ゲームの世界を現実に。スクエニLIWの『クリスタルストーリー』はどこを目指すのか?

紅葉つかさ
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 12月4日~6日に東京ビッグサイト青海展示棟で開催された第5回テーマパークEXPO。そこでスクウェア・エニックスは、新作の体験型アトラクション『クリスタルストーリー』や『YOKERO』を展示していました。

 テレビゲームやアーケードゲームなど、主にデジタルゲームを手掛けてきたスクウェア・エニックスが、なぜ体験型アトラクションへの挑戦を始めたのでしょうか?

 本記事では、これらの開発に携わる“LIVE INTERACTIVE WORKS(LIW)”事業部長の渡辺泰仁氏に伺った『クリスタルストーリー』や『ビブリオアドベンチャー』の今後の展望などのお話をお届けします。

スクエニ“LIW”って何をするところ?

――まずは“LIVE INTERACTIVE WORKS(LIW)”の設立の経緯と、目指しているコンセプトについて教えてください。

渡辺:私は、もともとはスマホ向け事業部で、『スクールガールストライカーズ』や『三国志乱舞』、『ファンタジーアース』を担当していました。

 そういった、従来のプラットフォームで展開されるゲームに携わる中で、そろそろはっちゃけたことをしてみたいなと。

 世の中にプロジェクションマッピングとかが増えてきて、いわばマジックの種となるような、面白い演出をするための要素が揃ってきました。なので、それらの技術を駆使して、ゲームが現実世界に飛び出すような、ちょっと不思議なコンテンツを作り始めたんです。

 最初の活動は2017年の夏で、長崎のハウステンボスで『バハムートディスコ』というアトラクションを納品しました。こちらはいまだに好評で、毎月の利用者数や満足度はつねに上位に入っています。

  • ▲“450度”のVR映像空間の中で遊ぶ体感型音楽アトラクション『バハムートディスコ』

 その次に2018年の正月に六本木で“PLAY!スペースインベーダー展”をやりました。このあたりまでは、あくまで“私個人がやってみたいこと”という形で挑戦していましたが、テレビなどのメディアでの紹介が増えてきたこともあり、社長にばれちゃいまして(笑)。

 社長に呼び出され、「せっかくのおもしろい試みなんだから事業化してみたら」という話を受けて、今年の春に“LIVE INTERACTIVE WORKS(LIW)”を立ち上げ、事業化をスタートしたんです。

――2017年から活動されていたようですが、事業化されたのは最近なのですね。

渡辺:はい。なので、アトラクションの企画自体はかなり前から温めてきたものが多いです。

 我々が目指しているコンセプトは、キャッチコピーにあるように“ゲームのような世界を現実に”と“最高の物語を提供する”です。

 こういったコンセプトは他の会社さんのコンテンツでもよく見かけますけど、実際にできているところはまだまだ少ない。展示や映像系のコンテンツで、かつゲームならではの面白さをちゃんと表現できているものって、少ないんですよね。

 これは、我々“スクウェア・エニックス”がずっとゲームを作ってきたからこそ、より強く感じる部分かもしれません。

 よく参加型コンテンツと言いますけど、僕らからすると参加感がまだまだ少ない。なので、ゲームくらい没入感があって、参加感があるようなコンテンツ作りを目指しています。

――ずっとゲームでやってきて、新しいこととして“ゲームを現実に”みたいなことですか。

渡辺:僕らのチームには、プランナーやエンジニアなどゲームのクリエイターが多く所属しています。そういった人が持っている肌感みたいなもので、現実世界でここまで表現できるよね、みたいなものを打ち出していきたいです。

ゲームの世界が現実に飛び出した『クリスタルストーリー』

――最初は、体感型ゲームだと思っていたのですけど、やってみたら体感型ゲームとは違うような気がしました。レビューでも書きましたが、とくに『クリスタルストーリー』は世界観の表現がすごくて、ストーリーにも引き込まれました。

渡辺:そこは我々“スクウェア・エニックス”の強みですね。

 世界観があってそこから物語が醸し出される。そして、それが結びつくことでゲームのような世界が作られると思っています。


  • ▲『クリスタルストーリー』は、幻想的な世界での物語が楽しめる。

 今回の展示はBtoBの展示会なので、わかりやすいようにいきなりクライマックスから始まっています。ですが、『クリスタルストーリー』はもともと1時間くらいの体験を想定しています。

