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2013年8月27日(火)

2K Gamesで働く日本人ゲームクリエイターが語る日本とアメリカの違い――日本は“遊び”重視、アメリカは“体験”重視【CEDEC 2013】

文:イトヤン

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■ゲーム業界人100人が語る、日本のゲームがアメリカで売れない理由とは!?

“アメリカのゲームスタジオで働いて学んだこと”

 よく知られているとおり、かつては日本のゲームがアメリカをはじめとする全世界を席巻していたが、現在では海外の売り上げチャートで、日本のゲームが上位に来ることは少なくなっている。

 そこで小島さんは、アメリカのゲーム業界で働く同僚100人に、「なぜ日本のゲームはアメリカで売れなくなったのか?」という質問を投げかけてみたという。セッションの後半では、その回答が紹介された。

“アメリカのゲームスタジオで働いて学んだこと” “アメリカのゲームスタジオで働いて学んだこと”

 まず出てきたのは、「マーケットシフトが起きた」という意見だ。欧米のゲーム市場が拡大したことで、欧米人が自分たちに向けて作ったゲームのほうが、日本のゲーム以上に売れるようになったという考え方だ。

 それに関連して、「現在の日本のゲームは、欧米の消費者に媚びすぎなのでは?」という意見もあったそうだ。欧米主導のゲーム市場にムリヤリ合わせようとした結果、欧米の文化に対する理解が中途半端なものができてしまい、日本らしさのアイデンティティーが失われてしまったというのだ。これはなかなか耳の痛い指摘だろう。

 だが一方では、「日本はアメリカで売れるジャンルのゲームを作っていない」という意見もある。アメリカで現在ヒットしているジャンルといえば、FPSやTPSなどのシューター、ストーリー主導のアクションアドベンチャーゲーム、そしてオープンワールドのアクションゲームだ。日本製のTPSはまだ比較的存在するものの、日本製のオープンワールド・アクションゲームは、たしかにほとんど作られていない。

 また逆に、これらとはまったく異なるジャンルのゲームを日本に求める意見もある。「『TOKYO JUNGLE』のようなゲームは、日本的で面白い」と評価されているのだ。

■ハリウッド映画に人間型の宇宙人しか出てこない秘密とは!?

 

 次に目立っていたのは、日本とアメリカの“文化的なギャップ”を指摘する意見だ。

“アメリカのゲームスタジオで働いて学んだこと” “アメリカのゲームスタジオで働いて学んだこと”

 ここで興味深いのは、日本のゲームは「話が長い」という意見が出ている点だ。ある同僚によると、「一般的なアメリカ人は12分で食事を終える」らしい。それほどせっかちなので、話の要点を急いで知りたいのだそうだ。その一方で、「物語がランダムすぎる」「物語を軽視している」といった意見もあり、やや矛盾しているようにも感じられる。

 また、先に挙げられていた“リレイタブル”に関連する意見もあった。「ハリウッド映画には、人間型の宇宙人しか出てこない」というものだ。これはどういう意味かというと、人間型をしていない宇宙人が登場すると、アメリカ人は“これはなんだろう?”と考えこんでしまい、映画を楽しめなくなるのだそうだ。アメリカ人にとっては身近なもの、見慣れたものがそれだけ重要なのだということだろうか。

“アメリカのゲームスタジオで働いて学んだこと” “アメリカのゲームスタジオで働いて学んだこと”

 「フォーカステストが足りない」というのは、ゲーム業界の人間ならではの意見だ。フォーカステストとは、ある特定の要素に絞り込んだテストプレイのことだ。アメリカのゲームメーカーでは、このフォーカステストを繰り返し行って、ゲーム進行のペース配分や、操作性、ユーザーインターフェースなどを念入りに調整している。

 日本のゲームを欧米で売る際には、異なる文化の土地で販売するわけだから、欧米のメーカーの何倍ものフォーカステストが必要なはずなのに、それができていないという。小島さんによると、これはフォーカステスト担当者の意見だそうなので、さすがに専門家の目は鋭いと言わざるを得ない。

 また「日本のゲームはハードコアゲーマー向け」という意見もあった。これに関連する話題だが、小島さんの同僚によると「『コール オブ デューティ』シリーズはカジュアルゲーマー向け」なのだという。FPSというだけで敷居が高く感じる日本人にとっては意外な話だが、実際のところFPSは“銃を向けて撃つ”だけのシンプルな操作であり、目的地への誘導などもしっかりしているので、誰でも気軽に遊べるのだ(海外のゲーマーなら、だが)。このように、ゲームの難易度に対する受け止め方も、日米で違いがありそうだ。

“アメリカのゲームスタジオで働いて学んだこと”

 日本のゲームが海外で売れない、という話題になった時、「ただし、任天堂は別」という点を避けては通れない。小島さんの同僚であるアメリカ人も、「任天堂のゲームは子どもの頃からずっと遊んでいるから、今でも違和感がない」のだという。

■日本人ならではのゲームを、欧米で長期的に売り続けることが必要

 最後に、ここまでに出た意見を受けて、アメリカ人にもっと日本のゲームを遊んでもらうにはどうすればいいか、小島さんが考えた意見が披露された。ここでもキーワードとして掲げられたのは“リレイタブル”だ。

“アメリカのゲームスタジオで働いて学んだこと”

 まず1つ目は、すでに日本の大手ゲームメーカーでは実践しているところもあるが、欧米のデベロッパーで制作したゲームを、自社のブランドで販売するというものだ。これなら、欧米人がゲームを作っているわけだから、欧米人にとっては“リレイタブル”になるのは当然だ。しかし一方で、日本にナレッジ(知識や経験)が戻ってこないというデメリットもあると、小島さんは語った。

 2つ目は、老若男女、国籍や人種を問わず誰でも遊べる、万人にとって“リレイタブル”な商品作りを目指すというものだ。任天堂のゲームの多くはこれを実践しており、それをお手本にするという形だ。

 そして3つ目の、小島さん自身も「これがオススメ」という案は、日本人ならではの感性を持った商品を作り、それを欧米で長期的視野をもってリリースし続けるというものだ。日本のゲームそのものを欧米にとって“リレイタブル”なものにするという戦略で、小島さんはこれを「洗脳する」と比喩していた。遠大な計画のようにも思えるが、これが最も現実的な方法なのかもしれない。

 このセッションのうち、“日本のゲームがアメリカでどう受け止められているか”についての考察は、今回の“CEDEC 2013”で行われた、フランス人ジャーナリストによるセッションとも共通するテーマとなっている。

 フランスのゲーマーからの提言と、アメリカのゲーム業界人からの提言ということで、国や立場の違いによる反応の違いも感じられて、非常に興味深い。2つの意見を比較してみることで、日本のゲームの海外での可能性について、より深い考察が得られるはずだ。

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