機動戦士ガンダム 逆襲のシャア

◆メディア:劇場用 ◆上映年月日:1988年3月
◆話数:全1話 ◆監督:富野由悠季
◆キャラクターデザイン:北爪宏幸 ◆モビルスーツデザイン:出渕裕
◆メカニカルデザイン:ガイナックス、佐山善則
あらすじ

 宇宙世紀0093年、グリプス戦役以降行方不明になっていたシャア・アズナブルは、ジオン公国軍の残党を率いてネオ・ジオンを名乗り、地球連邦政府に対して反旗を翻し、地球寒冷化作戦を実行に移した。ブライト・ノア率いる地球連邦軍の外郭部隊ロンド・ベル隊の抵抗もむなしく、小惑星フィフス・ルナは地球へと落着してしまう。戦いのなかで、ロンド・ベル隊のアムロ・レイは、かつてのライバルであるシャアと再会するが、モビルスーツ(MS)の性能の差は覆し難く、シャアの一方的な勝利で緒戦は幕を閉じた。
 恋人であるチェーン・アギが整備したサイコ・フレーム搭載MS、ν(ニュー)ガンダムを受領し、アムロはネオ・ジオンの第二波迎撃に向かう。そんななか、宇宙へ上がったブライトの息子ハサウェイは、連邦軍の高官アデナウアー・パラヤの娘クェスと知り合う。一方、シャアはロンデニオンにおいて、アデナウアーら連邦軍高官との交渉会談に赴いていた。地球連邦政府は、小惑星アクシズを譲渡することで、ネオ・ジオンを懐柔しようと試みたのである。ハサウェイとクェスの観光に同行したアムロは、シャアと再会。クェスはシャアに興味を持ち、シャアを銃撃しようとしたアムロから助け、ともに逃げ去った。

キャラクター

 この作品のタイトル『逆襲のシャア』からもわかるとおり、34歳になったシャアの内面描写は1つの大きなポイントといえる。自分が「アコギなことをしている」と気づきながらも、ただアムロに自分を止めるよう期待するシャアの姿は悲哀に満ちている。新技術であるサイコ・フレームの製法をリークしてまで、アムロと対等な形での決着を望んだシャアと、そんなシャアを非難するアムロ。シャアは大局を見据える立場にあるにもかかわらず、その行動原理の根底には、子どもじみた純粋さが見え隠れしていた。過去に死んだニュータイプの少女、ララァ・スンに拘泥し続けるのも、彼の内面的な脆さと甘えを表している。たしかに劇中でアムロが言うとおり、シャアは「情けない奴」ではあるのだろう。だが、その生々しさこそが『逆襲のシャア』における、彼の魅力となっているのだ。そしてそれは、これまでのシリーズ作品で、いく度となく「人々を導く、理想となるべき人物」として描かれているだけに、なおさら際立つ。『ガンダム』はリアルな戦争を描いたアニメとして広く認識されている。だが、「ガンダムが描いたリアル」の1つの柱として、シャアという1人の男の生きざまがあったことは、いまさらいうまでもないことであろう。

用語1

●ニュータイプ

 シャアの父である、ジオン建国の祖、ジオン・ズム・ダイクンが提唱した新人類のこと。ジオン・ダイクンは、人類がその居住空間を宇宙に移すことにより、その空間の拡大に対応すべく、認識力や洞察力も拡大されるであろうと考えた。これにより、他人の思考や感情を、空間の距離を超越して誤解なく理解できるようになった人類が、本来のニュータイプである。
 ニュータイプが持つ認識力は、一種の予知能力(先読み)としても機能するため、戦闘においては優秀なパイロットとなる可能性が高い。しかも、ニュータイプは特殊な脳波を出しており、これを検知してファンネルなどの遠隔操作兵器などを操作するサイコミュ(サイコ・コミュニケーター)を使用することが可能となっている。
 これらのことから、ニュータイプは戦闘に長けた能力であると曲解されることが常であり、正しい意味合いでニュータイプを理解している者は少ない。また、ニュータイプを戦いの道具としてとらえた者たちにより、薬物投与や人体改造によって生み出された、強化人間という人工ニュータイプも存在している。

