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2017年12月25日(月)

『チェンクロ』開発者インタビュー シナリオ編。帰還篇は今まで体験したことのない物語に

文:まり蔵

 iOS/Android/PC用RPG『チェインクロニクル3(以下、チェンクロ3)』の特集連載企画をお届けします。

『チェンクロ』

 12月26日に『チェンクロ3』の“帰還篇”が配信決定。これを受けて、現在ゲーム内ではさまざまイベントやガチャフェス、そして豪華8大特典がもらえるキャンペーンが実施中です。

 電撃オンラインでは、“帰還篇”の配信決定を記念して『チェンクロ3』の特集を大々的に展開! これまでに、『チェインクロニクル』の総合ディレクターを務める松永純さんのインタビューを前後編でお届けしてきました。

 今回は、『チェンクロ』シリーズのシナリオを担当してきたライター集団“クオリア”の下村健さんと原山燐太郞さん、松永ディレクター、シナリオ班リーダーの西次郎さんに、“絆の軌跡”や“帰還篇”の制作秘話などを語っていただきました。(※インタビュー中は敬称略)

『チェンクロ』
▲左から下村さん、原山さん、松永さん、西さん。

『チェンクロ3』特集連載企画

メインストーリーについて

――まず最初に、クオリアさんが『チェンクロ』で何を担当されているのか教えていただけますでしょうか。

松永:第1部、第2部のメインストーリーと、多くのキャラストーリーを担当していただいています。

下村:大体がメインストーリーとチェインストーリーですね。

松永:第3部に入ってからはレジェンドキャラのキャラストーリーのみだったんですが、“絆の軌跡”はひさしぶりに、ガッツリ原山さんに書いてもらっています。

『チェンクロ』

――今第1部と第2部を振り返ってみて、一番印象に残っていることは何でしょうか?

下村:印象に残っているのは、松永さんが言われたと思うのですが、エンディングを迎えたときにすごい反響があったことですね。スマホゲームってエンディングがあんまりありませんでしたから。

 特にエンディングの分岐みたいなものもあったということもあって、Twitterやメールで感想をいただいたりしました。フィーチャーフォンの時代にもエンディングのあるゲームを作ったことがありまして、そのときも反響はあったのですが、それ以上でしたね。

 あと以前もインタビューで伝えたと思うのですが、第2部の最終章は、バトル的にこういうことができるからこういうストーリーにしようとか、ゲームを作っている他の方と話し合いながら、ゲームらしい相乗効果を狙ってやれたことが記憶にすごく残っています。それが反響として返ってきたのが個人的によかったです。

 第1部のときであれば、キャラクターひとりひとりにストーリーがあるスマホゲームというのが、そもそもなかったじゃないですか。それに対して「好きだ」と言ってもらって、第1部と第2部のストーリーがちゃんとあったうえで第3部にレジェンドとして帰ってきたとき、「最近ログインしていなかったけど第2部のキャラクターが戻ってくるんならやりたい」とか、それこそ“絆の軌跡”やレジェンドキャラとかで第1部と第2部のキャラクターと世界観が好きだと言ってプレイしてくれている人がいるというのは、『チェンクロ』を4年やってきてうれしいことでしたね。

原山:僕は“黒の砦”のストーリーが個人的に印象に残っています。というのも、副都のキャラクターが中心になって力を合わせてストーリーが、たぶん本作の中では初めてだったんですよ。僕としてはそこまで反響があると思ってなかったんですけど、そういうのがいいという声をいただいて、それが印象深かったです。

下村:あのときは、緊急クエストみたいな感じで聖都からディードが助けにきたとか、手探りでやったりしていたんですけど、すごく反響があったんです。むしろ短くまとめたのに、もっと読みたいとたくさん言っていただけました。

松永:たしかに。当時はシナリオ付きの大型イベントって他では無かったんですよね。なんですが、いろいろ仕掛けを入れさせてもらって、うまくシチュエーションに合わせたシナリオをあげてもらって。キャラもいろいろ登場させてもらいましたね。

下村:当時チェインストーリーは読める人は読んでいるくらいの状態だったので、いろいろなキャラクターがあれだけ出てくるというのはチェインストーリーを読んでいない人だと初めてということで、反響が大きかったんでしょうね。

