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2012年5月7日(月)

植松伸夫×野島一成×皆葉英夫×赤尾実×羽入田新によるインタビューを掲載! 豪華スタッフが制作したA・AVG『ボーダーウォーカー』が配信開始

文:電撃オンライン

 クランジー・プロダクツは、iOS用アプリのA・AVG『BORDERWALKER(ボーダーウォーカー)』の配信を、本日5月7日よりApp Storeで開始した。対応端末はiPhone/iPod touchで、価格は900円(税込)。本作の配信開始を記念して、開発スタッフへのインタビューを掲載する。

『ボーダーウォーカー』
『ボーダーウォーカー』

 この『ボーダーウォーカー』は、“長編シナリオのおもしろさ+モンスターとの爽快なバトル”に特化したiOSオリジナルのA・AVG。昼と夜で世界が分断された世界を舞台に、2つの世界の境界である“時境(じざかい)”を越えられる特殊な存在“ボーダーウォーカー”の冒険が描かれる。

 本作は、かつてスクウェア・エニックスで『ファイナルファンタジーXI』のグローバルPR・ビジネスプロデューサーを担当した羽入田新(はにゅうだ あらた)氏が設立したクランジー・プロダクツの1作目となるゲームアプリ。植松伸夫氏が音楽、野島一成氏がシナリオを担当するなど、豪華スタッフが集結しているのも大きな特徴だ。ここでは、本作を手掛けた5人の開発スタッフへのインタビューでお聞きした、開発秘話やゲームの見どころをお届けする。

『ボーダーウォーカー』 『ボーダーウォーカー』
『ボーダーウォーカー』
▲高いシナリオ性を備えたA・AVG。バトルシーンではタップ&スライドによるコマンド入力で多彩な技を繰り出せる。

■インタビュー参加者■

●赤尾 実●植松 伸夫●野島 一成
『ボーダーウォーカー』 『ボーダーウォーカー』 『ボーダーウォーカー』
▲本作のプログラム全般やデータ管理を担当。RedSpark代表取締役。スクウェア・エニックス時代は『ファイナルファンタジー』シリーズのサウンドプログラムを担当。独立後、アプリを含めた多数の作品の開発に携わる。▲本作の音楽を担当した世界的に有名な作曲家。DOG EAR RECORDS、およびSMILEPLEASE代表。『ファイナルファンタジー』シリーズの楽曲をはじめ、多くのゲームの音楽を手掛けたことで知られている。▲本作のシナリオを担当。ステラヴィスタ代表。過去、スクウェア・エニックスにて『ファイナルファンタジーVII』など数々の大作RPGのシナリオを担当。独立後も、さまざまなRPGやAVGのシナリオを手掛けている。
●羽入田 新●皆葉 英夫
『ボーダーウォーカー』 『ボーダーウォーカー』
▲本作の発起人であり、ディレクションとプランニングを担当。クランジー・プロダクツ代表取締役社長。スクウェア・エニックスにて『ファイナルファンタジーXI』のグローバルPR・ビジネスプロデューサーを担当後、独立した。▲本作のキャラクターデザインを担当。デザイネイション代表。スクウェア・エニックス時代に『ファイナルファンタジーVI』など数々の作品のアートディレクターを担当。独立後も多くのゲーム開発に携わる。

■ロックとプロレスでつながった開発スタッフの絆とは?

──まずは本作のプロジェクトが始まったきっかけを教えてください。スクウェア・エニックス時代の同僚とはいえ、これだけの豪華メンバーを揃えるのは大変だったと思うのですが。

羽入田:そもそも僕と野島さんは家が近所で、会社の外でもよく話をしていました。僕が前の会社(スクウェア・エニックス)を退職した頃に、独立してゲーム会社を作ろうと思っているという話をしたら、野島さんに興味を示していただきまして。実はかなり前から、野島さんと植松さんと皆葉さんの3人で、「何かゲームを作れたらいいね」という話をしていたとうかがっていたんです。

植松:我々3人はプライベートでもよく飲むんですよ。集まって話をしていると、みんなで一緒に楽しいことをしたいという話になることが多いんです。

野島:そういう話はしょっちゅうしていて、物語も音楽もイラストも僕らだけで作れるんですけど、ある意味で専門バカが集まってしまったばっかりに、なかなか話が先に進まない(笑)。

皆葉:僕ら3人はプロデューサーをやりたがらないというか、まとめ役がいないんですよ。

野島:そこにちょうど、羽入田さんが来てくれたわけです。「あっ、この人なら!」みたいな感じで。

皆葉:僕たちをまとめてくれるかもしれない。導いてくれるかもしれないって感じでしたね(笑)。

野島:だから、我々としてもラッキーという部分はありました。

──「何かやりたいね」という時に、具体的なアイデアは出ていたのでしょうか?

