていました。

竹安:絵を描くときは計算しかしてないです。イマジネーションを広げてどうこうというのは、あまりやったことがないですよ。

長谷川:竹下さんが最初に受けた印象と近しいと思うのですが、竹安さんの絵は見たら忘れられないんですよ。

竹安:竹下さんが気に入ってくださったのは、『大神』というゲームで描いていた“高天原大緑化絵図”という絵なのですが、この絵は緑がバーッと広がっていく絵で、キャラクターも何もないんです。

 桜が吹いているだけなのですが、ボクは『大神』の広がる大緑化の世界を描きたいんだという訳ではなくて、単純に当時プロデューサーとディレクターが自分のところにきて、「パブ絵でこういう枠を取って出せるところがあるから、お前、バッとしてボッとした物を描け」と言われたんですよ(笑)。

 それで、コピー用紙に“バッとしてボッとして『大神』か……”と考えた結果、『大神』って荒廃した大地を“大神降ろし”でバッと緑化させるシーンがあるので、まずプログラマーのところに行って、緑のできる瞬間とできない瞬間を全部もらってきて、画像として並べました。そうやって分析をして最終的に描いたんです。

 桜吹雪も自分が描くよりできるだけゲーム中のもののほうがよかったので、桜吹雪を作っていたデザイナーのところにいってテクスチャーをもらってきたり。自分が作る絵ってそういうものなんですよ。“こうやって、こうやって、ボーン!”という順序じゃないんですよ。

竹下:桜の絵、ボクは今トイレに飾ってるんですけど、桜は桜じゃなくてハート型になっていたり、ちょっと立体感があるんですよ。

竹安:ああ、その辺はボクが描きました。ハートを入れたのは意図的なんです。『大神』という世界を構築するうえで、ラブを入れたら世界がすごく広がるんじゃないかなと思ったんです。

 でも、和の世界にラブってないよな、と思って(笑)。だからラブそのものじゃなくてハートのマークを入れました。それだけでイマジネーションが広がると思ったんですよね。

竹下:でも、ボク、竹安さんはラブが好きなんだと思っていましたよ。竹安さんは「『エルシャダイ』のファーストトレーラーでイーノックに“I love you”と言わせたい」って言ってたじゃないですか。

 それを聞いてボクは“海外では“I Love You”はヤバいんじゃないの、BLのゲームだと思われるぞ”と、ビックリしました。でも、あれは魂を浄化するという意味なんだと。

竹安:“炎上してしまえ”って思ってたんですよ(笑)。当時は須田さん(※須田剛一氏。グラスホッパー・マニファクチュアCEO。主な代表作に『LET IT DIE』『NO MORE HEROES』『ロリポップチェーンソー』など)がいろいろなメディアに出てらっしゃって、失礼な表現に聞こえたたら申し訳ないのですが“なんちゃってアメリカ”みたいなPOPで楽しげなものが目立っていたんですよ。

 『エルシャダイ』のPVはその“なんちゃって感”が弱いな、と思っていたので、背筋が寒くなるほどのPVを作ったほうがウケるんじゃないかなと。

長谷川:それが“I love You”だったと。

竹下:ラブとか魂を浄化するとかアセンションって“昇天する”という意味なので、ちょっとスピリチュアルな部分を持った人ってよく知っているんですよ。だから、愛というのは意識しているかどうかわからないけど、根底に流れてるのかなと思ったんですよ。

竹安:ボクはそんな愛の伝道師みたいな人間じゃないです(笑)。

長谷川:竹下さんだからこそ、見えるところですね。

竹安:でも、価値観は本当にずれてると思いますよ。ほかの絵描きさんと話しても話が合わないんです。だから、本当に絵描きの友達ができない(笑)。

竹下:ボクはビジネス側の人間なんでクリエイティブはわからないんですけど、竹安さんはビジネスの話ができる珍しい人だと思っていたんです。自分のやりたいことばかりをアピールするわけではなくて、押したり引いたりできる。自覚してないけど、そういう部分がある。