松永:チェインストーリーとも一味違って、オールスター集合感がありましたしね。

下村:チェインストーリーはグループごとの話ですからね。あれはあれで好きな人がいると思います。

西:「もしも」の話になってしまいますが……第1部のメインストーリーとか、今書き直そうと思ったらだいぶ変わりますよね。

下村:たぶん軸はずれないでしょうけど、構成や見せ方が変わると思います。

西:そうですよね。1話あたりの文字数も全然違いますし、あの当時出ていなかったキャラクターもたくさんいますし。

下村:出た上で、こうしようもっとこっちのほうがというのはあったかもしれないですね。4、5年前のことですもんね……。

松永:でも、今みたいにじゃんじゃんいろいろなキャラクターが出せているのは、ユーザーさんの中での蓄積と言いますか、このキャラクターたちを知ってくれているからというのがありますからね。今リリースしている3部のシナリオとは、また違った見せ方になるんじゃないかと思いますよ。

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レジェンドキャラクターについて

――レジェンドのキャラクエで思い入れのあるものを教えてください。

原山:カインですかね。大きくなったなと言いますか、ここまで大きな存在になるというのは、本作が始まったときは予想してなかったですね。

下村:それこそユーザーさんとメインストーリーを一緒に作っていく感じの中で、どんどん存在が大きくなっていきました。

原山:最初はあえて目立たせないというところがあったのですが、今となってはガンガンメインストーリーなどでも活躍して成長したなと。そういうところが書けたのはよかったなと思います。

下村:予想してなかったよね。ここまで大きくなるって。僕らの中でも大きくなっていきましたからね。カインが愛しいというか、かわいい奴、みたいな。

原山:あんまり目立ちすぎると、ちょっと押さえてくれということにもなりますし、難しい存在ではありました。ただ変にクセもないですし、いろいろなキャラクターと会話できるので、その課程で積み重ねが生まれたのかなと思います。

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――カインは、今年の人気投票でSSR部門の1位でしたね。

下村:遊んでくれている方もカインを好きな方がすごく多いので、ありがたいです。最初に仲間になることもあって、インパクトもありこれだけ大きな存在になったのは遊んでいる方にとってもうれしいでしょうね。

 4年も書かせてもらって長いので、プレイヤーさんの中にそれだけキャラクターや世界観に蓄積があるじゃないですか。それがストーリーやゲームに落とし込めたときの喜びはスマホゲームならではですよね。触れている時間が長いので、それを満たしてあげたいという気持ちはあります。

 第2部の最終章を書いていてもやっぱり義勇軍は活躍させたいという気持ちはありましたし、黒の根源を倒したときにやりきった感が出てほしいなと思いながら書きました。3年の積み重ねを感じてもらえたらと。

――レジェンドのキャラクエを作る際に、自分たちなりに何かルールや決めごとはありますか?

原山:何かありましたよね。

西:こちらからのリクエストとして、5年間の成長をどこかで必ず感じさせる要素を入れてほしいとお願いしています。

原山:そうですね。そこさえ守っていれば自由にやらせていただけたような気がします。

西:ユーザーさんにとっても、我々スタッフにとっても、みんな思い入れの強いキャラクターなので、「ここは成長していてほしい」とか、「ここに触れないと寂しいよな」とか、「ここが変わってしまうとこのキャラじゃないよな」というものが各キャラクターにあるんです。「キャラ愛」と言ってしまうと安っぽいですが、そういう部分がちゃんと出来ているかは、常日頃特に気にしていますね。

――印象的なキャラクエはありますか。

西:やはり、成長が強く感じられたものが印象に残っています。たくさんいるんですが……例えばツルであるとか、ヨシノなんかもそうですね。1部や2部の物語を経て、キャラクターがしっかり成長しているのを見ると、「あぁ、時間が経っているな……」と。

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――松永さんは、5年後のリリスとテレサの成長を書くにあたって考えられたことはありますか。

