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『オクトパストラベラー2』インタビュー#03 “底力”で多様性が増したバトルシーン──音の厚みも大幅進化

タダツグ
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 スクウェア・エニックスから2023年2月24日にリリースされることが決定した、Nintendo Switch/PlayStation 5/PlayStation 4/SteamのRPG『オクトパストラベラーII(OCTOPATH TRAVELER II)』(※Steam版は2023年2月25日(土)発売予定)。ファン待望の新作として大幅な進化を遂げている本作の開発者インタビューを、計3回に渡ってお届けします。

 お話をお聞かせいただいたのは、プロデューサーである髙橋真志氏と、ディレクターを務める宮内継介氏、音楽を手掛ける西木康智氏の3人。ラストとなる今回は、バトルシステムの進化部分や音楽へのこだわりについて紐解きます。

バトルの新要素“底力”を導入した理由とは

──ここからはバトルシステムについてお聞きしていきます。まずは本作のパーティ編成と武器種ですが、こちらは前作を踏襲していると考えてよろしいでしょうか?

宮内継介氏(以下、宮内。敬称略):はい。パーティは最大4人編成で、武器種は前作と同じく剣、槍、短剣、斧、弓、杖となっています。

──ブーストとブレイクがキモになるバトルシステムだと思ってるんですけど、そこに関しては今回もしっかり継承されている形なのでしょうか?

宮内:基本的なバトルシステムは前作を継承しています。弱点を突いて相手のシールドをブレイクし、強力なブースト攻撃をたたき込むことという流れも変わらないですね。

──そのうえで目新しい要素として“底力”があると思うのですが、これはいわゆる“必殺技”的なものなのでしょうか?

宮内:たとえばヒカリであれば、専用の強力なアビリティを使って大ダメージを狙えるので必殺技って感覚に近いかもしれません。一方、同じ底力でもアグネアの場合は単体対象の技を全体化するサポート的な能力だったりします。あくまで各キャラの個性が反映された力なんですよ。なので僕としては必殺技というより、底力という表現がしっくりきて、そういう名称になってます。

──底力からも個性が感じられるのはいいですね。

宮内:じつのところ、チーム内では名称をもっとわかりやすいものにしたほうが……という意見もありました。ただ、ここはどうしても底力にしたいんですと自分が無理を言って、今の名称にさせてもらってます。主人公たちが窮地に陥ったとき、底力を発揮してもらいたかったんですよね。

──なるほど。ぎりぎりの戦いの中で発動する、火事場の馬鹿力的なものだと解釈しました。

宮内:そうですね。コンセプトとしてはそれに近いかもしれません。バトル中に敵をブレイクしてブーストして……と積み重ねていくのは正攻法ではありますが、それだけだと戦略が固定化されてつまらないと思うんです。なので当然、正攻法では突破しづらいボス敵なんかも登場させるわけですが、そんな強敵とのバトルで「ギリギリのところで底力が発揮できたから勝てた!」みたいなドラマ性を入れたくて。底力は狙って発動させるのは難しいのですが、だからこそ発動してくれたことで逆転の一手につながった……みたいな変化も生まれると思います。

──バトルにドラマ性が生まれるのは望むところってファンも多いのでは。毎ターン1ずつ溜まっていくブーストゲージとはまた違った戦略性が盛り込まれるというのも新鮮です。

宮内:ブーストゲージは比較的計算しやすい要素だと思いますが、底力については状況やキャラによっても貯まり方が違いますし、一度使った後にどれぐらいまで溜められるかもままならないんですよ。

──となると、人によってはすぐに使わず温存したりとか、プレイヤーごとに使い方自体も変わってきそうですね。

宮内:ここでダメージ受けて死にかけたけど、なんとか耐えてくれたおかげで底力が発動して勝てた……みたいな局面も出てくると思いますので、ぜひ使いこなしていただければ。

──戦闘の難易度はどれくらいを想定していますか? 前作同様、手ごたえのあるバランスだと個人的には嬉しいのですが……。

宮内:手ごたえは感じていただけるバランスだと思いますが、メインストーリーに関しては、あまり難しくなりすぎないよう気を付けています。なるべく多くの方にプレイしていただき、エンディングまでたどり着いていただきたいので、少なくとも理不尽に感じるようなバランスにはしていません。どんな強敵でも適正なレベルまで上げたり、パーティやアビリティの構成を考えたり、装備をより強力にしたり、いざとなればフィールドコマンドで適性の強いサポートキャラを連れてきたりすることで、しっかり勝てるバランスに仕上げるつもりです。

