ボーダー狩撫麻礼登場!!【O村の漫画野郎#15】
- 文
- 奥村勝彦
- 公開日時
秋田書店の漫画編集者を経て、元『コミックビーム』編集総長もつとめた“O村”こと奥村勝彦さんが漫画界の歴史&激動の編集者人生を独自の視点で振り返る!
ボーダー狩撫麻礼登場!!
あー。玉吉以外のもう一人ってえと、もうこの人、狩撫麻礼さんである。
俺の世代で、世間と上手く噛み合ってない野郎どもには熱烈な支持を受けていたが、主流派のトレンディーなヤツらからは完全に無視されていた孤高の漫画原作者。もちろん俺は学生時代から彼の漫画に大きく傾倒しており、編集者になったからには、必ず組まねばならない原作者だと思っていた。
だけども少年誌だと制約が多すぎて、刺激的なマッチメークが出来そうもなかったので、依頼はしなかったの。マッチメーク? 狩撫さんの原作は、通常のストーリー部分の共同作業なんて生易しいもんじゃなくて、個性と個性がぶつかり合う、まさに格闘みたいな感じだからな。この言い方が正しい。まあ、彼の作品を読めばわかると思う。
んで、少年誌から外れた今。組まない理由はどこにも無くなった。少し緊張しながら電話を掛ける。
「はい狩撫です。」
ああ、この声だぜ。メディアには全然出ないから初めて聞いたんだけど、この声だ。
経堂駅前の喫茶店で待ち合わせる。キチンと挨拶をして話し始める。どんな内容だったのかは全然覚えていない。だけどお互い気持ちが高揚して時間が経つのを忘れてたなあ。
気が付いたら、テーブルの上のビールの小瓶がボーリングが出来るくらいになってたもん。帰りの小田急線は、「これから面白いことが起こるんだなあ…」って興奮したのを覚えている。
狩撫さんは俺より一回り上で、団塊の世代ど真ん中。だけど前に書いたけど、その世代の中では全く上手く立ち回れなかった典型みたいな人で、それだけに世代を問わずハミ出した連中にはシンパシーを持って接してくれた。俺みたいなヤツでもね。
狩撫さんはインスピレーションに命を懸けている人で、しかもサービス精神も過剰だったから、当時の漫画業界の中では、ある種“ヤバイ人”みたいに言われたりしてたけど、こっちが会社員丸出しの話し方なんかしねえで、キッチリ真面目に向き合えば、100%手抜きをしねえで答えてくれる人だった。
俺にとっては、壁村さんが“編集者とは何か?”を教えてくれた人だとすれば、狩撫さんは“作家とは何か?”を教えてくれた人なんだ。2人とも、もうこの世にゃあいねえけど、感謝してもしきれねえよなあ。
狩撫さんの業績やら何やらは書き出すとキリがねえので、今回は書かなかったけど、もし気になる人が居るのなら、ぜひ自分で調べて読んでくれ。絶対損はしねえから。
……てな感じで、2人の作家に会いに行くことで、俺の新雑誌への準備は始まった。何はともあれ新しいモノを一から作るってワクワクするよなあ……待て!! 次回!!
(次回は9月14日掲載予定です)
O村の漫画野郎 バックナンバー
イラスト/桜玉吉
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