アクションRPGならではのビジュアル誕生秘話――『ペルソナ5S』特別インタビュー《アートユニット編》
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『ペルソナ』シリーズ初のアクションRPGとして、2020年2月20日にPS4/Nintendo Switchで発売された『ペルソナ5 スクランブル ザ ファントム ストライカーズ』。アトラス×コーエーテクモゲームスのコラボによるシナジー効果で高い評価を受けている本作ですが、とくに注目を集めているのが、“続編”といっても過言ではないほど『ペルソナ』シリーズの雰囲気を再現し、違和感のないアクションシーンでの“動き”も実現している、ビジュアル面でのクオリティの高さです。
アトラス×コーエーテクモゲームスの開発スタッフへの特別インタビューをお届けする連載の第3回目は、本作のビジュアル全般に深くかかわった《アートユニット》を率いる4人を直撃! コラボならではの工夫やこだわり、そして共同作業だからこそ実現できた『ペルソナ5 スクランブル』独自の見どころについて語っていただきます。
※本記事は電撃PlayStation Vol.685にて掲載したインタビューに、大幅に加筆・追記を行ったものです。
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インタビュー参加者プロフィール
アトラス『ペルソナ5 スクランブル』ディレクター
薄田無門氏(写真左から2人目)
アトラス・ペルソナチームのディレクター/チーフデザイナー。本作のディレクションに加えて、制作物全般の監修を手がけた。
アトラス『ペルソナ5 スクランブル』キャラクターデザイナー
副島成記氏(写真左から4人目)
『ペルソナ』シリーズをはじめとするアトラス作品を手がける名デザイナー。本作では新キャラ・ソフィアと善吉のデザインを担当。
アトラス『ペルソナ5 スクランブル』アートワークチーム
織部花子氏(写真左から3人目)
ペルソナチームのデザイナー。本作ではパッケージビジュアルなどの広報用イラストや、主要キャラクターの立ち絵などを描いた。
コーエーテクモゲームス『ペルソナ5 スクランブル』CGディレクター
鈴木利治氏(写真左から1人目)
コーエーテクモゲームスで2D&3Dビジュアルの統括を担当。アトラスとの窓口役も務めている。
新キャラクターのソフィアと善吉はこうして生まれた!?
──まず、みなさんが『ペルソナ5 スクランブル』で手がけたお仕事について教えてください。
薄田無門氏(以下、敬称略):自分はアトラス側のディレクターとして、制作物の監修全般を担当しました。コーエーテクモゲームスさんから上がってきたものを監修する、窓口的な役割もやっています。それと、アニメパートの制作を担当していただいたアニメスタジオのドメリカさんとのやりとりも受け持ちました。
副島成記氏(以下、敬称略):ソフィアや善吉などのキャラクターデザインを担当しました。
織部花子氏(以下、敬称略):私はゲームの開発自体にはそれほど携わっていませんが、パッケージや広告のイラスト、キャラクターの立ち絵などを担当しました。
鈴木利治氏(以下、敬称略):コーエーテクモゲームス側の窓口として、薄田さんとやりとりをさせていただき、アトラスさんのチェックを受けたものを社内に伝える役割を担当していました。それと開発の、2D、3Dを含めたビジュアル面の統括もやっています。
──広報用のイラストというと、パッケージビジュアル(メインビジュアル)の絵が印象深いですが、これは『ペルソナ5』からどうコンセプトを変えて制作されたのでしょうか?
織部:まず、『ペルソナ5』と『ペルソナ5 スクランブル』の違いに着目しました。両者の違いといえば“『ペルソナ5 スクランブル』はアクションである”ことがとても大きいですよね。それで「アクションとはなんだろう?」ということを突きつめていくと、やはり戦いに先鋭化したジャンルなので、イラストでも「戦っていなければダメだろう」という話を、副島ともよくさせていただきました。
そのうえで「戦いって何だ?」と考えていくと、殴り合いとか傷を負うこととか、感情がむき出しになるとか、いろいろありますよね。こういったイメージをイラストに落とし込んでいき、いったんはまとまったのですが、まだ何か足りない感じがして。熟考した結果、キャラクターの感情が前面に出ていることを強調するために、主人公の顔を“あくどく”して、仮面も少し壊れているふうに描いてみました。
副島:これは『ペルソナ5』でもあった、バトル中のいわゆる“ブチギレ顔”のカットインのイメージに近いですね。
薄田:ちなみにこのパッケージビジュアル、最初に公開された際には善吉を抜いたVerで公開をしていました。後日、善吉の怪盗服姿が公開されてから善吉入りVerへ差し替えたんです。
織部:一度描き終えたあとで「善吉がいないバージョンも作ってくれ」といわれたときは、びっくりしました(笑)。
──織部さんはメインキャラクターの立ち絵も描かれたとのことですが、そちらの『ペルソナ5』との差別化はどのように図られたのでしょうか?
