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2012年5月7日(月)

植松伸夫×野島一成×皆葉英夫×赤尾実×羽入田新によるインタビューを掲載! 豪華スタッフが制作したA・AVG『ボーダーウォーカー』が配信開始

文:電撃オンライン

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■熱いバトル曲も多数! 音楽を担当した植松さんの本音とは?

──作曲については、どのような流れで行われたのですか?

植松:最初に羽入田くんからリストをいただきました。そこに野島くんの設定や要望も書いてありましたね。

羽入田:イラストやシナリオについても、常に最新のものをお渡しする形で、イメージを共有できるように手配しました。

植松:そういったものを見ながら、曲のイメージをふくらませていったんですけど、野島くんのコメントが結構適当というか、とてもシンプルだったのを覚えています(笑)。

羽入田:例えばオープニング曲についてですけど、「大河ドラマ系のオープニングです」とだけ書かれています(笑)。

皆葉:投げっぱなしですね(笑)。

羽入田:「楽しいことばかりじゃないです」なんて書かれた曲もありますし、ワールドマップの曲は「モンスターもいます」としか書かれていません(笑)。

野島:あまり縛らないほうが、自由に作曲できるかなと思いまして(笑)。

『ボーダーウォーカー』
▲長年の付き合いだけあって、テンポよくノリやツッコミを繰り出しながら話をしていた植松氏と野島氏。一緒に仕事をしたのは数年ぶりだったとのこと。

羽入田:植松さんにお願いしている時点で、あがってくる曲に間違いはないだろうという確信めいたものはありました。だから、ガチガチな発注にしないほうがいいのかなと判断した部分はあります。

植松:こういうファンタジー系で、いろいろと好き勝手が許されるノリは久々だったので、懐かしくて楽しかったです。

野島:僕のシンプルなオーダーが功を奏したというわけですね(笑)。

植松:うーん(笑)。でも、たしかに依頼の内容によっては、オーダーの時点で先方のイメージが固まっていることもありますし、「あの曲のこの部分のフレーズのイメージでお願いします」なんて場合もあります。そうなると、作曲のイメージの幅が広げにくいというか、狭まってしまう場合はありますね。まあ、野島くんのコメントがいいかどうかは、さておきとしてね(笑)。

──どのぐらいの曲数を作曲されたのですか?

野島:少なくとも、CDでサントラを出せるくらいはありましたよね。

植松:軽く20曲ぐらいは作ったと思いますし、1曲1曲も長めでした。

──今回の作曲で印象に残っている出来事はありましたか?

植松:バトル曲をたくさん作った覚えがあります。

羽入田:デイランドとナイトランドでバトル曲が違うんですよ。それぞれで通常バトルとボス戦の曲があって、最終ボスの専用曲もあるので、バトル曲だけで5種類あります。ちなみにそれらのバトル曲について、発注する際に野島さんのコメントはいっさいありませんでした(笑)。

『ボーダーウォーカー』 『ボーダーウォーカー』
▲街やワールドマップの音楽はもちろん、特にバトル曲はノリがよくて名曲揃いとのこと。バトル曲の一部をは公式サイト内にあるPVで使われているので、ぜひ聴いてみてほしい。

野島:変なノイズが入らない、植松さんらしい曲を聴きたいじゃないですか。だから、あえて細々と書かなかったんです。

植松:なるほどね。そういう考えがあったんだ。

野島:なんか書いちゃうと、それを逆手にとって実験的な曲を作り始めちゃう気がして(笑)。それに、あんまり細かくオーダーをされると、「これじゃオレが作曲する必要ないじゃん」とか思いませんか?

植松:お、よくわかってるね。そんな野島くんの思惑にまんまと乗せられて、真剣に作曲してしまいました(笑)。

──実際のところ、作曲をする際に野島さんのコメントをどのくらい意識したのでしょうか?

植松:無視はしていませんけど、言葉に縛られて作曲をするわけでもないので、強くは意識していないというのが正直なところですね。

羽入田:あがってきた曲は素晴らしくて、リテイクはありませんでした。ただ、1点だけ、エンディング曲については演出の都合上、尺を細かく調整する必要があったので、そこだけは微調整のやりとりを行いました。

──作曲の際にこだわった部分や注目してほしい部分はどこですか?

