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2018年7月8日(日)

『ライフ イズ ストレンジ』をさらに楽しむキャストインタビュー。Lynnさんの“クロエ観”に迫る

文:電撃PlayStation

 切なさを生むドラマチックなストーリーとゲームならではの臨場感、カメラワーク演出などの秀逸さが評判を呼び、世界的な高評価を得たアドベンチャーゲーム『ライフ イズ ストレンジ』。その前日譚となる『ライフ イズ ストレンジ ビフォア ザ ストーム』が6月7日に配信となり、今も多くのプレイヤーが物語にのめり込んでいます。

『ライフ イズ ストレンジ』

 今回は、そんなプレイヤーの方々に、本作をより楽しむためのインタビュー企画をお届け。クロエ役のLynnさんと、『ライフ イズ ストレンジ』シリーズでローカライズディレクターを務める西尾勇輝さんに対談形式で本作の魅力を語っていただきました。

『ライフ イズ ストレンジ』
▲Lynnさん。アーツビジョン所属。代表作は『宇宙よりも遠い場所』の鮫島弓子役や『ウマ娘 プリティーダービー』のマルゼンスキー役など。
『ライフ イズ ストレンジ』
▲西尾勇輝さん。スクウェア・エニックスのローカライズディレクター。ローカライズを手掛けた作品『ライフ イズ ストレンジ』シリーズのほか『オーバーウォッチ』、『ディアブロIII』など多数。

――まずは、前作『ライフイズストレンジ』とLynnさんのかかわりからお聞きできればと思います。Lynnさんの演じた“クロエ”の第一印象はいかがでしたか?

Lynnさん(以下、敬称略):男っぽくて言葉使いも乱暴で、とてもスレているので……「いったいこの子に何があってこうなっちゃったんだろう」という第一印象でした(笑)。ここまでワルっぽい感じの女の子を演じたことがなかったので、そういった役に挑戦できることは楽しかったですね。

――西尾さんのほうから「クロエはこんなキャラクターで……」といったレクチャーはあったのでしょうか。

西尾勇輝さん(以下、敬称略):ある程度の説明はしました。前作のときは、ゲーム本編よりもトレーラーを先に収録したので、その映像制作とあわせる形で、キャラクターの感覚をつかんでいただきましたね。

――Lynnさんは普段どのように役作りをされているのでしょうか?

Lynn:私は絵から受ける第一印象で、声のイメージを決めていくことが多いです。ただ、クロエの場合は先に英語版の役者さんが演じていらっしゃるので、現場でその音声を聴いて、そのお芝居に合わせて演技を作るところからはじめました。

――本作が前作の3年前のストーリーということで、演技を変えた部分はありますか?

Lynn:じつはそんなにはないんです。前作よりはスレ切っていない感じではあったんですけれど、相変わらず言葉使いも悪いし口調も乱暴だしで(笑)。相手を挑発したりあげ足を取ったりするところも同じなので、そこまで意識的に変えたりはしていないです。

――前作はマックスとの会話が中心だったのに対し、今回は主人公ということでいろいろなキャラクターと会話をすることになったと思うのですが、その部分で新鮮な思いをすることはありましたか?

Lynn:そうですね。好き嫌いがハッキリ分かれている子なので、人によってあからさまに態度が変わったりすることも多いんですけれど、そこはやっぱり演じていておもしろいですね。

 相手を挑発するようなことばかり言うので、「なんでそんなにキツいことばかり言うの!? もっと和やかに立ち回ればいいのに!」と思っていました(笑)。まぁ、そこもクロエらしいところなんですけどね。

『ライフ イズ ストレンジ』

――今回は“バックトーク”で相手を言い負かせるシステムがあるので、余計にそういうシーンの割り合いは多かったかもしれませんね。

Lynn:「ほんとクロエやなやつだなー」と思うシーンもところどころありました(笑)。周りの人のほうがよっぽど悪いことのほうが多いんですけど。

――それでもトゲトゲしい印象を抱かせないあたりは意識してらっしゃったのでしょうか。

Lynn:やっぱり根の部分はとてもいい子なので……いい子ですよね?