織部:『ペルソナ5』、そして2019年10月に『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』が発売された後だったこともあり、そのまま描いたらキャラクターのポーズをちょっと変えた程度のイラストになりそうだったんです。それで、同時にペルソナの描き下ろしも依頼されていたこともあって、キャラクターがペルソナを召喚しているカットをバチっと描けたら見栄えがするんじゃないかと思い、今のイラストの形になりました。
織部:ちなみにソフィアは、彼女自身が可愛らしくポップなキャラクターなので、1人で立たせても問題ないだろうと思いました。
──ソフィアのキャラクターデザインは、どういった形で描いていったのでしょうか?
副島:キャラクターの基本設定はコーエーテクモゲームスさんからいただいて、それをもとに描いたのですが、最初はちょっと困ってしまって。というのは、AIの少女というと真っ先に思いつくのが、電子的でテクノっぽい衣装を着たキャラクターなんですが、どうにもありがちなデザインにしかならなくて。それで、どういうデザインが正解なのか悩んでいたとき、プロデューサーの金田が「AI少女といっても電子的な存在というより“OK Google”みたいな、話しかけたら反応する、今ふうのAIのような話し方にしたい」と言っていて。
これを聞いて、もっと人間に寄り添った、“優しい手触り”のデザインにしたいと思ったんです。そんなときに、以前車のコンセプトモデルで車体をシリコンで覆った“人に優しい”車っていうのがあったことを思い出したんですよ。この“人に優しい”イメージが、いわゆる電子的な、ともすれば人との距離が感じられてしまうものより“人に寄り添っている”感じがして、デザインに反映しました。だからソフィアの白い衣装は、ぐにゃぐにゃ曲がるシリコンのイメージなんです。
鈴木:副島さんが描かれたソフィアの設定画のなかで、ソフィアが衣装をぐにょんと伸ばして体育座りしているものがあったのですが、これが本当に可愛くて。開発スタッフもノリノリでモデリングしてくれました。この姿はゲーム中のあるムービーで見られますから、ユーザーのみなさんにはぜひチェックしてほしいです。
──もう1人の新キャラクター・長谷川善吉のキャラクターデザインについてもお願いします。
副島:ソフィアとは別の意味で丁寧に扱ったキャラクターでしたね。彼は警察組織の人間で、主人公たちに対しても一定の距離を置いて接する人物なわけですが、組織の人間でありながらも、途中からは主人公たちと共に行動し、仲間になってくれます。ですからガチガチのエージェントというわけではないと思うのですが、エージェントっぽさもやはりあるわけで。どれくらい優しいのか、どれくらいプロフェッショナルなのかとか、さじ加減が難しく、薄田とソフィア以上にやり取りを繰り返しました。
結果として、スーツは着ているんだけど髪を伸ばし、ヒゲも生やした今のデザインに落ち着きました。普通のエージェントなら、荒事に対応するために髪を伸ばしたりはしないと思うのですが、そこはアウトローということで。普通なら黒い皮靴なのを白い靴にしたのも、そういった雰囲気を演出するためです。
薄田:初期のデザイン案では“The・公安”といった感じの、丸坊主に近い髪型の黒服でしたね(笑)。ほかにもデザイン案はいくつかあったのですが、どれも“男も惚れる”というか、アウトロー的な“匂い”がしなくて。どうやればそういう“匂い”が出せるかを副島と話し合って、現在のデザインが出てきたときは「こう来たか!」と衝撃を受けました。
副島:物語上での描かれ方も考慮すると、デザインも丁寧に考えないといけないので、時間をかけました。優しくもあり、厳しくもあり、主人公に対しては大人として接することもありと、いろいろな面を表現する必要もありますし。
薄田:デザインをする際のオーダーでも、「最初に会ったとき、敵か味方がわからないようなデザインにしてほしい」というものがありました。ですから、協力者というだけではなく、敵対しそうな印象もユーザーに持たせるようなデザインにするため、目つきや表情にもいろいろと加味していただきました。
──善吉のウルフとしての怪盗服についてはいかがでしょうか?
