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『OU(オーユー)』完成報告会レポート:開発陣の熱気がミニシアターをオレンジ色に染めあげる素敵な“おまじない”に溢れた2時間【電撃インディー#478】

まさん
公開日時

 2023年8月22日。東京都内のミニシアター・下北沢トリウッドにて、ジー・モードのアドベンチャー『OU』の完成報告会が行われました。

 ゲームメディアと、本作の発売を楽しみに待っているファンを招いて行われた今回の完成報告会は、開発者の熱意とファンの期待が混然一体となり、終始温かな雰囲気で進行。トークによる新情報から初公開のPVまでサービス精神に溢れ、作品の発売が待ち遠しくなる催しとなっていました。その模様をお届けします。

 『OU』は、2023年8月31日にジー・モードからNintendo Switch/PC(Steam)で発売されるピクチャレスク・アドベンチャー。

 フィーチャーフォンのRPG『セパスチャンネル』などを手掛けてきたクリエイター幸田御魚氏と、情緒あるインディーゲームを世に送り出しているレーベル「ヨカゼ」を運営するroom6。そして、本作の開発が行われるキッカケにもなったフィーチャーフォンアプリ復刻プロジェクト『G-MODE アーカイブス』でおなじみのジー・モードの3者が手を組み、完全新作として作られたタイトルになります。

 公式いわくアドンベンチャーゲームの形をした“何か”と表現しており、ミヒャエル・エンデ作品や児童書・児童文学の世界を旅するような郷愁と、寂しさや温かさが入り混じる独特の雰囲気をまとった『OU』。ゲームの発売に先駆けて行われた完成報告会では、これまで明らかになっていなかったゲームの新たな側面や開発秘話が明かされました。

映画館の大画面で見ても圧倒されるほど、細かい部分まで描き込まれた映像美

 みなさん、すみません!

 なぜ、いきなり謝っているのかというと、おそらくメディアのなかでは私のレポートの掲載が遅いのではないかと思われるからです。いや、もうね。理由は1つなんですよ。完成報告会で気になるシーンのプレイ映像を見てから、先が気になっちゃって、気になっちゃって、帰宅してからレビュー用の先行プレイバージョンでクリアして放心していたからです。実際、半分趣味でこれを書いていますよ。

 じつは私、メディアじゃなくて個人的に『G-MODE アーカイブス』や『セパスチャンネル』を応援していた縁もあり、ジー・モードさんの竹下さんから直接お誘いを頂いたんです。それもあって、もうほぼ趣味で完成報告会に行ってきました。それくらい、楽しみにしていたのでコードをもらうことも悩んだのですが、やはりどうしてもこの感動をメディアでお届けしたい。ということで、先行でプレイさせていただいています。

 そんなわけで、完成報告会のレポートなのに、まず記事を書くよりもゲームをクリアしちゃいましたという報告をしているのですが、それぐらい気になってしまう作品だったということ。完成報告会に参加して、自分のなかでブチ上がった期待以上の物を届けてくれた“絶対にほかでは見られない”情緒のある雰囲気。幸田御魚節全開の、詩的でありながらも意味がスッと通るテキスト。インディーゲームの良さにあふれた出来でしたね。

 のちほど別の記事でゲームのレビューをお届けする予定ですが、今回は完成報告会のレポート。その模様について書いておきましょう。いや、本当に素敵なゲームでした。自分に刺さる内容でしたし、たぶん刺さる人は多いとも信じています。

  • ▲「最後まで遊んで欲しい」と報告会で何度も念押しされていたくらい、ラストまで遊ぶとゲームの形を取った素敵な児童文学だと思える内容です。小学生や感性の豊かな子どもに遊んでもらいたいかも。

 今回の完成報告会は、オシャレと芸術の街、下北沢のミニシアター・下北沢トリウッドで開催されました。新海誠監督の商業デビュー作『ほしのこえ』が初上映されたことでも知られているミニシアターということで、アーティスティックな本作の雰囲気にもピッタリ。

 完成報告会のメインビジュアルも、よく見ると下北沢トリウッドの座席仕様が描かれた特別なイラストに。ゲーム外でも、しっかりと作品の雰囲気が演出されたイベントになっていました。

 当日の進行は、ゲーム好きで知られる声優の桐島ゆかさんがMCを担当。ゲーム好きならではの視点で切り込む安心感のある司会進行で、作品の完成報告を兼ねた対談や実機によるプレイと解説、幸田御魚氏による原画の公開、そして主題歌“おまじないのように”のMVの上映まで、満足感のある濃い流れになっていました。

