ゲーム本編が始まる少し前、雛見沢にやってきたばかりの“圭一”を襲う突然の惨劇。知られざる『ひぐらし』の物語が“園崎魅音”の視点で描かれる!
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からん、からん……。
校長先生が鳴らす手振りのベルが、年季入りのくたびれた音を立てて廊下から響いてくる。午後の授業開始の合図だ。
「みんな、授業始まるよ~。早く席についてー。」
最近読み始めたゲームの攻略本にしおりを挟んでぱたんと閉じると、私はパンパンと手を叩きながらみんなに着席を促す。それを聞いて、さっきまでわいわいと盛り上がっていた下級生たちはいそいそと自分の席に戻り、教科書やノートを取り出して次の授業の準備を始めた。
……うん、いい子たちだ。年の差は各自ばらばらだけど、きちんと人の言うことを聞いてくれるのは、委員長として非常にやりやすい。さすが、雛見沢名物の団結力ってところかな。
「ねー、魅ぃちゃん。昨日の宿題どうだった?」
「あ、あははは……。まぁ、とりあえず空欄は埋めたけどね。」
精度に関してはちょっと自信ない。昨日は村の寄り合いが遅くまで長引いて、ほとんど宿題に手をつける時間も無かったし。
……まったく、『村のペットの飼い方について』なんて、別にどうだっていいじゃんかさ~。
「…………あれ?」
そうぼやきながら教室を見渡すと、ひとつだけぽつんと空いた席が目に入る。
確か、あの席は……。
「ねー、圭一く――前原くんは?」
「え? あ……まだ戻ってきてないみたいだね。」
レナは教科書を取り出しながら、小首を傾げて私の問いかけにそう答えた。
数日前に転校してきたばかりの、前原圭一くん。彼の机はレナのそのまた隣にあって、まだ真新しい学生鞄が物寂しい感じに吊り下がっているようにも見えた。
「……どこ行ったんだろうね。昨日もお弁当食べたら、すぐに教室からいなくなってさ。」
「えっと、お外にいるみたいだよ。さっき、運動場の土手の芝生で寝転んでいるところを見かけたから。」
「芝生で、ひとりで?……それ、楽しいかなぁ。声かけてみなかったの?」
「……なんか、どんな話していいかわかんなくて。『こんにちは』って言ったら、『おう』ってちょっと笑ってくれたんだけど。……その先が続かなくて。」
そう言って、レナは肩をすくめながら苦笑する。……まぁ、最初が最初だっただけに、親しげに話しかけるのも何だかなぁ。
「……だいたい、こうなったのは沙都子のせいだよ。あんたがやりすぎたからじゃない。」
「えっ? わ、私でございますか?!」
いきなり話を振られて、沙都子は驚いたようにノートから顔を上げる。……どうやら、次の授業までの課題をやり忘れていたらしく必死に梨花ちゃんのノートを写しているが、こちらの会話に聞き耳を立てていたのは明らかだった。
「挨拶代わりに、黒板消しの直撃だもんね……。」
「みぃ……圭一の頭、真っ白シロスケだったのですよ。」
「だ、だって魅音さんがおっしゃったのではございませんか! 私のトラップ初級コースで、転校生をド派手に出迎えておやりなさいって! だから私、わざとわかりやすく黒板消しを入り口のドアに仕掛けてあげたのでございますわ!」
「その中に石を詰めたのは、ちょっとやりすぎだったんじゃないかな……。」
今思えば、初級コースにしては凶悪度が高すぎたと思う。
「しかも角ばってたよね……アレ。当たり所悪かったら、医者じゃなくてお坊さん呼んで、お経唱えてるところだよ。」
「う…………。」
「それに、踏み出した先に濡れ雑巾を置いていたのです。引っかかった圭一は、それはもう派手にすっ転んでいたのですよ。にぱ~☆」
……いや、梨花ちゃん。あのときのことを思い出すと、かなり『笑えない』から。私ですら固まって、しばらく声もかけられなかったんだし。
「痛そうだったよね……。しばらく起き上がってこなかったし……。」
「……確かに、ちょっとどころではなかったかもしれないのです。」
私たちの顔を見て、梨花ちゃんもさすがに面白がるのは不謹慎と感じたのか、神妙な顔で俯く。……沙都子に至っては、すでに罪悪感で半べそだった。
「……でも前原くん、その後何も言わずに席に着いたんだよね。怒ってなかったのかな?……かな?」
「怒りのメーターが振り切れて、声すら出なかったんだと思いますのです。そっちの方が、よりいっそう怖いのですよ。」
「「「………………。」」」
私たち全員、頭を抱えてやりすぎたことを後悔する。あれこれと相談しているうちに、すっかりいつもの部活気分で盛り上がって、相手のレベルに合わせるという一般常識を完全に、すぽーんと置き忘れてしまっていたようだ。まずったなぁ……。
「…………や、やっぱり私、前原さんに謝ってきますのでございますわ……!」
「いまさら遅いって。それに、……ごめん。よく考えたら、あんただけのせいじゃないしね。」
そうだ。そもそも実行したのは沙都子だけど、提案と賛同をした以上私たち4人の責任だ。もし謝るなら、全員で頭を下げるのが筋だろう。
いまさらだけど、……しないよりはずっと、ましだよね。
「それじゃ前原くんが戻ってきたら、みんなでごめんなさいしよ? ね?」
「そだね。あ、前原くんには、私が最初に話するからさ。沙都子は任せて――――、ん?」
その時だった。
ずどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど――――――っっっ!!!
突然ものすごい勢いで、地響きが扉の向こうからこの教室へと迫ってきた……?!
「な、なに? 何の音?!」
「……モンゴル民族が大移動でしょうかっ?」
「ここは日本だよ!……って?!」
すぺらっしゃぁぁあぁんんっっ!!
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