織部:あれはガンマンですね(笑)。
副島:そうそう、西部劇に出てくるようなガンマンがコンセプトです。一匹狼的な感じにしたくて。怪盗団の衣装って、どれもアウトローをイメージして作るんですよ。ジョーカーだったら『オペラ座の怪人』の怪人、双葉なら映画の『ミッション・インポッシブル』に出てくるようなSFスパイとか。竜司だったら、典型的なバイク乗りっぽいアウトローのイメージですよね。
善吉は警察という組織から1人離れて戦うことを決意するわけですが、「それならどんなアウトローがいいかな?」と考えたとき、彼は警察なので銃を使うわけです。それで「銃を使うアウトローならガンマンかな」と。俳優のクリント・イーストウッドのような、徒党を組まない孤高のイメージで、1人で銀行強盗や列車強盗に挑むようなガンマンがモチーフですね。
──善吉のペルソナであるバルジャンのデザインも副島さんが?
副島:そうですね。モチーフはフランスの大河小説『レ・ミゼラブル』の主人公、ジャン・バルジャンです。貧しさゆえにパンを盗み、その罪で長い間投獄され、社会に憎悪を抱きますが、ミリエルという司教との出会いを経て改心するという人物です。
フランスの小説ということで、最初はフランス国旗と同じ、赤・青・白のトリコロールカラーに塗ってました(笑)。まあそんなにフランス押しにしてもしょうがないので、衣装など時代感だけを残したデザインに落ち着きましたが。イメージ的には、心に罪の意識を抱きながら、正義のために戦うみたいな感じですね。
薄田:バルジャンのデザインについては、とくにやりとりをした記憶はないですね。気づいたらこのデザインが生まれていました(笑)。
副島:ちなみにバルジャンに限らず、ペルソナのデザイン発注はその名前だけ聞かされるんです。「バルジャンでお願いします」みたいに(笑)。『ペルソナ』シリーズのペルソナは、主人公のアルセーヌなど、基本的に物語の人物をモチーフにしているので、デザインする際はまず出典の人物について調べます。
それと同時に、ペルソナ使用者のパーソナリティも考慮しますね。「このキャラクターのパーソナリティのこういった部分を、ペルソナのモチーフとなった人物から拾ってほしい」という考えのもと、スタッフ間で使用者とペルソナの組み合わせが決められているわけですから。使用者と出典の人物のパーソナリティが合致した“押していきたい部分”を絵にするのがデザインのコンセプトですね。
──キャラクターのパーソナリティを、ペルソナのデザインで表現するようなケースもあるのでしょうか?
副島:キャラクターによってはありますね。『ペルソナ5』でいうなら真がその最たる例でしょうか。真自体は生徒会長を務めるマジメなエリートですが、本質的には暴れまわるキャラクターで、バイク化したヨハンナを乗り回してみたり……。キャラクターの表と裏の両面を描くために、そうしたデザインにしています。
“ギャップ”を重視した“王”と“ジェイル”のデザイン
──新キャラクターでは各地の“ジェイルの王(キング)”がいますが、こちらのデザインはどなたが?