西尾:いい子ですよ!

Lynn:と思うので、そこはありつつ……。周りのせいにしているというわけでもないですけど「こういうふうになっちゃってるんだよ。しょうがないんだよアタシは」みたいな気持ちで演じていましたね。

――クロエ自身、ショックな出来事も多かったですからね。

Lynn:そうですね。ほんとに「まだ若いのに、もっと幸せに生きてほしいのに……」と思いながら演じていました。精神的に落ち込むシーンやセリフも多めなので、収録中もだんだん気分が沈んでいく……と。「収録前と収録後で人が違う」と西尾さんに指摘されたり(笑)。

西尾:帰りコワイんですよ(笑)。

Lynn:収録の時間でクロエになりきったってことですね(笑)。

――そこまで役に入り込んでいたんですね。

Lynn:自然に入り込んでいたと思います。セリフ量の多い収録は、自分との戦いというような面もあるんですけれど、クロエとしてひたすら喋っていると、自分自身も世の中に対してムカついてきたりするんですよ(笑)。ちょっとしたことがイライラしてきたりとか。クロエが憑依してる、ということにしておいてください(笑)。

西尾:ほぼストーリーの順番通りに収録していたのですが、後半になるにしたがって、シーンによってはスタジオ自体がかなり真剣な空気に包まれていましたね。なるべく僕は楽しくやりたいんですけれど(笑)。

――クロエは早口でセリフの情報量も多いですが、映像の尺に合わせるのに苦労などはございましたか?

Lynn:そうですね。とくに最初のほうは早かったり遅かったり、タイミングが合わないこともありましたが、西尾さんが台本を調整してくださったり、わたし自身がペースをつかめるようになってからは録り直しも少なくなりました。あ、でも私の集中力が途切れたりすると、絶望的に合わないことが続いたりもするんですけれど(笑)。調子がいいときはまあまあ順調で。

西尾:こちらの意図に合わせてセリフを切ってもらって、間を取ってもらって……っていう感じなんですけど、合わないときはとことん合わなくて(笑)。

Lynn:気持ちを入れて読んでいると、「ここでこの文章を切りたくない」って思うこともあって。だけど映像の口に合わせるにはここで切らなきゃいけない……と葛藤していましたね。

西尾:あと、失礼なんですが、最初の収録ではちょっとLynnさんの実力を見誤っていて。音声ファイルの長さに収まらないだろうということで、台本の時点でだいぶセリフを削ぎ落としたんです。だけど、いざ収録してみたらセリフのほうが足りなくなってしまって……「アレ?」と。

Lynn:相手に食って掛かるというか挑発するようなシーンでは、気持ちが乗ってくるとけっこう早く喋れちゃったりして……。それで尺が余ってしまう感じでしたね、最初は。

――大津さんが演じたもう1人の主役・レイチェルの印象はいかがでしたか? もともと前作でもキーとなる人物ではありましたが、今回で印象に変化があったのでしょうか。

『ライフ イズ ストレンジ』

Lynn:前作のときは、もっと普通にいい子だと思っていたんです。ですが、本作で面倒くさい……というか、クロエとはまた違った意味でクセのあるやっかいな女の子だとわかってビックリしました。ただ、レイチェル役の大津(愛理)さんとは共演も多いので、演じるのが大津さんだと聞いたときは安心しましたね。「大津さんなら大丈夫だ」って。

 実際にセリフを聞いたときも、みんなの“憧れの存在”であるときと、落ち込んでめんどくさいモードになっているときの雰囲気の違いも素敵に演じてらっしゃいましたし。ほっとけないというか、なんとかしてあげなきゃいけないと思わせる“憂い”を帯びている感じがして……。

 大津さんご自身にも「この人は何を抱えているんだろう。私がなんとかしてあげなくちゃ!」という想いをたまに感じるんですが、だからこそ、レイチェルのそんなところもうまく演じられているのかな、といった印象でした。

