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2019年3月22日(金)

小林靖子さんが初めてのゲームシナリオに四苦八苦。『ワンダーグラビティ』開発者インタビュー

文:まり蔵

 セガゲームスとf4samuraiが贈るスマートフォン用RPG『ワンダーグラビティ ~ピノと重力使い~(以下、ワングラ)』の開発者インタビューをお届けします。

『ワンダーグラビティ』

 4月1日に配信日を控えた『ワングラ』は、父親に着せられた“詐欺師”の汚名をそそぐため、重力使いの“ヒューゴ”が、相棒のピノ“ニール”とともに世界の底“エンドロール”を目指して旅する物語です。

 脚本原案は、特撮番組『仮面ライダー電王』やTVアニメ『進撃の巨人』などを手がけてきた小林靖子さんが担当。ゲームサウンドは、『クロノトリガー』や『イナズマイレブン』の楽曲を手がけてきたプロキオン・スタジオが担当しています。

 今回、小林靖子さんと本作のプロデューサーであるf4samurai 代表取締役CEO 金哲碩さんにお話を伺いました。小林さんが開発に参加した経緯や苦労話など、さまざなまことを語っていただきましたので、ぜひご覧ください!(※インタビュー中は敬称略)

『ワンダーグラビティ』
▲金哲碩さん(左)と小林靖子さん(右)。

初めてのゲームシナリオに苦戦

――まずは、小林さんが『ワンダーグラビティ』のストーリー原案を担当されることになった経緯を教えてください。

:本作のプロジェクトが発足して2カ月くらいたった時、小林さんにお願いしたいという話になりました。小林さんにコンタクトを取れたのが3年前くらいですね。“空の世界”という本作の世界観が固まってきた時期です。

――小林さんに依頼した理由は?

:弊社に熱烈な小林さんファンがいたんです(笑)。僕らの中で、いろいろとどんでん返しがあったり、ドラマチックな展開があるゲームを作りたいという思いがありました。これまでそういう作品を書かれている方で最初にあたってみたいなと思ったのが小林さんで、運よくコンタクトを取ることができました。

 僕は本作のようなビジュアルの作品を作りたいと思っていて、それに対してギャップのようなものを持たせたくて、小林さんを候補として挙げさせていただいたという経緯があります。

――小林さんは、これまでゲームの脚本をやられたことはありますか?

小林:まったくなくて、本作が初めてです。

――本作のお話がきた時は、どう思われましたか?

小林:ゲームの監修をしたことがあるライターさんが知り合いにいまして、ゲームのシナリオのボリュームはとんでもないという噂だけは聞いていました。ですので、最初はできるかなと不安でしたね。

『ワンダーグラビティ』

――“原案”というのは、具体的にはどのような作業になるのでしょうか。

小林:世界観や設定を決める打ち合わせから入らせていただきまして、その後に登場するキャラクターたちをどう動かしてどういうお話にするかということを決めていく感じです。ゲームのバトルシステムをどうするかというのではなく、大きな物語と、1章2章という細かな部分の流れを作っています。

:“空を飛ぶ”という大きなテーマがまずあるので、そこに“重力”というエッセンスをどう組み込むか、ということや、そこに付随する世界観や設定をまずは相談させていただいて。 そのあとに、メインキャラクターを作っていただきました。

 その辺がひと通りできたあとに、大きな物語やそれぞれの章のプロットをお願いして、完成したプロットを元に我々のほうでシナリオに落としています。そして、そのシナリオを確認いただくという流れです。アニメでいうと、シリーズ構成みたいなものも兼ねていただいています。

『ワンダーグラビティ』

――実際に書かれたボリュームはどのくらいだったのでしょうか。

小林:セリフの細かなやりとりは書いていないので、聞いていたよりは少なかったですね。

:シナリオとなると本当に膨大ですからね。お忙しくてそこまで時間は取れないというお話だったので、プロットまでをお願いしようと。とはいえ、実は最初の数話は書いていただいています。

 やはりゲーム側からすると、1話は何タップくらいだとか、どれくらいのボリュームでバトルに入ると心地よいタイミングなのかとかは、一度共有しないとわからない部分ではありますからね。冒頭の雰囲気は小林さんに作っていただいて、それを元に僕らがシナリオを書いています。

開発途中でイラストがすべて描き直しに!?

――初めてのゲームシナリオということで、苦労されたことはありますか?