鈴木:王たちはコーエーテクモゲームスでデザインしています。デザインするにあたっては、『ペルソナ5』の世界観になじむキャラクターにするのが大前提で、「どうしたら『ペルソナ5』らしくなるのか?」という部分は描きながら模索していきました。アトラスさんにチェックしていただくときに印象深かったのは“あるある感”というキーワードでしたね。
薄田:『ペルソナ』は現代劇なので、実際に現実にいそうな親近感のあるキャラクターの方が、ストーリーへの没入感も増すと思いました。なので“あるある感”を意識してほしいと、何度かご提案させていただきました。
副島:自分たちも「こんな人、現実にいないよね」というキャラクターをさくっと出してしまうこともあるので、あまり偉そうなことは言えないんですけどね(笑)。“あるある感”という言葉自体も、定義が広くてあいまいな表現ですが、アトラス社内だけだと「わかるでしょ?」みたいな感じで通じてしまうんです。
こういった、普段自分たちが無意識にやっていることを、社外ではあまりやっていないと知ることができただけでも、今回のコラボは有意義だったと思います。コーエーテクモゲームスさんの作り方や、そのやり方で作られるよいものも知ることとができましたし。王たちのデザインも、『ペルソナ』ファンはもちろん、それ以外の方にも満足していただけるものに仕上げていただき、感謝しています。
鈴木:王のデザインのチェックでは、通常時とシャドウ時の差にこだわられているのが印象的でした。たとえば“渋谷ジェイル”のアリスは、通常時もシャドウ時も派手な格好をしているのですが、一方はポップさ、もう一方はセクシーさを強調してギャップを出すとか。ほかのキャラクターでも「通常時をもっと普通の姿にして、シャドウ時とのギャップを大きくしつつ、現実によくいるような雰囲気を出しましょう」といった指摘を受けて、「なるほど」と何度も納得しました。“札幌ジェイル”で鞠子のシャドウ姿が、あのようになっているのも、ギャップを強調するためですね。
薄田:シャドウ時の姿は、キリスト教でいうところの“七つの大罪”もモチーフにしています。例えば鞠子は自分が成すべきことを実現するために、他人を食らってでも前に進むというキャラクターなので、“暴食”のイメージから巨大な姿になりました。
──お話に出た異世界(ジェイル)についてはいかがでしたか?
鈴木:ジェイルについては、王のストーリーやビジュアルの設定ができてから、それぞれの歪みを反映したイメージボードを作ることから始めて、徐々に完成に近付けていきました。
薄田:やっぱりジェイルごとの特徴というか“色”が違っていたほうが変化が付いておもしろいし、“七つの大罪”というモチーフもあるので、そちらも反映していただきました。たとえば“渋谷ジェイル”なら、アリスの個性を生かしたポップさと、“色欲”のエッセンスをミックスしたような風景や色遣いに。“仙台ジェイル”なら王である夏芽が書いた小説『プリンス・オブ・ナイトメア』の世界を表現しています。そのなかで、夏芽の“虚飾”の現れとして“●●賞受賞”みたいに書かれた垂れ幕を建物にかけたりして。
鈴木:“仙台ジェイル”の外観は西洋風のお城が立ち並んでいますが、よく見ると普通のビルの外側に、お城の絵が描いてある張りぼてが立てかけられているだけのデザインになっていて、夏芽の“虚飾”を強調しています。
薄田:ビルなどの高台から見るとわかりやすいですよね、それ。この様な感じに都市ごとの色や、王の持っている特徴など、さまざまな要素を融合してデザインしています。
鈴木:色については“仙台ジェイル”までは結構暗めなんですが、“札幌ジェイル”は雪が舞う白銀の世界という、明るめの色にしてみたり。プレイを進めるごとに絵が変わるというのは意識して作りました。
薄田:そういえば聞いてなかったんですが、ジェイルごとのギミックは先に考えていたんですか? それとも同時進行?
鈴木:どっちもですね。“札幌ジェイル”のスノーボードなどは最初から入れようと企んでいたんですが、氷塊を押して足場にするギミックは、ステージができてから「こういう遊びも入れたい」ということで追加したものです。そのときにはステージ班と開発チームがああでもない、こうでもないと議論しながら作っていってました。
やっぱり実際に作ってみないとわからない部分もあるので、最初から企画していましたが、作ってみたら地味だったからやめたものもあります。このあたりは、現場のスタッフがどこまでおもしろくできるかにチャレンジした結果だと思いますね。
──『ペルソナ5』の続編である本作のグラフィックを作るうえで、とくに気をつけた部分はどこでしょうか?