――レイチェル自身がわりとクロエを振り回すので、それに“応じる”のは演技的にけっこう難しい部分なのではと思っていました。

西尾:前作にはないリアクションですからね。

Lynn:なんかもう「恋しちゃってるのかな?」と思うようなシーンもあって。すごいドギマギしている、ちょっと照れてるクロエ……みたいなところがあったのは新鮮に感じました。「かわいいぞクロエ。ちょっと女の子らしいところが出てきてるぞ」と(笑)。

――そういったシーンは相手のキャラクターの心情を押し測りながら演じられているのでしょうか?

Lynn:ゲームの収録は、掛け合いとか相手の声を聴きながら録っているわけではないので、自分で台本を読んで、大津さんの声でイメージしながら演じています。自分の収録を終えたあと「掛け合いで確認します」と音声を流していただいたとき、芝居の息が合っていると、「ああ、わたしの解釈は間違っていなかったんだな」と手ごたえを感じます。

――大津さんも同じように、相手の心情をイメージして演技しているとおっしゃっていました。

Lynn:ゲームは基本的に1人での収録なので、実際に掛け合いとして成立していると、「よかったな」と安心しますね。

西尾:掛け合い自体が多いうえに、選択肢によって枝分かれしていくゲームなので、僕の頭の中では整理しきれなくなることもあるんです。なので、実際に掛け合いを流して整理するということがあります。

 吹き替えの場合は、セリフのニュアンスを間違えたり、あるいはあまりにも独自の色を加えられたりしてしまうと、原作とズレが生じてしまうこともあるんですが、お2人とも英語版の演技のニュアンスをつかんで、自分なりに落とし込むのがとても上手なので、雰囲気がズレたりというのはありませんでした。

ただ、別録りだからこそ難しい部分もあります。先にクロエを録って、次にレイチェルを録るのが1週間後とかになると、スタジオの人間もなかなかそのときのニュアンスを思い出せないこともあるので。

 じつは前作でもそういう場面で録りなおしたことがありまして。学校のプールに忍び込むシーンなんですが、クロエは、“忍び込んでいる”ということでLynnさんにかすれるくらいのトーンでしゃべってもらったのに、それを忘れて、マックス役のたなか(久美)さんには普通のトーンでお願いしてしまって……。クロエだけすごく慎重で、マックスはのんきに喋っているような形に。「これはアカン。すみません、僕が間違えてました!」と録り直しをお願いしました(笑)。

Lynn:(笑)。

西尾:さすがに本作ではそこまでのことはありませんでしたが(笑)。お2人とも台本を読み込んでくれますし、あらかじめご自身のなかでイメージを作ってくれるのでやりやすいです。

――大津さんにインタビューした際も、西尾さんと「お2人とも本質をつかんでキャラクターを再現するのがうまい」という話になりました。

Lynn:なんでしょうね、吹き替え作品を多く担当させていただいているから、でしょうか?

西尾:天性のものもあるのかと思います。

Lynn:いやー(笑)。でもわりと感覚的にやっている部分が多いので、それを言葉で説明するのは難しいかもしれません。

――先にインタビューした大津さんは、Lynnさんは大津さんがイメージしたクロエのニュアンスを超えて、さらに繊細な部分を表現してくれるとおっしゃっていました。

Lynn:照れますね(笑)。ただ、「ここはこうやって言ってやろう」と深く考えて練り込むよりは、その場の気持ちを第一にして演じるようにしています。だからやっぱり言葉で説明するのは難しいですね。

――となると、クロエという複雑な背景を持つキャラクターを演じるのは難しかったですか?

Lynn:はい。話のスピードや間の取りかたなども難しかったですが、単純に普段は使わないような言葉も多かったので、その部分も大変でした。収録のときに「この単語はこういう意味であっていますか?」と聞くことも何回かありました。「なるほど」を「なる」と言ったりするのも新鮮でしたね。「なる」って言っている人見たことないぞ! と思ったり(笑)。

西尾:尺の都合で「なる」にするしかなかった部分もあるんです(笑)。……なので「なる」はぜひ我々で使っていきましょう!