羽入田:本作については、野島さんから「剣と魔法という中世のファンタジーの世界観を、もっと気軽に体験してもらえる作品を作りたんですよ」と言われました。

野島:当時、なかなかそういう物語を作れなかったんです。シナリオを書き始めると、どんどん世界観が広がっちゃって、結果的に気軽には楽しみにくくなることが多くって。だから今回は、あえて世界観をコンパクトにまとめて、気軽に楽しめるようにしました。大長編の小説というよりも、絵本のような親しみやすさを目指した感じかな。

羽入田:それを受けて最初の出発点は“絵本”として、そこにどんなゲーム性を加えていくのかを考えながら話を進めました。ただ、結果的にできあがったものは絵本ではありません。非常におもしろいシナリオを楽しめる、れっきとしたゲームとして仕上がりました。

『ボーダーウォーカー』 『ボーダーウォーカー』 『ボーダーウォーカー』
▲“気軽にファンタジーを楽しめる絵本のような作品”というテーマをもとに、野島氏が作った設定と皆葉氏が描いたキャラクターによって、『ボーダーウォーカー』に生命が宿っていった。

──なるほど。羽入田さんはTHE BLACK MAGES(ザ・ブラックメイジーズ。植松さんをリーダーとして、当時のスクウェア・エニックスの社員を中心に構成されていたロックバンド)のメンバーだったので、その流れでこの顔ぶれが集結したのかと思っていましたが、野島さんとの話が出発点だったんですね。

羽入田:まあ、もともと植松さんと野島さんと僕は、ロックとプロレスで絆がつながった仲ですので。

野島:公私を問わず、よくつるんでましたからね。すごく仲よくつるんでいるのに、「植松さんには、もう少ししたら僕からきちんと話をしますから、待ってください」と、なかなか正式な発注が決まりませんでした。

羽入田:植松さんはお仕事にシビアな方ですし、忙しい方ですから。スケジュールの確認などを含めて、慎重にオファーを行いました。これは他のみなさんにも言えることなんですけど、いくら面識があるとはいえ、本当に実力があってお忙しい方々ばかりなので、お話を受けていただけるのか不安な部分もあったんですよ。結果的には、みなさんに快諾していただけてうれしかったです。とにかく感謝しています。


■徹夜作業中のツイッターから生まれた、昼夜が分断された世界観

──本作の世界観は、まさに“剣と魔法の世界”という王道のファンタジーのように感じますが、機械文明のようなSF要素は盛り込まれているのでしょうか?

野島:機械文明みたいに大がかりな設定を盛り込むと世界観が広がり過ぎてしまうので、意図的に避けるようにしました。先ほどもお話しましたけど、気軽に楽しめる世界観にしたかったので。今回の世界観のアイデアの出発点はシンプルで、昼と夜が分断された世界があるとおもしろいと思ったんです。

『ボーダーウォーカー』 『ボーダーウォーカー』
▲昼の世界は“デイランド”、夜の世界は“ナイトランド”と呼ばれ、それぞれの住人は昼と夜の境界である“時境”でほんのわずかな時間をともにする以外は、入れ替わるように世界から消えてしまう。主人公は、その“時境”を越えて2つの世界で存在できる“ボーダーウォーカー”という設定だ。

──非常にユニークな世界観ですが、その発想はどこから?

野島:僕はツイッターをやりながら夜通しで仕事をすることが多く、だいたい朝の6時か7時くらいまで起きているんですけど、深夜の3時から4時にかけて人が入れ替わるんですよ。

植松:初めて聞いたけど、ツイッターから得たアイデアだったのか。

野島:深夜に寝る人と起きる人の境目のような時間帯があるんですよ。きっとこの人たちは、まるで違う世界の人々のようにお互いのことを知らないんだろうなと思って。そんな思いつきがアイデアの出発点ですね。あと、僕自身の感覚ですけど、朝7時に寝て、午後遅めに起きると、夕方に閉まっちゃう役所に行けないじゃないですか。「オレは一生、役所に行けない世界の人間なのかな……」って、なんだか自分が特殊な世界に住む人間のような気がしまして。

植松:わりと実生活に根ざしたところが出発点だったのか。なかなかおもしろいね。

野島:そんなわけで、自分は確実にナイトランドの住人で、デイランドに住む人にはあまり会えない気がします。余談ですけど、ナイトランドの住人としては、ここのところ深夜営業のお店が減ってきていて、生活が不自由になっている感じがしますね。まあ、別にわざわざ夜働く必要はないんだけど、なんとなく不満かな(笑)。

──それが、昼夜2つの世界で存在できるボーダーウォーカーという設定につながっていったんですね。ちなみにこのボーダーウォーカーという言葉はタイトルにも使われていますが、スムーズに決まったのですか?

