2012年8月6日(月)
7月26日に日本ファルコムが発売したPSP用A・RPG『那由多の軌跡』のインタビューを掲載。発売後だからこそ明かせる裏設定や開発秘話を中心に、日本ファルコムの近藤季洋社長にお話を聞いた。
本作は、『英雄伝説 空の軌跡』、『英雄伝説 零の軌跡』、『英雄伝説 碧の軌跡』と好評を博している『軌跡』シリーズに連なる作品。キャラクターを一新して、新たな物語が展開する。これまでの作品とは異なり、ストーリーを楽しみながら戦闘を楽しめる、ストーリーARPGというジャンルになっている。
●近藤季洋 |
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▲日本ファルコムの代表取締役社長。『那由多の軌跡』にはプロデューサーとして参加。 |
――これまで何度か別のインタビューでお話が出ていますが、あらためて本作を『軌跡』シリーズの最新作として開発した理由と、目指した部分(ストーリーアクションRPG)について教えてください。
PCからPSPへとソフト開発を切りかえてから5年ほど経つんですが、かなりPSPの開発技術のノウハウが蓄積できてきました。そういったノウハウを生かすゲームを作りたいと思ったのが出発点の1つです。
もう1つは、『空の軌跡』や『碧の軌跡』を遊んでくださったファンの声がきっかけで、「もっとサクサクと気軽に遊びたい」、「戦闘に時間がかかりすぎて大変」といった声がありました。そこで、『軌跡』シリーズのファンに向けて、コマンド選択型バトルよりもスピード感や爽快感があるアクションタイプのRPGを提供したいと思ったんです。
▲『那由多の軌跡』のジャンルはA・RPG。公式サイトでは、“ストーリーを楽しみながら戦闘を楽しめるストーリーARPG”と紹介されている。 |
――『那由多の軌跡』の世界観やキャラクターは『空の軌跡』や『碧の軌跡』から一新されていますが、これは開発初期からそうだったのでしょうか。
『空の軌跡』と『零の軌跡』、そして『碧の軌跡』はゼムリア大陸という同じ世界を描くもので、その最新作ももちろん現在開発中です。ただ、同じ世界観でやってきているからこそ、どんどんと見えない制約ができてきました。それはおそらく、ユーザーさんにも開発スタッフにもあると思います。 「こういうことをやってみたいけど、『空の軌跡』のファンの方はきっと楽しめないだろうな」とか。こういう考え方も大事ですが、どうしても新しいチャレンジをしにくい部分は出てきます。
そこで、ゼムリア大陸という枠を外した新しい世界にトライすることは、初期の段階から決めていました。『空の軌跡』や『碧の軌跡』を作ってきたスタッフが、これまでつちかってきたノウハウを使って作る新しい『軌跡』シリーズは、きっとこれまでのファンにも楽しんでいただけると思いました。
――ゼムリア大陸を舞台にした『空の軌跡』や『碧の軌跡』シリーズと今回の『那由多の軌跡』について、社内ではどのように呼び分けているのでしょうか。『軌跡』シリーズとひとくくりにすると、何を指すのか戸惑ったりしませんか?
基本的にタイトルで呼んでいるので、特に混乱はありませんね。ただ、PCで展開した『空の軌跡』とPSPのオリジナルタイトルとなる『零の軌跡』はいろいろとスタート地点が違ったので、なんとなく分けて呼ぶことはある気がしますね。社内で明確な区分をしているわけではありませんけど。
古くからのスタッフは、つい“英伝(英雄伝説の略)”と口をついて出ることがありますけど、最近はそれも減りましたね。
――日本ファルコムのA・RPGというと『イース』や『ツヴァイ』シリーズがあります。それらの既存のシリーズと意識して差別化した部分はありましたか?
違うところと言うと、開発の初期段階から、「ギミックやボス戦は『イース』シリーズも『ツヴァイ』シリーズにもないぐらい凝ったものを目指そう!」、「『イース』を超えよう!」と決めてましたね。
特にボス戦で注目してほしいのは、必ずボス戦にストーリー的なものがある部分です。ゲームに登場するボスというと、フロアやドアで主人公を足止めするための存在だったりすることもありますが、『那由多の軌跡』は違います。
これはあくまで例で、実際にそんなボスはいないんですけど、主人公が巨大な敵に食べられてしまったら、その胃の中で戦う演出にしているということです。戦う状況や、そのボスがそこにいる意味をちゃんと考えて、ストーリーやボス戦のギミックを考えました。
▲巨大なキャラが動き回るボス戦は、『那由多の軌跡』の見どころの1つ。基本的に力押しは通用せず、倒し方を探しながら戦うことになる。 |
――ボス戦の流れとストーリーや設定を合わせるのは、大変だったのではありませんか?