鈴木:コーエーテクモゲームスのゲームらしいアレンジをふんだんに加えるのは違うのかな、ということは初期段階から感じていました。ストーリー的に『ペルソナ5』の続きということもあって、グラフィックの印象を『ペルソナ5』と一致させることについては、一貫して気を配りました。
薄田:ベースのビジュアル作りについては、より『ペルソナ5』に近い絵作りにしていただけるようにお願いしました。開発当初、プロデューサーの金田が「『ペルソナ5』を普通にプレイしていると、突然スクランブル交差点でバトルが始まり怪盗団が暴れまわる位の驚きをユーザーのみなさんに与えたい」と言っていたのが強く印象に残っていましたので、それ位違和感無い印象になる様に細かい部分までチェックを入れさせていただきました。
たとえば“空気感”についてですね。『ペルソナ5』ではチリやホコリなどの表現を強調したり、光の表現にもこだわって作っていましたが、最初はそれを『ペルソナ5 スクランブル』で表現するのは難しいと鈴木さんから言われまして。それでも「なんとかなりませんか」と技術的な話を含めてお話をして、『ペルソナ5』らしさを突きつめていきました。
鈴木:ルブランや四軒茶屋、渋谷などはアトラスさんから素材をいただき、自社のゲームエンジンで組み直しましたが、そのときにこの“空気感”についてのご相談を受けました。街の群衆の表現などもなかなかうまくいかなくて、何度もアドバイスをもらって、今の形に落ち着きました。
やっぱりユーザーさんに「懐かしの四軒茶屋がちょっと違う感じになってる」と思われるのは嫌だったので、そこは重点的に試行錯誤を重ねました。今は発売後の反響も入って来て、「ちゃんと『ペルソナ5』している」という意見をいただけて、ホッとしているところです。
薄田:これら四軒茶屋などをベースに、新規の街として仙台や札幌を作っていただいたわけですが、『ペルソナ5』のテイストを損なわず、しかも現実の街がしっかりと再現されていますよね。我々が実際に行ったことのない場所もあるのですが、ユーザーのみなさんから「ここはまさに○○の街だ」と言っていただけるクオリティで、コーエーテクモゲームスさんには感謝しかないですね。
試行錯誤を繰り返したUIとキャラクターのモデリング
──バトルなどのアクション部分についてはいかがでしょうか?
薄田:バトルパートは、コーエーテクモゲームスさんの真価を発揮していただいた部分です。爽快なアクションや演出、フィールドのデザインなど、どれもアトラスだけでは到底作れなかったものだと思います。
鈴木:怪盗団のアクションはアニメ的な、スタイリッシュでキレのある動きになるように気をつけました。“意のままに怪盗団を操れる”というのが本作のウリの1つなので、走ったり、左右へ移動したりする際の“モーションの遷移の滑らかさ”にもこだわっています。もともと『ペルソナ5』のキャラクターモーションがそういうふうに作られていたこともあり、こういった部分はしっかり守っていこうと。
細かい部分でいいますと、ジョーカーのコートのすその動きは、これまでのタイトルなら布揺れを自動で作成するプログラムを使っていたと思いますが、本作では“手付けのアニメーション”で作っています。非常に手間がかかるのですが、そのぶんキレイな動きになっていて、やった甲斐はあったと思いますね。
──敵であるシャドウも多彩な攻撃アニメーションが用意されていますが、こちらについても教えてください。
鈴木:シャドウのアクションは、個性的な怪盗団の動きとは対照的に、無個性なものに仕上げました。これはデザインの段階で副島さんからアドバイスいただいたことなんですが、本作のテーマとして「答えは誰かから与えられるものではない」というものがありまして。そんな主人公たちに対する存在としてのシャドウは、上からの命令を実行するだけの、操り人形そのものです。ですから、その動きはデッサン人形のような無機質な印象になるよう意識しました。
──本作のUI(ユーザーインターフェイス)は『ペルソナ5』と同じく、キャラクターが動くスタイリッシュなものになっています。この開発にはかなり苦労されたとお聞きしましたが……。
鈴木:正直、すごく辛かったです(笑)。『ペルソナ5』のものに似すぎてもいけないし、その上で『ペルソナ』らしく仕上げるのが難しい。そんな状況下でなんとか形にしたものを「これでどうだ!」とばかりにアトラスさんにお見せするのですが、「すみませんが作り直してください」と言われるわけです(笑)。