植松:やや意識して、古楽器を使った部分はあります。この作品ほどストレートに中世の世界観を打ち出しているゲームは珍しいので、ちょっと昔の楽器を使うほうがおもしろいかなと思いました。

羽入田:その部分は最終ダンジョンの曲で顕著ですよね。すごく雰囲気があるので、ぜひ聞いてほしいです。

『ボーダーウォーカー』 『ボーダーウォーカー』
▲中世の世界観を意識して、古楽器を使った曲もあるとのこと。ファンタジーの王道らしい曲から、少し挑戦的な曲まで、さまざまな曲が用意されているという。

植松:余談ですけど、作曲とは違う部分でのこだわりと言うか、羽入田くんにお願いして実現してもらった部分があるんですよ。フィールドから街に入って、音楽が切り替わりますよね。それで街を出てフィールドに戻った時に、フィールドの曲が頭から流れるのはやめてほしいとお願いをしました。

羽入田:フィールドに戻ったら、その前に流れていた曲の続きから流してほしいという相談ですね。そこは赤尾さんと相談して対応しました。

植松:赤尾くんとは、そもそもスクウェア時代に一緒に仕事をしていました。『ファイナルファンタジーVI』で僕が作曲をして、赤尾くんがサウンドプラグラマーをしている時に、そういう処理をお願いして、実現してもらったんです。

赤尾:あの時は、フィールドでバトルに入って、バトルからフィールドに戻った時に、フィールド曲の続きを流す形でも調整をしました。

植松:特にファミコン時代は、画面が切り替わるたびにイントロから曲が流れ直す仕様ばっかりだったので、勘弁してほしかったんですよ。いつになったらサビが流れるんだと、イヤでイヤでしょうがなかったんです。今回はスタッフに赤尾くんがいるわけだし、あらかじめ羽入田くんに対応をお願いしました。

赤尾:こういう処理を行うには複数の曲のデータをあらかじめ読み込んでおく必要があるため、ちょっと工夫が必要なんですけど、専用のドライバを実装することで実現させました。

植松:こういうこだわりって、意外と気づかれませんけど、作り手の立場としては大事にしていきたいと思っています。

──遊ぶ側としても、そういう細かい部分のこだわりが遊びやすさにつながっていると思います。たくさんの曲の中で、お気に入りの曲はどれですか?

植松:エンディング曲はなかなかうまくいったと思っています。ぜひゲームをクリアして聴いてみてほしいですね。

羽入田:どの曲もいいんですけど、バトル曲は特にオススメです。公式サイトのPVでは、デイランドでの通常バトルの曲を聞けるので、ぜひご確認ください。個人的には「これこれ! こんなバトル曲が聞きたかった!!」という最高の仕上がりだと思います。

野島:音色もいいから、すごくきれいですよね。

羽入田:ちょっと細かい部分ですけど、メインシナリオの各章をクリアした時に流れるファンファーレもいい曲なんですよ。どの曲もシーンや状況とマッチしていて、しっくり感じてもらえると思います。

植松:今さらだけど、昼と夜の世界でもっと特徴がある音色を持たせるとおもしろかったかもしれないね。野島くん、そういうコメントを書いておいてくれないと(笑)。

野島:何も言わなくても、きっとやってくれるだろうって思って(笑)。

──普段からの信頼関係があるわけですね。

野島:信頼関係と言うか、投げっぱなしという感じですけど(笑)。

羽入田:実際のところ、完成した曲を聴くと、昼と夜でちゃんと印象が異なる感じに仕上がっていると思いますよ。


■尖った個性がそのまま作品に! スマホ用アプリは少人数ならではのよさがある!!

──みなさんの中には、今回初めてiOSでのゲーム開発、つまりスマホ用アプリのゲーム開発に携わった方も多いと思いますが、ゲーム専用機でのゲーム開発と、意識や環境の違いはありましたか?

