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2017年10月15日(日)

【電撃PS】『デモンズソウル』などに見られる“スキマの有効活用”の話。山本正美氏コラム全文掲載

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.646(2017年9月14日発売号)のコラムを全文掲載!

第115回:スキマのスイッチ

 僕がいつも見に行く映画館は、会員になるといくつかのサービスが付与されるのですが、それがなかなか理にかなっていて、乗せられているなあと思いつつも、いつも利用させてもらっています。

 映画って通常料金が大人1800円ですよね。しかしこの映画館では、会員になると毎週火曜日は1300円で見ることができます。火曜日、というところに美容師さんや理容師さん狙いを感じますが、なかなかに上手い。

 また東急系列だからかどうかは不明ですが、毎月19日が1100円になります。ポップコーンとドリンクのセットが750円ですから、大体その金額分が割り引かれる感じですね。僕の場合、600円の生ビールを飲んでも元の料金よりも安い、というわけです。

 とまあここまでは普通なのですが、感心するのが次の2点。まず1点目、この映画館は「ポイント制」を採用していて、映画を1本見るとポイントがひとつ溜まるのですが、それが6ポイント溜まると一本無料で見られます。これがなかなかに嬉しい。

 そして2点目が慧眼で、「エグゼクティブシートに通常料金で」座れるのです。エグゼクティブシートは、リクライニング可能でかつ小さめの鞄であれば収納できるスペースが付いている、ちょっとリッチな気分に浸れるシート。

 これが、通常1800円の映画だと2500円、IMAX3Dになると、通常2300円のところが3300円に跳ね上がるわけですが、会員だと通常料金で座れ、かつ、先ほどの6ポイント無料も使えるのです(さすがに、IMAXにポイント無料は使えませんが)。これによってその映画館に何が起こっているかというと、如実に「エグゼクティブシートからなくなる」現象が頻発しているのですね。

 現に、僕は最近、この映画館ではエグゼクティブシートでしか映画を見なくなりました。人気作などは予約可能な3日前からシートの確保をし、混雑した館内で悠々とリッチな席に座るという、ささやかな優越感を味わっているわけです。

 同じ料金かもしくは無料で(笑)。客側の効能としては良いことばかり。そして映画館側が受ける効能としても、そのあたりの「お客の気分」をモチベーションに、通常なら埋まらない席をしっかりと売ることができている。まさにwin-winのナイスな仕組みだなあと思うのです。

 最近こういった、「休眠場所の有効活用」の事例をよく目にします。一番わかりやすいのは、カラオケボックスの昼間の料金の安さ。夜の酔っぱらった際のカラオケは、お会計のとき高くてビックリするときもままありますが、平日の昼間ってフリータイムで数百円とかザラですもんね。そんな動向から「ひとりカラオケ」なんて文化も生まれました。

 そういえば『勇者のくせになまいきだ。』シリーズの楽曲制作を担当してくれているサウンド会社、ノイジークロークの皆さんは、リコーダーやピアニカの個人練習にカラオケボックスを使っていましたねえ。サウンドスタジオを借りるより遥かに安く、しかもどこにでもある。使わない手はないわけです。

 また、夜のオジさま達の憩いの場、スナックも、昼間は飲食持ち込みOK、1000円でカラオケ歌いたい放題、ということをよくやっています。カラオケボックスもスナックも、つまりは既にある設備を「スキマなく使われる」ことに腐心し、利益を求め、生き残りの活路を見出しているのですね。

 PlayStation 3を通してご存知の方もいるかと思いますが、スタンフォード大学が取り組んでいる、Folding@homeという分散コンピューティングプロジェクトがあります。

 簡単にいうと、世界中のコンピュータを繋げ、そのパフォーマンスによりタンパク質の構造を解析しようというプロジェクトです。たとえばPS3だと、インストールしたアプリケーションを起動すると、その計算結果がスタンフォード大学に送られ解析に役立てられる。夜中の使っていないPS3の時間を使い、医学に貢献できるというわけです。

 思えば、JAPAN StudioのPS3タイトル『デモンズソウル』も、自分ではなくオンラインの向こう側で遊んでいた人の「痕跡」が、自分のプレイにも影響するという要素が内包されていました。自分がプレイしていない時間帯をも自分のプレイに取り込んだわけです。

 今やこの「非同期」というアイデアはそこかしこで見られるようになりましたが、それを最初にコンテンツに落とし込んだ『デモンズソウル』は、本当にエポックだった。

 場所、モノ、それぞれが、一律でずっと稼働していることって実はなかなかありません。いわば世の中はスキマだらけ。施設でもサービスでも研究でもゲームでも、そのスキマを埋めるスイッチを思いついた人が、それまでの価値観をガラッと変える先駆者になれるのかも。その達成がなぜ難しいかというと、そもそも人間そのものが半分以上稼働していない(寝ている)生き物なことと無縁ではないと思ったり……。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

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