 登壇した関係者は、ジー・モードのプロデューサー・竹下功一さん。作品の企画からシナリオ、キャラクターや背景に至るデザインまでをすべて1人で描き上げた開発者の幸田御魚さん。プログラミングやアニメーションなどのディレクションを担当したroom6の代表者・木村まさしさん。元任天堂の作曲家で、現在はフリーで活動されている椎葉大翼さんの4名。

 それぞれが、終始和やかな雰囲気で開発の苦労話を語ってくれました。ゲーム中では暗くて見えない部分まで手描きで作り込まれた背景。ボールペンのほぼ1発描きによる原画。砂利の1個1個に至るまでコピペをせずに描き、一瞬しか映らない部分の背景やキャラクターのアニメーションも用意されているなど、『OU』ならではのコダワリ抜いた制作手法が語られる場面も。

  • ▲株式会社ジー・モードのプロデューサ・竹下功一さん。

 ちなみに、下北沢トリウッドで完成披露会を行ったのは竹下さんの強い希望があったとか。『OU』の繊細で美しいグラフィックや生演奏の音楽を映画館のスクリーンで実際に見てみたいし、ファンにも見て欲しいと言うことで選んだそうです。そして、報告会の冒頭では、まず初公開となる新しいプロモーションビデオが上映。

 これまで公開されてきた穏やかで優しい雰囲気だけではない、怖さも感じられるPVが流れて自分もビックリ。じつは、この作品。進めていくと穏やかなことばかりではなく、シリアスやショッキングな展開も用意されています。それもあり、これまでと違う側面を見て欲しくて制作したPVだとか。

 自分は先行でゲームのコードを頂いており、ちょうど完成報告会での実機プレイがあった場面まで事前に進めていたのですが、この映像もあって先が気になって仕方なくなってしまいました。帰ってすぐに、続きから最後まで一気に駆け抜けるように遊んでしまったくらいです。

 なお、上映されていたPVのシーンも自分の目で確認しましたが、あくまでも本作の物語上で必要なシリアスやショッキングに感じられるシーン。ホラーゲームのような背筋を凍らせる恐怖体験ではないので、ご安心を。言ってしまえば、児童文学のような懐かしいのにどこか不安を抱く空気感に近いですね。そうとしか表現できないかも。

 ミヒャエル・エンデの“モモ”が実際に動いているような……。それとも、“みんなのうた”のMVの世界に入り込んだような……。はたまた、ジブリアニメのような……。ここではないけれど、現実と地続きのような独特の雰囲気が感じられます。ホラーゲームではないので、そこは安心して大丈夫です。具体的には、後日出すレビューでネタバレにならない形で掘り下げようと思います。

  • ▲企画やシナリオ、グラフィックを作られた幸田御魚さん(左)。

 冒頭では『OU』の開発が進んだきっかけについて、竹下さんからのお話が。それによると、きっかけはジー・モードのフィーチャーフォンアプリ復刻プロジェクト『G-MODE アーカイブス』。そこで復刻を続けるうちに、よく幸田御魚さんの名前がエンドロールに出てくることに気が付いたことが始まりだそうです。

 さらに、復刻のリクエストとして多く頂いたタイトルのなかにに、幸田さんが手掛けた『セパスチャンネル』やホラーゲーム三部作の名前もあり、印象的なタイトルには必ず幸田さんの名前があるので気になっていたと語る竹下さん。そこから、新しい作品を作ることになったときに思い切って声をかけたとのこと。

 当初は企画を持ちかけられても、そこまで期待せずにいたという幸田さんでしたが、行きつけの純喫茶まできた竹下さんの熱意に押されて『OU』の開発が実現したそうです。『セパスチャンネル』でファンになった自分としても、まさかこのような形で幸田さんの新作が見られるとは思っていなかったので、本当にうれしかったですね。

  • ▲ちょっとした解説からキャラのセリフまで、言葉がいっさい雑には使われていないのが特徴。詩的で意味を感じられる台詞回しが幸田御魚作品の真骨頂です。

 ゲーム中に登場する相棒としてオポッサム(サリー)を採用した理由や、影響を受けた作品の話題も。本作はメキシコの文化をモチーフにしている部分があり、そこからメキシコで愛されているオポッサムをお供に連れて冒険したら楽しいだろうということで、一番最初に“オポッサムと冒険するゲーム”という構想があったそうです。

