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2018年9月2日(日)

『MHW』徳田ディレクターが語る“ゲームデザインにおけるコンセプトの作り方”【電撃PS】

文:電撃PlayStation

 CEDEC 2018にて、『モンスターハンター:ワールド(MHW)』のディレクターを務める徳田優也氏による“フィールドとモンスターの制作工程から読み解く『モンスターハンター:ワールド』のゲームデザイン”と題したセッションが行われた。

 徳田氏はシリーズ第1作『モンスターハンター(MH)』のPVを見てカプコンの門をたたき、『MHG』よりシリーズの製作に携わっている人物。セッションではまず、ディレクターになるまでどんな経験を積み、どのように視野を広げていったかが語られた。

CEDEC 2018
▲徳田優也氏
CEDEC 2018
▲徳田氏は『MHG』以降ほぼすべてのシリーズ作品でモンスターのプランニングを中心に開発に携わっている。

10年以上キャリアとともに夢を積み上げてきた

 多くのシリーズ作品にかかわってきた徳田氏が力を入れて語ったのが『MH3』での経験。なかでも大きかったのが水中での狩りのシステム設計だったそうだ。モンスターもハンターも泳ぐことで自由に上下に移動できるなかで、どんな遊びをユーザーに提供していくか。

 また、自由に動け過ぎると地上とはゲームバランスがまったく異なるものになってしまう問題をどうやって帳尻を合わせていくか。そんな二律背反する課題を徳田氏は、上下への回避行動やモンスター側から高さ軸を合わせることによって解決していった。この経験をとおして徳田氏は、モンスターを最大限に生かすならフィールドも同時に作ったほうがよいと感じたそうだ。

CEDEC 2018
▲水中と地上に加えて、その間に位置する浅瀬も含めてどのようなものにするかを決めていった。

 さらに『MH3』での徳田氏は、全モンスターの企画やシステム的な設計を行い、ほかのモンスタープランナーの成果物をチェックするモンスタープランニングのリーダーでもあった。

 全モンスターの企画に携わるということは、当然モンスターごとのレベルデザインも徳田氏主導。初代『MH』のモンスターと当時『MH3』に登場する予定だったモンスターを照らし合わせながら個々のモンスターの強さに加えて、狩りの基本を教える、乗り越えるべき壁になるといったようにモンスターの役割も決めていったそうだ。

 だが『MH』シリーズにおいて新たなモンスターとの出会いは、基本的に新たなクエストで行われるもの。そのためモンスターに役割を与えていくうち、徳田氏はクエストの制作にも携わっていきたいとも感じたそうだ。

 なお、当時の徳田氏はクエストの新しい仕組みをいくつか提案していたそう。だが『MH3』のタイトルとしてのコンセプトと合致していない点や、クエスト担当でないと理由から採用されなかったと徳田氏は語っていた。

CEDEC 2018

 『MH3』開発初期の2006年、徳田氏は複数のクエスト間で“特定のモンスターを一定数狩る”“特定の素材を手に入れる”などで報酬が手に入る“サブクエスト”という仕組みを提唱していた。この仕組みは12年のときをへて『MHW』で“バウンティ”という形で実装されることとなった。

CEDEC 2018

 同じく徳田氏が『MH3』で考えていたのが“注射器”を使ってモンスターのエキスを集めるなど、狩猟とは異なる形でモンスターにアプローチするクエスト。こちらは今後のために温めているネタだそうだ。

 モンスターを生かすために、フィールドやクエストを含めて制作に携わりたい。その夢がかなったのがメインプランナーに就任した『MH4』。

 クエストとモンスター両方の全体監修を行う立場となり、クエストの受注タイミングや登場NPCも含めてモンスターを生かすための設計ができるようになった。だが、そんななかで徳田氏は自分の担当とは関係のない提案をいくつかしていたという。

 その1つが“ジャンプを行える武器種”。当時のディレクターから高低差を生かしたアクション体験を『MH4』のコンセプトとして提示されたことに対する提案だったそうだ。

 『MH4』でジャンプを行えるといえば操虫棍だが、当時徳田氏が考えたものはアンカー(碇)を射出できる両刃の薙刀。この案を元にディレクターから提示された虫を使ったアクションを取り入れ、現在の操虫棍になったとのことだ。

 ただ、この新武器種への提案は決してメインプランナーとしての仕事をないがしろにして行ったわけではなく、『MH4』のプロジェクトの初期に行ったそう。プロジェクトが進むと自分の仕事に追われて意見を出す余裕がなくなってしまうが、まだ余裕があるうちに提案を求められたらそれが自分に直接関係あるかを問わず意見を出していくとそれが次につながっていくと、徳田氏は語っていた。

CEDEC 2018
▲当初は、モンスターの頭にアンカーを当てて跳躍する武器種が考えられていた。
CEDEC 2018
▲猟虫こそいないものの、3色のアイコンによる行動制御や、回避を兼ねたジャンプ攻撃など随所に操虫棍の片鱗が見られる。

 この操虫棍の原型を含めた『MH4』でのさまざまな提案から、徳田氏の考えはさらに変化。モンスターやクエストだけでなく、ゲーム自体のコンセプトから作っていきたいと思うようになっていく。