小林:ゲームにおける物語のノウハウや感覚をつかむことに苦心しました。TVなら1話2話とすごくわかりやすい単位があって分量もすぐ読めるのですが、ゲームはそれが読めませんでしたから。ユーザーさんがどのような感じで物語を受けとめるのかもわからなかったので、そこが苦労したところですね。

 最初少しだけシナリオを書いたというのも、分量が読めなかったという理由があります。いくら構成でこういうお話ですと決めても、実際動かしてみるとどれくらいの分量のセリフになるのか読めませんでした。

 キャラクターもまったくのオリジナルだったので、どういうキャラかというのもセリフを実際書いてみないと読めません。また、端末を操作しながら物語を読むというユーザーさんの動きを考え、その感覚をつかむのが大変でしたね。メインキャラクターの肉付けも設定を箇条書きといいますか、キャラ表を作ってから行いました。

『ワンダーグラビティ』 『ワンダーグラビティ』

――キャラ表の作成というのは、普段書かれている作品でもやられている作業ですか?

小林:あまりやらないですね。もう少しざっくりと作って、書いていくうちにキャラをつかんでいきます。実際に監督さんが絵コンテを描いたり、俳優さんが演じられたりするので、そもそもの作り方がちょっと違いますね。

――最初は感覚をつかむのが大変だったと。

小林:そうですね、どうしても私は動く映像で考えるクセがついていますから。漫画原作をした時もそうだったのですが、“動かない”というのがどうしても感覚的につかみづらかったです。

――いろいろ設定を作っていく中で、動かしやすかったキャラクターはいますか?

小林:全員、試行錯誤の連続でした。最近ようやく固まってきたかな。実際にシナリオが上がってくると、ここはこうじゃないんじゃないかな、このキャラならこう言うんじゃないかなとなってきます。今は、言いそう言わなそうというのがだいぶハッキリしてきましたね。

――キャラクターの設定の中でまずは見てほしいというキャラクターはいますか?

小林:初期メンバーですね。主人公のお父さんはジョーカー的な立ち位置です。でもサブでもストーリーが用意されているみたいですし、キャラクターみんなに注目ですね。

 あと、キャラクターの声を聞いてほしいです。収録された声を聞いたのですが、ニール(声優:内山昂輝さん)は結構男性っぽい声で、そこがいいです!

『ワンダーグラビティ』 『ワンダーグラビティ』

――本作のビジュアルを見られた時の印象はどうでしたか?

小林:どの段階で見せていただいたかちょっと覚えてないんですが、結構かわいいんだなと思いました。

:人間の重力使いと小さな種族「ピノ」という設定なのですが、「ピノ」は頭身が高くならないようにしました。デフォルメっぽく見えない、かわいらしくも個性があるように見えるよう、こだわって作りました。

 ただ、イラストは一昨年の7月くらいに全部テコ入れをして描き直したんですよ。もちろん微修正で済んだキャラクターもいるのですが、すべてボツにして描き直したものが大半です。

――描き直しになった理由というのは?

:以前フォーカスグループインタビューという、プロトタイプまでできた本作をユーザーさんに触っていただく機会がありました。その時に、人間とピノとの差がわからないといいますか、小さい種族だということが伝わらないという意見が聞こえてきたんです。

 せっかく構想やシステムにこだわって作っているのに、キャラクターのところでつまづいてしまうのはよくない。人間とピノとの差別化を、僕らが納得できるところまで昇華しないといけないんだということで全部作り直すことにしました。

――ちなみに本作のビジュアルにある“りんご”は、やはり重力からですか?

:そうですね。それは早い段階で決まっていた気がします。

小林:りんごは最初からありました。

:主題歌『SPLASH!!!』を担当しているMrs. GREEN APPLEさんも、りんごつながりなんです。

小林:そこで決めたんですか?

:いろいろな楽曲を聴かせてもらって惹かれたのが一番ですが、オファーを決めた1つの理由ではあります。

『ワンダーグラビティ』

――3年前から始まったとありましたが、現在進行形でまだ作業はされているのでしょうか。

小林:そうですね。といいますか、終わりがないらしくて……。

:終わりはありますよ(笑)。

小林:でも、1クールというくくりがないんですよ。これからまだ肉付けがあります。

:そうですね。1クールとかはないのですが、第1部の終わり方のイメージはやっと擦り合ってきました。本作は、空に浮いている街1つとっても、どうやって重力を発生させていて、なぜこういう形をしているんだとか、しっかりと設定があって。同じ空の中にもいろいろな国があるという設定とセットで壮大な空の冒険譚を描いています。

 ですが初期の頃は、美術設定よりも前に物語を作ってしまった部分もあって。ただやっぱり足並みはそろえるべきだとなって、いったん物語の進行を待っていただき、美術設定をしっかり固めてもう一度進んでいきました。そこで若干時間がかかったという感じです。

『ワンダーグラビティ』
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すべてが初めてのことで、すべてが印象的

――物語を作っていくなかで意識されたことはありますか?

