レビュー:『OU(オーユー)』は児童文学のようなピクチャレスク・アドベンチャー。あなたに“なにか”と“だれか”を問いかける【電撃インディー#483】

まさん
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 電撃オンラインが注目するインディーゲームを紹介する電撃インディー。今回は、ジー・モードが2023年8月31日にNintendo Switch/PC(Steam)で配信を予定しているピクチャレスク・アドベンチャー『OU』のレビューをお届けします。

 『OU』はゲームクリエイターの幸田御魚氏×room6×ジー・モードの完全新作プロジェクトとして作られたタイトルです。幸田氏が手書きで描く、児童文学のミヒャエル・エンデ作品の挿絵のような美しい背景と詩的で心揺さぶるテキスト。郷愁を誘う旋律の音楽が合わさり、プレイヤー自身が触れながら挿絵の世界を実際に歩いていく、ゲームの形をした児童文学のような作品になっています。

 なお、電撃オンラインでは、尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!

謎の世界・ウクロニアをさ迷う1人と1匹。その旅は、どこか懐かしくも寂しい

 みなさんは、子どものころに読んだ児童文学を覚えているでしょうか。自分は読書ばかりしている物静かな子どもだったので、児童文学や絵本が好きでした。

 本作『OU』の制作陣が影響を受けた作品として挙げているミヒャエル・エンデ作品も含めて、児童文学にはどこか郷愁を誘う挿絵の絵柄や、優しく語りかけるような文体が醸し出す独特の物寂しさ。それから、不安や恐れのような怖さ。同時に希望のある温かみ。さまざまなものを感じました。

 そして、ワクワクする気持ちとともに、本を読み終えると自分だけがその世界から追い出されてしまったような奇妙な読後感も覚えています。児童文学は大好きでしたが、そうした気持ちとともに何とも言いようがない物悲しさも感じていました。

 先行プレイで『OU』をクリアしたあと、自分が感じたのはそうした児童文学の読後感。温かくて寂しい気持ちと、忘れられないなにかが心に残る。そんな作品だったのです。

 おそらく、普通のレビューのような書き方では、本作の良さはお伝えできないのではないでしょうか。公式が「ゲームの形をした“何か”」と表現しているように、プレイヤーの選択では大きく変えることができない物事があり、だからと言って読み進めていくだけではない。プレイヤー自身が、この世界に浸ることで児童文学のような読後感になる作品です。

 どうしてもネタバレを避けるためにふわっとした表現をしてしまいました。もう少し、具体的なゲームの話をしましょう。本作は、ゲームのジャンルでくくると横スクロール型のアドベンチャー。プレイヤーは記憶喪失の少年・OUを操作して、不思議な世界・ウクロニアを冒険していきます。

 旅の水先案内人となるのは、オポッサムのサリー。詩的で謎めいたことを言いながらOUを導くサリーとともに、彼は“組み立ての杜(もり)”を目指して進むことに……。

 何もかもを食べてしまう“サウダージゴースト”、相手をしてはいけない存在だという“泣き女”、病室にいる女の子、OUによく似た姿のジェミニ。行く先々で出会う存在は、謎めいた者ばかり。なぜここにいるのか。自分は何者なのか。サリーは何を知っているのか。何1つわからないまま、進むしかないのです。

  • ▲奥にある水に飛び込むことで、次の場面に移れます。図書館のような場所や倉庫。街が見える丘。一見すると、どこも繋がりがないように見えますが……?

 プレイヤーができることは、先導するサリーのあとをついて歩き、水面に飛び込んで次の場面へ向かうこと。いじわるな謎解きはありません。もちろん、仕掛けを解くことで先に進める場所もあるのですが、簡単ななぞなぞ程度。画面にあるものを調べたり、少し前の場所に戻って自分ができることをすれば解けるようになっています。

 そうしたオブジェクトに対するインタラクトとして重要になるのが“ふせん”。ゲーム中ではOUが投げることで物を動かしたり、背景に貼り付けて解説のテキストを読めたりする“ふせん”が手に入ります。困ったら、このふせんを投げることで道が開けることも多いです。とにかく、詰まったら何かを調べるか、ふせんを投げることで解決できるでしょう。

 ふせんのなかには、投げることでヒントを光らせるものや物を燃やせるものなど、特殊な効果があるものも。とはいえ、基本的にはデザインが違っている普通のふせんが多いです。どちらかと言えば、ふせんは仕掛けを解くアイテムというよりも図鑑のような役割。背景にあるものを調べることでOUがふせんを貼り、独特な味があるテキストを読めます。これがまた、すごくいい!