Lynn:使うかなぁ(笑)。西尾さんが「なる」を気に入ってるだけじゃないですか?

西尾:そうかも(笑)。

『ライフ イズ ストレンジ』

――今回のクロエは茶髪ですが、Lynnさんは前作の青色とどちらが好きですか?

Lynn:やっぱり前作のインパクトが強いので青ですね。ただ、本作で少しだけ青色にするときのはにかんだクロエは、可愛くてすごく好きです。とはいえ、髪を青色にしたクロエが、これからどんどん不良になっていくんだなと思うと、親心的には複雑です(笑)。

西尾:クロエが髪を青くしていくのは、レイチェルへの信頼の表れもあったのではないかと思います。前作では、マックスが成長していく様子が描かれていきましたが、本作でも、クロエの成長や心境の変化は描かれていくことになります。レイチェルに対してだけでなく、ジョイスやデイビッドに対して、彼女を取り巻く世界に対しても心境は変わっていくので、それも1つの成長だと思います。クロエは、序盤こそレイチェルにドギマギしていて、前作を知っている人からするとクロエらしくないと感じる部分もありますが、物語を進めていくにつれ、ぎこちない感じも薄れて、親友としての顔を見せてくれるようになります。

――なる。

西尾:ただ、クロエが髪の色を変えるシーンはいろいろな意味が込められているので、一概にこのシーンがどういう意味を持っているのか伝えることは難しいですね。

――Lynnさんにとって、そんなクロエの魅力はどこだと思いますか?

Lynn:クロエはすごく格好いい子だと思います。誰が相手でも遠慮なくズケズケとものを言えているし。もちろん、あえてトゲトゲしさを出しているという面もあるとは思います。

パッと見るとすごく自由に生きているようで、実はいろいろなしがらみの中で生きている、それがすごく格好いいな……と映りました。「こんなことを抱えながら彼女は強く振る舞っているんだな」とわかると……なんていうか、報われてほしくなります。幸せになってほしい。

西尾:確かに。好き勝手やっているように見えて、『ライフ イズ ストレンジ』のなかでは一番がんじがらめの人物でもありますね。

Lynn:今回の作品では、そんな彼女の心境がより深く掘り下げられているので、さらに彼女のことが好きになってもらえるんじゃないかと思います。

西尾:前作はマックス視点だったので、見方によっては自由奔放なクロエが苦手だという人もいたかもしれません。ただ本作をプレイすれば、クロエの本質というのが細かく描かれているので、繊細な部分を知ることができて、より好きになれると思います。

――送ることができなかったマックスへの手紙などを見ると、かなり健気な女の子であることがわかりますね。

Lynn:それなのに、なんでみんなクロエに対してはあんなにひどい接し方なんでしょうね。彼女自身が招いたすれ違いもあると思うんですけど、どうしようもない出来事も多すぎてツラいです……。

西尾:「どうしてそういうこと言っちゃうのかな」という場面も多いですよね。

――デイビッドとのシーンはそういうセリフが多いですね。

西尾:そうですね。あのあたりもうまく描かれていて……クロエがデイビッドを拒否すればするほど、母のジョイスはデイビッドを頼るしかなくなり……。なので、「クロエ、そこは我慢したほうが」と感じる場面もあるかもしれません。

Lynn:いやー、キツいよー(笑)。

西尾:普通にプレイしているだけじゃ気づきにくい描写もありますが、そういった細かい心情の変化というか、この年齢の女の子らしい「そっち行っちゃダメ!」っていう部分も多いです。クロエのまわりでは、いろんなところですれ違いが起きているんですよね。必ずしも彼女がすべての原因というわけではないにしろ。だから……複雑な人物です、クロエは。もちろんそれが彼女の魅力でもあると思います。

Lynn:クロエは人間関係を上手に作ることができないんです。それに彼女自身がすごく苦しんでいるというか。

西尾:不器用ですよね(笑)。

――そんな、彼女の不器用な部分に関してはどのように演じましたか?