©創通・サンライズ


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ストーリー

 ガンダムシリーズ初の完全オリジナル劇場用作品として製作されたこの作品。その最大のポイントは、物語のなかでも、そしてファンの心のなかでも長年にわたって続いた、アムロとシャアの戦いに終止符が打たれたことに尽きるだろう。彼らが決着をつけることは、ひいては宇宙世紀を舞台とした『ガンダム』が1つの区切りを迎えたことを意味しており、事実本作の次の『ガンダム』の名を冠したシリーズ作品は富野監督の手によらない、初のOVA作品『機動戦士ガンダム0080』となる。
 ちなみに、この作品には富野監督が自ら手がけた小説版が2作刊行されている。いずれも劇場版とは異なるストーリーとなっており、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』では、チェーンに代わって『機動戦士Zガンダム』でアムロと恋仲にあったベルトーチカ・イルマがヒロインとして続投。さらに、アムロとの間に子どもをもうけるなどの衝撃的な展開を見せる。また、νガンダムに代わりデザインの異なるHi-νガンダムが、サザビーに代わりナイチンゲールというMSが登場。こちらは『スーパーロボット大戦』シリーズにも参戦経験がある人気MSとなっている。映像化されていない作品からの参戦は珍しく、ファンの間での人気の高さが伺える。

メカ

 出渕裕氏によるデザインのメカニックが人気となったこの作品。主役MSとして初のファンネル搭載機となるνガンダムが登場し、大きな人気を獲得した。また、サザビーをはじめとした敵の主要なMSにもファンネルが搭載されており、劇中でもニュータイプ同士の激突がハイスピードで描かれている。さらに、登場するMSのスタイルは『機動戦士Zガンダム』から続く可変MS路線ではなく、初代『機動戦士ガンダム』の基本に立ち戻ったシンプルなコンセプトデザインも好評を博した。
 みどころの1つをあげるなら、アムロとシャアがMSで殴り合いを繰り広げるラスト直前のシーンをあげておきたい。このシーンは、銃撃戦が主体だった『機動戦士Zガンダム』以降のシリーズ作品からかえりみれば、いささか泥臭いものと感じられる。しかし、思えば『機動戦士ガンダム』でも、アムロが乗ったガンダムがはじめてザクⅡを撃破した際には、ザクⅡ頭部の動力パイプを力まかせに引きちぎっている。それに、シャアも初登場時にはザクⅡでキックを披露していたではないか。この作品では、見事な原点回帰がなされていたのである。2人の戦いが、ともすれば子どものケンカのようにも見えるがむしゃらな殴り合いで幕を引いたのは、それが根源的な魂のぶつかり合いだったゆえの必然であったともいえるだろう。

用語2

●サイコフレーム

 サイコミュの機能を持つコンピューター・チップを金属フレームの内部に埋め込んだもののこと。従来はサイコミュの使用には、相応の機材を搭載する必要があったが、サイコフレームの実用化により、それらの機材が不要となり、MSは大幅な軽量化を遂げることとなった。もともと地球連邦軍はサイコフレームに関する開発技術を有しておらず、アムロと対等の戦いをしたいと望むシャアによって、ネオ・ジオン側から意図的にリークされたものが、νガンダムに採用された。
 しかしながら、サイコフレームの能力には未知な点が多い。νガンダムがアクシズの落下を阻止すべく取りついた際には、チェーン・アギが持っていたサイコフレームの試料とνガンダムのサイコフレームが共振し、緑色の発光をともなったサイコ・フィールドという力場を形成。アクシズの落下コースを変更させるなど、不可思議な力を発揮している。