2010年5月18日(火)

機動力を武器に自由なゲーム作りを! ウィッチクラフトの金子彰史さんに迫る

文:電撃オンライン

 ゲームソフトの企画・開発を手掛ける制作会社ウィッチクラフト。同社の代表取締役社長である金子彰史さんにインタビューを行った。

金子彰史さんインタビュー

 金子さんは、ウィッチクラフト代表取締役社長にして、ゲームデザイナーとしても活動中。これまでに『ワイルドアームズ』シリーズやPSP『魔法少女リリカルなのはA’s PORTABLE -THE BATTLE OF ACES-(以下、リリカルなのはA’s PORTABLE)』などを手掛けている。

 インタビューでは、これまで手掛けてきた作品への思いや裏話、さらに会社を設立することになった経緯などを聞いている。これまでの作品のファンはもちろん、ゲームクリエイターの仕事に興味がある人もぜひご覧いただきたい。

金子彰史さんインタビュー
▲金子彰史さん(代理)。

――まず最初に、金子さんがゲームクリエイターになった経緯について教えてください。

 これを話すと本当にガッカリされる方も多いので、ためらうのですが……食うに困って、というのが本当のところです。あてもなく上京してきて最初はブラブラしていたのですが、やがて手持ちのお金がなくなり、本格的に明日の食事とアパートの家賃がピンチな状況となり、なけなしの金で求人誌を買いました。そこでスタッフを募集していた、今は亡き日本テレネットに企画を持込んだのがきっかけです。

――ゲーム自体には興味を持っていたのでしょうか?

 以前から興味のあったジャンルでしたので、趣味の範疇(はんちゅう)でボンヤリと考えることはありましたが……求人に応募することになるとは思ってもいなかったので、いろいろ慌てた記憶があります。当時は家に電話がなく、そして携帯電話も一般には普及していない時代でしたから、近所のコンビニにあった公衆電話からエントリーしました。電話口で担当の方が「履歴書と企画書を用意してください」と言ったので、そこは売り言葉に買い言葉とでもいいますか、こちらも「企画書はいくつくらい持って行きましょうか?」と、ハッタリを含ませて返したりしました。若かったです(笑)。

――(笑)。結局、企画はいくつ持っていったのですか?

 電話口の担当の方から「とりあえず(企画書を)あるだけ持ってこい」と言われのですが、もちろんこっちは1つたりともないわけです。どうしようかと途方に暮れましたが、まずは「企画書の書き方を知らねばなるまい」と考えて本屋に向かいました。駅前の本屋になら“HOW TO本”くらいあるだろうと。金子の運がよかったのは、その本屋で角川書店さんから出ていた『RPG製作ノート MAKING OF MADARA』とめぐり会えたことです。

 もう「これだ!」という感じで購入し、家に帰って読み倒しました。企画書の書き方よりも、ゲーム開発の裏側的なところに焦点を当てた内容だったのですが、これが非常におもしろくて。「食うに困って」という当初の目的を忘れて、すっかりゲーム開発の現場に思いを馳(は)せるようになってしまいました。

――ということは、企画書はそれを参考にして作られた?

 企画書作成に必要な小手先の技術よりも、あの本からは夢の見方は教えてもらったような気がします。その勢いのまま、大学ノートに手書きでゲームの企画を書きなぐりました。PCを持ってない貧乏人だったので、企画書のデキ自体は酷いものでした(苦笑)。その時に企画書を3つ書いたのですが、その1つが後に『ワイルドアームズ』となるものです。そんな手作り感満載の企画書を持って、面接となったわけですが……。

 実際のところ、持ち込んだ大学ノートはろくに見てもらうこともなく、面接担当の方は「ふーん」という具合にパラパラと流し見した程度でした。それよりも面接担当の方は、履歴書の趣味欄に書いた“映画鑑賞”というところに引っ掛かったみたいで、その後延々と映画の話をしました。「ヴィム・ヴェンダース監督をどう思う?」とか「『ベルリン・天使の詩』をどう思う?」とか聞かれたのですが、今も昔も、ケレン味とアクションシーンのない映画は観られない人間ですので、正直意味ワカランと思うがままに感想を口にしてしまいました。

――それで面接は大丈夫だったのでしょうか?

