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【ウマ娘が1.8倍楽しくなるお話 31】エルコンドルパサーと遥かなる凱旋門賞のお話

柿ヶ瀬
公開日時

 現役時代に好きだったスマートレイアーの初仔スマートジェイナをPOG(ペーパーオーナーズゲーム)で指名し、新馬戦で勝利して小躍りしている柿ヶ瀬です。

 好きだった馬の仔が走っているのを見ると、競馬で血を繋ぐことの素晴らしさを感じずにはいられません。『ウマ娘』においてはさすがにそういうところは因子継承でしか再現できませんので、ぜひ現実の競馬でこの楽しみを知ってもらいたいと思う次第です。

 さて、メインストーリー第1部最終章の後半が配信されて2ヶ月ほど経ちました。

 以前のコラムでもお話ししたとおりラストシーンでのデアリングタクトの登場によって天地をひっくり返したような騒ぎになったわけですが、しかしこの最終章後半自体がものすごいクオリティであり、スペシャルウィークが『ウマ娘 プリティーダービー』というコンテンツにおいてセンターに選ばれていたことに納得がいった方もたくさんいらっしゃったのではないでしょうか。

 アニメ1期でも語られた歴史ではありましたが、ツルマルツヨシなどが追加され、そしてアニメではブロワイエとして登場した凱旋門馬・モンジューが実名で登場し、まったく新しい99年凱旋門賞、そしてジャパンカップが描かれたのです。

 コラム第10回でも海外のレースのお話をしましたが、今回は99年を中心に、再び凱旋門賞のお話をしたいと思います。

 先程も申し上げた通り、最終章後半ではエルコンドルパサーが挑戦し、モンジューにわずかに敗れた凱旋門賞が描かれました。

 そこではこんなセリフがありました。

 「これまで日本のウマ娘が誰も成し遂げていない、悲願の勝利を掴むことができるか……!」

 そう、そこには“悲願”と書かれていたのです。無論、競馬界において世界で勝つこと(しかも最高峰の1つであり、歴史も古い凱旋門賞で)はもちろん競馬関係者にとって“悲願”だったとは思います。

 しかし、当時の競馬ファンたちもみんな“悲願”だったかと言われると、決してイエスとは言えないように思います。

それが悲願となっていったのは……

 エルコンドルパサーがヨーロッパへ遠征したのは1999年。その前年の1998年にシーキングザパールがモーリス・ド・ゲスト賞を、そしてタイキシャトルがジャック・ル・マロワ賞を――といった形で、日本馬が海外のGIレースを初めて制覇したばかりでした。

 もちろんその勢いで! というところは当然あったと思うのですが、それでも凱旋門賞はこれら短距離やマイルよりもレベルも格も高いとされていた2400mのレース。そして日本馬が過去に惨敗してきたレースでもありました。

 エルコンドルパサーの前には、『ウマ娘』にも登場する1986年のシリウスシンボリ14着。それ以前となると、メジロの大先輩・メジロムサシ(1972年)、さらにシリウスシンボリ、シンボリルドルフの大先輩・スピードシンボリ(1969年)が挑戦しましたが惨敗を喫しています。

 そういう歴史もあってか、筆者が当時を振り返ってみると“悲願の勝利を”ではなく“はてしなく高い壁への挑戦”という印象のほうが強かった記憶があります。

 しかし、です。エルコンドルパサーはほんのわずか届かずの2着でした。あと少しで勝てる、凱旋門賞に手が届くところまで迫りました。

 エルコンドルパサーを皮切りにして、凱旋門賞の挑戦者は増え、注目度も大きくなりました。2010年以降はほぼ毎年、複数の遠征馬が出ることも当たり前になりました。その中でディープインパクトの3着入線(失格)や、ナカヤマフェスタのもっとも近付いたアタマ差2着。オルフェーヴルの2年連続2着など、あとわずかなところまで行く馬も出てきましたが、それでも勝てない。

 エルコンドルパサーの凱旋門賞から23年。挑戦を繰り返すうち、勝てそうで勝てないを繰り返すうち、いつしか競馬ファンにとっても海外――特に凱旋門賞の勝利は“悲願”となっていったのではないか。そんな気もします。

 このコラムの第14回で、純正スプリンターと称されたサクラバクシンオーが、『ウマ娘』での育成ではバクシンオーの引退後に整備された現在のスプリント路線を歩んでいく……というお話をしたことがありました。

 同じように、『ウマ娘』で語られた“エルコンドルパサーによる悲願の凱旋門賞制覇への挑戦”は、他ならぬエルコンドルパサーこそが作り上げたものだったのではないかと筆者は考えます。2022年の『ウマ娘』で描かれるストーリーは“史実を基にしたフィクション”であるからこそ、当時まだ“高い高い世界という壁への挑戦”だったエルコンドルパサーの凱旋門賞出走に“悲願”を求めたのではないか。そう思います。

