2018年12月30日(日)
オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV(以下、FFXIV)』の24人で挑むアライアンスレイドシリーズ“リターン・トゥ・イヴァリース”は、その名の通り『ファイナルファンタジータクティクス(以下、FFT)』『ファイナルファンタジーXII(以下、FFXII)』の舞台である“イヴァリース”を『FFXIV』の世界観にマッチさせた物語が展開するコンテンツ。イヴァリース世界の産みの親である松野泰己氏がゲストクリエイターとしてがっつりシナリオ制作にたずさわっていること、一部ボスのデザインや映像演出に“牙狼”などで著名な雨宮慶太氏がかかわっていることなどが話題となり、実装後の反響も非常に大きいものでした。
そんなリターン・トゥ・イヴァリースも、次回のアップデート・パッチ4.5でついにフィナーレを迎えます。というわけで今回から数回に分けて、シナリオも設定も膨大な本シリーズの内容をまとめつつ細部を考察。濃いめの味付けでお送りしますので、年末年始のこの時期、どうぞお暇なときにでもお付き合いください。
◆第2回:イヴァリースへの導き――新たな物語の幕開け
◆第3回:絶海の孤島、リドルアナ大灯台へ
※本企画の解説・考察は、ゲーム内の情報や世界設定本“Encyclopaedia Eorzea ~The World of FINAL FANTASY XIV~ Volume II”などを参考に筆者が独自に行ったものです。
“リターン・トゥ・イヴァリース”の舞台となるのは、砂漠に千年もの歴史を刻んだ独立国家・ダルマスカ王国が栄えた地域。物語の糸を手繰る前に、ここであらためてダルマスカという国について軽くおさらいしておきましょう。
ダルマスカ王国の都・ラバナスタがあるのは、永久焦土地帯ザ・バーンのさらに南。ザ・バーンとダルマスカの間には東西に連なる“スカテイ山脈”がそびえており、この山脈は焦土地帯が南へ伸びるのを防ぐ壁として機能したようです。山脈の南側……ヤンサから見て南西の一帯は“ダルマスカ砂漠”を中心とする広大な乾燥地帯であるものの、ザ・バーンとは異なりオアシスが点在する“生物が生きるに足る”環境ではあったようで、ダルマスカはこの地を基盤に各国と交流し、とくに首都ラバナスタは北州と東州をつなぐ陸上交易路の要として、“砂漠の蒼い宝石”と呼ばれるほどに栄えてきました。また、交易地ということで各所から人の出入りがあったためか、いわゆる“ヒト”だけでなくバンガ族やシーク族、ヴィエラ族などが、“獣人”としてでなく平等に生活している都市として知られていました。
ダルマスカ王国が興ったのは“今”から約千年前。それ以来、バナルガン王朝による王制が長きに渡って続いてきました。ちなみに、ダルマスカの王都ラバナスタは千年どころではない遥か昔から存在したという説もありますが、これについてはリターン・トゥ・イヴァリースの物語の中で真実に迫っているので、ストーリーを語る第2回記事までしばしお待ちを。 いずれにせよ、現状のところダルマスカの建国譚について詳しく語られている文献は存在しません。どこぞから流れてきた者たちが偶然この地を見つけてそこに都市を築いたのか、遥か古代の文明の末裔がバナルガン王朝を打ち立てダルマスカという国を興したのか……語られぬ謎に想いを馳せるに留めておきましょう。
ちなみに、千年前といえばちょうどイシュガルド王トールダンらが七大天竜・詩竜ラタトスクを欺いて殺害し、竜詩戦争の引き金を引いた時期。一方、エオルゼアは第六霊災の洪水による被害からようやく立ち直った頃で、その復興には東方地域や辺境の島々からの民族流入による人口回復が大きな影響を及ぼしたということです。約400年前にはヒューラン族の大移動があった時代ですので、それらの時期にダルマスカ地方からエオルゼアへと移動してきた人々も、少なからずいたのではないでしょうか。
千年の栄華を誇ったダルマスカ王国は、30年前、ガレマール帝国によって滅ぼされました。当時のガレマール帝国といえば“その眼前に地平が広がるならば、行って滅せよ、平らげよ”との物騒なスローガンを掲げ周辺諸国を次々と併呑していった時期。約60年前、のちの“皇帝(ゾス)”ソル・ガルヴァスが24歳の若さで軍団長に就任したのち、魔導技術を用いた大規模な軍制改革を行って北州をまたたく間に統一し、帝国を一大軍事強国に押し上げたのは有名です。その際に開発・軍事運用された飛空艇の存在は、古来よりの“戦場”の様子を一変させてしまったはず。“空爆”という概念はもちろん、要塞や山といった本来通行不可能な地形を軽々と超えて大量の兵や物資を“輸送”できるとあっては、飛空艇を持つ者と持たざる者との戦力差は凄まじいものだったと思われます。