薄田:かなりの期間、やりとりを繰り返させていただきましたね。ホントすみません(汗)。『ペルソナ5』のUIでは、キャラクターが動いた後にビタっと動きを止めて“ポーズで魅せる”という作り方をしていたのですが、同じことをしても新鮮味がないと思いまして。『ペルソナ5 スクランブル』はアクションRPGということもあり、UIもアクション性のあるものにしたいという話は初期からさせていただきました。
紆余曲折があって、一時は2D表現にする案なども並行して進めていました。でも、最終的にはコーエーテクモゲームスさんから提案された“シーンで魅せる”という手法を突き詰めることになりました。方向性が固まってからも、開発にはかなりの時間がかかりましたが、なんとか今の形まで到達できました。
鈴木:『ペルソナ5』では主人公のみを操作しましたが、『ペルソナ5 スクランブル』ではほかの怪盗団メンバーも操作できるので、UIでも怪盗団全員を出すことになったんですよね。キャラクターが増えたぶん、大変な思いはしましたが、本作ならではの仲間との連帯感があるメニューUIに仕上がったのではないかと思います。
薄田:自分を含めたアトラスのスタッフがコーエーテクモゲームスさんにお邪魔して、UI担当の方に直接お話をさせていただいたことも何度かありましたね。苦労していただくことになってしまい申し訳ありませんでしたが、最終的にすごくいいものに仕上げていただき、本当に感謝しています。
──実際にゲームをプレイして、UIで怪盗団メンバーが動いている姿を見ると、みんなで旅をしている感じがじわじわと染み込んでくる気がしてすごくいいですね。
薄田:UIのなかでは“ジョーカー's キッチン”や“ソフィアショップ”が印象深いですね。この2つは『ペルソナ5』になかったもので、『ペルソナ5』らしくしなければいけないという縛りもなかったせいか、担当されたスタッフさんの「こういうふうにしたい!」という想いがギュッと詰まっていると感じました。これについては、ほとんど修正は発生しませんでしたね。
鈴木:私のほうでもノータッチでした。スタッフがやりたくてやったことが、そのままゲームに反映されています。
──怪盗団メンバーは、もともとRPGを想定したキャラクターとして作られていると思うのですが、それをアクションゲームにするにあたって、何か苦労されたことはありますか?
副島:RPGの段階でなるべくイレギュラーが起きないようデザインにも気を使って作っていますが、アクション化するにあたって、やっぱり大変そうでした。
鈴木:怪盗服については、デザインが本当に秀逸というか破綻が少なくて、アクションにする際の苦労はほぼなかったですね。あえて挙げるなら、さっき言ったジョーカーのコートくらいでしょうか。利用させていただいたキャラクターのモーションにも、モデルになるキレイなアニメーションがついていたので、その延長として作っていった感じです。
難しかったのは夏服くらいでしょうか? こちらは私どものほうでデザインさせていただいたのですが、双葉にコートとか、大きめのものを着させてしまったものですから、いろんなところにめり込んでしまって(笑)。イベントごとにめり込んでいないかチェックしたりして、対応が大変でした。
──めり込みといえば、ウルフの襟元は大丈夫だったのでしょうか?
薄田:あれは、ちょっと横を向いただけでめり込んでしまうほどでした。「なんであんなデザインにしたんですか?」って話し合いになったくらい(笑)。
副島:襟元が広がり過ぎて、バストアップで顔を書こうとしても隠れてましたね。デザインしたときはいい感じに仕上がったと思えたのですが、あとで方々に迷惑をかけてしまったようで、反省しきりです(汗)。
織部:私は副島のキャラクターのバストアップをよく描かせてもらっていて、比較的描き慣れていたので、コーエーテクモゲームスさんのほうで苦労されていると聞き、こちらでバストアップを仕上げさせていただきました。少し横を向いたデザインにして対応したのですが、難易度はかなり高かったですね。
鈴木:ウルフのバストアップを含め、キャラクターのブラッシュアップや仕上げはアトラスさんのほうでかなりの量を引き受けてもらえて、本当に助かりました。
薄田:開発全般はコーエーテクモゲームスさんにお任せしたのですが、2Dのキャラクターイラストや背景の一枚絵などは、既存の『P5』の絵により近いものにしたほうがいいと思い、仕上げや調整をこちらで担当させていただきました。協力し合えるところはなるべくこちらでもやる、という考えのもと、いろいろ対応していましたね。
共同制作のおかげで誕生した唯一無二の『ペルソナ』
──『ペルソナ』らしさを出すポイントというか、コツみたいなものはあるのでしょうか?