髙橋真志氏(以下、髙橋、敬称略):テストプレイにもかなり多くの時間を割きましたが、一番意識したのは正解が一つにならないこと、でした。感想として「難しかった」と言う人がいても、「いやいやこうやったら簡単だった」と言う人の両方が共存していれば合格という感じで考えました。逆に全員が口を揃えて難しかった、あるいは簡単だったという意見に偏ってしまっていたら、そのバトルには再調整をかけるようにしています。

──壁にぶつかったときの解決手段が豊富に用意されていると聞くと、テンションが上がりますね。バランス調整は本当に難しいと思うのですが、バトルは『オクトパストラベラー』のキモのひとつだとも思うので、力を入れていることがわかってホッとしました。

髙橋:実際のところ、ある人が30分かかって倒せなかったボスが、まったく違うアプローチで挑んだ別の人にあっさり撃破されてしまった、みたいなこともあって。このあたりの自由さが『オクトパストラベラー』らしい部分かもしれないと思ったりしています。

──撃破するのに一時間近くかかるボスなんていうのも、プレイ体験としてあっていいと思うんですよね。もちろん、全部が全部そうだったりすると萎えてしまいますが、前作のラスボスに初見で挑んだときはホントに一時間以上戦って負けたりもしましたし……。またあんな絶望感と、戦略を練り直して挑む挑む反骨心みたいなものを味わってみたい気はします。

宮内:発売までまだまだバランス調整に時間をかけていくつもりなので、ご期待に沿えるようがんばります。

大幅な進化を遂げた音楽──新しい楽器も彩りを添えている?

──では、ここからは西木さんに本作の音楽についてお答えいただければと思っております。髙橋さんや宮内さんにお話しをお聞きし、本作は前作とはまったく別の世界の物語であることは理解したのですが、それは音楽面でも影響はあったのでしょうか?

西木康智氏(以下、西木。敬称略):もちろんです。ゲームが前作から正統進化を遂げ、新たなシステムが追加されてグラフィックもさらに美しくなっているなか、音楽も遜色なく進化することができるのかどうか。自分のなかで大きな課題として取り組みました。

──前作の音楽はファンのなかでものすごい高評価を獲得していましたので、本作での音楽にも大きな期待が寄せられていると思います。

西木:たしかに、前作の音楽はたくさんの方に聞いていただき、満足の声もいただいていたので、期待値の高さは自覚しているつもりです。新しい試みとして、前作は全部国内で済ませたレコーディングを、本作の一部の楽曲は海外でレコーディングさせていただくなどして、変化をつけた部分もあります。

──楽曲数も大幅に増えたとのことで、さまざまな音楽が楽しめそうですね。

西木:更に前作にはなかった「歌」の要素を、所謂ボーカルものという事ではなく、楽器としての「歌」を多く楽曲に取り入れたりもして、音楽面もさまざまな意味でバージョンアップを図りました。

──作曲を手掛けるにあたり、開発陣からは何かオーダーなどありましたか? 前作の経験値もあるわけですし、西木さんにお任せって感じだったりしたのでしょうか。

西木:逆ですね。むしろ前作に輪をかけて連携し、宮内さん、髙橋さんと三人四脚で制作しています。実は前作では、宮内さんと初めて顔を合わせたのって制作が全て終わった後の東京ゲームショウの時だったんですよ、なので制作中は一切お互いの存在を認識する事なく作っていたんですね。その点、今回はすでに顔見知りだったこともあり、制作のスタート段階からお2人と話を進め、それこそ1曲ずつコンセプトを説明してもらったり、こちらからも提案を投げかけたりしながら作っていきました。結果、前作よりも濃密に作り込むことができたと思っています。

宮内:前作では髙橋さんにお任せしてしまっていた西木さんとのやり取りに、今回は僕自身も絡ませていただくことができたので、自分にしか見えづらいであろう部分をリストアップして西木さんにお渡しし、コミュニケーションを取ることに努めました。おかげさまで、自分たちが想定していたものよりもすごくいい曲を作っていただけたと思っています。

──最初から綿密なやり取りがあったことで、イメージどおりの楽曲が仕上がって来た感じですか?