  • ▲語る言葉も行動も、最後まで遊んでいくとすごく印象に残るオポッサムのサリー。

 影響を受けた作品としては、ミヒャエル・エンデが挙げられており、その理由としてはただの児童文学ではなく、今の現実とすごく繋がった作品であること。とても偉大な方であること。何より、幸田さん自身がファンであることを公言していました。

 さらに、完成までに延期を重ねた理由も判明。本作は発表当初から2年ほどかかっていますが、当初は幸田さんがラフだけを描き、いろいろなデザイナーさんに手伝ってもらって半年ほどで仕上げる予定だったようです。そのつもりが、最終的に周囲からの薦めもあって幸田さん1人で絵を描きあげたために2年も時間がかかってしまったとのこと。

 時間がかかった代わりに、アニメーションなどの全体的なクオリティの底上げもできており、映画館のスクリーンに映しても見栄えがするほどに細かいところまで作り込まれています。Nintendo Switch版で遊ぶ人も、ぜひテレビに繋げて遊んで欲しいと語っていました。

  • ▲ゲームをはじめた当初は謎めいた問いかけも多い本作。最後まで遊べばわかるので、ゲームが出たら大画面でじっくり浸りながら遊んでみましょう。

 イベントでは、「本当の最後まで見て、ぜひ『OU』を遊びつくして欲しい」「クセのあるゲームや賛否両論があるかもしれない」「問題作を作り上げた」といった気になる発言が飛び出す場面もありました。

 とはいえ、それはおそらく開発陣による謙遜もあるでしょう。自分が遊んでみた感想としても、おそらくユーザーが想像するような方向の問題作ではないと思います。あくまでも、表現としての新しさやシナリオの見せ方から来ている発言だと感じられました。開発陣の言う通り、本当の最後まで遊ばないと全貌がわからないタイトルでもありますし、発売されたらぜひ最後まで遊んでみてください。

エンディングまで見せちゃっていいの!? 実況プレイで判明した心理テストのような分岐

 実機プレイでは、事前に用意したセーブデータからシーンを抜粋しつつ、開発陣のトークを交えた実際のプレイを見ることができました。投げて飛ばすことでゲーム中のヒントを表示させたり、背景にあるオブジェクトの解説を表示させたりする“ふせん”のシステムや、それまでのプレイによって途中の展開が変わる要素なども明らかに。

 正解のルートがあるわけではなく、あくまでもユーザーへの心理テストのようなものですが、プレイの仕方によっては中盤のイベントが大きく異なります。道中で取ったプレイヤーの選択によって変わるので、実況プレイを見ても、実況者が自分とまったく違うイベントを遊んでいる可能性も……?

  • ▲会場では、世界を破滅させる決意をした場合の展開からスタッフロールに至るシーンを特別に公開。エンディングまで見せてしまうのかと驚きましたが、じつはまだまだゲームの中盤です。

 本作では、水に飛び込むことでまったく違う場面に移動できるシステムがありますが、それに関する作り手の狙いも判明。それは、目的地まで移動する部分をあえて省くことでファストトラベルのようにテンポを良くし、大事なところだけを描くのに注力できるようにした結果だそうです。本のページをめくると、まったく違う場面に転換するような表現をイメージしているとのこと。

 また、プレイの途中では、椎葉さんから「動物のパートナーがあとからついてくるのではなく、先に行っている作品は『OU』だけかもしれない」という指摘も。これに対し、木村さんから「実際に制作をするうえでも後からついてくるのではなく、先に行ってしまうのは制御が大変だった」という苦労話も飛び出しました。

  • ▲作曲を担当された椎葉大翼さん(右)。
  • ▲room6の木村まさしさん(右)。

 それに対して、幸田さんは「先に行って振り返り、待っていてくれる存在が欲しかった。だから、あえて先に行くようにした」という意図を明かしてくれました。プレイヤーのほうを見てくれている。君は1人じゃないよと言ってくれる。自分の意志よりも先の方向に言ってくれる存在がゲームに欲しかった。そんな狙いもあり、本作ではオポッサムのサリーが必ずプレイヤーの先を進んでくれるようになっています。

貴重な原画公開や優しくも切ない主題歌のMVも初お披露目!