Lynn:本当に心を許したときにだけ、素の部分が見えればいいかな、と思って演じました。

――ステフとマイキーとTRPGを遊んでいるシーンは、クロエが楽しそうでしたね。

Lynn:あのシーンはわたしも新鮮でした。クロエもああいうふうに役になりきってはしゃぐ一面もあるんだなと驚きつつ、微笑ましくなりました。

西尾:「しょうがねえな」と言いながらもけっこうノリノリですからね。

Lynn:台本を読んだときは、どこまではしゃいでいいのか、その匙加減が難しかったんですが、原音がけっこうノリノリだったので、そう演じました(笑)。

西尾:むかしから海賊ごっこが好きだったので、何かになり切って遊ぶ資質はあったんでしょうね。

『ライフ イズ ストレンジ』

――西尾さんから演技についての要望などはありましたか?

Lynn:基本的には自由に演じさせていただきましたね。レイチェルとはじめて会話をするシーンは「もっとドギマギしてほしい」とお願いされました。「そこまで変えたらクロエじゃなくなっちゃうんじゃないかな?」という思いは少しありましたが、そこは意図したものだそうです。

西尾:映像を見るとわかるのですが、あのシーンのクロエは慌てすぎて目が泳いでいるんです。前作のクロエとは違うことをユーザーに伝えるシーンでもあるため、オーバーに演じていただきました。

Lynn:それ以外は大きなディレクションはなかったですね。

西尾:そうですね。Lynnさんは完璧主義者なので、納得のいかないシーンがあると顔に出るんですよ。その空気を感じたら録り直し、とすることは多かったです。『ライフ イズ ストレンジ』だけでなく『オーバーウォッチ』とかでも(笑)。

――『オーバーウォッチ』ではメイを演じてらっしゃいますね。

Lynn:はい。そういえば私、西尾さんに聞きたかったんですが、『ライフ イズ ストレンジ』でクロエを先に演じていて、なんでまったく異なるイメージのメイをオファーしてくださったんですか?

西尾:いや、僕けっこう天邪鬼でして。違ったキャラクターを演じていただきたくなったんです。できることはわかっていたんですよ、天性のものがある方なので。……役のイメージと大きく違うというと、ほかに顕著なのはネイサン役の間宮康弘さんでしょうか。間宮さんも、海外ゲームや洋画の吹き替えにずっとたずさわってきている方なんですけれど、野太い声をお持ちの方なので、屈強なキャラクターを演じることが多いんです。僕も何度かお仕事させていただいているんですが……ふと「違う間宮さんを聞いてみたいな」と思いついて、少年をお願いしてみました(笑)。それがネイサンですね。

Lynn:間宮さんが少年(笑)。

西尾:収録のときに「ちょっとまだオッサン声ですねー」って言うと、「アンタが選んだからでしょ!」ってつっこまれるんですけど(笑)。

 ……なので、サンプルボイスにあるような声だけでなく、「こんな声もできるはずだ」というイメージを持って、それをもとにキャスティングさせていただいている感じです。だから『オーバーウォッチ』のメイは、そういった天邪鬼が発端でお願いしたお仕事と言えるかもしれません。

――Lynnさんが演じられたなかでお気に入りのセリフはありますか?

Lynn:具体的なセリフではないですが、乱暴な言葉遣いをするのがちょっと楽しかったりしました。現実でも役としても、ほぼ使わない言葉なので。

――これまで演じたことがないタイプであったにもかかわらず、ここまで声がマッチするのはすごいと思いました。

Lynn:男の子っぽい子を演じたいという願望は昔からありました。なので挑戦でもあり、楽しくもあり。周りにも「Lynnちゃんだって気づかずにプレイしてた」って言ってもらえることも多くて……。よしよし、と(笑)。すごくうれしく思っています。

――「ここは絶対に注目してもらいたい」というシーンはございますか?

