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2018年5月14日(月)

【BitSummit】開発者も騙される高度なAIの構築。期待の人狼系議論型RPG『グノーシア』インタビュー

文:電撃PlayStation

 日本最大級のインディーゲームイベント“BitSummit Volume 6”。その会場内に出展されていた作品のなかから、電撃PSが注目しているPS Vita用ソフト『グノーシア』について、開発を担当しているプチデポットのめづかれこと、川勝徹氏に話をうかがった。

BitSummit Volume 6

残るはエンディングに至るシナリオのみ! 完成に近づく『グノーシア』

BitSummit Volume 6

──会場で展示版を遊ばせていただきましたが、もう完成までの目途は立っているのでしょうか?

 はい、やるべきことは見えています。このゲームは個別のイベントシナリオが●●個以上あるのですが、最後のエンディングに至る数種類のシナリオ以外はおおよそ完成しました。

──ええっ、シナリオだけでそんなにあるんですか!?

 シナリオといっても1つ1つが短いものですが、開発を担当した“しごと”(プログラミングを担当するメンバー)は、当初48種類くらいと言っていたんですよ。でも、この数じゃ無理ですと言ってどんどん増えて……。つい3日前も、予定より2つほどシナリオが増えていたので「終わらないじゃないか」と言いました(笑)。

 でも、最後の大詰めに至ったことは確かです。あとは、演出を含めたシナリオの実装とイラスト、音楽をあてて、最終的なバランス調整をすれば出せると思います。

──昨年のビットサミット出展版から、大きく変更されたシステムなどはあるのでしょうか?

 昨年のビットサミットでは、お客様が遊ばれた感想を書けるノートを用意していました。そこに書かれていた感想で目立ったもので「メッセージの量や数がわかりにくい」という意見があったので修正しています。

 また、昨年のバージョンでは「難しい」「意味がわからない」という反応もありました。理不尽に死ぬことを繰り返し、何十回も遊ぶことでだんだんとロジックが理解できるゲームなので、確かに展示版だとわかりにくいところがあるのも事実なんですよ。

 自分たちもそこには気づいているので、今回の展示版では前のバージョンよりもチュートリアルを丁寧にして増やしています。テキストやイラストも増えていて、イラスト担当のことりに「なんで、チュートリアルのイラストがどんどん増えてるの!?」って言いました(笑)。

 ほかにも、今回は皆さんの意見を取り入れたバージョンになりました。イベントの数も、絵も、音楽も、シナリオも……といった感じで全部増えています。本当は、去年のうちに発売できるとよかったのですが、早く出しても我々が納得できなければ意味がないので、お客様には申し訳ないのですが、もう少し粘らせてほしいと動いている最中です。

──電撃PSに掲載されている“INDIE★STAR”のコラムで本作に収録されているAIについて触れていましたが、かなり気合を入れて制作されているそうですね。

 AIはすごいですよ。開発している我々は900回以上AIと戦って理解しているはずなのに、それでもAIに騙されてしまうんです。オーバースペック気味のAIだとしごとは言っていましたが、実際にそれくらいよくできてます。

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──本作は“人狼ゲーム”ということで、難易度の調節はかなり難しそうですね。

 難易度の選択自体があるわけではなく、ゲームを途中まで進めるとキャラクターの人数や役職の種類などを設定して遊べるようになります。どうしても難しいと感じた人は人数を5人まで減らしたり、登場するグノーシアの人数を変えたりして調整するとよいと思います。

──展示版で驚いたのが、プレイスタイルやステータスによって発生する会話やイベントが変わる部分も実装されているところでした。たとえば、自分の場合は相手を疑う発言をしていたら「主張し過ぎると疑われやすくなる」と怒られて……。

 そこは、ステルスのステータスが高いと疑われにくくなります。RPGなので、パラメータを上げることでいろいろと変わるんです。逆に、主張しないで黙り続けていると、それはそれでグノーシアだと疑われてしまいます。

 ちなみに、展示版だと最初のシナリオなので“疑う”と“かばう”しか使えませんが、じつはゲームを進めていくと必殺技のような“名乗り出ろ”と言ったコマンドなどが増えていくんです。

 最初は意図的にコマンドを少なくしていて、進むたびに新たなコマンドを覚えていき、メチャクチャな戦いができるようになっています。14人全員を参加させて役職をフルに設定したあと、グノーシアの数も最大にしておくとすごいことになりますよ(笑)。

 それから、議事録のようなシステムも用意していて、システム的に“なぜ、自分が負けたかわからない”といったことを軽減できるように気を付けました。慣れていけば議事録を見て、どこを読み間違えたのかというヒントになると思います。

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──なるほど。とはいえ、本作の議論は“人狼ゲーム”がベースなので、最終的に理不尽な理由で殺される場合もあるのでは……?