 ところでエルコンドルパサーの凱旋門賞挑戦と言えば、最終章でも少し描かれているようにその年の春からヨーロッパに長期遠征をしたことで有名です。

 当初は慣れない環境、日本と違う芝などに苦労したり、怪我をしたりすることもありましたが、ヨーロッパの芝での走り方を覚え、筋肉の付き方も変わったなんて言われたそうです。

 そうやってヨーロッパ仕様になったエルコンドルパサーだったからこそ、あの凱旋門賞のパフォーマンスができたんだ、という論調も根強く、凱旋門賞を狙うならばフランスに長期遠征をするべきだ、という声も多いです。

 とは言え、長期遠征に伴うリスクは環境的にも金銭的にも大きいです。そもそも当時、エルコンドルパサーのような外国産馬はクラシックや天皇賞に出られませんでした。まだ大阪杯はGIではなく、レースの賞金も全体的に今より低いものでした。だからこそエルコンドルパサーが長期遠征に出た……というわけではないでしょう。

 ですが今、日本でGIを勝つチャンスの多さ、勝ったときの賞金の高さ、種牡馬など将来の価値の比較などを考えた時、凱旋門賞へ挑戦するくらいの実力馬がフランス競馬に適応するための長期遠征を選ぶことはなかなか難しいことかもしれません。むしろドバイや香港なども含めた転戦としての長期遠征のほうを選ぶ陣営のほうが多いのではないでしょうか。

そして今年も凱旋門賞がやってくる

 今年も10月の第一日曜日に凱旋門賞が開催されます。悲願を達成すべく日本馬も4頭登録されています。その中でも注目の一頭は、菊花賞、天皇賞(春)、宝塚記念を制したタイトルホルダーでしょう。近年の日本の最強馬とは少し違うタイプの、スピードとスタミナを兼ね備えた逃げ馬です。

 タイトルホルダーを生産、育成した岡田スタッドの岡田牧雄氏は「凱旋門賞狂騒曲に終止符を打ちたい」と話しました。岡田氏はヨーロッパ競馬ではなくアメリカ競馬を目指すべきだという考えからこのように話しているようです。

 凱旋門賞はもちろん世界最高峰のレースの1つです。それはいわゆるレーティング(いわゆるレースレベル)的にも、歴史的な伝統格式としても皆が認めるところしょう。

 とは言え、目指すべき世界最高峰クラスのレースは凱旋門賞だけではありません。イギリスにはキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスやチャンピオンステークスなどがありますし、アメリカにはブリーダーズカップやケンタッキーダービーなどがあります。アジアに目を向けてもドバイにはドバイワールドカップなどがあり、最近ではサウジアラビアにサウジカップという世界最高賞金のレースもできました。もちろん日本のジャパンカップだってそれらに肩を並べるレースになっていると思います。

 馬場や気候などを含めた環境の違いや、レース展開傾向の違いなど、国や地域によって同じ距離、同じ芝やダートでも別の競馬になります。特にヨーロッパと日本の競馬はまったく適性が違うとも言われています。だからこそ、この凱旋門賞をクリアすることで、もっともっと他の地域の最高峰にも目を向けてもらいたい。岡田氏はそう思っているのではないでしょうか。

 余談ですがタイトルホルダーは母の父の父が、誰あろうモンジューです。そして父の父の父であるキングマンボは、エルコンドルパサーの父でもあります。ちょっとした因縁的なものも感じなくはありませんね。

 もちろんタイトルホルダー以外にも、今年のダービー馬にして我らが『ウマ娘』プロモーター・武豊騎手が騎乗するドウデュース、GI無冠もその強さと人気は誰もが知るディープボンド、そして7歳にして海外進出で活躍を見せるステイフーリッシュといった日本馬が、夢の凱旋門賞戴冠を目指して海を渡りました。いずれも無事に、そして好成績を残してもらいたいと思います。

『ウマ娘』にも実装してほしい! でも……

 『ウマ娘』のメインストーリーで登場した凱旋門賞。いつか育成シナリオにも実装されることになるのでしょうか?

 以前もっと増やして欲しいと言っていた地方のレースも、盛岡・川崎・船橋の交流重賞が実装されました。もちろん育成ウマ娘にとって必要だったからではあったでしょうが、どうしたって凱旋門賞の実装にも期待せざるをえません。

 いや、凱旋門賞だけでなく、先程話に出した世界の様々な地域で行われる大レースも実装してほしい。しかしながら、そう簡単には勝てないレースであってほしいという気持ちもあったりします。実際どのように『ウマ娘』の世界で海外レースが扱われるのか(あるいは扱われないのか)はわかりませんが、今後の展開には期待したいです。

 そして、もしも凱旋門賞が『ウマ娘』に実装されることがあるとするならば、その時には現実世界で“悲願”が達成されていてほしいと、筆者は思っています。

 また次回もこういった“楽しみ方”を提示していければと思いますのでお時間ありましたらぜひご一読いただきたければ幸いです!

 それではまた!

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