 衝撃的な話が多く飛び交う開発陣のトーク。具体的な内容は、後日公式から動画で上がるそうなので、そちらを参照してもらうとより分かりやすいと思います。自分が会場で聞いた印象としては、幸田さんの世界観を大事にゲームへと落とし込むことへ躊躇することなく、開発陣が真剣に作品を作っていることが伝わってきました。

 ゲームを作っているというよりも、モーションアニメに近く、そこにインタラクティブ性を付けるような作り方をしているという幸田さん。本人いわく「無茶苦茶な作り方」というくらいには、手間もかかっているようです。さらに、製作途中では今よりも親切なゲームにするかという迷いもあったとのこと。最終的には、在りのままを見せようと言う結論に至っています。

  • ▲原画の時点でも、恐ろしいほどに描き込まれている背景。ゲーム中では、この原画が茶色やオレンジのモノトーンな色合いで塗られ、特徴的なオブジェクトに刺し色が入っています。
  • ▲上の原画と同じ場面が出てくるゲーム中のエリア“海と街とコガネムシ”。こうしてみると、手前の歩くエリアと奥の背景が別々に描かれていることがわかります。

 そのため、今風ではない。問題作でもあると開発陣は連呼していましたが、決して難しい作品でも悪い意味で問題のある作品でもありません。トークのなかでも、ゲームとしてはあえて難しいことを削り取り、誰でもクリアできるようになっていることが強調されていたように、ゲームが苦手な人でも遊べるものになっています。謎解きもいくつかあるのですが、ちょっと考えればわかるなぞなぞ程度。もし詰まってしまったとしても、ふせんを投げてなにかをインタラクトしているうちに解ける作りです。

 海外に行っているデザイナー、ハフハフ・おでーんさんからのメッセージ動画や、主題歌を担当した、みけたはなさんによるビデオメッセージなど、会場に来られなかった関係者からも温かい言葉が届き、作品の持つ雰囲気の良さを感じられる一幕も。

 ラストは主題歌“おまじないのように”のMVが流れ、美しい雰囲気とともにイベントが終了。作中のBGM自体もクオリティが高く、単体として聞き続けたいくらい素敵な曲ばかりでした。映画館の大画面で流れる“おまじないのように”は、座席にいる自分にまでおまじないがかかりそうな美しい曲でした。

 ただし、今回流れたバージョンは、ネタバレ防止になる部分が伏せられていました。フルバージョンは、ゲームを実際にプレイして聞いて欲しいとのこと。同日発売のサントラにも収録されていますが、クリアしてから聞くようにしましょう。なお、Steamでは同日にサウンドトラックも配信されます。

 どこを切り取っても絵になるように描かれた幸田さん渾身の原画も見られ、これまで本作を楽しみに待っていたファンに取って楽しめる2時間となった『OU』完成報告会。

 最後は、会場に来た人たちにだけ記念品のグッズとしてとある品が配られました。これは、幸田さんがどうしてもやりたかったもので、ゲームと現実を繋ぐ“おまじない”のかかった一品。もらった時点では、普通のポストカードのように見えましたが……?

  • ▲表面には、これまでの『OU』の情報に出てこなかった2人と一匹が描かれた不思議なイラストが掲載されています。会場に来られなかった方は、ぜひこの絵を見て想像を膨らませてみてください。

 家に帰って開けてみると、その中にはゲームをクリアした人なら納得できるものが入っていました。ゲームを遊ぶ前に見るのとゲームを遊んだあとに見るのでは、意味がまったく変わってくるアイテムですね。会場でもらえた幸運なファンは、クリア後に開封するのがオススメです。きっと、ゲームの想い出に浸れるでしょう。

 開発陣の熱意と、テンション、こだわりが感じられた完成報告会。その熱に当てられて、自分も帰宅後すぐに『OU』のプレイを再開してクリアしてしまうくらい、おまじないがかかってしまうような素敵なイベントとなっていました。もちろん、作品自体も素敵なものに仕上がっているのは間違いありません。8月31日の発売を楽しみに待ちましょう。

 とはいえ、どんな作品なのか、まだまだ伝わっていない部分もあると思います。あると思いますが、その物語はぜひ自分の目で見届けてください。買うかどうかまだ迷っている人は、後日お届けする予定の先行プレイレビューを参考にどうぞ。こちらも開発陣に負けないように、気合を入れて書きますよ!

  • ▲イベント終了後は、パネル撮影も出来ました。電撃オンラインのライター・カワチさんと、知り合いのゲームブロガー双葉ラー油さんが人文字でOUを再現……するはずが、OとUが逆になってる! 逆!!

©G-MODE Corporation

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