津田健次郎さんが美術館の魅力を伝える学芸員の仕事について研究。ハードな現場に驚き!?
声優・津田健次郎さんが教授となり、毎号気になるカルチャーを研究する本コラム。9月8日に発売された、電撃Girl’sStyle10月号 では“学芸員”について学びました。
今回、東京都現代美術館で学芸員をされている加藤弘子さんにお話をうかがい、想像以上にハードな職業だったことに驚いていた津田教授。誌面に載せきれなかった津田教授と加藤さんの対談の完全版をお届けします。
▲東京現代美術館は現在大規模改修工事のため、リニューアル準備室でお話をうかがいました! |
想像以上に幅広い“学芸員”のお仕事
――学芸員のお仕事は、どういったことをされるのでしょうか?
加藤弘子さん(以下、加藤):この美術館ですと、企画展示をする部署、収蔵作品を収集・保管する部署、子どもたち向けの講座やワークショップなどを企画する部署の3つがあります。学芸員というと展覧会企画展をやる人、みたいなイメージだと思いますが、それ以外にもいろいろな仕事があります。ゆっくり構えているイメージがあるかもしれないですが、けっこう幅広く仕事をしています。
津田教授(以下、津田):そうなんですね! 企画というのはどのように決めるのでしょうか?
加藤:まずは自分でテーマを決めて、それをどういう形で見せ、何を伝えたいのかを考えていきます。その時代のトレンドもあるので、他館とテーマがかぶらないようにそこは気を付けています。期間はだいたい企画して2年くらいで実現することが多いですね。
津田:実現まで数年はかかるんですね。
加藤:予算管理から、展示したい作品を探して借りるなど、いろいろな手続きで時間がかかってしまいます。同時に展覧会のカタログを作るとなると、編集業務も行います。
津田:業務内容が幅広くて、総合プロデュース力が必要そうですね。展示は公開するどのくらい前に完成させているのでしょうか?
加藤:じつはお客様を案内する直前まで展示の準備を行っているときもあるんですよ。プレスツアーをしている2、3ブロック先で急いで準備をしていて、「今、どこまで来た? もう少しゆっくりお願い」みたいなこともありました(笑)。
津田:それはスリリングですね! 非常に大変そうなのですが、企画展示に関して喜びを感じることはなんですか?
加藤:やはり自分で考えたことを、展示で表現できるというのが一番の喜びだと思います。身体は疲れ果ててしまいますが(笑)。
展覧会で売られているグッズについて
――展覧会で売られているグッズも、学芸員の方が考えているのですか?
加藤:先ほどお話したのは美術館が単独で行う場合ですけれど、大規模な展示の場合、新聞社さんやテレビ局が主催、または共催しています。そちらの方々と仕事を分担していくんですけど、グッズの場合もその主催者側と話し合って決めています。
津田:確かにクレジットで入っていますね。
加藤:オリジナルのグッズを開発するとなると、権利関係やデザイン、どこに発注するかなど手順がたくさんあるので、話し合いは不可欠ですね。来ていただいたお客様が記念に何か持って帰りたいという気持ちに、どう応えられるのかというのが大事なので。
津田:グッズの種類もいろいろ増えましたよね。昔はポストカードや本という感じでしたが。
加藤:今は本当にいろんな物がありまして、日常的に使えるものなども増えています。
津田:企画展示に関わる学芸員さんは、プロデューサーと演出家と、いろんなことを兼ねているんですね。やはり数字にも強くないと難しいでしょう?
加藤:そういった面も、ある意味要求されます。もちろん、本当に専門的な分野はプロにお任せするのですが、頼む側が内容を知らなければお願いすることもできないので、知識や経験は必要とされる仕事であることは確かだと思います。大規模な展示の場合は1人ではできないので、チームで役割分担しながら進めていきます。
美術品の収集・保管について
――美術品の収集と保管方法について教えていただけますか?
加藤:東京都のコレクションとして、こちらの収蔵庫で美術品を保管しているのですが、収蔵させていただくにはいくつか方法があります。こちらが美術品を購入する場合と、寄贈といって無償で頂戴する場合、あとは所蔵品と同じ条件でこちらに長期間お借りするような仕組みがあるので、それらの方法によってコレクションができています。
津田:購入する美術品の基準はどんなものがあるのでしょうか?
加藤:日本の場合、一旦収蔵したら手放すことはありません。その作品の50年、100年、200年後も、きちんとそれを残そうという目的のために収蔵するので、やはり歴史的にも価値があるものを検討しています。こちらの美術館では、基本的には1945年以後の戦後の作品が中心です。そこに繋がる戦前のものも含まれていますが、江戸期より前の物は一点もありません。ある意味、現代美術に至るまでの、戦後美術の流れをどうしていくのかというのがコレクションの1つの大きな考え方になっています。
津田:購入をする場合は、どういった仕組みがあるのでしょうか?
加藤:まずこちらで何を収蔵するのかプランを作りまして、東京都とも協議を行います。さらに妥当な購入金額かどうか、残す価値が本当にあるものかどうかを外部の専門委員会を2つ通さなければいけないんです。そこで承認されたうえで、はじめて収蔵することができるという仕組みになっています。
津田:なるほど。寄贈の場合は、どういった流れになるのでしょうか?
加藤:先方からの打診をいただいたら、まず収蔵するべきかどうかの審議をしたうえで入れさせていただいています。寄贈というかたちでも、すべて同じ審議の過程を経なければなりません。
津田:そういう仕組みがあるんですね。では美術品を預かる場合も同じですか?
加藤:基本的には同じですね。お預かりするという形なので、価格の話し合いはないのですけれど。
津田:美術品はどういったように収蔵されるのでしょうか?
加藤:一年中24時間、常温常湿で保たれていて、虫の害やカビ、ホコリもなるべく入れないように管理した倉庫の中で保管されています。美術品に1番ダメージの少ない形で保管されるので、あまり人も入れず、セキュリティ的にも地図に載せることもありません。お見せすることができないので、イメージしにくいと思うのですが。
津田:やはり徹底しているんですね!
若者に伝えたい美術館の魅力
――最後に、美術館の魅力を教えていただけますか?
加藤:美術館は家族や友だちと来てもいいですし、1人でも自分のペースで楽しめる場所だと思います。もともとは社会教育施設として立ち上がったものが多いですけど、現代美術はそんなに難しく考える必要は一切ないと私は思っています。
ただキレイなものを並べているのが美術館ではなくて、苦しみとか悲しみ、人間の暗い部分すら表現しようとしている芸術も数多く存在します。そういった作品のなかから、かつての作家たちと共感できる部分を見つけられたら、親近感だったり、よい刺激だったりを感じられるかもしれません。いきなり美術館だとハードルが高いという場合でも、美術図書室というものがありまして、美術関連の書籍や画集を公開しているので、そこでゆっくり見ていただくのもおすすめです。
インターネットで目的の本があるかどうかも検索することができるので、ぜひ活用してみてください。そこで興味を持っていただいたら、美術館にも足を運ぶきっかけになってくれるんじゃないかなと。自分なりの楽しみ方を見つけてくれたら、うれしいなと思います。
津田:ありがとうございます! 知らないことばかりでとても勉強になりました。
▲工事中のイラストがかわいかったので撮影してみました。 |