松永:Sequelsのほうで、リリスは、大きな力を失っても人として強くあろうとする姿を。テレサについては、永遠に解決しない問題を抱えていても人として成長していこうとする姿を、それぞれ描かせてもらいました。ふたりについては、キャラストーリーでの過去篇も含めて、重い運命の中にあっても強く凛々しく歩き続けることのかっこよさが、ユーザーの皆さんに伝わればと思って書かせてもらっています。あとは、ふたりの友情というか、イチャイチャ含めて、心地よい物語として届けばいいなと。

 他のライター陣が書いているキャラでは、個人的にイブキが大剣豪と呼ばれているギャップが好きです。「お前が大剣豪かよ」っていう。5年経って、どれくらい成長するかという度合は、自由におもしろくやろうという話をしているんですが、メインストーリーに堂々、大剣豪って言って出てくるイブキというのは、インパクト出たなと。ユーザーの皆さんとも驚きと言いますか、一緒にキャラクターたちの成長の楽しさを感じてもらえたらいいなと思いますね。

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――同じくキャラクエを作るときに、まず何からどう手を付けるのでしょうか?

原山:僕は割りと打ち合わせの中でネタを膨らませていって、それをひとつの形につなげます。あとはキャラクターが勝手に頭の中で動き出しているようなことが多いです。このキャラクターはコミカルでお願いしますという方向性はあるのですが、ある程度感覚に任せられる部分は、自由に書きますね。

下村:ある程度設定ができた時点で、コイツはこういうキャラだろうなみたいな掘り下げから入っていって、キャラが立ったらライトなのかシリアスなのかを決定します。ライトだったらこういうところを見せようとかが決まってくるんです。シリアスだったらこういうところを見せたい、じゃあそこに向かうためにこういう構成になるねという風に段々やっていくんです。

松永:話のネタやプロットを詰めていく、あの打ち合わせ好きなんですよ。

下村:コイツを一番魅力的にするとここだよみたいな。ここに向かわせるためにはこういう積み重ねが必要でしょ、というようにロジックで埋めていく。こういうブレストをして、みんなで作り上げていくと作りやすいですね。

 もちろんシナリオライターで全部引き取って、キャラクター設定を引き起こすこともできます。でも、一緒に作り上げていったほうがおもしろくなることもあるんです。ただ、キャラクターのどこを見せるかが決まれば、あとは積み重ねていくだけだと思うので。以前松永さんと生放送中に作ったキャラクター“フロワ”も、ここを見せたいというところを言って、僕がどうしても3話にしたいと言って作りました。

松永:TRPGのゲームマスター感があって楽しいんですよね。元々の原案、キャラクター設定を出して、作家さんからこうすれば!っていうのが返ってきて。で、こちらはユーザーさんからの見え方だったり、イラストレーターさんの意図だったりも考えながら、またボールを返して。キャッチボールしながら、物語ができていくのが楽しい。

 原山さんと話しているときなんかすごくおもしろくて、僕の真意のところと違うところを言うんです。でも「こっちのほうがおもしろいなあ!」ってなるんですよ!

原山:それもっと早く言ってほしかったですね(笑)。

下村:違う球を投げられるんですよ。僕らでは投げないところに投げるんです。

松永:下村さんや西と話しているときは、ストレートのボールを投げ合う感じなんですよね。でも原山さんとかだと、結構カーブのかかったギリギリの球がくる(笑)。既存キャラの物語だと、ユーザーさんの望むものというのがあるので、ずらさないようにしてくれるのですが、新キャラのときとかはおもしろいんですよね。

 僕がクオリアさんのシナリオで印象に残っているのは、第1部だとエレミアが分身するやつですね。元々用意しているキャラクター性ではないわけですよ、分身は(笑)。だって、サービス開始直後のキャラで魔法使いの塔のメイドだったら、そこまででキャラ付け充分ですもん。でも分身するって。で、最後はメイドファイト王者になるって(笑)。ストライクゾーン入ってないけど、これ打てるのか!?って、やっていくのは楽しいです。

 結果として想像以上のシナリオが生まれるのはいいですね。ユーザーさんも、予定調和でないものに触れられるのはきっと楽しいだろうなって。

下村:初期のものだと、いろいろなテイストを用意しようとあえてやっていましたね。

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――ブレストが難航したキャラクターはいましたか。

原山:Ver.1のベラなんですけど、最初男性キャラだったのを松永さんが調整して女性にしてくださったんです。話していて、確かに血を吸われるなら女性のほうがいいなと思ったのを覚えています。