 具体的には森の中を1キロくらい歩きながら、いろいろ探して発見したものに連動して、ストーリーが展開される感じですね。そして、体験を終えた後に世界の全体像やストーリーがわかるようになるのを目指しています。

――もともとゲームを作っている方がこのプロジェクトに参加されているわけですね。

渡辺:そうですね。弊社では、プロジェクトによって結構流動性があることもあって、社内での連携はしっかりと行っています。

――ゲーム開発者が携わっているからこそ、これまでの一方通行的なアトラクションと違って、ゲームの要素が強く入っているのかなと感じました。

渡辺:僕たちが物を作って、最終的に評価していただいて、お客様が納得するまでやるという執着心は強いです。やっぱり、「最高に面白くないとイヤだ!」と考えているので。

 弊社の社是が“最高の「物語」を提供することで、世界中の人々の幸福に貢献する”なので、そういう気持ちはつねにあります。

――展示されているものを体験してみて、ほかのアトラクションとは違った印象を受けました。

渡辺:いわゆる展示物や体感ゲームではないですし、新しいジャンルというものを開きつつあるのかなと思っています。

――特に、ランタンを使って謎を解く部分が楽しかったです。

渡辺:そういうデバイスを使って物語を進める部分は、ゲーム的ですよね。


  • ▲ランタンをかざしたり、石碑に置いたりすることで物語が進むことも。

 今回の『クリスタルストーリー』のランタンは“かざす”や“置く”といったシンプルな使い方でしたが、じつはああいったデバイスを使って、“通貨”や“経験値”といった情報を管理することも可能なんです。

 もちろん、いわゆる“フラグ管理”もできるので、ゲームに必要な情報を準備することができます。

 また、デバイスの形も本とか武器とか、世界観に合った形で感情移入をしやすいものにすることができます。そういう意味でも、“ゲームのような世界を現実に”という体験を楽しんでいただけたと思います。

――座って見るだけのものとは違って、参加感やライブ感があるように感じました。こういったアトラクションは年齢制限があることも多いですが、そのあたりはどのようにお考えですか。

渡辺:基本は全年齢対象です。その上でリアルなゲーム体験ができるものを作りたいです。

 ファンタジー世界などを再現する場合、VRで臨場感を出す手法もあると思うのですが、今回はあえて森やクリスタルなど、リアルなセットを用意しました。

 VR用のゴーグル越しでの体験とは違い、一緒に遊んでいる仲間の表情やリアクションをCGアバターではない生の形で見ることができるのは、VRとはまったく異なる体験になるはずですから。

――アトラクションを体験中、自分のスマホで撮影をしてもOKという点もビックリしました。VRでのスクリーンショットと違って、自分や知り合いと一緒に撮影できるのはとても楽しかったです。つい、妖精と一緒に記念写真を撮りまくっちゃいました(笑)。

渡辺:裏テーマとして、インスタ映えも意識しています(笑)。特に海外のお客様は記念写真を撮影して周りに自慢するのが好きな傾向があるので、我々のアトラクションでファンタジー世界に入り込んで写真や動画撮影を楽しんでいただけるとうれしいですね。

アクションゲームの新たなステージとなる『YOKERO』

――『YOKERO』は小さい子どもが遊んでいるのを見ました。

渡辺:僕も見ましたが、楽しそうに遊んでくれているようでしたね。ルールがすごくわかりやいので、誰でも楽しめるのかなと思います。

――『クリスタルストーリー』とはまた違った方向性のものだと感じましたが、どのような狙いで作られたのでしょうか?

渡辺:どちらかと言えば、従来のゲームの延長線に近い発想で、実際に体を動かすアクションゲームとして考えました。

 ルール的にはシンプルで、白い光を踏んだらアウトで、ライフが減っていきます。なので、白い光を避ければいいんですけど、前から後ろからいろいろな場所から白い光が来るので、なかなか大変です。

 いざという時はジャンプで避けることもできますが、ゲーム設計としては光の動きを先読みして“安全地帯を探して移動する”タイプとなっています。


  • ▲『YOKERO』のルールは流れてくる障害物(光)を避けるだけと、とてもシンプル。だが、難易度が高くなると光がホーミングしてくるなど、いやらしい仕掛けも。

――人がやっているのを見ると「自分のほうがうまく避けられそう!」と思うのですが、実際にやってみると意外と難しかったです(苦笑)。

渡辺:そこも狙いです(笑)。同じようなゲームをVRなどで作ると、周りの人は何が面白いのかわかりにくくなることが多いじゃないですか。

 でも、『YOKERO』の場合は生身のプレイヤーが動いていて、しかも何を避けながら遊んでいるのかがすぐにわかります。ギャラリーも巻き込む形で盛り上がれるので、「自分もやってみたい!」と思わせやすいんですよね。