Lynn:学校演劇で“テンペスト”を演じるシーンで、すごい困ってるクロエ。衣装がめちゃくちゃ似合ってないところとか(笑)。

西尾:え、あの衣装かわいいじゃないですか(笑)。

――あ、その部分は映像を見て演じられたんですね。

西尾:ええ、そこはさすがにお見せしながらでした。クロエが、紐で操られてるんじゃないかっていうようなぎこちない動きとか。

Lynn:クロエは役者じゃないからうまくないし、嫌々やっているしっていうところをベースにしつつ、成功パターンや失敗パターンなどいくつかバリエーションがあって。その演じ分けも難しかったんですけど、けっこうおもしろくて。すごく印象に残っているシーンです。

西尾:シーンが完成したときに、「こんな感じになりました」ってLynnさんにお見せしたんですよ。そしたらすごい爆笑しながら見てくれて(笑)。

Lynn:そうなんですよ。「めっちゃへただなクロエ」って(笑)。レイチェルは隣で上手に演じているのに。

西尾:ある面ではすごく健気なシーンなんですよ。クロエがレイチェルのために必死でセリフを覚えたっていう。

Lynn:最後にレイチェルがアドリブを入れて……そこでクロエとレイチェルの心が通じ合うっていうシーンですしね。

西尾:劇として進行するセリフは維持しつつ、本質は2人のプライベートな会話でもあるという。そこを両立させるのは難しかったですね。ってこれ発売近辺じゃ載せられない(笑)。

Lynn:前作にはなかった、クロエにとっての一大イベントでしたね。困りながらいろんなセリフを言っているクロエに注目して、いろんなパターンを聞いてほしいです。

――前作時点では、すべて演じ終えてのご感想はいかがでしたか?

Lynn:やはりラストシーンが印象的ですね。録り終えた日は、かなり気持ちが重かった記憶があります。シネマティックな部分だったので、映像を見ながら演じたのですが……「ああ、これで終わるのか……。クロエ……!!」という感覚でした。「終わった!」っていう達成感よりも、すごく放心するような感じでした。個人としては、前作のほうが泣いたし、苦しかったし、叫んだような印象があります。

西尾:前作のクロエのセリフがすべて会話だったからかもしれません。今回は主人公ということで、淡々と独り言をつぶやくシーンも多いので、相対的にそう感じたのかも。前作では、クロエは何回も死にかけますから、そのシーンで大きく気持ちが揺れるという面はあったように思います。

――たしかに、セリフ的には前作のほうが“より”エモーショナルなシーンが多かったのかもしれませんね。

Lynn:そういう印象ですね、私としては。わかりやすく感情が表に出ていたのが前作で、はっきり出ていないんだけれど、独り言を含めたセリフに、すごく心情がこもっているのが今作という感覚です。

――前作は時間を巻き戻すシステムがあったので衝撃的なシーンも多かったのだと思います。ところで先ほどクロエの独り言の話がありましたが、Lynnさんがモノローグを演じるときに気を付けたことはなんでしょう?

Lynn:海外版の演技が淡々としていたので、それにあわせて淡々としゃべるようにしました。モノローグに関しては、彼女のお母さんへの想いがすごく切なく感じました。悲しさがすごくあったなぁ、と。

西尾:クロエは頭がいいので、独り言もウィットに富んでいておもしろいものが多いんですよ。マックスのようにポエミーなことを言うこともありますし、いろいろなところを調べて、いろいろなセリフを聞いてもらいたいです。

――本作の収録を終えたあと、Lynnさんのなかでマックスへの想いは変わりましたか?

Lynn:マックスに対してですか? あくまでクロエ視点での話ですが、本当にマックスは大事な存在で、ずっと待ってるんだな……って。ちゃんと連絡くれればいいのになって、ちょっと悲しい部分もありましたね。

西尾:シアトルにいるマックスがどう過ごしているのかは描かれていないので、実際はどうして連絡を取らなかったのか、わからないんですよね。

――そんなマックスに、『ビフォア ザ ストーム』劇中時点のクロエから何かひとことメッセージを送るとしたら……?

