サバイバルじゃあ!!【O村の漫画野郎#40】

奥村勝彦
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 秋田書店の漫画編集者を経て、元『コミックビーム』編集総長もつとめた“O村”こと奥村勝彦さんが漫画界の歴史&激動の編集者人生を独自の視点で振り返る!

サバイバルじゃあ!!

 あー。夜中のファミレスで、俺と副編の岩井でビームの生き残りを賭けて話し合っていた。いくら計算しても10万部クラスの大玉が一発必要だ。

 しかし、そんなモンどこを探してもねえの。その時、岩井が……。

「曽田君って、マガジンとチャンピオンで読み切りを何本か、描いてますよね?」
「ああ、そうだったなあ」
「たしか、それ全部まとめたら単行本1冊出せますよ!」

 今でも活躍中の曽田正人さんって、その当時、少年サンデーの『め組の大吾』で大ヒットを飛ばし、最新刊の初刷で30~40万部刷ってた。

 このタイトルの最新刊発売日に、その短編集を同時に発売しちゃおうって計画である。

 さらにそれらの短編の主軸になってる『FIRE AND FORGET』って作品は、『め組の大吾』のプロトタイプといっていい。これだと失敗する確率は、ほぼねえ。間違いなく10万部初刷で刷ってもサクーッと売れちゃう。

 ただまあ、秋田書店と講談社から原稿をぶんどって、小学館に便乗しちゃうワケだから、卑怯といえば卑怯であろうし、セコイといわれたら全面的に認めちゃう。でも、生き残りのためにはやるしかねえ。カッコつけてる余裕なんざ、まるっきりねえのだ。


 幸い曽田さんとこにゃ、俺は「読み切りでもいいから、何か描いてくれやあ~」つって通ってたからなあ。まあ、そうじゃねえと岩井だって、そんな計画を立案してねえもんな。


 ただまあ、そんな作戦を瞬時に立てれる岩井も凄い。この世界、漫画の知識が豊富なヤツなんざゴマンといるけど、それを必要な時に実現可能な形で出せるヤツあ、中々いねえもんなんだ。

 俺なんて、「そういやあ、あの読み切り面白かったなあ」で終わっちゃうもんな。……単に俺がアホだという気もするが。


 そんで俺は、いつものように曽田さんと打ち合わせ。ガンガンテンション上げまくって、いつものように終わった。普段の俺なら、あらいざらい事情をブチまけてお願いするトコなんだが、さすがにまだ一回も載せてない漫画家さんに、そんな風に頼んだら、ドン引きされるのがオチだ。だもんで、去り際にさり気なく……。

「あー、そういや、秋田と講談で描いた読み切りあったよなあ。まあ、現在連載中なんで、ウチでは中々描けそうもねーから、まずはその原稿まとめて単行本を一冊やんねえか?」
「ええっ……古い原稿なんで恥しいですねえ」
「いやいや、全然かまわねえよ。出そうぜ」
「それじゃ、よろしくお願いします」

 ビームが生き残った瞬間である!!


 あくまで謙虚な曽田さんだったが、ビームが現在まで生き残る上での大きな功労者である!! 足を向けて寝れねえ。ただ、残念ながら結局、彼の作品を一度も掲載できなかったが……待て!! 次回!!

(次回は3月29日掲載予定です)



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イラスト/桜玉吉

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