長谷川:それは自分もよくわかります。

竹下:ビジネスサイドとクリエイティブサイドでぶつかったら、ビジネスサイドのほうが立場的に強いので黙らせてしまうこともあるじゃないですか。

 でも、竹安さんはビジネスサイドのこともわかるので「じゃあ」って言える人なんですよ。たぶん、それは『ザ・ロストチャイルド』でも生きてると思います。

長谷川:おっしゃる通りだと思います。

竹安:なんかいい話になっちゃいましたけど(笑)。

長谷川:竹下さんは、今日を最後の日にするつもりですから。

竹下:そういうと語弊があります(笑)。ボクがお手伝いするのは、ゲーム的には最後ということです。次やるときは、新しいプロジェクトで何かやりたいですね。

『The Lost Child』

鬼に徹したイグニッション時代の思い出

竹安:ボクの性格的な話になってしまいますが、たぶん自分の肩書はコンセプターが一番ハマりやすいのかなって思ってます。フィニッシュにも興味がないし、マイワールドを推したいわけでもないんですよ。自分の世界を作るなら1人でもできるし、日ごろからやっているからフラストレーションはないんですよ。

──自分の表現したいものができないフラストレーションはまったくない、と。

竹安:まったくないですね。このギャラリーもそうですが、いつも好き放題やってるんですよ。

 好きなことをやりたいなら自分でやればいいという考え方なんで、本当にやりたいことは自分でお金を出して自分でやるし、他人からお金をもらった瞬間にそれはお仕事になるので、その人のオーダーに応えなければならないと思うんです。“お金をもらって好き放題勝手にやるぜ!”という思考回路にはならないんです。

竹下:ただ、そのバランスはすごくうまいですよ。

竹安:そうですか。そんなこと初めて言われましたよ。

竹下:イグニッションのときはそう思わなかったんですけど、今はすごくそう思います。

竹安:イグニッション時代は魑魅魍魎の中にいましたから(笑)。

竹下:イグニッション時代は、いろいろな意味で大変でした。あんなことは、もう今の業界ではないですよ。

竹安:あの当時、自分が思ったのは“そうか、恐怖を植え付けないと話を聞いてくれないんだ”って(笑)。そこからずっと、恐怖を与える仕事をやってました。

竹下:スタッフから漏れ聞こえてくる声が「竹安さん怖い」でしたからね。

竹安:雰囲気作りですよね。たとえば、目があっても話さないようにするとか。あとは、“訴えられない暴力”をずっと探していました。目の前で書いた絵を破くとか、机を蹴るとか、ずっと悪のイメージを作ってましたね。「理屈で話を聞いてくれないんだ~」って普通に席で言ってしまって、「じゃあ、もうキレるしかないじゃん」って続けて。一時期はキャラを変えて、恐怖政治をやっていました。

竹下:アレはキャラづくりだったんですか。

竹安:キャラづくりでした。自分自身のコンセプトを決めたんです。パチッとキャラを決めて、絶対誰とも敬語でしゃべらないと決めて、スタッフの名前を覚えるのもやめました。その設定にしないと、動かないんですよ。チームが。

竹下:たぶん、役者としてその役を演じないといけないと思ってやってたんですね。

竹安:やってましたね。しゃべる人間も決めて、毎月組織図を作って、「ボクが今月しゃべるのはコイツらだけだから。それ以外の人間がしゃべりたいなら下から上げてこい」と、カースト制度をひいてたんですよ。毎月毎月リーダーが変わるので、みんなそれでビビっていて。

長谷川:すごい現場だなぁ(笑)。

竹安:本当にそうしないと回らなかったんですよ。結局、みんなわずか一年くらいで集められるか、“イグニッションって金あるんだろう”と思って集まってくるから、ナメてくるんですよ。

 よくあったのが、「ボクたちがカプコン時代にはこういうモノづくりをしていた」という話をすると、「前社の話をするなよ」と。「いやクオリティの話してんだよ」となって、そこから口が悪くなっていくんですよ(笑)。今は、そういうのがなくなったというか、そもそもそういう悪い人と会わなくなりました。

 また組織を作ったらそうなるのかもしれないですけど、でも今当時のスタッフと会ったら「立場が違うのでこれからは敬語でお話します」、と言ってます。もう、全員敬語ですね。社会としてそうだと思うので。

『The Lost Child』

長谷川:それを聞いてから『エルシャダイ』をプレイすると、また違う感じを受けそうな気がしますね。

竹安:会社に来ないっていうから、家まで訪問するとかも普通にありましたね。

長谷川:それは自分も経験があります。ゲーム業界はたいがい社会不適合者の集まりなので(笑)。でも、それをずっと支え続けてきた竹下さんもすごいと思いますよ。今日『TLC』の絵を見られてどうでした?