宮内:ちょっとイメージと違うな……と感じたものもありましたけどね。その場合も遠慮なくぶつからせてもらったというか(汗)。何度もやり取りを重ね、お互いに納得がいくところまで揉むことになった曲もあります。

──そうでしたか。互いに足並みをそろえて進めて行ったわけですね。

宮内:それはどうでしょう……。インタビューではナリを潜めていますけど、西木さんはこう見えて僕にはものすごく高圧的に来られるものですから。足並みがそろっていたかと言われたら、ちょっとわからないですね。

西木:いやいやいやいや、ちょっとちょっと! そんなことはないでしょう(笑)。

髙橋:(笑)

西木:そういう宮内さんこそ、結構ぐいぐい来てましたけどね。宮内さんて基本的に温厚ですけど、一回すごく怒られたこともあって。

──宮内さんが怒る? ……ちょっと想像がつかないですね。

西木:怒るというか、静かにキレるというか(笑)。ある箇所の楽曲で、宮内さんから仕様を説明された上で依頼された内容が若干制作カロリーが高かったので「多分、こっちの省エネプランでも成立しますよ」と提案し、お互いに合意した演出があったんですけど、後々になってやっぱり「これって作った方が絶対いいよね」って感じたので、作りませんか?って提案したら「でも西木さんがこれでいくって言ったんじゃないですか!」って怒られまして(笑)。

髙橋:ありました。そんなこともありましたね(笑)。

──むしろいい感じじゃないですか。それだけ忌憚なく意見を伝えられる関係になったってことですよね。

宮内:そうなんですよ。西木さんはとても心が広いから僕のそういう大人げない部分も許してくれるので、自分としてもついつい……。

西木:聞きました? この感じ、こういうふうに来るんですよ(笑)。

──ええ。仲良しスタッフがじゃれ合っているようにも見えますけどね(笑)。

西木:まあそうしてやりあいはしたものの、さらに仕様を変更して作り直させてもらって。結果的に、さらにシチュエーションに合った楽曲に仕上がった手ごたえを感じたんですね。そのとき、こうしてコミュニケーションを取り合える関係になってよかったなと思いました。

──先ほど曲数が大幅に増えたともおうかがいしましたが、そこまで濃密なコミュニケーションを取りながら作りあげたのだとしたら、たいへんだったのでは?

西木:今の段階ではネタバレにもなっちゃうかなと思うんで詳しい曲数は伏せさせていただきますけど、かなりのボリュームになっていますよ。音楽としてのバージョンアップは意識しましたが、その一方で前作でご好評をいただいた部分はしっかり本作でも踏襲するように注意して進めました。

──嬉しいです。自分は主人公曲でいえばハンイットとプリムロゼのテーマがお気に入りでしたし、地方ごとの曲でいえばサンランドのフィールド曲と、リプルタイドのタウン曲が大好きだったので、本作でもそういった楽曲たちに期待してしまいます。

西木:ありがとうございます。音楽に限ったことではありませんが、いかに進化を目指して作るとはいえ、変えてはいけない部分は敢えて変えないという決断も大事だと思うんですよね。そこがブレてしまわないよう、自分のなかではもちろん、宮内さんや髙橋さんとも膝を突き合わせて話し合い、各楽曲を制作させていただきましたので、ご安心いただけたら。

──その話を聞いただけで、芯がブレていないであろうことが伝わってきて安心します。世界も広がり文明レベルも進んだことで、より多彩な表現が盛り込まれているのではないかと。

西木:先ほどもチラリとお話しましたが、大陸としての広がりや文明の進化については明確に意識しました。ヒカリの祖国であるク国やヒノエウマ地方は、かなりオリエンタルな雰囲気なので、楽曲でもそういった演出を盛り込んでみたりとか。前作よりも幅広い音楽的アプローチを楽しんでいただけると思います。

──バトル曲にかんしてはいかがでしょう? 前作はボス曲のみならず、通常バトル曲も複数用意されていたりしたので、ファンも期待してしまうところだと思うのですが。

西木:そうですね。その期待を裏切るわけにはいきませんので……とお答えしておきましょうか。しっかりとアップデートできているはずです。

──前作のメロディーを引用しつつ作られた曲などはあるのでしょうか?

西木:これは踏襲するべきだろうっていう曲については当然していますよ。たとえば、PVなどでも流れるメインテーマがそれにあたりますし、バトルリザルトの曲や一部のジングルなどもそうだったりしますね。ただ、そんなに数はないのでたっぷり新曲をお楽しみいただけると思います。

──使われた楽器のお話も気になっていて。先ほど西木さんは「前作では使わなかった楽器も使用している」というニュアンスのお話しをされていましたが、ここらへんについてもう少し具体的にお聞かせいただけますか?