下村:あったあった(笑)。

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松永:最終的にユーザーさんに愛着もってもらえるように調整するのは必要なので。たとえばチェインストーリーを書いてもらうときは、ストーリー構成が大切なので、逆に原山さんや下村さんにもキャラ案を出してもらって、それを僕のほうでキャラ設定を調整したり。例えば、九領のストーリーだと男の鬼ばっかりになるので、この侍役は、魔剣の設定を活かして賢者の塔の女の子にしましょう、とか。キャラクターの魅力と、ストーリーが盛り上がる役割バランスをキャッチボールしながら作っていくのは楽しかったです。

下村:キャラとストーリーをあれだけ用意するということ自体がなかなかない経験だったので、大変でしたね。

松永:チェインストーリーとかも、先にテイストや劇団のグループだとか都市ごとに区分けして被らないように箱を作って、その上でどんなキャラクターを出すかを話し合いました。本当にいろいろなキャラクターを出す工夫を当時もしていて、今も近しいところはありますが、ああいう部分を作っていくのはいいですね。

――『チェンクロ』初期からシナリオを担当してきて変わったことと、逆に変わらないことがあれば教えてください。

原山:変わったことは、シナリオのボリュームが増えました。最初はあまり多くてもお客さんが読んでくれないだろうと、結構カットしていました。第2部あたりから少しずつ増やしていきました。

下村:第1部を読んだ人には大丈夫だろうと段階的に長くしていった節があります。だからマックスでどれくらい読んでもらえるんだろうという挑戦も、第2部くらいからありました。

 変わってないものと言えば、僕なりの考えですが、ソーシャルゲームのシナリオで、長いものをしっかり書くというのはできないものが多いんです。キャラクターの人生や切実な思いを書けるというのが本作の魅力かなと。これは第1部から第3部まで変わってないかなと思います。

原山:そうですね。

――自分の好きなキャラが他のキャラのストーリーに登場していると、そのキャラを欲しくなりますよね。

下村:実は、初期の頃はひとりのキャラクターのストーリーに他のキャラクターを絡ませるというのができなかったんですよ。第2部から関係性の深い者同士で無理のないやつは、ちょこちょこ絡ませ始めました。

松永:最初はそもそも誰だコイツというところからスタートなので、そのキャラクターのストーリーに他のキャラクターが出てくるとユーザーさんも混乱するので、しなかったんです。でも第2部からは、第1部のキャラクターのことをみんな知ってくれているしということで、少しずつ他のキャラクター同士の絆を描けるようになってきましたね。

 あと、キャラを深く描いたことで、第2部以降、それ以上、キャラひとりだけでドラマを深く掘ることが難しくなったというのもありますね。だからキャラ同士の絆を描くことで、物語を広げようと。

下村:表示されているプロフィールからわかるとそれでストーリーは読まなくていいので、それではわからない裏側を描こうというのは初期からありました。

松永:ユーザーさんが想像から補完できるものを書くのであればストーリーを用意する意味がないので。第3部も成長という軸で、新しいドラマを生むことができて、さらに物語を広げることができたのかなと思っています。

下村:ストーリーを読み進めたときに、読んでよかった、コイツこんな面があったんだ、こういう風にしてこんな人生に行き着いたんだというのがわかるようなものにしようというのは最初からあったルールですね。

松永:わかりやすいのが、ヴェルナーですね。普通にやると完全にいかれた強化戦士にしか見えないヴィジュアルで。それがかっこいいところなのですが、実際ドラマを掘り下げていくと結構兄貴肌なところもある。さすがにそれはセリフひとつだけでは表現しきれない部分があるんです。そういうのをそれぞれやれたのはよかったです。

下村:「まさかこんな面が!」なんて、読んだときにうれしいですもんね。

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“絆の軌跡”について

――“絆の軌跡”のシナリオを制作する過程で、こだわったことを教えてください。低レアのキャラなども多数登場させたのは、こだわりでしょうか?