小林:やはり引きが大事なところもあって、配信のタイミングで公開される最後の章に1つクライマックスが欲しいとか、そういうところで意識した部分はあります。でもそこはゲームに限らず、アニメも一緒なんですけどね。

――原作付きのアニメで脚本をやられていますが、本作と結構違うなという部分はありましたか?

小林:アニメなら、たとえばカロリーを消費するからモブはたくさん出せませんなどの制限はあります。ゲームは、ストーリーがキャラのセリフによって進んでいくのであまり長くできないですし、映像的な表現のカットバックができません。そして、常に主人公目線から外れられないんです。その辺りの作り方が違いますね。

 私自身、どうしてもカットバックでお話を作ってきたところもありますし、シナリオを書いている最中に流れを思いつくことがあります。ですが、今回は自分でセリフを書かずに次のお話を作っていったので、そこは今までと勝手が違いましたね。

――確かにゲームにはプレイヤーがいてプレイヤーの目線で書かれることになると思うので、そこが他のジャンルとは違うのかなというのは感じますね。

小林:そこでどういう風に見ている人が感じるのか、という予測の立て方も違うのかなと思います。ゲームをやりながらお話を追っていけるのかなとか、やっているうちにこっちのお話を忘れちゃわないかなとか、いろいろ考えます。

『ワンダーグラビティ』

――小林さんから上がってきたものに対して、修正などもあったのでしょうか?

:キャラクターたちの繰り広げるドラマや伏線回収など、ドラマを作っていくところに関しては信頼してお任せしています。ただ、本作のウリである空の世界の大冒険譚という舞台を説明して、「こういう話を盛り込みたい」という相談はさせてもらいました。

――今回のお仕事で、印象に残っているところはありますか?

小林:すべてが初めてのことなので、そういう意味ではすべてが印象的です。なにか挙げるとすると、やはりゲームの作り方ですかね。

 このゲームだからというよりゲーム業界が、今までやってきたアニメや実写とはやっぱり異なりますね。すごくちゃんとしていると思います。作り直しとか、その妥協のなさがすごいなと。世界観の作り込み方も、本当に手癖でやらない感じです。

:今回は美術設定が独特で、一から作っていく世界でしたから。これが空の世界ではなく地上の世界だったら、もう少し小林さんのほうから「こういう話にしたい」という打診もあったと思います。

 イレギュラーなパターンだったのかもですが、まずは空に住む世界観をしっかり作り上げるために、先行して美術設定を作ってイメージ共有をしなくてはと思いました。少しずつ世界観を共有できるようになってきて、一緒に美術設定を作るという感じにまでなりました。そういった意味でも、小林さんはすごくやりづらかったと思います(笑)。

小林:加減具合もわかりませんでしたから。本当に試行錯誤でしたね。

『ワンダーグラビティ』
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――長期にわたって開発に関わりながら、他の作品も手がけるというのは大変だったのではないでしょうか?

小林:作業が重なっている時は大変でしたね。それでお待たせしちゃったりとか作業が遅くなったりしました。

――平行して別々のお仕事をされている時は、どのように切り替えられるのでしょうか?

小林:常に平行しているので、その場その場で切り替えていきます。そういう時にその作品の絵があると、すごく切り替えやすいんですよ。あとは音楽を聴いて切り替えたりします。

:どんなお仕事を切り替える時も、音楽を聴いて切り替えるんですか?

小林:そうですね。プレイリストに作品タイトルを入れて、作業前に作品のイメージに近い曲を聴きますね。

:本作はどうですか?

小林:テーマソングとは違うのですが、自分のイメージした曲を入れています。でも、主題歌もダウンロードして入れていますよ。

:主題歌ができあがるまではどの曲を?

小林:それまでは別の曲でやっていました。自分の中でこれを聴くとこの世界のお話があるなというのをいくつか入れています。

――主題歌『SPLASH!!!』を聴かれた時の印象はどうでしたか?

小林:明るいポップな感じの主題歌なので、明るい展開を考える時に使えるなと思っています。もう少しダークな感じで考えたい時はこの曲、というのもありますね。

――ダークな世界も今回は描かれているのでしょうか?