プロデューサーからの条件を満たしながら、コンセプトを盛り込む

 そして『MHW』では、ディレクターとしてゲームコンセプトを提示できるように。そして、コンセプトに伴ってチームメンバーが作った成果物のチェックや方向性の修正を行うというのが徳田氏の業務となった。

 ディレクターとなった徳田氏が『MHW』で提示したかったのは、これまで以上に色濃い生態系。だが、ディレクターがなんでもかんでも好きにできるというわけではない。

 『MHW』の企画においては、辻本良三プロデューサーから“据え置き機向けに次世代の『MH』を開発してほしい”“日本のユーザーも海外ユーザーも楽しめるタイトルに”“発売目標時期は、2017年末”という3つのミッションが課された。

 残念ながら3つ目のミッションは未達成となってしまったが、徳田氏はこれらに応えつつ自身の作りたいゲームコンセプトを提示する必要があった。

CEDEC 2018
▲辻本氏のミッションに対して徳田氏の掲げた3つの商品コンセプト。

 その回答の1つが『MHW』の舞台、新大陸だと徳田氏は語る。既存のシリーズ作品にはいっさい登場していない場所で、登場するNPCもすべて新顔という形であればこれまで『MH』シリーズに触れてこなかったユーザーであっても入り込みやすいだろうというのが狙いだったそうだ。

CEDEC 2018
▲NPCには、調査団の一員であるプレイヤーの成果を褒めるという役割もあるそう。

 さらに動きながら一部アイテムの使用が行えるようになったハンターや、常に動き続けるモンスター。そしてエリアによる区切りがなくなったフィールドと『MHW』ではさまざまな点でシームレスなゲームプレイにつながる仕組みが盛り込まれている。こういった世界観やゲームシステムのすべてが“プレイヤーにどんなゲーム体験をさせたいか”に基づいてコンセプトを提示していったそうだ。

CEDEC 2018
▲『MHW』では向きを合わせるためにその場でモンスターが旋回するなどの、システマチックな動きは排除されている。

生態系とレベルデザインを同時に考えたモンスター設計

 『MHW』でプレイヤーが最初に訪れる古代樹の森をもとに、フィールドの生態系の作り方も語られた。本作はモンスターを配置する際、これまで以上に地形に合わせてどんなモンスターが生息しているかが考えられたとのこと。

 古代樹の森の場合は、草食モンスターであるアプトノスはひらけた場所を生活の拠点としており、その奥の森林地帯には肉食モンスターのアンジャナフが生息。さらに、奥深いところにはリオレウスなど強大なモンスターがいるといった具合だ。

 これは同時に、アプトノスが生息しているような場所はプレイヤーが立ち回りやすいように高低差が少ないひらけた空間になっており、奥に行くに従って入り組んだ地形での立ち回りを要求されるといったようにフィールドのレベルデザインも考慮して設計していると徳田氏は語った。

CEDEC 2018
▲フィールド全体を環境とレベルデザインに合わせて区分している。
CEDEC 2018
▲『MHW』で環境として表現したかったと徳田氏が語った瘴気の谷のコンセプト。こちらに関しては以前に行ったインタビューに詳しい。
⇒『モンハンワールド』ネタバレ注意!? ストーリークリア後まで語るキーマンインタビューはこちら

 また『MH』シリーズにおいてモンスターは“プレイヤーを適度に追い詰めたあと、気持ちよく倒されてくれる存在”でなければならない。こういった存在にモンスターを形作っていくために重要視しているのが“インパクト”と“攻略性”だそうだ。

 インパクトはその名のとおり、デザインや動きでプレイヤーに衝撃を与える要素。このインパクトが強ければ強いほど、攻略の仕方をプレイヤーに考えさせ、また狩猟したときの気持ちよさを増大させるものだ。

 そして攻略性を持たせるのに重要なのが、モンスターのアクションに対してプレイヤーに選択肢を与えること。その選択肢が豊富で、わかりやすいものであるほど攻略性の高いモンスターであると徳田氏は考えている。

CEDEC 2018
▲ネルギガンテは龍風圧やステルス化といった、これまでの古龍にあったプレイヤーの行動を制限する要素を排して攻略性の高いモンスターとして設計された。

 『MHW』のモンスターのなかで、この2つの要素に優れていたモンスターがネルギガンテ。通常の状態、白いトゲが生えた超強化状態、そしてトゲが黒く変色した硬化状態の3つの形態がプレイヤーにインパクトを与え、同時に各状態に応じて肉質が変化することなどがプレイヤーに攻略のしがいを感じさせたようで「どうやって討伐するのか」から「いかに早く効率よく討伐できるか」とプレイヤーの思考がかなり早い段階で変わっていったと語っていた。

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▲ネルギガンテについて徳田氏が考えたのは、破壊と再生というテーマと3種類の形態をループするコンセプト。細かな仕組みはプランナーが手がけている。

 今回のセッションのまとめとして、プランナーやデザイナーは“プロジェクトの前提条件を確認しておくこと”“ユーザーを楽しませ、心を動かすことはさまざまな企画で通じる要素”“アイデアを考え、発信することをあきらめない”ことが重要と徳田氏は語った。

 生態系作りに感銘を受けてカプコンに入り、モンスターのことを考え、そして12年越しに“バウンティ”という形で自分のアイディアを実現させた徳田氏。自身もこの3つの要素を旨としてユーザーに楽しみを提供しているのだとわかるセッションだった。

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