植松:最初は別のタイトルで、自分が音楽データをやりとりする際に使ったファイル名は、その初期タイトルにちなんだ言葉でした。

皆葉:初期は“エクリプス・チルドレン(ECLIPSE CHILDREN)”というタイトルで、“EC”というファイルネームを使っていました。

赤尾:なるほど、それで謎が解けました。植松さんからいただいた音楽データのファイル名に、どうして“EC”という文字が入っているのか謎だったんですよ(笑)。

羽入田:“エクリプス・チルドレン”は野島さんが最初につけたタイトルで、そのまま採用するつもりだったんですけど、ネイティブな英語を使う人にリサーチしたところ、その文法では意味が通じないと言われまして。正確な文法では意味が通じなくても、結果的に世界中に受け入れられるケースもあるので悩んだのですが、今回は“昼と夜の境界を越える人”という設定面を生かす形で、“ボーダーウォーカー”という言葉に変更しました。

──“エクリプス・チルドレン”にはどんな意味を込めていたのですか?

野島:エクリプスは“蝕”のことで、日蝕や月蝕を意味しています。ゲーム中の設定で、“日蝕と月蝕の日に生まれし者は、祝福されし者”であり、昼夜の世界が入れ替わる“時境”を越えられる特殊能力を持つという設定なので、そのイメージですね。

『ボーダーウォーカー』 『ボーダーウォーカー』
▲主人公の母であるタリスはデイランドの住人で、父であるタイラーはナイトランドの住人。2人の間に生まれた主人公は、蝕の日に誕生して、時境を越えるボーダーウォーカーとしての能力を得ることに。
『ボーダーウォーカー』 『ボーダーウォーカー』
▲ボーダーウォーカーとして生まれ、ある運命を背負った主人公は、世界を元の姿に戻すべく旅することになる。

──ちなみにボーダーウォーカーは主人公以外にもいるのですか?

野島:いるんでしょうけど、ゲーム中に主人公が自分以外のボーダーウォーカーに会うことはないですね。いろいろと広がりがちな世界観なので、ちょっと意識してネタを絞りました。そういった部分は『2』が出た時に(笑)。

──ちょっと気になる発言が出ましたね(笑)。今回の世界観は全体的にシリアスで大人向けの印象を受けますが、実際のノリはどんな感じですか?

野島:シリアスはシリアスですけど、眉間にしわを寄せるほどシリアスではないと思います。僕自身は軽く笑えると思っているんだけど、どうだろう?

羽入田:メインのシナリオは、シリアスという表現が的確かどうかは微妙なんですけど、マジメはマジメです。いわゆる子ども向けの世界観ではありませんし、ギャグではないお話ですね。ただ、本作はメインシナリオ以外にもたくさんの“シナリオクエスト”と呼ばれるサブシナリオを用意していて、そちらはバリエーションが豊富です。すごく笑えるものもあります。

『ボーダーウォーカー』 『ボーダーウォーカー』
▲“メインシナリオ”だけでなく、画面をタップすることで即クリアできる“シンプルクエスト”や、特殊な条件を満たすこと発生する“シナリオクエスト”など、サブシナリオ的な要素も用意されている。

野島:サブシナリオ的な部分については、羽入田さんに原案をもらったものもあるので、彼のテイストが結構入っています。

羽入田:僕はゲームの中でのギャグ要素が好きなので、そういったネタをいくつか提供させていただきました。あくまでアイデア的なものですけど、それをもとに野島さんにきちんとしたシナリオにしていただいた形です。自分で出したアイデアながら、野島さんがシナリオにしたものを読むと話がちゃんと広がっていて、「ああ、やっぱりプロは違うな」と新鮮に感動しました。

野島:広げ体質なので(笑)。

植松:野島くんは天才だもんね。

野島:そうそう。“不遇の”ね(笑)。ちなみに今回、シナリオを見せる際にちょっと特殊な手法を使っている部分があります。主人公自身はしゃべらず、「あなたはそう思った」というような心情や状況を解説するようなナレーションを用意しているんですけど、あえて遊んでいる人と感想がズレるような書き方をした部分があります。そのズレが、おもしろみになっていると思います。

──地の文のような役割だけど、味があるという感じですか?

野島:余計なお世話のような一言を入れてくる感じですね(笑)。実はこの手法、かなり昔に読んだ小説で使われていたもので、いつかやってみたいなと温めていたアイデアです。全編が「あなたは~」という形で描写されていて、「本当のあなたはそんな人じゃない」みたいなツッコミが入る感じです。30年近く温めていたので、ようやく実現できたという感じですね。

→ゲームシステムやキャラクターに関する裏話を掲載!(2ページ目へ)

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データ

▼『ボーダーウォーカー』
■メーカー:クランジー・プロダクツ
■対応機種:iPhone/iPod touch(ダウンロード専用)
■ジャンル:A・AVG
■配信日:2012年5月7日
■価格:900円(税込)
 
『ボーダーウォーカー』のダウンロードはこちら(iTunesが必要)

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