小林:ダークというか、ピンチの場面ですね。主人公のお父さんの話もそうです。

『ワンダーグラビティ』 『ワンダーグラビティ』

――本作のターゲットはどういった年齢層を想定されていますか。

:弊社のタイトルだと、おおよそ男性が7~8割、女性が2~3割くらいの割合で遊んでいただくことが多いのですが、もう少し女性のユーザーさんを増やして、全体の4割くらいが女性に遊んでもらえるタイトルに挑戦したいという思いがありました。

 僕らが作るタイトルの特徴の1つに、グループ同士で戦うコンテンツ(GvG)を用意していて、そこが男性ユーザーを牽引していると考えています。今回の作品は、そういったコンテンツは残しつつ、例えばゲーム好きな女性にも楽しんでもらえるような世界やビジュアルやシナリオを用意したり、女性に興味をもってもらえるような主題歌を作っていただいたりしました。

 最初の答えを言うと、メインターゲットはゲーム好きな20代後半の男性なのですが、それプラス若い方、女性のゲーム好きな方といったところもターゲットにしています。

――主人公やピノの声に人気の男性声優を起用されているところは、女性のユーザーさんを見据えているのかなと感じました。

:主人公やピノのイラストは弊社の女性スタッフが描いているのですが、キャラクターボイスは彼女のたっての希望で依頼しました。

 それこそ小林さんの大ファンがチームにいるというのは先ほどお話ししましたが、好きな方と一緒に物作りできるだけでテンションが上がるじゃないですか。そういう物作りを本作ではやってみたかったのですが、みんな気持ちが入ってテンション高く物作りができたので、やってよかったですね。

『ワンダーグラビティ』

ゲームで乗り鉄に目覚めて博多まで遠征!?

――小林さんはご自身のファンが制作スタッフにいるということをご存じでしたか?

小林:ちらちらとは聞いていました(笑)。

:小林さんファンはやっぱり多くて、他社の方からも小林さんを紹介してくれないかというお話が僕のところに来るんですが、全部止めています。小林さんがもうこれ以上仕事を増やせないと(笑)。

――本作がアニメ化されるとしたら、やはりご自身でシナリオを書かれたいですか?

小林:それは私が判断できるわけではないのですが、どちらかというと今回私は原作に近いわけですよ。アニメ化しても原作の立場にいたい気はしますね。今までずっと原作者さんと打ち合わせをしていたので、そうではなくて原作側という初めての立場に立ってみたいです。

『ワンダーグラビティ』

――小林さんは普段ゲームをプレイされますか?

小林:ゲームはしますね。ファミコン世代なので、今はスマホでもゲームをしたりします。単純なものが好きで、難しいのはあまりやらないですね。

 コレクション系が好きで、今やっているのは『駅メモ! -ステーションメモリーズ!-』です。やってみたら乗り鉄に目覚めてしまい、イベントも死に物狂いでやろうと思いまして!

:どこまで行かれたんですか?

小林:博多です。それで、行ったついでに好きな映画のロケ地に行ってみたりと。なので、『ワンダーグラビティ』も鉄道とコラボしていただいてけるとうれしいです(笑)。

――博多まで行くのはすごいですね! ちなみに『ワンダーグラビティ』はもうプレイされましたか?

小林:はい、すごく勉強になりました。タップしながら読むのと、ただテキストを読むのでは全然印象が違っていて、ここも考えないといけないことなんだと思いました。たとえば『ドラゴンクエスト』をプレイしている時のセリフ量と、それを読んだ時の感覚、それらを照らし合わせてユーザーさんがどう思うのかな、とか。

『ワンダーグラビティ』 『ワンダーグラビティ』

――『ドラクエ』もプレイされているんですね。

小林:『ドラクエ』世代なんですよ。一番最近のタイトルもやりました。

――個人的に気になったのですが、小林さんは普段お仕事をどういう環境でやられていますか?

小林:普通に自宅の仕事部屋でしています。一昨年からずっとスタンディングワークでやっていますね。実は軽い頸椎ヘルニアになって、姿勢的に立ってやるほうがいいかなと思ってやってみたら……治りました(笑)。考える時は歩いたり電車に乗ったりします。

――それでは最後に、『ワンダーグラビティ』でぜひここを見てほしいという注目ポイントを教えてください!

小林:とにかくまずは遊んでいただきたくて、そのきっかけは何といったら作れるのか……。本当にキャラクターたちがかわいくて、ビジュアルはすごく魅力的だと思います!このキャラクターたちが明るく冒険していくだけかなと思ったらそうでもないというのが、一枚絵の「真実は“底”にある」という素晴らしいキャッチフレーズに収束していきます。

 一本筋ではない、いろいろな世界観が作り込まれています。たくさんの設定がありますし、たくさんのキャラクターがいますから、そういうのを1つずつ楽しみに、ページをめくる感じであきずにプレイしていただけるといいなと思います。なにはともあれ、まずは触ってみていただければと!

(C) SEGA・f4samurai

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