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書き下ろしノベル
「ひぐらしのなく頃に祭 橋渡し編」

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  地響きが止まった途端、これまたすさまじい音を立てて教室の引き扉が開かれる。その勢いがあまりにも大きくて、壁にぶち当たった扉はレールを外れて横倒しに倒れかかったが、
「――――ふんっ!!」
  扉の向こうに立っていた人影はそれを片手でつかみ上げると、あっさりとレールに差し込み戻す。……そして、その人は『顔以外は』何事もなかった動作でつかつかと教室に入り、教卓の前に立った。
「――委員長、号令。」
「あ、あ、あわ、あわわわ……?」
「どうしたの、委員長? 早く号令を。」
  その人――私たちの担任、知恵留美子先生はにっこりと『口元だけ』笑って、私に向き直る。……そんなこと言われても、この一連の流れで号令をかけたところで、誰も立ち上がるどころか身動きもできないと思うんだけど。
「………………。」
  扉に目を向ける。真っ先に思い浮かんだのは『二人がかりで持ち上げるほどの重さだったはずの扉を、片手で支えて大丈夫なのか?』の質問だったが、……めり込んだ手形の跡を見て、記憶の片隅にとっとと封印することに決めた。
  というわけで、次の質問……。
「あ、あの、知恵先生? な、何かありました、か……?」
「――――――!!!」
  きっ! とギリシャ神話のゴーゴンすら逃げ出すような絶対零度の視線を受けて、思わず反射的に頭をかばってしまう。……そこ、情けないとは言わないように。すでに下級生たちの中には、失神しかかってるやつだっているんだから。
  にしても、……この怒りようはいったい何だ? 思い当たる節がない……こともないけど、知恵先生がここまで前触れもなく、MAXゲージ突破状態で登場する理由は見当たらない。と思う。たぶん。
「……知恵。みんなが怯えているのです。挨拶の前に、状況を説明してもらいたいのです。」
  梨花ちゃん、……あんた、さすがオヤシロ様の巫女だよ! 空気が張り詰め、時間さえも止まったような固有結界の中、敢然と手を上げて知恵先生に質問を投げかけた梨花ちゃんに、私は思わず内心で拍手を送った。
「………………。」
「……知恵?」
 やがて。
 あくまで自然体で問いかける梨花ちゃんの姿に少しだけ、……本当にほんの少しだけ冷静が戻った知恵先生は、ゆっくりと息をこー、ほー、と整える。そして、激した感情を必死に抑えるような口調で、ゆっくりと言葉を発していった。
「――皆さん。私は、非常に怒っています。」
  いや、それはわかってます。
「こんな質問をするのは私自身遺憾の上に不本意であり、教師として、私自身の資質を再考すべきかもしれない卑劣かつ愚拙なことだと重々理解しておりますが……。」
「は、はぁ……?」
「――ですが! 私は生徒の規範たる教師として、これほどの凶悪犯罪を見逃すわけにはまいりません! そのためにも、あえて私は鬼になります!!」
  いや、もう言う前から鬼そのものですけど。
  そんな、クラス全員の心のツッコミにも気づくことなく知恵先生はばぁぁあぁん! と教卓を両手で叩きつけると、全員の顔を見渡し(睨み)ながらのたまり放った。
「さぁ、犯人は速やかに名乗りあげなさい! この中にいるはずです! 悔い改めて正直に名乗り出たら、先生も寛大な気持ちで許してあげましょう!!」
「「「「………………。」」」」
  思わず、隣のレナと顔を見合わせる。そもそも、誰がやったとか言う前に……その口調と形相を目の当たりにして、たとえ犯人がいたとしても名乗り出るやつがいたら、それは自殺願望者だと思います。あるいは、バカか。
  それにしても、……話が見えない。ここまで知恵先生が怒り狂ってるんだから、よほどのことがあったんだろうけど……犯人? 凶悪犯罪? いったい、何があったんだろう?
  ――そこへ。
「……あ、すみません。遅くなりました――――、?」
  ガラガラと扉が開いて、ひとりの男の子が中に入ってくる。さっきまで話題にしていた転校生、前原圭一くんだった。
「「「「………………。」」」」
「――――――。」
「…………? あの、何でしょう……?」
  ただひとり、不幸にも遅れて状況の飲み込めていない前原くんは、きょとんとした表情で私たちと知恵先生を交互に見やる。とりあえず、触らぬ神の何とやらと私は彼を手招きして着席させようとしたが、それをさえぎるようにずいっ! と巨大な闇の影が立ちふさがる。――知恵先生だった。
「――――――。」
「…………え、あ、あの……?」
「――――そうですか。そうだったんですか、……ふふ、ふふふ……!!」
「ち、知恵……せん、せ……っ?!」
  いまだにわけもわからない様子だったが、般若――じゃなかった、知恵先生の満面に浮かんだ笑顔を真正面からダイレクトに向けられて、前原くんは本能的恐怖から後ずさる。が、数歩下がったところですぐに扉に遮られ、背中をぴったり貼り付けた状態のまま、文字通り退路を絶たれてしまった。
「あ! あのその、あのっ! そ、外で居眠りしてたら、よ、予鈴のチャイムをき、聞き逃してっ! でっ、ででで、でも! お、遅れて戻ったのは謝ります! ご、ごめんなさいっ!!」
「……ふふ、うふふふっ、ふふふふふ……!」
「す、すみません! ごめんなさいっ! ば、ばばば罰はあ、甘んじてお受けしますので、ど、どうか寛大なお慈悲をっっ?!」
  どうやら、授業に遅れてきたことを怒られていると思ったのか、前原くんは鼻先数ミリにまで近づいた知恵先生に、必死に謝罪と弁解を重ねる。が、知恵先生はにっこりと笑ってから、
「――――あなただったのですね、犯人は……!」
「…………へ? は、犯人、って……??」
「……そう、そうですか。そうですよね。いえ、そうに決まっています。あなたがやったのですねっ?!」
「や、やったって……な、なにを?」
  もはや、パニック目前に涙目の前原くんに向かって、知恵先生はびしっ! と指を突きつけながら厳かに、そして問答無用に言い放った。
「――あなたを、犯人ですっっ!!」

突然無実の罪を着せられた“圭一”……果たして真犯人は見つけ出せるのか!?

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