なお、帝国の東方遠征は2回あり、第1次征時はまだ飛空艇の航行距離が短かったためにザ・バーンを横断してナグサ地方(ヤンサの南方)を目指す陸路を選択。わずかの補給も許されない厳しい環境が連日続いたことで将兵が疲弊し、結局侵攻自体をあきらめる形となりました。
このときに、ソル帝は渓谷にて過去文明の遺跡を発見し、ザ・バーンの環境が蛮神召喚によって土地のエーテルが枯渇した果ての惨状だと悟り、以後“蛮神討滅”を国是と掲げた……という逸話は多くの人が知るところ。ですが、ソル帝が、数千年の昔から歴史の影で暗躍する“アシエン”だったことが判明した以上、それが逸話のとおりだったかは疑問が残るところ。もしその時点で彼がアシエンだったのなら、ザ・バーンの地がかつて魔大陸のあった場所だったことも古代アラグの遺跡が眠っていたことも先刻承知……となれば、件の逸話は、大失敗した1次遠征になんとか国的なプラスの意義を見出すべくとってつけた方便にすぎなかったのでは……との見方もできるかもしれません。
1次遠征から下ること20年。ソル帝は著しく性能の向上した飛空艇で空前の大艦隊を編成し、今度はナグサではなく、スカテイ山脈を超えて一気にダルマスカを目指しました。もともとダルマスカは交易の要地であるため他勢力から攻め込まれることも多く、備えも密にしており、山を背にした立地、いくつもの要塞、経験豊かな精鋭兵……という強固な防衛力を持っていたのですが、それも空から大軍勢に攻められてはひとたまりもなかったでしょう。ダルマスカ側は強固な魔法防壁を持つナルビナ城塞に立てこもり籠城戦を挑みますが、“漆黒の稲妻”と異名を取った帝国軍第IV軍の将ノア・ヴァン・ガブラスが陸から包囲し攻め立て、半年で要塞を陥落せしめたのです。ダルマスカ側に7万人もの死者が出たというのですから、いかに苛烈な、そして慈悲のない戦いだったかは察せられるというものでしょう。さらにこの戦いに前後して、将兵を率いて先頭で戦ったラスラ王子と、その双子の妹アーシェ王女が戦死。バナルガン王朝の跡継ぎは絶え、ラミナス・バナルガン・ダルマスカ王は降伏を受け入れました。このようにして、千年続いたダルマスカ王国は滅びたのです。
帝国に降伏したあとしばらくして、ラミナス王は病没。これは暗殺だったとも言われますが、現在のところ真偽は不明です。その後、帝国の属州として組み込まれたダルマスカでは反乱が頻発し、帝国はそのたびに徹底した粛清を行いました。数年前に起きたバルハイムの反乱はとくに大きな戦いとなり、駐留中だった第IV軍のみでは抑えられなくなったために、ガイウス・ヴァン・バエサル率いる第XIV軍団も参戦。リウィア・サス・ユニウスが苛烈な反逆者狩りを行い、彼女はこれがもとで“ダルマスカの魔女”の異名で呼ばれるようになったそうです。ちなみに、ドマやアラミゴが解放されたことで、つい最近も反乱が起きたとのこと。この反乱を指揮していたのはアーシェ王女を名乗る10代後半の少女だという話ですが、戦時に彼女の護衛を請け負ったバッガモナン一味の口から「王女アーシェはナルビナ要塞陥落の折にガラムサイズ水路から脱出を試みたものの、自分たちの目前で死亡した」と語られています。したがって、反乱の主導者は王女を名乗る無関係の偽物か、当時の影武者か、あるいはバッガモナンらとともに水路を駆けた少女こそが影武者だったのか……などと想像が立ち上るものの……考えてみればダルマスカ陥落は30年前。当時の影武者であれ本物であれ現在10代後半ということはありえないはずですし、よほど特殊な事情でもない限り、反乱の主導者は偽物という線が濃厚といえるでしょう。(いやまてよ……逃げ延びてから生まれた娘とか……いやいや……考えても栓無き事。やめておきましょう)。
帝国に占領されたのち、ラバナスタは帝国の東方進出の足掛かりとして利用され、帝国はこの場所を起点としてナグサ地方へと進出。さらに数年後にはドマ侵攻へと乗り出しました。さて、ダルマスカでは幾度も帝国への反乱の火が上がったものの、結局独立は勝ちえないまま、現在首都ラバナスタは人の住まない廃墟となっています。いくら凄絶な戦いの末に敗北したとはいえ、通常、首都が住民1人の姿もないほどの廃墟となりはてることはないはずですが……。ラバナスタの場合は戦後あまりにも反乱と粛正が繰り返されたがために民が逃散してしまい、結果として人の住まない廃墟となってしまったのではないかと見ることもできます。リターン・トゥ・イヴァリースの中でジェノミスが「17年前は美しい都だった」と証言しているので、ここまで崩れたのは直近の反乱のせいなのかも。