原山:ルールはないのですが、最初全員を出そうというのは話していなかったんです。それよりも、5年後の各大陸がどうしているのかとか、薄命の大陸だと難しいよねとか、鉄煙の大陸だとテーマを掘り下げきってしまったからどうしようだとか、まずは全体を決めました。

 キャラクターについては、出せたら出すくらいの曖昧な感じでしたね。結局中途半端に出すよりは一度全員出さないと、今後このキャラがストーリーに出ることがあるかもしれないし、ないかもしれない。わからない部分があったので、全員出すことにしました。

 第2部は、レイドや踏破とかイベントがどうしてもなくて、キャラクター同士が絡む機会はショートストーリーで、第1部に比べると数が少ないんです。まず“絆の軌跡”では、他のキャラクター同士の会話を意識しました。

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――“夜明けの大海篇”も含めるとこれまで出た“絆の軌跡”のは5つになると思うのですが、ひとつずつ順番に作っていったのでしょうか?

原山:いっぺんに作りました。

西:最初にディスカッションして、この順番でいきましょうと決めて、ほぼ全部プロットを立ててから進めました。すべて別々の話として完結はしているのですが、ひとつのシリーズとして見たときにまったくつながりがないのは寂しいですよね。だから、全体のまとまりを計算する意味でも最初に全体の大枠を決めちゃったほうが良いだろうと。世界はつながっているんだよという感覚が薄いなということもあり、“ヴァレリオ財団”のような仕掛けを入れています。

 絆の軌跡のお話は、「5年ぶりの再会」を押し出せば、全部シリアスに書くこともできたと思うんです。ですが、それだとやはりおもしろくないですし、それぞれの大陸ごとに内容やテイストを変えて、そこでしか書けないことを書いたほうが良いですよねと話をさせていただいた記憶があります。。

 薄命の大陸だったらシリアスに5年間の出来事と彼らの運命に答えを出す必要がありますし、ケ者の大陸であればにぎやかな感じ、鉄煙の大陸であれば熱さ、罪の大陸であれば囚人たちが変に丸くなっているよりも大暴れするほうがいいだろうと、書いていただく前に各大陸のテイストをブレストで決めていきました。

原山:ケ者の大陸はまずにぎやかにやろうというところから考えて、気づいたらガジジナたちの成長や種族の一番偉い人を決めようという流れになっていきました。コンセプトとかはなくて、自然と落ち着いた感がありますね。

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西:そうですね。2部の各大陸には、それぞれに「書かなければいけない宿題」がありまして。例えばケ者の大陸であれば、Sequelsで大陸の外に出ていったギザザヤに関しての話はやっぱり回収しておかないといけないよねとか、ガジジナは本当に一人前の長としてみんなから認められたのかどうなのかとか。薄命については、彼らの種族としての宿命がどうなったのかとか。そういう宿題をひとつひとつ洗い出して拾っていったら、自然と書かなくてはいけないお話が見えてきた感じがします。

――“絆の軌跡”のシナリオを制作する過程で、苦労したことはありますか?

松永:はじめのプロットで、一度大きな苦労がありました。最初もう少しつながりが強いような形、Sequelsのカイン視点のように、各大陸の物語が1本のラインでつながるようにやろうとしたのですが、ビックリするくらいおもしろくならなかったんです。

 西や原山さんが言ってくれたような、各大陸の5年の月日が経ったとき、こうなってるだろうなという想像の積み上げと、わかりやすい1本のラインにするという構成が、ぜんぜん合わなかったんですね。それで、各大陸の歴史というのは、もう大陸ごとの色で走りだしてしまっていて、誰かの冒険に合わせて同じ視点で描こうとしても、あまり描けることはないんだと理解しました。それで、さっきの大陸ごとに完結させて作ろうという方針に変えました。1本の流れの部分は、カインのエピローグシナリオの部分で今回は表現してもらっています。

原山:最初は、わりとぼんやりしていたんです。ボリュームも結構探り探りで、僕としてはどうすればいいんだろうという感じでした。シナリオを書いてみて、予定していたものから1話から2話増えていて、その分ちゃんとお客さんに喜んでもらえるものはできたかなと思っています。