 不思議なことに後日、採用の知らせがあって心底驚いたものです。あとで面接担当の方に、ろくに企画書も見ず、また映画の趣味も合わないのにどうして採用したのかと問うたのですが、「あの時の求人で、まともに会話できたのは金子くんだけだったからだよ」と返されました。人生、どう転ぶか本当にわからないものです。

――それから、さまざまなゲームにかかわっていくのですね。

 まずは企画のアシスタントとして、PCエンジン用RPG『天使の詩』チームに配属となりました。これはもうほとんど内容が決まっていたのですが、内容を壊さない範囲でいろいろと遊ばせてもらいました。それと同時に、ゲーム開発に必要なこともいろいろ教わりましたね。

 次は、スーパーファミコンチームに配属される……と聞いてたのですが、紆余曲折を経てまたもPCエンジンの『未来少年コナン』チームとなりました。これは元々、別の企画者が動かしていたタイトルでしたが、諸事情で自分がまとめることになり、途中参加とはいえ、初のメインプランニングという肩書きをもらったタイトルになります。

――次の『ぽっぷ’nまじっく』もPCエンジンのタイトルですね。

 このタイトルは最初に「3カ月で作れ!」とお題があったので、「ならばスクロールしない固定画面で」とか「マップは量産できることを前提に」とか、制約からゲームを作ることを教えてもらいました。『天使の詩』、『未来少年コナン』、『ぽっぷ’nまじっく』という3タイトルは、その後、ゲーム業界でご飯を食べていくにあたって不可欠なものをたくさん教えてくれました。大切なものをカラダに叩き込んでくれたから、アタマでっかちにならずにいられるのです。そういう意味では、非常に思い入れのある作品です。

 そして、『天使の詩II ~堕天使の選択~』につながっていくわけですが……。当時の日本テレネットの上層部は思い切っているというか、どんな勝算があっての抜てきだったのか見当もつきませんが、業界に入って1年そこそこの人間を、RPGのメインプランナーにしたんです。正気の沙汰ではありません(苦笑)。それでも、元気で怖いもの知らずだった自分は、これをすごく大きなチャンスとして大はしゃぎしました。

――前向きにとらえたと?

 はい。あと、ゲームシステムだけではなく、長編のシナリオを任されたのもうれしかったです。趣味で遊んでいたテーブルトークRPGでシナリオを書いたことはありますが、これほどのボリュームを、さらに商品としてちゃんと書くことは初めてだったのですが、とにかく楽しかったです。実際のところ、日本テレネットの在籍期間は2年に満たないのですが、人的交流も含めてすごく得るものがありました。

→いよいよ、プレイステーションの開発に着手!

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データ

▼『魔法少女リリカルなのはA’s PORTABLE -THE BATTLE OF ACES-』
■メーカー:バンダイナムコゲームス
■対応機種:PSP
■ジャンル:ACT
■発売日:2010年1月21日
■価格:通常版 5,229円(税込)/リリカルBOX 13,629円(税込)
※開発:ウィッチクラフト、ディレクター:金子彰史
 
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▼『暗闇の果てで君を待つ』
■メーカー:ディースリー・パブリッシャー
■対応機種:DS
■ジャンル:AVG
■発売日:2009年10月22日
■価格:通常版 5,460円(税込)/限定版 7,560円(税込)
 
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▼『SIMPLE DSシリーズ Vol.48 THE 裁判員~1つの真実、6つの答え~』
■メーカー:ディースリー・パブリッシャー
■対応機種:DS
■ジャンル:AVG
■発売日:2009年5月21日
■価格:2,800円(税込)
 
■『SIMPLE DSシリーズ Vol.48 THE 裁判員~1つの真実、6つの答え~』の購入はこちら
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