――会場ではフリースタイルフットボーラーによる超絶プレイも披露されましたが……すごかったです。

渡辺:普通に避けるだけでもすごいのに、サッカーボールを操りながら避けていましたからね。ああいう風にギャラリー受けをしやすいスーパープレイを見せやすいのも『YOKERO』の面白いところです。


  • ▲サッカーボールを手足のように操り、光を避けていくフリースタイルフットボーラー。会場からは驚きの声と大きな拍手が!

 また、意外と気付かれにくいのですが、こういったアトラクションをプレイする際には特殊な器具をプレイヤーが設置するケースが多いと思いますが、『YOKERO』はなんの準備もなしに気軽にプレイできます。

 なので、例えばこれを見たお子さんが「遊びたい!」と言った時に、そのまま親子で気軽にチャレンジすることもできるわけです。この気軽さも『YOKERO』の大きな特徴と言えますね。

  • ▲荷物を置くだけですぐにプレイ可能。1人でストイックに遊ぶのもよいが、複数人でわいわい楽しむのも◎!

ぜひ注目してほしい3つのアトラクション

――今回展示されているものも含め、多くのアトラクションが用意されています、とくに注目してほしいものを教えていただけますか。

渡辺:『クリスタルストーリー』、『YOKERO』、『ビブリオアドベンチャー』の3つです。

 『クリスタルストーリー』は、RPGの世界を現実に持ってきたストーリー体験型のアトラクションです。その中で造作物やプロジェクションを使って、新しい映像表現に挑戦していきます。

 実は『クリスタルストーリー』と『ビブリオアドベンチャー』は兄弟みたいなものです。『クリスタルストーリー』はランタン、『ビブリオアドベンチャー』はブックレットをかざすことで会話やイベントが始まります。

  • ▲『ビブリオアドベンチャー』は、五感を使って遊べるエリア回遊型アトラクション。テーマはファンタジーやミステリーなどがある。

――そうだったんですね。

渡辺:社内で『ビブリオアドベンチャー』のテスト版をプレイしたときは、何の飾り気もなく、テレビとカードリーダーを置くだけの簡素なものでした。

 会社のオフィスの各階にリーダーを設置し、宝探しをしたり、お金を集めたり、謎を解いたり、エリア回遊ができるようにしたのですが、実際にプレイしてみたら、想像以上にゲームの世界が現実に再現されていることに驚きました。

 これまでの謎解きゲームは謎解き中心で、謎を解いてる時間が全体のかなりの割合を占めていて、物語体験をあまりできていなものが多いと感じています。

 比べて『ビブリオアドベンチャー』では、いま世の中にある宝探しや謎解きゲームとは異質で、違う体験を提供できるはずです。特にストーリーによる世界観への没入感がすごいです。自分の力で物語を進めていく新しい体験ができるようになっています。

――『YOKERO』はどうですか?

渡辺:『クリスタルストーリー』と『ビブリオアドベンチャー』はRPG。『YOKERO』は『ブロックくずし』や『スペースインベーダー』のように直感的にプレイできて、なおかつ繰り返しやりたくなるものを目指しています。

 将来的には、『クリスタルストーリー』などと組み合わせて、MMORPGみたいなものにしたいです。具体的には『YOKERO』をやるとコインがもらえて、それを使って買い物ができるというような感じですね。

 ボス戦では『YOKERO』のようなゲームとなり、ドラゴンの炎を避けながら戦う、なんて合わせ技も楽しくなりそうだと考えています。

――1つ1つのコンテンツも面白そうですけど、合わさるとより楽しそうだなと思います。話は変わりますが、今回展示されていなかったもので次世代ナイトプールの『プリズムピンクプール』が気になりました。