織部:うち(アトラス)の“もの作り”はいろいろこだわりますが、尖っている部分も多いんですよね。「いつか誰かに怒られるんじゃないか」というレベルで(笑)。そういったものにビクビクしながら作っています。
副島:絵でいえば「アニメにするのが難しい」とよく言われますね。たとえばキャラクターの絵は、ストーリーの文脈に応じて変えてしまっているんです。アニメーションにする際は、1つのモデルで全部のシーンをやろうとするので、このなかから1つを選ばなければなりません。ですがそうすると、選ばれなかった表情なり感情なりが抜け落ちるわけで、なかなかうまくいかないんでしょうね。
薄田:絵を文脈ごとに変えているというのは初めて聞きましたね。だからときどき、やけにジョーカーが色っぽく見えたりするんですか(笑)。
副島:その場その場で「こういう感じのほうがあっているかな?」と思って、少年っぽくしたり、艶っぽく描いたりしています。いろいろと難しくなってしまうのは承知の上ですね。
織部:キャラクターの髪型なども、副島はアニメのキャラクターにしかいないような形には絶対しませんよね。実在の、今流行っているような髪型にして、その上でキャラクターごとの個性に合わて調整していく感じで。話していて「このキャラクターはこういう髪型じゃないんだよ」とよく言われます。
――こういった表情などへのこだわりは、ゲーム中でも再現されているのでしょうか?
鈴木:今回はアクションということで、キャラクターの顔がアップになるシーンが結構多いんですよ。なので、自社のエンジンでよく見えるよう、顔のモデルに手を入れさせていただいています。
薄田:このグラフィック処理は、うち(アトラス)にない技術なので、初めてサンプル動画を見た際にとても感心しました。3Dモデルだと見る角度やパースによって印象が変わってしまうことが多々あるのですが、この技術を使用すると、どの角度から見ても印象が崩れないのは衝撃でしたね。
──ほかに共同開発を通じて、お互いに刺激を受けた部分がありましたら教えてください。
副島:私はもう、見たかったアクションを見られたということに尽きます。『ペルソナ』のキャラクターを動かして遊ぶのがずっと憧れでしたから。
織部:アトラスだけではなかなか作り得ないものですし、私も同じ気持ちです。
鈴木:こちらとしては、本当に勉強させてもらったという気持ちでいっぱいです。とくにキャラクターデザインやUI回りにかんしては、今までは考えたこともなかったような知見を得られました。あとは薄田さんをはじめ、やりとりさせていただいた方々は、口をそろえて「少しでもよいものにしたい」ということをおっしゃっていたのが印象的で、とてもよい刺激を受けられました。
副島:いつまでやるんだとか、しつこすぎるきらいもありますけどね(笑)。
鈴木:ちなみに、こちらのスタッフがみんな『ペルソナ』好きということで、社内のモチベーションは常に高かったですね。チェックを受けて修正がたくさんあっても「じゃあここはこうしよう」と、すぐポジティブに対応していましたし。
薄田:自分としては、コーエーテクモゲームスさんの作り方というか、文化の違いに驚きました。自分が携わってきたゲーム開発は、序盤をある程度しっかり作ってから他の部分を作り込んでいくことが多かったのですが、コーエーテクモゲームスさんの場合は、すべてを一斉に作っていって、一気に仕上げるというスタイルで、ゲームの作り方の文化がまるで違うんですよ。
ですから、だいぶ先になるまで完成の絵が見えず、不安に感じたこともありましたが、チェックする期日のタイミングまでにちゃんと仕上がってきて。その正確なスケジューリングも衝撃でした。
副島:スケジュール通りに進めることは当然でありつつ、簡単ではないですからね。
薄田:作り方の違いもそうですが、こちらがチェックしたものに対しても、さっき鈴木さんがおっしゃったようにポジティブに対応してくれるんです。『ペルソナ』への“愛”を感じるというか、「もっとよくしよう」という想いがあふれているというか……。
たとえば街に配置するNPCは、最初は結構まばらに配置しているだけで、「街の住人が生活している感を出してほしい」みたいなことを話したんです。そうして上がってきたものを見たら、観光をしている外国人グループとか、飲み会のあとでラーメンを食べようとしている客とか、女性をくどこうとしている男性とか、NPC1人1人にドラマが感じられるような、凝った配置に変わっていて。
こちらの想像を超えた、活き活きとした街に仕上げてくれて、そのこだわりや熱意に心打たれました。
鈴木:頑張ったというか、スタッフが好きに遊び出したとも言えますね(笑)。
薄田:それだけ楽しんで作っていただけているというのがひしひしと伝わってきて、本当に有難かったです。
──オープニングムービーなど、本作のアニメーションについて教えてください。
薄田:オープニングを含めてすべてドメリカさんに制作していただきました。『ペルソナ5』では、一部のシーンを制作していただいていましたが、これに続く形で『ペルソナ3 ダンシング・ムーンナイト』や『ペルソナ5 ダンシング・スターナイト』、『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』のアニメーションも担当していただいています。
長く『ペルソナ』作品に関わっていただいているお陰もあり、キャラクターや世界観など、ポイントは把握していただいているので、クオリティアップにかける時間を多くとることができて、制作を引き受けていただけて本当に有難かったです。
オープニング制作時のお話としては、本作がアクションであるということで、アクションらしい、1つのカメラでシーンをつなげていくようなカメラワークにしてみるのはどうでしょうと提案させていただきました。後日、絵コンテを拝見した際にキーアイテムとなるスマホを使ったやりとりであったり、颯爽と立ちまわる怪盗団達の姿が描かれていて、まさに今作にふさわしい内容に、完成が楽しみで仕方がありませんでした。
──ゲーム中のCGムービーについては?
