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2018年4月22日(日)

【電撃PS】“勇者のくせに10周年! なまいきシンフォニーの調べ”。山本正美氏コラム全文掲載

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.659(2018年3月29日発売号)のコラムを全文掲載!

第128回:なまいきシンフォニーの調べ

 昨年の5月3日、ゲーム音楽に特化したプロフェショナルなコンサートシリーズとして、アイムビレッジ主催「GAME SYMPHONYJAPAN 23rd CONCERT ~PlayStation(R)を彩るJAPAN Studio 音楽祭 2017 ~」という音楽イベントが開催されました。ひょっとしたら参加された方もいるかもしれませんが、我がJAPAN Studioの数々の名作、その名作を支えた「名曲」達をフルオーケストラで堪能できる珠玉のイベントとして、大変な好評を博しました。

 初代プレイステーション&プレイステーション ポータブルから『ポポロクロイス物語』や『俺の屍を越えてゆけ』、『パラッパラッパー』や『パタポン』、そして比較的最近のタイトルから『GRAVITY DAZE』や『人喰いの大鷲トリコ』などなど、タイトルの一部を書き出すだけでもJAPAN Studioの芸風と幅を感じさせる強力なラインナップ編成。会場からはすすり泣きの声が聞こえるほど、感動的なイベントとなったのでした。

 そんな大好評だったJスタ音楽祭の余波を受け、次はタイトル個別にスポットを当て切る「単独コンサート」を開催しよう! ということで、昨年来水面下で議論が深まっていたのですが、数ある候補の中からなんと『勇者のくせになまいきだ。』も選ばれ、まさに青天の霹靂!

 一連の音楽イベント担当の伴プロデューサーに、「いやもちろん嬉しいけど、他にはどのタイトルで単独やるの?」と聞くと、「えと、『ワイルドアームズ』と『アークザラッド』です」との返答。マジか。こういっちゃなんだけどその並びで『勇なま』はどうなの……?という僕の疑問をよそに、企画は進んで行ったのでした。

 今回の会場は、日本橋三越本店、三越劇場。勇なまシリーズ10周年というメモリアルなコンサートにもなるので、これまでの3部作に『V!勇者のくせになまいきだR』も加えた集大成としてセットリストを構築。作曲家の坂本さんはもちろん、主催者であり指揮者でもあるアイムビレッジ志村さん、そしてディレクター大橋君渾身の選曲群となったのです。

 僕はといえば、伴プロデューサーからコンサートタイトルを決めて欲しいとオーダーがあり、「勇者のくせに10周年! なまいきシンフォニーの調べ」という適当なタイトルを10秒で命名。もうひとつ、三越さんより、併設されるカフェにてタイトル由来のメニューをご提供いただけるとのことで、『勇なま』はキーカラーである紫と絡めた、ムラサキ芋を使ったパフェにしようということになり、こちらも名前を付けることになりました。

 禍々しい感じでお願いします、と伴プロデューサーがいうので、「妖糖ムラサキ」とか「たべますか?はい/いいえパフェ」とか、三越さんなので「四越パフェ」とか「伊勢丹にはないパフェ」とか色々案を出し、結局一番無難な「パフェのくせにムラサキだ。パフェ」に落ち着いてみたりと、慌ただしく準備期間は過ぎ去っていきました(完成品はこちら。実際に食べましたが美味かった!)

『ナナメ上の雲』

 コンサートといえば、演奏の合間にMCが入ることがよくありますが、僕もそこで出番をもらえることになりました。坂本さんと大橋君と3人で、これまでの開発秘話を語るコーナーが用意されたのです。ただ立ち話をするのも芸がないので、シリーズでボツになったキャラクターや開発経緯などをパワーポイントの資料として僕がまとめ、それをめくりながらのトーク、という形式でお願いをしました。

 終了後、「重要文化財であり90年の歴史があるこの劇場で、パワポ芸で笑いを取った人は初めてです」とスタッフの方に言われ、小さくガッツポーズ。いやー、緊張したけどやってよかった。

 今回、志村さん発案で、通常のコンサートにはない工夫として、曲間の節目に、シリーズの世界観や物語、思い出などを、「ムスメが語ってくれる」というアイデアが取り入れられました。各シリーズでの出来事、苦労した攻略、生命への思い、そしてこれから……といったムスメの語りが、名曲の演奏と折り重なり、シリーズを通して伝えたかったことを「追体験」してもらえる構成となっていたのです。

 『勇なま』は、ご存知の通り決して泣けるゲームではありません。しかしコンサート後半、気付いたら景色がぼんやり歪んで見えていました。なんの涙かはわかりません。でも、無性に泣けてきたのです。ふと、周りのお客さんをそっと眺めると、あちこちで涙を拭う姿が歪んだ視界に入ってきました。作り手と遊び手が一緒になってコンテンツそのものを超える体験ができたこと。僕にとって大きな大きな宝物がまたひとつ、手に入った瞬間だったのでした。

『ナナメ上の雲』

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.660』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2018年4月12日
■定価:694円+税
 
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