植松:内蔵音源で曲を鳴らすわけではないので、特に意識した部分はないですね。録音した生音をそのまま流せるので、それこそ予算があれば、オーケストラ演奏もできるわけですし(笑)。これは時代の流れでもありますけど、今はスマホのゲームに勢いがあって、そこでゲームを作るのも遊ぶのも当たり前のようになっていますから、特にハードの違いを意識して作っているわけではありません。ただ、今回のように少人数でゲームを作れる環境があるのは、アプリならではのよさなのかもしれないとは感じました。

野島:かかわっている人数が少ないことは、フットワークの軽さにもつながりますからね。

植松:“いい”と“ダメ”を判断する人間が少ないほど、コンテンツとしての特徴が原型に近い形で出てくる部分があると思うんですよ。ジャッジを行う人間が増えるほどフィルターが増えて完成度が高まるメリットはあるけれど、個人が考えているエッジが効いた部分が丸くなっちゃうデメリットもあるわけで。個人の「好きだ!」という気持ちをストレートに表現できる感じで、僕は今回の開発環境はよかったと思います。

赤尾:作っている側としては、パッケージで作ることとダウンロード用のデータとして作ることは、何も違う部分はありません。結局、ハード性能が大事なわけではなくて、誰がどう遊ぶのかが重要なので。

皆葉:これは僕だけかもしれないんですけど、超大作のゲームって、遊ぶのに体力が必要な気がするんですよね。その点、スマホのゲームは少し軽いイメージがあって、気軽に遊べる気がします。

野島:少なくとも現時点では、ゲーム専用機のパッケージ作品よりもスマホ用のアプリのほうが作りやすいというか、周囲からの承認をとりやすいと思うんですよ。知り合いとお酒を飲みながら話していると、「こういうの楽しいよね」とか、「ああいうゲームを作りたいよね」なんて話がよく出るんですけど、それをパッケージ作品として形にしようとすると、すごく大変なんです。

赤尾:そもそも企画をかなり練らないと、社内の会議が通りませんからね。

野島:今回の『ボーダーウォーカー』は、少人数ということもあって非常にスムーズに話が進んだんですけど、それでいて自分たちが本当にやりたかったことをほぼそのまま実現できました。こういう作り方は楽しかったですし、クオリティも高くできましたし、結構すごいことだと感じましたね。

羽入田:少人数ならではのよさは出せたと思っています。ゲームを作る選択肢として、iOSのように開発規模が小さくてもおもしろいゲームを作れるという時代が来たことは、大きな転換点が来ているような気がします。

──赤尾さんにうかがいたいのですが、iOSのハード性能的にプログラミングの際の制約などはあったのでしょうか?

赤尾:制約はないですね。普通のゲーム機と同じ感覚で、逆にiOSというハードというか、OSならではの機能がいろいろと用意されている感じです。だから、考えようによってはとても便利なハードだと思います。ジャイロ機能やタッチ操作も自由に使えますし。

『ボーダーウォーカー』
▲多くの家庭用ゲーム機でプログラムを手掛け、スマホ用アプリの開発実績も多い赤尾氏。性能的にも開発環境的にも、両者の差はほぼ感じられないという。

──プログラミングで苦労した部分はありましたか?

赤尾:専用のゲーム機とは違って、同じiOSを搭載していても、機種ごとに性能が違う部分が大変でした。iPhoneのシリーズとはいえ、3G、3GS、4、4Sとでは、さまざまな違いがあるので。どのあたりのハードスペックを想定してプログラミングを行うかは、悩みどころでした。

──最終的には、どのような考え方で調整をしていったのでしょうか?

赤尾:最新技術が詰まった最新機種で楽しく遊べるのが一番いいと思ったので、スペックが最も高い最新の4Sを基本として考えました。そのうえで、以前の機種のメモリ容量を加味して、少し昔の機種でもちゃんと遊べるように調整をしていった流れです。

羽入田:赤尾さんはiOSのアプリ開発の実績が多いので安心してお仕事をお願いできたんですけど、特に感激したのが、僕が説明しきれなかった部分も補完してゲームを作ってくれたことです。タッチ操作をメインとしたバトルシーンについても、少し打ち合わせをしただけで完璧以上のサンプルを作り上げてくれたんですよ。あまりに気持ちよく遊べて、そのまま即採用でしたね。

──具体的にはどういった部分が補完されていたのですか?

