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ビーム後期の作品、その1じゃい!!【O村の漫画野郎#50】

奥村勝彦
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 秋田書店の漫画編集者を経て、元『コミックビーム』編集総長もつとめた“O村”こと奥村勝彦さんが漫画界の歴史&激動の編集者人生を独自の視点で振り返る!

ビーム後期の作品、その1じゃい!!

 あー。いよいよビーム後期の作品紹介だ!! 何度も言うけど、この場合の後期ってえのは、俺が編集長やってた間での話だぜ。

 実際、俺が編集長やめてから8年経ってるし、現在掲載中の漫画家さんも半分近くは知らねえもんな。ただ、合計16年もやってたのか……ちょっと長すぎたよーな気もするなあ。

●『あれよ星屑』(山田参助)

 最初にこの漫画のネームを見せられた時、思わず「『兵隊やくざ』かよ!」と担当にツッコミを入れてしまった。もちろん俺は勝新太郎の大ファンであるからな。

 ところがキャラ設定までは似ているのだが、冒険活劇である『兵隊やくざ』とは、描いてる内容が全然違う。

 戦争時の眼を背けたくなるような状況を、ごまかさずに正面から描いてくれた。これにはシビレたなあ。本人は業界の裏街道をまっしぐらに進んできたナイスガイなのよ、これが。

 彼と会うたびに「次はまだなの? 早く描きなよ!」と催促してたのだが、いつの間にか日刊ゲンダイで『やる気まんまん』の続編なんか描いちめーやんの。おーい! そろそろ帰ってきなよー、どヘビーなヤツ、また読みてえなあ。

●ラヴクラフト原作の諸作品(田辺剛)

 普通、漫画家ってえのは、過去の漫画家の影響を何かしら受けている。ところが、田辺君は何故かは知らないが、これが皆無。

 なので日本の漫画家はどっかで日本的にデフォルメするもんだから外国の古典原作を描いたら、そのクセのせいで上手く噛み合わない。でも彼は全然平気。特にラヴクラフトみてえな、ぶっ飛んだヤツはまさに独壇場!! 誰も勝てねえのだ。

 本当にワン・アンド・オンリーな漫画家である。ただ、本人は子供みてえな野郎で、狩撫麻礼さんや担当の岩井にドヤされまくっていたが、全く反省していなかった。確かに可愛い気はあるんだが……。

 まあ、とにかくイマジネーションと画力は物凄いので、海外の評価も高い。たぶん、本名を隠して“東欧からやってきた謎の漫画家”とか紹介しても全員納得するんじゃねえかな。それくらいボーダレスな個性を持っているのだ。

 ただまあ……いやいや彼の子供もだいぶ大きくなったし、色々苦労はしてきたハズなんで、ちったあ大人になったのかなあ?

●『原発幻魔大戦』(いましろたかし)

 彼とは『ハード・コア』からの付き合いなので結構古い。ビームではオリジナルで『釣れんボーイ』以降、妙に癒される世界観で着実に読者を増やしていった。

 ところが3.11以降、突然現在の政治状況にケンカを売りまくった!! その最初がこの漫画なのよ。

 彼の主張の根底にあるのは、“人間がバカやって自滅するのは自業自得だが、他の生物に申し訳ねえだろう”という想いなんだ、たぶん。彼は釣り師なので、あちこちの河川で人間が勝手放題しているのが、普段から目についていたのだと思う。

 んで、あの頃の日本のドタバタに怒り爆発!! その怒りに反比例して読者はドカドカ減っていった。全く説得力のねえ“エンターテイメントは政治に口出しするな”ってえ考え方は思った以上に根強よかった。

 本当にくだらねえ自分の頭で考えることを放棄した言い草であるが、これが相当な割合で存在する事が実感できたね。だけんども、いましろさんも俺も全然後悔なんぞしとらん。彼はハナっから覚悟の上だし、俺は俺で、この原発を巡るドタバタの状況にカウンターを放つことが出来て大満足であった。ただまあ、収入が減ったのはお互い辛かったが。

●『SCATTER』(新井英樹)

 彼との付き合い自体は古い。最初は奥さんである入江喜和さんの短編を掲載したのがスタート。入江さんってえのも凄え漫画家で、女性漫画家の中でも圧倒的な普遍性を持ってる稀有な人。

 ダンナの新井さんとも、一緒に仕事したいなーって思っていたけど、他誌での連載が続いていたのでなかなか実現できなかった。それで念願かなった最初の漫画がコレだ!!

 主人公が最初から最後まで自慰しまくりなのだが、全編真剣で骨太なSFアクション恋愛巨編というワケのわからない大傑作であった!! 町山智浩さんが「映画にしたいなー」つってたので、「主演は?」と聞くと、「神木隆之介」。……やんねーよ!!


 新井さん本人はってーと、世間の常識ではなく自分で考え抜いた考えに基づいて、万事に公正たらんとする人。つまりはリスペクトせざるを得ない人なのよ。

 本当にこういう人と出会えると、漫画の世界に来て良かったーって心の底から思えるぜ。とにかく俺は新井英樹さん&入江喜和さんを、勝手に漫画家最強夫婦と認定する!!


 いやあ、こうやって振り返るといろんな漫画家さんがいて楽しいなあ、ビーム。そんで作品紹介は次回も続く!! 待て!! 次回!!

(次回は6月7日掲載予定です)



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イラスト/桜玉吉

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