現在かの地で確認できるのは、野生化したチョコボや野盗、魔物くらいのもの。祖国の解放を願って決起された幾度もの反乱が、結果として“国そのもの”とも言える民の離散を招いてしまったのは皮肉とも言えましょう。長期間故郷を離れてはいたものの、志を失わず“民がドマという国の復活を望むなら”“民あってこそ”という想いでドマ奪還に立ち上がったヒエンの事例とは対称的だな……などと考えてみると、興味深い案件と言えるかもしれませんね。
『FFXIV』のハイデリン世界のなかで“イヴァリース”の世界観を再構築しているだけに、リターン・トゥ・イヴァリースには、元となった作品とのつながりを想像させる(あくまでも別物ではありますが)共通点があらゆるところに散りばめられています。“イヴァリース”ファンにはあらためて説明するまでもない要素かもしれませんが、ここでは、主に『FFXII』や『FFT』を未プレイの方に向けて、今回ふれた範囲内での、これらの作品とリターン・トゥ・イヴァリースの共通点・相違点をいくつか解説していこうと思います。もちろん、過去作と『FFXIV』は異なる世界の異なる物語ですし、これらを知らなくてもリターン・トゥ・イヴァリースは十分に楽しめます。あくまで“知っておくと楽しみの幅が広がるよ”といったニュアンスで読んでいただければと思います。
▲『FFXII』ラバナスタの街並み。 |
▲こちらは『FFT』。ドット絵のラムザがなつかしい&かわいい。 |
さて、リターン・トゥ・イヴァリースのストーリー中で出てくる、“ラバナスタ”“バルハイム”“ガラムサイズ水路”“リドルアナ”といった、“現在のダルマスカ”近辺にある地名は、その多くが『FFXII』由来。そして、ダルマスカ王国は『FFXII』でも同様に圧倒的な力を持つ帝国(『FFXII』ではアルケイディア帝国)に攻められ、敗北し属領となっています。『FFXII』の物語をごくごく簡単に言ってしまうと“アルケイディア帝国を退け祖国ダルマスカを奪還するための力を求めて旅をする……”という流れだったのですが、そもそも『FFXII』では、ラスラとアーシェの関係が異なりました。『FFXIV』では兄妹ですが、『FFXII』でのラスラは隣国ナブラディア王国の第二皇子で、同盟強化のために兄弟国・ダルマスカの王女アーシェと結婚した……つまり夫婦でした。しかし、2人が結婚したまさに直後、ラスラの祖国ナブラディアが帝国の襲撃を受け、街の周辺を消し飛ばされたうえで無残に滅んでしまいます。帝国の次の目標はダルマスカ王国。ラスラは父母の、兄の、そして民の仇討ちのため、ダルマスカの将軍バッシュとともにナルビナ城塞へと向かい……そして、そこで命を落としたのでした。和平条約という名目の下で、ダルマスカは帝国に事実上降伏することになります。しかしその調印式で、英雄・バッシュ将軍(実際には、彼と同じ顔を持つ双子の弟で、帝国の軍団長的な地位“ジャッジマスター”の座にあったノア・ガブラス)が国王を殺害。和平の道は潰え、帝国はダルマスカを“占領”します。アーシェは祖国と愛する者たちを失った悲しみで自ら命を絶ったと噂されますが、じつは逃げ延び、レジスタンスの“アマリア”として、帝国への復讐の機会を狙っていたのでした。このように王女アーシェは帝国の手を逃れ、やがて世界をめぐることになります。
ちなみに、『FFXIV』のアーシェ王女はガラムサイズ水路で命を落としたとされますが、『FFXII』でも水路で帝国軍に見つかり危機的状況に陥ったことがありました。その際に彼女と出会い、協力して難を切り抜けたのが『FFXII』主人公のヴァンと、空賊のバルフレア&フラン。ある意味では、『FFXIV』と『FFXII』のアーシェの命運は“主人公たる存在に出会えたかどうか”で異なってしまった……と言えるのかもしれませんね。
といったところで第1回はここまで。前提となる設定を掘り下げただけでだいぶ長くなってしまいましたが、次回はいよいよリターン・トゥ・イヴァリースの物語に踏み込んでいきたいと思います!
◆第2回:イヴァリースへの導き――新たな物語の幕開け
◆第3回:絶海の孤島、リドルアナ大灯台へ
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