竹下:企画の時は『エルシャダイ』って出ないのかなと思っていたので、“割とガッツリ出るんだ~”と思いました。

竹安:割とピースはありますね。

竹下:音源も新しく作ったものとうまくブレンドしていますし、フレーバーがものすごくぷんぷんしていますよ。『エルシャダイ』を好きな方が新しいものとしてプレイするにはいいと思います。

 『エルシャダイ』のイメージのままで遊んでいいかどうかというのは別ですが、新しい主人公も武器も非常にいいと思います。

竹安:ガンゴールはすごくがんばって描いたんですよ。スチームパンクがやりたかったんですよね。

長谷川:竹安さんは初めてお会いした時からずっとおっしゃっていたのですが、おもしろいものを作れば造形化されると。造形化されて欲しい願望は最初から相当強くおっしゃってましたね。

竹安:そうですね。ガンゴールは誰かに造形化して欲しいですね。でもこれも、ボクがフルでデザインしたわけではなく、角川ゲームスさんのほうで「仕組みがこうだから」と言われたので、その仕組みがわかるようにデザインしただけですよ。

長谷川:リボルバーの部分に天使、堕天使、悪魔のアストラルが入るところがあって、ダンジョンには最大9体連れていくことができる、という設定とあわせていただいているんです。

竹安:9つという話からデザインしました。

『The Lost Child』

──長谷川さんは、今後竹安さんと続けていきたいという野望のようなものはありますか?

長谷川:野望というよりは、ずっと同じ温度感でプロジェクトを続けていけた珍しい方なんですよ。いろんなケースがあるのですが、一緒にやっていく方って別の仕事があったり生活があったりで、1回終わったら“じゃあ”という感じだったりするのですが、竹安さんとは、仕事と日常の境界線を感じることなく過ごすことができたんです。

 一緒に仕事をしたり、一緒にご飯を食べたり飲んだりといったことが、最初からずっと同じ温度感でやっていけたので、きっと日常の付き合いのなかから何かが生まれるんじゃないかな、と。

 それは、昔おもしろかったよねという日常のひょんなことから盛り上がって花が開くのかもしれませんし……。次にこういう企画をしなきゃという気持ちはないんですよね。『TLC』は、ユーザーの皆さんにふれていただきたいので、一生懸命やっていただいてますが。

竹安:同じですね。とくに、こういうオーダーがあったらという感じで、自分から売り込みはしないですね。やりたいことは基本自前でやるスタンスだから、あまり営業もしないんです。

長谷川:結構、不思議な存在ですよね。

『The Lost Child』

──たとえば、『ザ・ロストチャイルド』そのものを『エルシャダイ』のように小説で展開するといった、ゲームが出たことでそこから広がる展開を期待してもいいですか?

竹安:それはありますね。小説はすごく書きたいですが、市場はそれを求めているのかなぁ……?(笑)幅広い時間軸を一気に描けるので、ラクでいいんですよ小説は。読むのはあまり好きじゃないのですが、書くのは好きですね。

長谷川:きっとまた、日常の中から何かが生まれるのかもしれないという感じですね。

『The Lost Child』

 続く第2回では、『GRAVITY DAZE(グラビティデイズ)』シリーズや『SIREN』シリーズを手がけるクリエイター、外山圭一郎氏との対談をお届け。

 今のゲームに求められている新しさなど、2大クリエイターが感じる業界の今をたっぷり語っていただきました。こちらもお楽しみに!

 ちなみに、ギャラリーエルシャダイでは、『TLC』の発売を記念して、9月26日まで“ザ・ロストチャイルド展”を開催中。本作に興味をもたれた方はぜひこちらにも足を運んでみてください。

(C)2017 KADOKAWA GAMES

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