Lynn:「手紙、待ってるよー……」(笑)。うーん、難しいな。

――あるいはレイチェル宛て、あるいは……大津さん宛てでも。

Lynn:「とってもよかったよ! おおっちゃん!」。……大津さん宛てだったらいくらでも言えますよ(笑)。うーん、クロエからマックスへのメッセージ、難しいですね。クロエは優しすぎるからなぁ。

西尾:クロエって「やり場のない怒り」に悩まされているんですけれど、その怒りは、マックスだけには向かない気がするんです。なので、言いたいことはたくさんあるけど「手紙よこせよ」っていうくらいで済ませちゃうのかもしれない。ちなみに、マックスとレイチェルはまったく違うキャラクターですが、どこか似ている部分があります。クロエの交友関係を見ていると、自分と同じタイプよりも、自分が持っていないものを持っている人に惹かれていることがわかります。

Lynn:クロエはたぶん、マックスのこともレイチェルのこともすごく思いやっているんですが、個人的には、もうちょっと向こうからクロエへの思いやりもあってほしいな、とは思いますね。レイチェルは、一見思いやっているふうで、すごく振り回すシーンも多かったので……そこがレイチェルっぽい部分でもあり、クロエが彼女に惹かれた面だとも思うのですが、もう少し思いやってあげてほしかったかな(笑)。

――収録中に、とくに印象的だったエピソードなどはございますか?

Lynn:西尾さんがメロンパンをくれました(笑)。しかもおしゃれで可愛いカラフルなやつ。

西尾:いや、ちょっと近くで店に寄ったので……。大津さんもそうだけど、なんでみんな収録中のエピソードを聞かれると、僕が物をあげた話になるんだ(笑)。

Lynn:ありがたいんですよ(笑)。

――先日の大津さんのインタビューのときに、西尾さんはLynnさんも大津さんも非常にストイックに役を作ってくれるとおっしゃっていましたね。

西尾:ストイックですよ。たぶんLynnさんとお仕事された誰に聞いてもそんなコメントが返ってくるかと思います。それか、何を考えてるのかわからないっていうコメントか(笑)。

Lynn:きっとそっちのほうが多いですね(笑)。

――今回で言うとどういったところにストイックさの片鱗があったのでしょうか。

西尾:集中しているときの姿勢というか、同じ部屋にいるわけではないので画面を通して見る形なのですが、たまにピリピリくるくらいのときがあり……。そこはほかの役者さんにない要素かなと思います。そして、すごくまじめに台本を読み込んで来てくれるので、こちらとしては助かります。

あとは、ご自身で納得いかないときは、しっかり録りなおすところはとても助かります。こちらでは気づきにくい部分でもありますし、トップダウンではなくお互い協力していいものを作り上げるスタンスにしてくれるのは、我々としてもありがたいです。

Lynn:今作で言うと、やっぱり“クロエが主人公になった”というのがけっこう大きくて。ゲームの主人公……こんなにしゃべる主人公は初めてやらせていただきますし。そこで気負っていた部分もあります。いい作品になるように気合いが入っていたこともありますので、収録の時間はかなり集中して取り組んでいましたね。

――最後に、発売を楽しみにされている方々にメッセージをお願いします。

Lynn:この『ライフ イズ ストレンジ』というシリーズは、いい意味でゲームっぽくないと思っていて、映画とか物語を見ているような感覚で楽しめるのが魅力です。落ち込んでしまうような重いシーンもありますが、そういう面もあるからこそ、ユーモアを感じられるシーンや日常のちょっとした幸せを感じられるシーンもあるので、ぜひプレイして隅々まで楽しんでほしいです。そして、前作をプレイした方もそうでない方もふくめて、多くの方々にこの作品を知ってほしいですね。出会っていただいて、のめり込んでもらえたらうれしいです。

――ありがとうございました!

『ライフ イズ ストレンジ』

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