――各シナリオにひとり新世代の新キャラクターが用意されていましたが、これはどのような意図があったのでしょうか。

西:最初の計画の段階から、そうしましょうと決めていました。理由としては5年前のキャラクターがどうなったかというのも大事ですが、5年間でどんな新しい人たちが大陸や海に現れたのかも書く必要があると思ったからです。

 5年後や10年後、まだゲームで描かれていない未来をこの世界の人たちはどう歩んでいくんだろうみたいな、それが新キャラクターから感じ取ってもらえたらいいなところだったりします。

松永:ユグドでもやっているからね。

――“絆の軌跡”のシナリオでは、どの大陸が一番印象に残っていますか?

原山:そうですね……。薄命の大陸ですかね。

下村:みんな気になるところだと思いますから。

――ムニのチェインストーリーでチラッと出ていたので、どうつながっていくのかが気になりました。

原山:僕としては、ムニのチェインストーリーを書いたときは、あくまで踊って楽しい感じに……していたら少し希望が見えたような。そこからさらにってなったときに、まったく考えてなかったんです。

 この先は考えたくないなと思っていたのですが、まさか自分でそれを回収するとは夢にも思いませんでした(笑)。これはいよいよちゃんと書かなくちゃなと。お客さんの希望に応えるのはもちろん大事なのですが、こっちはこっちでまず薄命の大陸やキャラクターはこうだよねというバランスも取らなくてはならない。打ち合わせでもすごく意見のやりとりをさせていただいて、あのような形になりました。

西:僕も薄命の大陸が一番印象に残っています。

松永:全員そうだよね。

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西:薄命の大陸に関しては、可能性の話だけで言えばいろいろな未来を書くことはできたと思います。例えば、極端な話全員死んでしまったとか全員生き残ったとか。でも、今回それは両方選ばなかったわけです。

 いろいろな思惑や気持ちもあった上でまず考えていたのは、第2部のメインストーリーでやった薄命の大陸のお話を否定したり台無しにしたりするような話はダメだということです。その上で彼らなりのハッピーエンドと言いますか、彼らが努力して得られた5年後の姿というのはどういうものなのかというのを話し合って書いていただいた結果、あのような形になりました。

松永:すごいキャッチボールしたもんね。今回僕はシナリオのブラッシュアップについてはあれと帰還篇しか覚えていないです。あとのものは原山さん楽しそうに書いてくれているなぁって思って、西と原山さんにお任せしてた感じ。でも、薄命の大陸は結構話し合ったよね。

原山:そうですね。宿題の処理だけだと機械的になってしまうので、新世代をちょっとでも出せたというのはそういう意味でもありがたかったです。ただテーマを書いて終わりではなくて、新しいムニの姿やそういうほんの少しでもプラスαが描けたのはよかったです。

松永:情報というか、伏線だけを回収していくと絶対つまらなくなるというのはあって、原山さんが気を付けてくれたのは各キャラクターの心情ですね。各キャラの想いっていうのを、すごく深く描いてくれました。

 ストーリー構成はきれいなのに、感情は複雑で答えのないものがちゃんとあるっていう。ストーリー構成と一緒にキャラの感情も予定調和しちゃってるシナリオとか、逆に感情が走り回っていてストーリーもちゃんと着地しないシナリオとか、そういうのを書くのって難しくないんですが、構成はきれいで感情は複雑って、すごく難しい。それをやりきってくれて、あの大陸に生きる、彼らの気持ちがちゃんとこもったシナリオになったと思います。

原山:鉄煙の大陸は、他の大陸と比べて社会というものが構築されているんです。例えば5年経っていれば、昇進したとか仕事を辞めたとかの変化もあるので、そういう意味では5年後が一番スムーズに描けました。あと、ギーゼラとケーテを共演させてほしいという要望もいただいていて、それを盛り上がる形で入れてみようとかしました。

 アロイスはチェインストーリーでこっそり復活しているので、チェインストーリーを読んでいない人もある程度わかるようにしました。ある程度かっこいいところも見せておかないと首だけのおじさんなので、そこはしっかり活躍してもらえるようなシナリオにはしました。