薄田:こちらはコーエーテクモゲームスさんに作っていただいたのですが、じつはCGムービーの数は『ペルソナ5』から大幅に増えているんです。それが、ゲーム中の1カ月くらいの短期間に濃い密度で投入されているので、かなり見ごたえがありますよ。本作のムービーもそちらでキャプチャー収録を行いました。
鈴木:撮影の際は薄田さんにもスタジオに来ていただき、その場で内容を監修してもらえたので、クオリティアップとともにその後のチェック作業もスムーズに進んで助かりました。
薄田:あのスタジオがあるのはちょっとうらやましかったですね(笑)。何か足りなかったら、そこで撮影してすぐムービー作りに使えるわけですから。
──最後に、本作をすでに遊んでいる方や、興味を持ってくださっているユーザーのみなさんに向けて、ひとことずつお願いします。
副島:コーエーテクモゲームスさんと一緒にお仕事をさせていただけるのは、私にとっても滅多にない機会で、いろいろ刺激になりました。制作途中から「どんなものになるんだろう」と楽しみにしていて、ユーザーのみなさんも、私と同じ気持ちの方が多かったと思います。まだの方は、ぜひ本作を遊んでみてください。
織部:個人的にコーエーテクモゲームスさんの『無双』シリーズが好きで、プレイも結構していました。そんなコーエーテクモゲームスさんとのコラボというのは、「なんて“私得”なんだろう」と思ったぐらいです。みなさんの期待に応える作品に仕上がっていると思いますので、どうぞ楽しんでください。
薄田:アトラスの細かいこだわりに“『ペルソナ』愛”で対応していただき、ω-Force(本作を手掛けたコーエーテクモゲームスの開発スタジオ)のみなさんには感謝の気持ちで一杯です。各都市も細部までよく作り込まれていますので、怪盗団とのひと夏の旅を楽しんでいただければと思います。
クリア後に一味違った刺激を求めている方にオススメしたいのが“主人公1人旅”です。主人公めがけて一斉に襲いかかってくる敵を蹴散らす様は、まさに“一騎当千”! 興味を覚えた方はぜひお試しください(笑)。
本作をまだ遊んでいないという方に向けては、『ペルソナ5』の続編ではありますが、『ペルソナ』シリーズ初のアクションRPGかつ、若い男女がキャンピングカーで全国を旅するといった“リア充体験”はそうそうできないと思いますので、ぜひ製品を手に取っていただき楽しんでいただければと思います。そのうえで本作が『ペルソナ』シリーズを始める“入り口”になれば幸いです。
鈴木:とにかく『ペルソナ』ファンの期待を裏切ってはいけないという一心で、この2年間、制作に携わり、全力を注いできました。“コーエーテクモゲームスならではのアクションの手触り”を感じていただけたらうれしいです。
アトラスだけでも、コーエーテクモゲームスだけでも誕生しなかった、奇跡のコラボ作品『ペルソナ5 スクランブル』。4人が語ってくださったように、『ペルソナ』シリーズファンにも、アクションRPGファンにも安心してオススメできる傑作となっています。ぜひ実際にプレイして、その魅力を確かめてください!
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