羽入田:タッチした時のエフェクトや音を含めた演出面です。打ち合わせの際には伝えそびれていた部分だったんですけど、まさにイメージ通りの仕上がりで驚きました。自分の指で行ったタッチやスライドの動きを、ダイレクトに演出してくれるのが気持ちいいんですよね。

赤尾:自分の指で技を繰り出しているという感覚が出せたと思います。

羽入田:まさにその部分を盛り込みたいと思っていたので、そこを気持ちよく仕上げていただいた赤尾さんには、本当に感謝しています。

──ちなみに、ゲーム中に画面を切り替えた際などのロード時間はありますか?

羽入田:素晴らしいことに、ゲーム中のロード時間はないと言っても過言ではありません。

赤尾:起動時の読み込みはありますけど、ゲームをプレイし始めたら、ストレスに感じるようなロード時間はないと思います。

羽入田:昼と夜を切り替える際もロード時間はありません。ただ、時境を越える演出として、あえて時計が回る演出を加えています。

『ボーダーウォーカー』 『ボーダーウォーカー』
▲ロード時間はほぼなし! ただ、昼と夜の世界を切り替える際には、あえて時計の針が動く演出を用意したとのこと。

──最後に、本作に期待するファンへのメッセージをお願いします。

植松:参加している人の個性が素直に出ている作品になっています。ある意味でベタなファンタジー作品で、僕も参加していて楽しかったので、ぜひ遊んでみてください。

野島:わりと素に近い自分の好みが出せたと言いますか、素直に「オレって、こういうファンタジーが好きだな」と言えるものになっています。その部分をみなさんにも楽しんでいただけたらうれしいですね。

赤尾:非常に豪華なメンバーの中に参加させていただいて、ありがとうございます。

植松:今さら、そんなあらたまらなくても(笑)。

赤尾:いろいろと開発中に苦労はありましたけど、昔から知っている顔ぶれなので、「この人ならこういう風に考えているのかな」と完成形をイメージしながら仕事ができ、楽しくがんばれました。ライトな感じで楽しんでもらえたらと思います。

野島:そうだよね。ライトな感じで楽しめるのが、すごく自分でも好きなんだよね。

皆葉:気軽さという部分は、僕にとってすごく遊びたくなる部分なんです。この『ボーダーウォーカー』には、その感覚が感じられるから好きなんです。総じて、「僕自身がすごく遊びたい」という部分が、このゲームの一番のウリのような気がします。

羽入田:僕が独立して1本目のタイトルに、こんなすごい方々に集まっていただけたのが、いまだに信じられません。ぜひプレイしていただいて、“ファンタジーのマエストロたち”による素晴らしい世界観を楽しんでいただきたいと思います。

植松:マエストロ(笑)。

野島:悶え死ぬ(笑)。持ち上げ過ぎじゃない?

羽入田:いえいえ、今回は本当に各分野の専門家であるみなさんの実力を思い知ったと言いますか、いろいろな部分で助けていただいた気がします。ここまで豪華スタッフがそろったスマホ用のゲームはまだまだ少ないと思うので、ぜひプレイして完成度の高さを感じてほしいです。お昼ごはん1回くらいのお値段となっておりますので、まずは触っていただいて、気軽に楽しんでいただければと思います。

『ボーダーウォーカー』
▲インタビューが行われた場所は、植松氏のスタジオ。元同僚でプライベートでも仲がよいメンバーだけあって、少しくつろいだ穏やかな雰囲気で取材が行われた。

(C)2012 Crunge Products Co., Ltd.

データ

▼『ボーダーウォーカー』
■メーカー:クランジー・プロダクツ
■対応機種:iPhone/iPod touch(ダウンロード専用)
■ジャンル:A・AVG
■配信日:2012年5月7日
■価格:900円(税込)
 
『ボーダーウォーカー』のダウンロードはこちら(iTunesが必要)

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