2009年9月15日(火)
アスキー・メディアワークスから発行されている電撃文庫『狼と香辛料』の作者・支倉凍砂先生のインタビューをお届けする。
『狼と香辛料』は可憐な少女の姿をした狼の化身ホロと、各地を旅する行商人クラフト・ロレンスの旅路と心の交流を描いたファンタジー作品。イラストは文倉十先生が手がける。ホロとロレンスが道中で繰り広げる洒脱(しゃだつ)なやり取りや、商人同士の静かで熱い駆け引きが丁寧に描かれており、中世ヨーロッパをイメージさせる世界観でありながら、いわゆる“剣と魔法の世界”とは一線を画した内容で注目されている。
▲こちらは、現在発売中の電撃文庫『狼と香辛料』第12巻の表紙。 |
2009年7月からは、第2シリーズとなるTVアニメの放送がスタート。さらに『電撃マ王』では、小梅けいと先生によるコミック版『狼と香辛料』が連載中となっている。では以下に、支倉先生のインタビューを掲載していくので、本作のファンだという人は、ご一読いただきたい。
――アニメ第2期をご覧になっての感想を聞かせてください。気付いたことや、ここに注目してほしいなどのポイントもありましたら、あわせてどうぞ!
自分の小説がアニメで表現し直されるという衝撃は、すでに1期のときに克服済みでした! 加えて、スタッフの方が基本的に1期と同じだと聞いていたので、特に不安はありませんでした。実際に観てみても、クオリティが落ちるなどといったことはまったくなくて、再び素晴らしいものを作ってくれたという感謝しきりです。
気がついた点で一番大きいのは、ロレンスの動揺がかなり前面に押し出されてきたというところでしょうか。1期の時は動揺したりホロにからかわれて慌てたりしても、まだどこかしら主人公らしい威厳のようなものがありましたが、2期では容赦なく手のひらの上で転がされているような気がします(昨今のツンデレヒロインでも、そうそう簡単にあんな頬を赤らめませんよ!)。もちろん、見せるところは見せてくれるので、キャラに深みが出てきたということなのかもしれません。
注目してほしいのは、話の流れなどももちろんそうなのですが、どちらかというと、あまり動きのないシーンだったりします。たとえば、ロレンスがホロの頭をなでるとか、ホロがシチューを食べるところとか、そういう日常の細かい動作は、小説ではどうしても描写しきれないところだからです。その点、アニメスタッフの方たちはずるいです! たとえばOPでホロがロレンスにさじでご飯を食べさせてもらっているところなんか、ワザとさじにかみ付くようなことをしてロレンスがあわてて……といったことを、ほんの一瞬でやってしまっています。小説で細かく書こうと思ったら、間違いなく添削対象です。なので、そういったところを注目していただければと思います。
――ゲーム最新作『狼と香辛料 海を渡る風』が9月17日に発売されますが、そのことについて聞かせてください。1作目をプレイされているようなら、その感想なども教えてください。
実は、コンシューマのゲームをやるという習慣がなくて(ゲーム機なんかも1台も持ってません)、1作目のゲーム自体は未プレイです。ただ、もちろんシナリオなどはチェックさせてもらいまして、細かいイベントシナリオなども目を通しています。その感想でいえば、文句のない出来でした。エピソードごとに、単なる原作の焼き直しではないきちんとしたオリジナル要素があって、「このネタとか会話のやり取り原作で使いたい!」なんてのもありました。
ゲームの新作については、編集さんがDSをデバッグ用に貸してくれたこともあって、プレイしてみました。エーブ! エーブかわいいいよ! エーブ! ……取り乱してしまいました。ゲームオリジナルキャラのルカもかわいかったです。行商システムなんかも、やりこみ要素がたくさんあって、時間があったらいくらでもやってしまいそうな感じでした。キャラと好感度上げるための選択肢選びなんかも、各キャラクターごとの特徴が出ててよかったです。でも、ノーラがちょっと難しいような……。
――ゲームではエーブがお気に入りということがよくわかりました。ありがとうございます。それでは、作品の中でご自身のお気に入りの(印象に残っている)キャラクターとその理由はなんですか?
なんだかんだいってお気に入りはホロです。理由は、食わして飲ませておけばその分楽に筆が進むからです!
――続いて、お気に入りの(印象に残っている)エピソードとその理由を教えてください。
一番のお気に入りは、『狼と琥珀色の憂鬱』(※電撃文庫第7巻収録の中編)です。アニメやドラマCDの題材にもなりましたが、この話が一番気に入っています。それまで一度も書けなかったホロの内面を思う存分突っ込めたので、ストレス発散になったのだと思います。その上、きちんと話としても機能してくれたので、今でもたまに読み返す1本です。
――執筆するうえで苦労しているところや楽しいところ。編集者とのやり取りで記憶に残っているエピソードなどはありますか?
キャラが勝手に動く、というのは本当にあることで、その都度プロットからの方向転換を余儀なくされて困ります。逆に、動いてくれると後から読み返すと神がかっているくらい物語がきれいに動いてくれるので、そこが不思議でもあり、楽しくもあります(たとえば3巻とか)。
編集さんとのやり取りで一番記憶に残っているのは、打ち合わせの最中に就職の話になった時のことです。私が「メディアワークス(※当時)の就職試験受けてみようかな」と冗談で言ったら、「電撃小説大賞より倍率高いですよ。あと、試験には国語の長文読解問題なんかも出ますし」と言われたことでしょうか! ショックなひと言でした。一応作家なのに! しかし、言い返せなかったのは、その時担当さんの手元にあった原稿に、日本語の間違いを示す添削の赤いチェックが死ぬほど入っていたからです。
――『電撃マ王』で連載中のコミックを読んでの感想を。コミックの表現で納得したところや逆に驚いたところなどがありましたらお願いします。
すごい! のひと言です。私が小説を書くにあたって資料を集める時にも苦労しましたが、ビジュアルとなるとさらに困難なはずなのに、小梅けいと先生はどこからともなく資料を見つけ出してきていらっしゃるようでした。それだけでもすごいのに、作品の雰囲気を出す、ということでわざとペン入れをせずに鉛筆書きで原稿を描かれているとか、ものすごいこだわりかたです。コミック版の中でホロがどんどんふくよかになっていることについては、その分文倉さんの描かれるホロがどんどんまな板になっているので、バランスが取れていていいかな、と思います。あと、ノーラの幸薄そうなところが素晴らしかったです。
(C)支倉凍砂/アスキー・メディアワークス/「狼と香辛料II」製作委員会
(C)2009 「狼と香辛料II」製作委員会/ASCII MEDIA WORKS Inc.