実は、順番が逆なんですよ。『那由多の軌跡』では、先にボス戦から作って、その次にステージを制作して、ストーリーや設定を調整していく流れをとりました。とにかく初期の段階から、単にルーチンワークにならないボス戦を作りたいと思っていましたから。
だから、特徴がない場所にボスをポンと置いて、さぁボス戦ですよっていうものはほとんどないですね。必ずステージとセットになったボス戦を実現しています。特殊な地形と連動していたり、バトル中に特徴ががらりと変わる第2形態へ移行したりと、そういう飽きさせない仕掛けを意識しました。
――普通のゲームならば最終ボスクラスの派手で巨大なボスが序盤から出てくるので、実際にプレイしてビックリしました。
一番最初に試作用に作ったボスがデュオクロイズだったんですけど、社内での反響がすごかったですね。「こんなに大きくてギミックが多いのに、一番最初に戦うボスなの!?」と、みんなに驚かれました。
この段階で基本アクションや四季のシステムなどの仕様はほぼ固まっていて、神殿のステージとボスのデュオクロイズをつなげて、1つの大陸を作ってみた時に「あ、このゲームはおもしろくなるな」と手ごたえを感じました。
▲開発中に最初に作ったボスだというデュオクロイズ。最初に戦うボスなのに、その巨大さとド派手な演出はラスボス級! |
――最初に作ったのがギミック満載のデュオクロイズということで、開発スタッフとしては次に作るボスのハードルが上がって困ったのでは?
そうですね(笑)。でも、「このクオリティで残りもいけるの?」と聞いたら、「いけます!」ということだったので、スタッフを信じました。逆に、「もうこれ以下のものはできないよね」と、なんとなく皆の中で覚悟が決まったんだと思います。
――難易度については、どんな考え方で調整していきましたか?
『軌跡』シリーズのファンがプレイすることを意識して、少しシンプルな方向性を意識しました。特にPCで制作していたころの『イース』シリーズはテクニカルな部分を突き詰めて遊ぶアクションゲームと考えているので、かなりシビアなバランスで調整しているんですが、『那由多の軌跡』はアクションが苦手な人があきらめてしまわないように、ギリギリのラインを考えて調整していきました。
これはボス戦に顕著ですが、画面だけを見るとすごく複雑で難しそうに見えても、実際にプレイしてみると“背後を取って攻撃する”とか“ジャンプしてボスの背中に乗る”といった感じで、難しいアクションを要求しないけれど、手応えと達成感を得られるケースが多いです。
――その一方で、隠し要素の1つとして最凶の難易度“インフィニティ”が用意されていますが、開発のスタッフの方はその難易度をクリアできているのでしょうか。
▲うまく使えばダメージを無効にできるギアシールド。“インフィニティ”にチャレンジする際は重宝するとのこと。 |
結構できますよ。スタッフの中でも、上位3割ぐらいはクリアしていると思います。うちにはアクションゲームが得意なスタッフがたくさんいますから(笑)。
“インフィニティ”にチャレンジする際は、ギアシールドを使いこなすのがポイントです。よけきれない場合でも、うまくギアシールドを使えばダメージを減らせるので、かなりプレイが楽になるはずです。
デバッグ用にプレイしている人を見ていると、ゲームがうまい人って早解きもうまいと感じさせられることが多いですね。デバックをするためには何周もクリアすることが前提となるんですけど、中には信じられない時間でクリアする人がいるんですよね。
これは『空の軌跡』の時の例ですが、ルーアン地方を最短距離で踏破するため、フィールド上のコース取りまで考えている人がいるんですよね。
――アクションゲームじゃないのにコース取りまで考えるんですか(笑)。
そういう人たちが“インフィニティ”のバランスを取ってるので、結構カツンカツンに仕上がってるはずです。
→伏線はすべて回収! ストーリーや世界観について直撃!(2ページ目へ)
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