2011年2月11日(金)
――力を入れて書いたシーン、思い入れのあるシーンはどこですか?
5章の決着のシーンは、最初から考えていました。どういう風な技を決めようかとか。
――読んでいて、蝉川先生はプロレスが好きなのかと思ったのですが。
プロレスは好きですが、マニアというわけではないんです。冒頭で月島が告白するシーンがあるのですが、ここでインパクトをつけないといけないと思い、どんなヘンな告白をしたらおもしろいかなと考えたんです。昔、屋上から告白する企画をTVでやっていたのを思い出し、マイクパフォーマンスで行こうと思い立ち、プロレスネタに走らせようという流れになりました。
――最後の戦いは、本当に細かく描写されているなと思いました。
中途半端ですが、格闘技をかじっていたので、動きは気になってしまうんです。描写する時も、身体の動きには気を遣ったつもりです。この体勢からこの動きはできない、とか。僕は格闘が好きなんですが、担当からは「ラブコメで」と言われるんですよ!
――“ラブコメ”というジャンルはいかがですか?
しっとりした恋愛モノはたぶん書けないので、ドタバタコメディになると思います。今回は結果的にラブコメになったようなものなので、難しいですね。友だちに最初原稿を渡した時に、「ジャンルは?」と聞かれて困りました(笑)。
――登場人物たちの関係が、一般的なラブコメ作品とは違って少し複雑ですが、こういう構成にした意図は?
三角関係だからとはいえ、そうそう思い通りの人とくっつくとは思えないんですよね。僕自身、あまりそういう話は好きではないので……。最初は、月島のような人物が主人公だったんです。ムチャクチャなヤツが、好きな子のためにムチャをするという。でも、そんな超人だとなんでも1人で解決できてしまい、おもしろくないと思ったんです。
――主人公は主人公で彼女がいますが、今後彼の恋愛が描かれる予定はあるのでしょうか?
可能性はありますが、このまま彼女を出さないままにするのもおもしろいかなとも思っています。
――作品を書いていて苦労したところはどこですか?
エンディングですね。話が丸く収まった後、月島はどうなるのだろうと考えました。その考えがまとまるまでに、20回ぐらいリテイクをしました。
――そんなにですか!?
そうですね。エンディングだけ全然書き上がらなくて、1カ月ぐらい掛かりました。今やったら怒られますね(笑)。
――作中での好きなキャラクターを教えてもらえますか?
大体みんな好きなのですが、黒木ですかね。黒木くんが出てくるだけで話が進むと言うか、何をしても許されるキャラだと思うんです。車にひかれてもペラペラの紙になって生きているような、カートゥーン的なキャラです。あとは、ウララも好きですね。ギャグを書いているのが楽しいです。
――ウララもかなり強烈なキャラクターになっていますよね。
書き上がったころ、マツコデラックスさんがよくTVに出ていて、「あ、かぶったかも」と思いました(笑)。僕の中でのイメージは、『ジャングルの王者 ターちゃん』のジェーンですね。
――大食い対決をさせようと思ったのはどうしてですか?
『イリヤの空、UFOの夏』で大食い対決があったんですが、あれを読んだ時にいつか大食い対決を使おうと思っていたんです。宮本と長瀬を戦わせようと考えた時に、この2人を強い敵に対してどう戦わせるかを考えて、大食いを選びました。むしろ、大食い対決をしたいがためにウララを出したところはありますね。
――イラストをご覧になっていかがですか?
この話は青春ものなので、やや泥臭いところがあるんですが、そこにカッコよくかわいい、スタイリッシュな絵が入ってきたので、それがうまく中和されたと思います。イラストの効果で、不思議と青春コメディに見えるようになりました。もう、本当にすみ兵先生のおかげです。そういう意味では、メディアワークス文庫じゃなくてよかったかもしれません(笑)。月島が写真でマイクパフォーマンスをしている表紙だったら、ヤバかったかもしれないですから。
――執筆している段階で、キャラクターを絵でイメージしていましたか?
特にしていませんでしたね。なので、イラストで見た宮本は、ちょっとカッコよすぎるんじゃないかと思いました(笑)。主人公を超人にしなくてよかったです。あれで強かったら許せないですよ僕は。
――2月10日発売の『電撃文庫MAGAZINE Vol.18』には、声優の佐藤利奈さんと間島淳司さんによるドラマCDも付きますが、聞いてみていかがですか?
長瀬と宮本が出会うシーンがドラマになっているのですが、すばらしかったです。さすがプロだなと思いました。あまり声をイメージして書いていなかったので、思っていた以上でしたね。
――イラストや声にイメージが引っ張られることはありますか?
ありますね。形が見えているぶん、しゃべっている光景が見えてくるようになったりします。特に宮本、長瀬、月島、黒木は動きが多いので、イラストや声がついてからの方がアクション・リアクションともにイメージを膨らませやすくなりました。
――作中のキャラクターに、モデルになった人はいるのでしょうか。
長瀬のセリフには、僕が周りの友人に言われた言葉を混ぜて使っていたりしますね。
――長瀬のセリフはどれも、ひとひねりあっておもしろいと思うのですが、モデルがあるとはいえ全部考えるのは大変じゃないですか?
ホント大変ですね。こんなにたくさん考えるのは苦しいです。これが僕の首を絞めています(笑)。
(C)2011 ASCII MEDIA WORKS All rights reserved.