その男、上川端。【O村の漫画野郎#13】

奥村勝彦
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 秋田書店の漫画編集者を経て、元『コミックビーム』編集総長もつとめた“O村”こと奥村勝彦さんが漫画界の歴史&激動の編集者人生を独自の視点で振り返る!

その男、上川端。

 あー。俺を最初にシビレさせてくれた漫画家。その名は上川端通(かみかわばたとおる)。博多に詳しい人ならわかるとおもうが、博多市内の通りの名前、そのまんまである。まあ本人がそこ在住なので、べつにかまわんが。


 彼の存在を初めて知ったのは、ジャンプ系の月刊誌での読み切りだった。当時、ニュースステーションで広島カープ愛をぶちかましていた久米宏に天誅を加えるべく、巨人ファンのオッサンが真っ黒な街宣車でTV局に乗り込むという滅茶苦茶な漫画だった。

 タイトルは『ゆきゆきて巨人軍』!! 正直、洗練とは縁遠い荒っぽい絵柄で描かれていたソレは、対象に対する愛情と読者に対するサービス精神で溢れかえっていたのよ。

 うわ、すげえヤツがいるなあ。いつか一緒に組めたらいいなあ……なんて思っていた。そんなある日、困った顔をして投稿原稿を眺めていた女性編集者の後ろを通った時、俺の目はその原稿に釘付けになった!!

 アイツだ!! 興奮した俺は、その場で女性編集者に「その原稿、俺に預けてくれねえか!!」と頼み込んでしまった。ワケのわからん原稿を前に困っていた彼女は即座に快諾!!


 そして原稿を読んで、イマイチ納得出来なかった俺はすぐに本人に電話!! 「あ、この原稿ボツやね。そんなこたぁどーでもいいから、今一番描きてえ題材をすぐに描いてくれ!! 読みきりなんてショボイこと言わねえ!!  連載で行こう!!」


 そんな経緯で始まったのが『ネオ格闘王伝説 Jr.WARS』という漫画だ。その当時、格闘技マニアの間でアントニオ猪木とUWFで大人気だった前田日明、どちらが強い? というのが最高の関心事だった。

 でも絶対にそんな試合は実現できないのも皆わかってたんだ。そこで彼らの息子が同じスタイルでレスラーにして戦わせちゃえ!! どうせならタイソンの息子とモハメッド・アリの息子も戦わせちゃえ!! という格闘技マニアでもある彼の渾身の漫画だった!!

 ……でも、単行本は売れなかった。売れなかった要因は色々あるんだろーけど、俺は全く後悔してねえの。俺と彼はお互いスパークしながら、思いっきりやりてえ事をやりきったんだから。その後、ギャグ読み切り連作(こっちも同じくスパークしたけど、売れなかった)を月刊チャンピオンで担当して終わった。


 彼との仕事で、自分は作者と気持ちをシンクロさせて、遠慮なく全て爆発させるのが、俺の理想のスタイルなんだなあ、と実感した。それが半端なマーケティング製漫画に対するカウンターになるんじゃなかろーか、と感じちゃったワケです。


 それで時間を戻すが、新雑誌を立ち上げる際、この一方的な実感を元に、どー動いたのか!?……待て!! 次回!!

追伸:上川端君はその後、漫画家を引退し実家の家業を継いだ。カタギになった彼と連絡を取るのは、お互い未練だなあ……と思い、一切連絡しなかったんだが、昨年秋田書店の社長さんから、「彼は7年前に亡くなった」と知らされた。俺は近いうちに彼の実家を訪ねて線香の一本でもあげたい、と思っている。

(次回は8月31日掲載予定です)

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イラスト/桜玉吉