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下村:今回味方のキャラクターだけではなくて、第2部のメインストーリーでは敵だったような、アロイスしかりヴァレリオしかりのその後も書けたので、そこは非常に楽しかったというかよかったです。

原山:ヴァレリオの場合は踏破でも一度描いたのですが、他のキャラクターと比べて強大な権力を持っているキャラクターではあるのですが、ギャングであって人間なので、言い訳がましいのですが崖から落ちたらタダじゃ済まないと思うんです。

 そこから復活するのもヴァレリオだろうと思っていたので、ああいう感じにしました。あの後、結末が曖昧というか行方不明になっていたので、“絆の軌跡”ではそこから始めようとあの形にしました。

――個人的には“ヴァレリオ財団”という存在が印象に残りました。ああいう明確な悪の組織が珍しいというのもありますし、エピソードを横断して登場するところとかもおもしろかったです。

原山:ああいうのはワクワクしますからね。その場のおもしろさを重視して書きました。

松永:これは原山さんやってくれたなと思いました(笑)。でもああいうの好きです。

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――年代記の大陸のキャラクターは外の世界からということで、その後が描かれるのか不安だったのですが、そういうところも出番があってよかったです。

原山:年代記の大陸のキャラクターはバラバラなので、まとめて何かとか、全員を出すというのは難しいのです。それでもみんな含めての『チェンクロ』キャラなので、話をより盛り上げたり掘り下げたりするために出てもらったキャラクターは何人かいると思います。

――鉄煙の大陸にツァーリ14世が出てきましたね。お父さんがバチバチなったのは、伏線だったのか! と驚きました。

原山:あれは伏線に見えるようにしていたんです(笑)。今回計算した部分と、書きながらやったライブ感の部分が混ざっていて、ギリギリのバランスになっていると思います。

下村:シナリオを書いていると、偶然つながってしまうことがあるんですよね。「あ、うまくいった」みたいな(笑)。

――“絆の軌跡”の夜明けの大海篇が12月26日に配信されますが、ここに注目してほしいというポイントはありますか?

原山:ネタバレにならない程度に言うと、ヴァレリオ財団ですね。いよいよ、いろいろな大海に手を伸ばし始めて、そこで戦いが繰り広げられます。今まではちょっとずつちょっかいをかけているだけだったのですが、ついに本格的に動き始めます。

 そこで新しいキャラクターだとか今までのキャラクターがどう動いていくのか楽しみにしていただければと。夜明けの海商会をはじめとして、ギャング的なキャラクターも多いので、本当に若干ですが裏社会の勢力同士のぶつかり合いというハードな部分もあります。少しだけ今までの“絆の軌跡”とは違うテイストなので、そこを楽しみにしていただければと思います。

――夜明けの大海篇に新世代キャラクターは出るのでしょうか?

原山:出しました。

西:夜明けの大海篇に関して言うと、今回初登場のキャラクターが何人かいるのですが、それぞれ非常にキャラがたっていて、かっこよくてかわいい感じになっています。ぜひ楽しみにしてください。特に“パラキナ”はすごくいいキャラになりましたよね。

原山:最初とはちょっと違っていたかなと思ったのですが、元気なキャラクターです。今までは新しい世代のキャラクターが先輩に教えてもらうみたいなことが多かったのですが、“パラキナ”はちょっと違うアプローチで現在のキャラクターに絡んできます。そこも楽しみにしていただけるとうれしいです。基本的にオールスターですので、楽しんでいただけるとうれしいです。

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“帰還篇”について

――ずばり帰還篇の見どころを教えてください!

原山:本当に義勇軍が帰ってきます。よく知っているピリカやフィーナたちの会話がまず復活して、彼らの新しい冒険が始まるというところと、“絆の軌跡”を通してカインがずっと主人公のところに行っていると思うので、会えるのか会ってどうなるのかを楽しみにしていただければと思っています。

――“絆の軌跡”のクリアも帰還篇の条件となっているということは、やはり全大陸のシナリオがここで収束するような作りになっているのでしょうか?

原山:そうですね。夜明けの大海篇を受けたシナリオになっています。

――帰還篇と“絆の軌跡”夜明けの大海篇は同日配信だと思うのですが、結構なボリュームになりますね。

松永:はい、年末年始は楽しんでもらえると思います!