渡辺:ミストスクリーンやプールへのプロジェクションを使ったユニークな体験ができますよ。

 そして、ハーフミラーに流れる映像といっしょに写真も撮影できます。自分なりの楽しみ方を見つけて遊べるものになっているかと。

――なるほど。その他にもアトラクションがたくさんありますが、渡辺さんがユニークだと思うものを教えてもらえますか。

渡辺:『なりきり!かいじゅうごっこ!』ですね。内容はスクリーンに自分と建物が映し出されて、腕をふると建物が壊れると、とてもシンプルなんですが、意外と楽しいんですよ(笑)。

――小さな子どもとか喜びそうですね。

渡辺:親子で遊ぶのにピッタリです。

 本流は『クリスタルストーリー』と『YOKERO』の2つですが、『なりきり!かいじゅうごっこ!』ならではの楽しさなんかも、最終的にはうまく統合させられればいいですね。

東京タワーで忍者になれるアトラクション店舗が登場!

――2020年3月には東京タワーで“NINJA TOWER TOKYO”がオープン予定(※)です。こちらについての進捗はいかがでしょうか?

※2020年2月26日の発表で、オープン日が延期となりました。

渡辺:年が明けたらすぐに施工です(笑)。急ピッチで準備を進めていますね。

――かなり大規模なものですよね。

渡辺:そうですね、東京タワーのお客様は外国の方が多いので、そこで忍者とデジタルアトラクションの組み合わせはかなり意欲的かなと。

 “NINJA TOWER TOKYO”の大きな世界観としては、忍者は黒装束で地味なイメージがあったので、派手にしようとしました。花魁の太夫が忍者の頭領で、遊郭が本拠地になっていてその中でいろいろな体験ができます。

――すごい世界観ですね!

渡辺:なので、設置される150坪すべてが花魁街になる想定です。そこでいろいろなアトラクションをしながら、忍道を極めてもらうという施設を考えています。

――具体的にはどういったアトラクションがあるのですか?

渡辺:たとえば手裏剣を投げたり、刀をふって切ったり、忍者アクション要素があります。それにデジタル技術を用いたインタラクション性が加わり、遊びとして楽しむことができます。

 同時に、外国の方が日本の伝統を現代的に感じられるアトラクションも検討しています。桜吹雪なんかを、おもしろい形で見せて、記念撮影を楽しめるような形を考えています。

――施設内で個々のアトラクションを楽しむ流れになるのでしょうか。忍者のいた世界観を再現しつつ、体を動かすアトラクションを楽しめるような。

渡辺:そうですね。そういう意味では我々が手掛けているアトラクションの中では鑑賞要素を多く含むものになると思います。

“LIW”のアトラクションはどこで遊べる?

――“NINJA TOWER TOKYO”は設置場所が決まっていますが、『クリスタルストーリー』や『YOKERO』といったアトラクションは、今後どういった場所に設置されるのでしょうか?

渡辺:『YOKERO』は各所で話が進んでおり、すでにいくつかのテーマパークで設置予定です。

 『クリスタルストーリー』も導入に向けて動いているので、どちらも2020年中には一般公開され、皆様に遊んでいただけるのではないかと。

――それは非常に楽しみです。こういったアトラクションは常設ではなく、短期のレンタル利用の需要もあるかと思います。例えば、学園祭などでの短期的な設置も可能なのでしょうか。

渡辺:そういうニーズもありますし、技術や条件が合えば可能です。

 ただ、現状の僕らとしては、高いクオリティを維持するためにも、購入して常設してもらいたいので、現時点は常設&フルセットでの設置で考えています。

――早く体験できる施設が増えていってほしいです。『ビブリオアドベンチャー』もブックレットをかざせば物語見られるということで、既存の商業施設などにも導入しやすそうですが。

渡辺:『ビブリオアドベンチャー』はスタンプラリー的な要素もあるので、ショッピングモールのちょっとしたスペースにディスプレイを設置して遊ぶことは可能だと思っています。

 買い物をするついでに、ちょっとした冒険を……なんて形も見せていきたいですね。

――最後に、本プロジェクトの今後の展開と抱負をお願いします。

渡辺:現時点ではまだまだ夢というレベルですが、すべての遊びが統合されたMMORPGのような世界を巨大な施設でやることを目標にしています。

 たとえば、数時間の滞在とかじゃなくて、2泊3日とか、1週間とか、そういう規模での本当の“ファンタジー生活や冒険”が楽しめるイメージですね(笑)。

 そこまでの規模はもう少し先の未来になりますが、まずは『クリスタルストーリー』でゲーム世界が現実になったような新しい体験を提供できればと思いますので、ぜひご期待ください。

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