 状況によっては可能性としてあります。“人狼ゲーム”も、そもそも理不尽な理由で吊るされることがありますよね。このゲームの場合は自分がグノーシアを暴くだけではなく、ほかのAIを誘導して投票したい相手に票が集まるようにしないといけない。そこがうまく誘導できないこともあるのですが、その歯がゆさも楽しいんですよ。もっと早く手を打っておけばよかったと。

──確かに、自分だけがわかっていても、ほかの人を説得できないと思ったような相手に投票してくれないのは納得できますね。

 このゲームでは、シナリオが発動するタイミングが“自分がどのようにグノーシアとの議論をクリアしたのか”で、おおよそ判定しています。クリアしたときの状況によってイベントが発動するので、自分さえ生き残ればいいという遊び方だけではないんです

 そういう遊び方だけをしているといつか飽きてしまうと思いますが、“この人とこの人を守りながら生き残る”といった足かせを入れることで、より考えて遊ばなければいけなくなると思います。また、自分自身がグノーシアにもなれるので、好きなように勝ってもいいんです。

──基本的には、延々と遊んでしまうタイプのゲームですね。もちろん、ちゃんとしたエンディングもあるとお伺いしましたが。

 はい。物語的な終わりも用意しています。とはいえ、終わったあともずっと続けて遊んでいいゲームなんです。

──グノーシアとの議論が終わるたびに“ループ”するという設定ですが、ゲームのシステムとしては引き継がれるものはあるのでしょうか?

 基本的には議論を重ねてレベルアップすることで、成長したパラメータを引き継いでいきます。しかも、自分だけではなくて周囲のキャラクターもレベルアップして引き継いでいくんですよ。1000回、2000回と連続で遊んでいくと、相手も経験値をためて強くなっていく。遊べば遊ぶほど成長していくので、一方的な議論になることはないと思います。

  それから、部屋を移動してキャラクターと交流する要素もあります。必殺コマンドは、プレーヤーのパラメータ値によって、そこで各キャラクターから教えてもらえるのですが、当然、教えてくれる相手もコマンドを持っている。自分も必殺コマンドを使いますし、相手も使ってくるんです。

──常に、自分が有利な状況にはならないということですね。

 なりません。自分だけが一方的に勝てばいいわけでもなく、ほかの人(AI)たちの気持ちも考えながら戦っていかないと勝てないゲームになっています。キャラクターには“親密度”も設定されていて、交流するとき以外にも関係してきます。たとえば、議論中のコマンドで“同盟を組む”というものがあるのですが、当然仲が良い相手だと同盟が成功しますし、いまいちだと断られてしまうこともあります。

 キャラクターの個性もいろいろあって、ロジックが強いキャラクターなら、すごい考えてから答えを出すので信じられないような発言でも正解を言い当てていたり、直感の高いキャラにはウソが見抜かれてしまったりと、見た目や性格のイメージからくる思い込みがそのままゲームに入っているので悩むと思います。セツがかわいいので信じたらグノーシアだった……というような場面も、よくあるのではないでしょうか(笑)。

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──お話をうかがっていると、今は、まさに佳境といったところだと思いますがいかがでしょう?

 一番時間がかかるのがシナリオなので、できてしまえば実装に苦労することはないと思います。もう、3年と5か月作り続けた作品なので、早くちゃんと出したいですね。

 今年は『LA-MURANA2』も出ますが、ああいった長く作り続けてきた人たちの作品が出るのがちょうど今年なんですね。だから、我々もそこに合わせられればと思います。もしかすると、インディーゲームのサイクルって4年に1本なのかもしれませんね(笑)。

──これだけ作りこんでいると価格が気になるところですが……。いずれは、ほかのハードでも出す予定なのでしょうか?

 『メゾン・ド・魔王』は安すぎたので、さすがにその価格にはなりません。ただ『グノーシア』のような挑戦的なゲームは、お客さんにとってもリスクがあると思うので、無茶な値段設定にはしないつもりです。

 まずはPS Vita用としてしっかりとお届けしたいと考えています。このゲームは少しマニアックなところはあるのですが、僕のように対人の“人狼ゲーム”が苦手な人でも遊べる1人用の人狼になっています。また、議論型RPGという新しいジャンルとしても、今回のビットサミットで“エクセレンスインゲームデザイン賞”にノミネートされましたので、ぜひ期待してほしいと思います。

BitSummit Volume 6
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(C)Petit Depotto.Development and Publishing by mebius.

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