――帰還篇から登場する新キャラなどもいるのでしょうか?

西:います!

原山:ただ、新キャラがあまり目立ちすぎるというよりは、義勇軍の旅の中で出会う仲間感を出しています。

下村:第1部と第2部をプレイされた方にとっては、懐かしいなと思ってくれるんじゃないかなというシナリオになっています。

原山:プレイヤーさんにとっては自分が帰ってくるので、プレイヤーさんひとりひとりの冒険がまた始まるという感じですね。

下村:懐かしい感じと、これからどうなるんだろうというワクワク感があります。

原山:ただ帰ってくるだけでは済まないので。

松永:ワクワクするのはもちろんなのですが、それ以上の感情を持ってもらえるものになったと思っています。

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――帰還篇をふまえて、『チェンクロ3』のストーリーが今後展開していくのでしょうか?

西:帰還篇で帰ってきた主人公たちが、『チェンクロ3』のメインストーリーに深く関わってきます。それがどういう形なのかは……やってからのお楽しみということで。

 第1部と第2部の流れがあって、第3部のメインストーリーからカインが出発して、“絆の軌跡”があって帰還篇があって、また第3部のメインストーリーに帰ってくる。その一連の流れを楽しんでいただけたら、本作が積み重ねてきた4年以上の歴史を存分に楽しんでいただけるんじゃないかなと思っております。

――個人的に気になったのですが、クオリアのおふたり的に『チェンクロ3』のシナリオやイベントで、ライターとして「やられたな!」と思ったシナリオやキャラなどはありますか?

原山:第3部は主人公がいなくなって、5人の視点になったのが、まずおもしろそうだなと思いました。

下村:今までだと名前を入力して自分が体験するようになっていたのを、アニメに近いというか、自分の好きなところから読み始められて、それがクロスしていく感じはカロリーを使うシナリオ制作だなと。コンシューマーのRPG感があっていいですね。今回の主人公が帰ってくるというのもコンシューマーRPG感がありますし、それをスマホでやっているというのは熱いです。

西:もちろんスマホであることを意識していないわけではないのですが、僕らの中の「RPGってこうだよね」とか、「王道ファンタジーってこうだよね」とか、「楽しいって、熱いってこうだよね」というのを素直に出しているゲームなのかなと思っています。

下村:なかなかこうした形のものはできないですよね。

――なるほど。それでは最後に、『チェンクロ』ユーザーにメッセージをお願いします!

西:絆の軌跡”から帰還篇を経て、『チェインクロニクル3』はこれからどんどん盛り上がっていきます。前半戦のクライマックスと言える大きな山場を迎えて、ユーザーのみなさんをドキドキワクワクさせる準備は万端です。2017年、ありがとうございました。そして2018年も『チェンクロ』をよろしくお願いします!

下村:最近『チェンクロ』を始めた方もいると思うのですが、4年半ずっとやってきた方々にひと言ありがとうと言いたいです。スマホゲームが特に増えている状況で、これだけひとつのタイトルを続けられたのはすごく幸せなことだと思います。今後もストーリーやキャラクターを好きでいてください。よろしくお願いします。

松永:帰還篇とその後のメインストーリーは、絶対ユーザーさんの心に残る、今まで体験したことのない物語の感覚を味わってもらえるストーリーになっています。第3部前半のクライマックスとなるこの一連のストーリーは、少なくとも2度、ユーザーさんに今まで経験したことのないストーリーのおもしろさを味わってもらえると思っています。

 ひとつ目はまさに帰還篇が始まった瞬間です。自分が帰ってくるという感覚を、ぜひ物語で体験していただければと。そしてその後メインストーリーでは、第5章で一気に盛り上がったヘリオスを中心に、第6章から、ついに主人公たちが合流し、そして隊長とフィーナたちの物語も合流して……という目の離せない、第1部とも第2部とも違う熱さをお届けいたします。来年も、プレイしてきて良かったと思える、チェンクロだからこその物語を進めていきたいと思います!

原山:一緒に隊長たちの冒険を楽しみましょう。ご期待ください!

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⇒次回は、“開発者インタビュー バトル編”をお届けします!

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