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2018年4月8日(日)

【電撃PS】オリンピックを観ていて考えたこと。山本正美氏コラム全文掲載

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.658(2018年3月8日発売号)のコラムを全文掲載!

第127回:オリンピックで考えた

 終わってしまいましたねー、平昌オリンピック。今回は開催国が韓国ということで、日本と時差もないですし、すべて「起きている」時間に競技が開催されていたこともあって、仕事中もテレビを点けっぱなしにしながら大半の競技を観た気がします。大会3日目なんて、スピードスケートとスキージャンプとモーグルの日本人選手の出番が重なって、チャンネルチェンジに一苦労でした。

 しかしまあ、終わってみればこれまでのメダル獲得数10個を越える、13個ものメダルをゲットされたということで、選手の皆さんには一観客として、お疲れ様でした! とお伝えしたい気持ちでいっぱいです。

 オリンピックシーズンは、普段あまり見ないような競技をたくさん目にします。普段あまり見ないので、観戦者として楽しむために、まずは「勝敗」や「優劣」が何によって左右されるのか、そのルールを把握しようとします。とにかく早いタイムを出せばよい競技もあれば、遠くに飛べばよい競技もある。伴走者に勝てばよい競技もあれば、ジャッジによる採点で順位が決まる競技もある。

 中には、ノルディック複合のように、ジャンプで飛んだ距離により、その後のクロスカントリーの出走順とハンデタイムが変動する、なんて競技もあります(これをグンダーセン方式と呼ぶらしいです。知らなかった……)。高木菜那選手が初代金メダリストに輝いたスピードスケートのマススタートなんて、4周ごとの順位でポイントが加算されたりしつつ、最終的には1位になった選手が勝ち、ですからね。

 僕も初めて見たので、途中まで「これ今誰が勝ってんの? こんなに後ろで大丈夫なの?」とヤキモキしつつ、最終的にはトップでゴールしたし「よくわかんないけどやったー!」と困惑しながら楽しんだ感じでした。途中のポイントは4位以下の順位を決めるために必要らしいのですが、ならもうゴール時の順位で決めればいいのでは、という気がしないでもありません。

 ゲームの場合、ルールの理解が必要となる競技性の高いゲームなどは、そのルール自体を説明するチュートリアルを用意します。しかしスポーツ中継は、アスリートのパフォーマンスやタレント性を伝える事が最優先。その競技自体のルール説明に多くの時間を割くことはしません。

 そのぶん重要になってくるのが、「状況」を観戦者に告知する様々なUIです。スピードスケートなどは、まずインかアウトかどちらのレーンをどの国の選手が滑るかを明示するため、リンクに国旗が表示されます。スタートすると、もちろん現在のタイムと、ラップごとのトップとの差が「-0,12」など緑色で表示される。

 たまに、レースゲームでいうゴーストのように、トップ選手のバーチャル走行ラインがリンク上に表示されたりもするので、見ている側は勝敗が非常にわかりやすい。フィギュアスケートも、特にフリーのときは、各パートごとの演技の成否がどうジャッジされているのか、緑、黄、赤のシグナルでリアルタイムに表示されるので、得点が出る前に「これは勝ったのでは……!」と感情を高めることができます。

 逆にわかりにくかったのが、カーリング。勝ち負けの状態は、点数と、野球のスコアボードのようなものが表示されているのでわかるのですが、「それ、まだ動いてるのに!」と思ったストーンが足で横に避けられたりして、ハウスと呼ばれる的に「入っていない」ストーンの扱いがイマイチよくわからなかったりするのです。

 ゲームだと、関係ないストーンはグレーアウトして見た目に「今は関係ない」を主張できますが、「生」のスポーツにはそうそう便利な手法は使えません。ストーンの軌道を解説者が線で描けるだけでわかりやすくなると思うんですけどね。

 ふと思うのですが、たとえば「体力ゲージのない格闘ゲーム」があったらどうでしょう。今ある格闘ゲームから体力ゲージを外しただけだと、最終攻防を「勘」で行うしかなくなり、それはそれで面白くなる気もします。

 が、うーん、やはりトータルではつまらなさそう。調べてみると、たとえば剣戟格闘の雄『ブシドーブレード』などは、一撃で勝敗が決まる瞬間もあって、あれは面白かった。逆に、実際のボクシングには体力ゲージなどありませんが、観戦者もちゃんとハラハラドキドキできます。

 で、あれをゲームで実現しようとすると、キャラクターの表情やモーションを可能な限り細分化する必要があり、作り手としてはゾッとします。このあたり、AIで状況に対してシームレスにモーション制御するようなことができると、キャラの見た目だけで勝負どころを判断させることはできそうです。

 競技性の高いゲームは、そもそもがフィジカルをコントローラー操作に置き換えています。それだけでは足りない部分をUIで情報補完しようとするわけですが、ゲームの工夫は、この「置き換えられた情報の認知手法」の工夫の歴史でもあります。

 ルール自体はわかりにくいカーリングの、しかし「プレイ中の選手の声が聞こえる」というUⅠアイデアを堪能し、まだまだ色んなアイデアが眠っているなあと思うのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.658』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2018年3月8日
■定価:694円+税
 
■『電撃PlayStation Vol.658』の購入はこちら
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