  • ▲仕掛けを解くだけではなく、調べられる背景に貼り付けると専用のテキストが表示されます。どんどん貼って世界に入り込むことで、より深く『OU』への思い入れができるでしょう。

 何かを調べてそこに書かれたテキストを読み、プレイヤーが背景を想像したり、想いを馳せたりしながらまったり進んでいく。本作は、慌てて攻略していくようなゲームではなく、どちらかと言うと読み進めていくビジュアルノベルを動かせるようなもの。児童文学のページをめくるように、ゆっくり歩き、何かを調べ、その過程で先へ進むためのフラグを解いていく。そうした感覚で楽しめる作品です。

  • ▲金庫のダイヤルを合わせて謎を解く場面も。一見するとノーヒントですが、とある“ふせん”をぶつけてみるとヒントが……? プレイしたなかでは、ちょっと頭を使う謎解きはここともう1カ所くらいでした。

 公式で「ゲームの形をした“何か”」と表現しているように、本作のプレイ感は非常に独特です。プレイヤーの判断で何かを解決したり、困難に挑むといったお約束のイベントを乗り越えていくというよりも、どこかすべてが終わったあとのような雰囲気。

 プレイヤーの手から零れ落ちていくように、もう取り戻すことができないような感覚を抱きつつ、ウクロニアという世界を歩く。そうして『OU』というお話に触れていく。プレイヤーとOUが同一視されているようでされていないような、自分が主人公の気持ちになりながら児童文学を読んでいても、それはあくまでも自分ではないような……。なんとも奇妙な感覚です。

  • ▲最初は意味がわからなかった言葉も、進めていくとわかります。自分は最後まで遊んだとき、第一声が「なるほど。そういう視点は珍しいし、おもしろい!」でした。

 どこか懐かしいけれど、どこか寂しい。どこか物悲しいけれど、どこか温かい。椎葉大翼さんの美しいBGMと合わせて、優しい気持ちを抱けるゲームですし、ガツガツと読み進めていくのではなく、じっくりとゆっくりと遊んで欲しい。刺さる人には必ず刺さる作品ですし、結末に納得がいかないという人もいるかもしれない。そんな不思議なアドベンチャーです。ネタバレなしに言えるのはこれくらいなんですよ。

スタッフロールが流れても終わりじゃない。そこからが本当の『OU』

 これは完成報告会でも明かされた部分なので書いてしまいますが、本作は1周で終わるアドベンチャーではありません。当初の目的である組み立ての杜までたどり着いたとき、それまでの行動によって物語が分岐。OUの思い出を集めていくか。世界を壊していくか。2つのルートにわかれます。

 どちらのルートも正解ではなく、最後まで遊ぶとスタッフロールが流れてエンディングになるのですが、そこで終わりではありません。サリーの態度や言動などに変化が生じる新たな周回が始まり、物語中に示された条件を満たすことで、プレイヤーは本当の『OU』を理解する。そうしたゲームになっています。

 ストーリーの分岐は道中で取った行動によって変わります。たとえば物を壊すか、それともレコードをかけて癒してあげるか。プレイヤーが道を切り開くときに選択した行動でどちらかのルートに分かれ、さらに各ルートの最後の選択肢でも結末に変化が訪れる。そうした仕組みです。

 おそらく、遊んでいると前とは違う行動を取りたくなると思うので両方のルートを見ると思うのですが、両方見ることで『OU』の世界と訴えたいテーマがおぼろげに見えてくるはず。そこから本当の結末を見たとき、私がこのゲームを児童文学だと言っていた意味がわかるでしょう。わかるはず。児童文学ですよ、これは。

  • ▲世界を壊していくルートも、ある意味で切ない流れ。バクバクと出会ったものを食べていくことが本当に良いことなのか。自分の選択ながら考えてしまいます。

 ネタバレをせずに、本作が言いたかったテーマと描き方について語ることは非常に難しいのですが、個人的にはメッセージもスッと飲み込めて納得がいくものでした。

 おそらく、人によってはポカン……としてしまうかもしれません。どういうこと? どうして、こんな終わり方になったの? 何が言いたかったの? ほかのルートはないの? これが本当の結末なの?

  • ▲サリーが語ることは、OUを煙に巻こうとしているわけでもなければ、詩的な表現でごまかそうとしているわけでもありません。語る言葉1つ1つに、ウクロニアという世界や本作のテーマと直結した意味があります。

 そんなときはスタッフロールを見ながら、もう1度『OU』の物語を振り返ってみましょう。ゲームの構造が、このゲームを遊んだプレイヤー自身の境遇や感情も巧みに巻き込んでいることに気が付くはず。物語を語る視点としても新しく、優しい物語だったと思います。

 本作を最後まできちんと楽しむためにも、なるべく背景を調べて“ふせん”を貼っていくことをオススメします。テキストや背景に描かれたものをよく見ながら遊んだときと、ただひたすら先を目指したときでは感じられるものも違ってくるはず。

 はっきり言えば、どれだけ本作に入り込めるかでもエンディングの感じられ方が変わってくるので、人を選ぶ部分があるゲームです。「美しいイラストと音楽の雰囲気ゲームだ」と捉える人もいるでしょうし、「いやいや、これはすごく深いテーマを内包した素晴らしいアドベンチャーだ」と思う人もいるでしょう。

 刺さる人にはガッツリ刺さるタイプのゲームですし、刺さった人には忘れられない体験になる。自分は刺さる人が多いと信じていますが、欲を言えば児童文学のように新鮮な体験ができる子どものうちに遊んだほうが楽しめそうですし、むしろ大人になった人だからこそ感じられる部分もあるので大人のほうが楽しめそうにも思える。どちらにしても、物語を読むことが好きな人なら共感を持って楽しめると思います。

 OUとサリーの旅路を見守るように、ときには気になったものを積極的に見に行くように、ゆったりと秋の夜長に時間を取って本をめくるように遊んで欲しい1作です。ボリューム的にも、朝焼けとともに爽やかな気持ちで遊び終えられると思います。

 そして、心に残った想いに『OU』が伝えたかったものがあるはず。ぜひ、クリア後もテーマを咀嚼しながら考えてみてください。


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