西木:前作では使っていなかった楽器をたくさん使っているので、新鮮なイメージを感じていただければなと思ってます。そのうえで、とくに珍しい楽器としてはオンド・マルトノ(※鍵盤やその下につけられたリボンを用いて音の高さを指定し、特殊なスイッチを押し込むことで音の強さを調整する電気楽器)を使わせてもらいました。

──オンド・マルトノですか……すみません、聞いたこともないです(苦笑)。

西木:かなり珍しい楽器ですからね(笑)。個人的にこの楽器をずっとどこかで使えればと思ってたんですが、今回演出的にぴったりハマる曲が1曲だけありまして、とても贅沢なんですが、そのためだけに音を録らせていただきました。とっても美しい曲になったので楽しみにしてください。

──珍しい楽器と言えば、前作の「旅路の果てに立ちはだかる者」で使われていた、笛のような楽器も気になっています。

西木:はい。ティン・ホイッスルのことですよね。

──まさにそれです! ティン・ホイッスルの音って『オクトパストラベラー』を象徴する音色のひとつではないかってほど印象に残っているんですよね。あくまで個人の主観ではありますけど。今回、こちらの楽器につきましては……。

西木:先ほどお話ししたとおり、前作で好評だったもの、踏襲しなければいけない部分にかんしては基本的に入っていると思っていただいて大丈夫です。ご期待くださいとしか言えないんですけどね、今の段階では(苦笑)。ただ、総じて聞いていただければちゃんと「ああ、『オクトパストラベラー』のサウンドだな」って思っていただけるものに仕上がっていると思いますよ。

思い出補正を超えていく──“自分だけの旅”を楽しんでもらうためにできること

──個人的には、オリジナルサウンドトラックのリリースにも期待してしまいますね……。ちなみに、前作では西木さんが“note”で、楽曲にかんするライナーノーツというか、コンポーザーレター的な企画を執筆されていたのもすごく印象に残っているのですが。こちらはもちろんゲームの発売後になると思いますけど、また実施していただけたりするのでしょうか?

宮内:もちろんやるでしょうね。間違いなく。

西木:えっ!?

──ここぞとばかりに攻めますね、宮内さん(笑)。

西木:わかっていただけました? こういうところなんですよ。宮内さんのこういうところ。

一同:(爆笑)

西木:ただ……そうですね。じつは今回の一曲一曲にも、あれくらいのテキストが書けてしまうくらいの物語がちゃんとあるんですよ。だから正直、やりたい気持ちはありますが、物量が物量なので見せ方は考える必要がありそうですね。たとえば動画でやるとか……。

──いいですね。素敵な企画になると思います。

髙橋:前作のnote企画もそうでしたが、西木さんがそのように『オクトパストラベラー』に熱い想いを込めて下さっているのがひしひしと伝わってきていて、プロデューサーとしてとてもありがたく思っています。西木さんが以前「僕にとって『オクトパストラベラー』の音楽はライフワークなんです」とおっしゃってくれたことがとても印象に残っていて。あの言葉はすごく嬉しかったんですよね。

西木:そう言われてしまうと照れますね(笑)。まあ、プレイヤーの皆さんに喜んでいただけるというなら、何かしらの形で実現していけたらいいなと思います。

──今回のインタビューはこのへんでまとめの時間に入らせていただきます。最後に皆さんからひと言ずつ、ファンの方々へ向けてメッセージをいただけますか? まずは髙橋さんからお願いします。

髙橋:はい。まずは、読んで下さってありがとうございます。現段階ではお話しできないこともまだたくさんあったことをお許しください。そのあたりは、ぜひぜひ続報を心待ちにしていただけるとうれしいです。様々な想いを詰め込んで制作している『オクトパストラベラーII』ですが、このタイミングで皆さんの温かい声援をまた受け取ることができたので、それにちゃんとお応えできるように、気を引き締めて完成に向けて頑張ります。

──次は宮内さんにお聞きしていいですか?

宮内:冒頭でもお伝えしましたとおり、“自分だけの旅を楽しんでいただく”というコンセプトを大事にしながら開発を進めているところです。まだまだ調整しているところではありますが、エンディングというか、ご自身の旅が終わりを迎えたとき「ああ、いい旅だったな」と思っていただけるよう、すべての要素を積み上げて作っているつもりです。発売をぜひ楽しみにしていただければ嬉しいです。

──最後に西木さんからもひと言いただけますか?

西木:本作が発売される頃には前作から4年半ほどの時間が経過しているわけでして、その“思い出補正”を超えていかなければいけないというのは大きなテーマだと思っています。そもそも前作が、かつてのドット絵RPGの思い出補正を超えることを目標として作られたゲームでした。今やその前作にすら思い出補正が付与されていると思うと、これを超えていくのは並大抵のものではダメだと思うんですよ。そんななかで我々ができることは、ファンの方々を裏切らないように最大限の努力をし、そのうえで新しい要素も取り入れていくことだと考えています。“やれることはすべてやろう”というスタンスで臨んだ作品となりますので、どうぞご期待ください。

──皆さん、素敵なお言葉をありがとうございました。お3方にはまたよきタイミングで、ガッツリとお話しを聞かせていただければと思っております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。重ね重ね、本日はお忙しいなかありがとうございました!

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